Side一誠
フリードとかいったイカレた神父と堕天使の増援に撤退せざるを得なく、残っていた舞さん達もアーシアが自ら囚われる事を選んだ事によって戻ってきた。
俺は話を聞いて己がやるせなく感じた。
アーシアが自ら囚われる事を選んだのは彼女自身の持つ優しさ故だ。
誰にも傷付かないで欲しいからという…出会ってそんなに経っていないが分かる。
そんな彼女の優しさにつけこんで良からぬ事を企む輩がまだこの町に居る筈だ。
「どうかお願いします!ソーナ会長!」
「…話は分かりました。
本来ならば許可など出さない案件でしたが調査した所、一連の堕天使による襲撃が上層部の把握していない所で起きている事などが判明しました。
ですので…」
「はっ!堕天使の掃討に参らせて頂きます!」
「匙、貴方も同行させてもらいなさい」
「え?」
「神器の行使練習と思って」
「は、はい!」
あの廃教会へと乗り込む算段を立てていた俺は会長からの許可が下りた事で同時期に眷属となった匙 元次郎と共に生徒会室を出る。
「アタシ達もついていくから!」
「ああ、分かってる」
話を聞いて待ち伏せていた舞さんと榊さんも一緒に向かった。
「おらあっ!会長からのお達しだからな!やられたい奴からかかってこいやあー!伸びろライン!」
「ぐはあー!?」
廃教会に乗り込んだ直後、匙が行使するドライグと並ぶ黒き邪龍であるヴリトラの分割された魂と力が封印されている神器「黒い龍脈<アブゾーヴューション・ライン>から伸ばされる鞭状のラインに襲いかかってきたはぐれ神父は吹き飛ばされる。
「アタシに手加減なんて期待しないでよね!」
「なっ、体が!?…」
舞さんは構えた二丁拳銃から放たれる氷の弾丸で神父達の動きを封じる。
「やるじゃねえか!」
【BOOST!】
「ぐへっ!?」
俺も倍加したパンチをお見舞いしてやる。
其処に…
「アーシアァ!健治様が助けに来たぜえー!」
「兵藤さんうるさいです…」
はあ!?なんでアイツが此処にいるんだよ!?
確かリアス・グレモリーがあの殺された契約者の男性の件で責任問題になったからしばらく出てこないと思っていたのに…。
もしかしなくても独断かグレモリーのアホの差し金か?
あれに付き合わされている搭篠さんや木場が可哀そうになってくる。
「おい、学園一の問題児がなんで此処にいやがる!?」
問題児な元糞兄貴を目にした匙が突っかかっていってしまう。
「あン?たかがまな板な女と一緒の影薄いモブが俺様に指図してんじゃねえよ!」
「なんだとコイツ!」
「おいおい…」
「今は喧嘩している場合では…」
糞兄貴の売り言葉に匙が反応し俺は呆れ、搭篠さんが二人を引き剥がそうとする。
なんかゴメン!…
「ひゃっはああー!お仲間割れですかなあ~?」
「おっと!?」
其処にフリードとかいうイカレ神父が斬りかかってくる。
「匙!そのイカレ神父はコイツ等に任せて先に行くぞ!」
「でも!…」
「会長の事を悪く言われたからってすぐに見失うな!」
「お、おう…だったら!伸びろライン!」
「ホワッツ!?」
匙の怒りを鎮めさせフリードのビームカリバーをラインで縛らせ俺達は先を急ぐ。
搭篠さん達に奴を押し付ける形になったがこの場に居る以上は仕方無い。
「アーシアァー!」
ドライグに感知で地下に囚われている事が分かると蹴破って侵入する。
「何者!?」
「邪魔だああ!」
「ぐぶふっ!?…」
俺達の侵入に気付いたはぐれ神父達が襲いかかって来るが俺のパンチラッシュでブッ飛ばす。
「侵入者だと!?」
「む?貴様はあの時の!…」
「イッセーさんに皆さん!?…」
「「うぅ…」」
奥へと進むとあの時の髭ツラのオッサン堕天使と部下であろう女の堕天使がおり、その背後には十字架に張り付けにされているアーシア、そして見知らぬ黒髪ロングと金髪ツインテールの美少女達がいた。
「アーシア!?それにその子達は…」
「フン、使えん元上司とその駒の処刑台だ」
「お前!」
コイツ等が彼女の命令を聞かずに暴走したのか!
「もうじきシスターアーシアの神器摘出の儀式も完了する!それまで貴様等と遊んでやろう」
「神器を!?…そうはさせるかよ!」
神器は所有者の魂と繋がっている、それを無理矢理奪おうだなんて!
「匙!」
「OK!」
匙との合体攻撃でオッサン堕天使に仕掛ける。
「ほう、だがその程度ならば!」
「くそっ!?」
当たる寸前に奴の中型の光の槍で相殺させられる。
「プロデューサー!」
「おっと、カラワーナよ」
「はっ!」
舞さんが銃弾を撃ち込もうとするも奴の部下に阻まれてしまう。
「プロデューサー!アタシらの事は良いからアイツを早くブッ飛ばしてアーシアちゃん達を!」
「ああ!匙、少し時間を稼いでくれないか?」
「分かった!」
舞さんに女堕天使の相手を任せ、俺は匙にそう指示して懐に忍ばせておいたあるモノに手を伸ばした。
Side舞
「弱小な人間の小娘如きに至高の堕天使となる私を相手に出来るとでも?」
「ええ、少なくとも己を過大評価している様なオバサンにはね!」
「お、おば!?…許さんぞ!お前達!」
「「はっ!」」
「瑞樹は下がってて!」
「うん!」
カラワーナだったっけ?オバサン堕天使は残存しているはぐれ神父を招集させ仕掛けさせる。
だけど!
「早く凍れ!」
「「うわあああー!?」」
「何!?ええい、役立たずが!」
氷の弾丸を散弾式に切り替えて撃ち込んではぐれ神父達を一ヶ所に封じ込める。
オバサン堕天使は驚くもすぐに光の槍を構えて投擲してくる。
「遅いわ!」
投擲された槍は弾丸で相殺する。
が…
「あ、アレ?あのオバサン何処に!?…真逆!?…」
「の、野之宮さん…」
その隙を突かれ避難していた瑞樹に矛先が向き、彼女は怪我を負わされ背負っていたギターケースは吹き飛び転がっていた。
「そ、ソレに触らないで…」
「何アンタ?こんなモノ大事にしてんの?
だったら!」
「ああ!?…」
瑞樹がギターケースを拾いに行こうとするもオバサン堕天使に取られてしまう。
オバサン堕天使は瑞樹が大事にしている物だと知るとあろう事か槍を突き刺した。
突き刺されたギターケースは炎上してしまう。
「ああ…お父さんの形見のギターが!…」
「あははは!そんなチンケな物に縋りついているだなんてやはり人間は愚かね!」
あのギターは瑞樹の父親の形見だったらしい。
ソレをあのオバサンは…もう許さない!…
「…今アタシの腹の虫は居所が悪い…覚悟しろ!」
「覚悟するのはそっちだろうが馬鹿が!」
推奨戦闘BGM「阿修羅姫」♪
アタシは切れた。
オバサンの罵倒を完全に無視し彼を召喚する為に言葉を紡ぐ。
「来てくれ!ジロー〈デュラン〉!」
『ガルルー!』
周囲の空気が冷え切ったかと思うとアタシの傍には相棒である狼、ジローが召喚された。
「な、何!?せ、生物型の神器だと!?…」
「ジロー、いっけぇー!」
『ウルオオォーン!』
「ぐわっ!?」
オバサンがジローの姿に驚いて隙が出来た所を突いてジローが体当たりする。
対応し切れなかったオバサンは壁に叩き付けられる。
「糞っ!だがその程度ならば!」
「ジロー、回避!」
オバサンはすぐに態勢を立て直して槍を連続で投擲してくる。
がジローの素早い動きを捉える事は出来ずいずれも空振りになる。
「狼風情が虚仮にしやがって!」
遂にブチ切レたオバサンは空中に飛び上がり巨大な槍を生成して投擲してこようとする。
そっちがその気ならこっちは!
「ジロー!」
「ひゃはは!これならいくら素早い動きでも!」
アタシが叫び、オバサンは高笑いを上げる。
「あひゃひゃっひゃ!…!?」
高笑いし勝利を確信していたカラワーナは油断していた。
倒したと思い込んでいたジローが舞を背中に乗せて跳躍し眼前に迫っていた。
「ジロー!」
『オオーン!』
「ぐああああっ!?」
完全に隙を見せていたカラワーナはジローのその鋭い爪によってすれちがいざまに己の片翼を斬り裂かれる。
だがそれだけでは終わらない。
「この距離なら外さない!どおりゃああー!」
「ぎゃああああー!?」
片翼を喪失い狼狽えるカラワーナをよそに地面に着地したジローはもう一度彼女の背後へと跳躍する。
そしてジローの背に乗っていた舞が氷の弾丸を残った片翼に撃ち込みその機能を完全に奪った。
「よっしゃあー!」
「よ、よくも私の美しい翼をおぉー!」
翼を奪われて激昂したカラワーナは再び光の槍を生成し投擲する。
「今更そんな遅いのには…ってはっ!?」
紙一重で避けてはっとなる。
しまった!?アタシの後ろには形見を失って未だ項垂れてしまっている瑞樹がいる!
「瑞樹ぃー!避けてー!」
「え?…」
アタシは瑞樹に向かって叫んだ。
当人は呆けてしまっており動きが間に合わない。
「瑞樹!…!?」
今のは!…槍が瑞樹に当たろうとした正にその瞬間、アタシがこの力に目覚めた時と同じ様な感覚が彼女の周囲から感じられた。
少し遡って、Side瑞樹
「そんな!?…うう…」
私が物心付く前に病気で亡くなった父が愛用していた彼の形見であったギターが堕天使によって燃やされてしまった。
幸いにも火は野々宮さんの能力でしばらくして鎮火されたが肝心のギターはケース毎焼き尽くされてしまっていた。
父がたった一つ残してくれた私の心の支えが失われ、堕天使への怒りよりも悲しみに強く打ちひしがれてしまっていてその場から動けずにいた。
「瑞樹!」
「え?…」
野々宮さんの叫びが聞こえ、気が付いた時には私の眼前に槍が迫ってきていた。
ああ…私は此処で死ぬのか…まあ転生悪魔になるのもいいのかもしれない。
私は目を閉じた。
「…?」
だが一向に痛みは襲ってこない。
不思議に思って目を開くと私は驚いた。
「ドラゴン?…」
「瑞樹…」
「馬鹿な!?青いドラゴンだと!?…」
私の周囲には巨大な青いドラゴンがまるで私を護るかのように現れ旋回していた。
野々宮さんも父の形見を燃やして嘲笑っていた堕天使も驚いている。
それと同時に
「え、コレって…!」
私の手には何時の間にか青いエレキギターがあった。
はっとなりすぐに後ろの父のギターの残骸を見ると内部に開け放たれた箱があった。
真逆このギターとあのドラゴンはあの箱から出てきたとでもいうのだろうか…。
「私にこのギターを弾けというの?」
『…』
私の問いかけに青ドラゴンは肯定するかのように無言の頷きをした。
「…分かったわ。♪~」
正直エレキは弾いた事は無いけどアコースティックと基本は何ら変わらない。
私はドラゴンに導かれるかの様にギターを弾きながら歌を紡ぐ。
「う、上手い!…」
「ぐっ!?なんだこの頭が割れる様かのな痛みは!?」
野々宮さんは私の歌に感想を述べ、堕天使は酷く苦しんでいた。
『バオオォー!』
どうやら私の弾くギターの旋律に合わせるかの様にドラゴンが発している超音波の様な鳴き声が攻撃しているようだ。
「お父さんの仇!」
『バオオォーー!』
私は弾く速度を変えそれに合わせてドラゴンが堕天使に迫る。
「ヒッ!?…」
バクン!
頭痛で動けなかった堕天使の前には大きく口を開けたドラゴンの姿があり、その短い断末魔しか残せず堕天使は丸飲みされてこの世から消えてなくなった。
「やったの?…」
「そうだよ瑞樹!」
「…」
『…』
狼から降りて駆け付けてきた野々宮さんにそう言われ私はあのドラゴンを見つめる。
不思議と懐かしい感じがしてくるのは何故だろう?…
そう思いドラゴンを撫でようとしていたその時だった。
「きゃあああああー!?」
「!?」
「今のって!…」
アーシアちゃんの絶叫が聞こえてきて私達は駆け付けた。
が…
「ふはははあー!儀式は完了した!これで私は更なる高みへといけるぞ!」
アーシアちゃんから出て来た光の玉を中年の堕天使が掴み高笑っていた。
真逆間に合わなかったというのか。
「アーシア…苦しませてごめん!…だからあの野郎は俺がブッ飛ばす!」
見た事無い朱色の姿になっていた長澤君がアーシアちゃんを抱き抱えながらそう言いながら中年堕天使を睨みつけていた。
その際、彼の体からは眩い光が発せられていた。