「はむはむ、はむはむ」
「もぐもぐもぐ」
オーフィスと彼女の嫁(オーフィス談)のグレートレッドは黙々と食事をとる。
「ほれ、オーフィス口の周りが汚れている」
「……むぃ」
食べかすやら何やらで口の周りを汚すオーフィスに呆れながら口の周りを拭ってやるグレートレッド。
「さすがわれのよめ」
「我、嫁違う」
「何だ、じゃあ挙式しねぇの?」
「あげない」
「ええ……」
ぷい、とそっぽを向くグレートレッドに頬を膨らませるオーフィス。ミカドは残念そうに冥界の結婚式場のパンフレットを閉じた。
所で西洋の結婚式、ウェディングドレスは教会で行われた結婚式で花嫁がきていたのが起源らしいが悪魔が着るってどうなんだろう?
「ま、いいか。午後からは俺顔見せとかあるから、迎えが来るまで残るよ。お前等は観光してきな」
「「「はーい」」」
昨日手に入れた花に水をやる。命の美しさという奴か、その花は万物を魅了する美しい花だ。その美しさによってきた鼠や虫に向かって根が伸び締め付け血肉を喰らう。
「んー、後2ヶ月って所かな?」
と、その時だった。ドアがノックされる。迎えが来る時間にはまだ結構ある。残っていたグレイフィアが扉を開け、不機嫌そうな顔になる。見れば彼女そっくりな女が扉の向こうに立っていた。
「おお、銀色じゃん。おひさ、どーした?お前が迎え?」
「────だ」
「だ?」
「抱いて、ください」
「……………」
ふむん?と首を傾げるミカド。抱いてくれとは、つまり男女の意味だろう。え、何で?リリスの因子が活性化して力と欲望への忠実さがあがったからと言って、自分を求めるとは思えないが……。
「お前人妻だろ?所有権がこっちにある頃は向こうも文句を言えねぇだろうがなぁ」
だが今は魔王の妻。文句を言ってくるに決まっている。別に悪魔どもなんて簡単に滅ぼせるが、だからといって一人の女のために滅ぼすなど面倒くさい。悪魔の文化も中々面白い。満足するまでは滅ぼす気はない。
「だいたいそういうのは夫に頼め。俺に求めるな」
「さ、サーゼクスは……満足、出来なくて」
「殺しましょうこの淫売」
グレイフィアが銀色を殺そうと魔力をためたので針鼠をぶん投げて止める。頭の後ろに刺さった針鼠を抜こうとしたが針に返しがついており抜けない。涙目になって抗議の目を向ける。
「ちょっと黙ってな………自分が気持ちよくなるために夫と息子を裏切る、か。良いねぇ、俺はほら、彼奴の宿主だからな。欲望は肯定するべきだと思うのよ。だから、うん、まあ………抱いてやるよ」
ケラケラと、嘲笑うように笑みを浮かべるミカド。女に飢えることなど無いミカドは別にグレイフィアを抱いてやる義理はないが、欲を優先する者を肯定する気概はある。なにせリリスの宿主なのだから。
「納得いきません」
「お前の姉を抱いたことがか?」
「私に姉などいません!」
と、激高するグレイフィアに悪い悪いと肩を竦めるミカド。
「そうだよな、お前が、お前こそがグレイフィア・ルキフグスだ。お前の中ではそうなんだろう。で、俺はそれを認めた」
「………………」
「だがお前が本来忠誠を誓うのは俺じゃねーだろ?」
その言葉にグッ、と黙り込むグレイフィア。
「お前は完璧なルキフグスでありたい。なら仕えるべきはルシファーだろ?サーゼクスだってルキフグスを侍らせるためにルシファーになった」
「こーしきせってい」
「ん、オーフィス?帰ってきてたのか」
「ぐれーとれっどとでーと」
「デートじゃない」
そういうと買ってきた菓子類の整理のために自分達の部屋に移動する二人。
「話を戻すぞ?俺はルシファーじゃねぇ、ルキフグスごっこならヴァーリ辺りに相手を頼め」
「………どうすれば、私も他の魔人方のようにおそばで仕えることを許されますか?」
「ん?んー……」
魔人達は、実は忠誠心なんてこれっぽちも付与されていない。初めは父として、創造主として、産まれた命として当たり前のようにミカドに感謝し、後はミカドに惹かれていくのだ。自分も貴方に惹かれたのだと、どうすれば納得してくれますかと尋ねるグレイフィアに顎に手を当て考えるミカドはポン、と手をたたくと日本神話において神を斬り殺した刀を投げ渡す。
「それでお前の大切な顔に傷を付けろ。一生残るぐらい深く」
「……………」
ミカドは、弱い。魔人達に比べればその脆弱さは明らかで、今の性別も含め改造されまくったグレイフィアなら超越者クラスでも簡単に殺せる。ミカド自身それを知っているはずだ。その上で自分は丸腰、忠義を疑っている相手に刀を渡す。
ああ、何という傲慢。
グレイフィアは躊躇いなく己の顔に横一線の傷をつける。鮮血が溢れ、床に垂れその上に頭をつける。
「貴方こそが私の
「おっけー」
何とも軽い対応に、しかしグレイフィアは腹を立てない。ルキフグスとしての血が、この弱くとも傲慢で、悪魔よりもよほど悪魔らしい主に仕えられることに喜びを示していたからだ。
ちなみに銀色はやった後返した。時折抱いてやることを条件に。面倒ごとは御免だし、旦那とやる時に感度が倍になる薬もあげた。
若手悪魔の顔合わせ。
ミカドは重鎮悪魔たちより更に上、セラフォルーの隣、魔王達と同じ段。重鎮悪魔達から殺気が飛ぶ中パンケーキ50皿目を食べる。
ちなみにトッピングはオーフィスが勝手に持って行く。
若手はソーナを含めた五人。後一人居たが、カテレアの首から得た情報で旧魔王派との繋がりがわかり処罰された。
その五人のうち二人は知っている。三名は初対面。人間が何で魔王様の隣に座ってやがんだぁ?と言いたげな頬を腫らした入れ墨ヤンキーに此方を興味深そうに見る眼鏡の女、後、悪魔にしては珍しく魔力を感じない男。
此奴は面白そうだな。うん、面白そうだ。
何でも魔王になる気らしいし、応援しよう。
他二人はどうでもいいかな。まあ眼鏡女はなんかオタクの気配を感じさせるし話したら面白いかもだが。赤虫?どうでもいい。
ソーナはレーティングゲームの学校を建てることが夢らしい。下級悪魔や転生悪魔用の。それに重鎮達が笑い匙が突っかかろうとして腹を押さえる。
「おそろしくはやいぐーぱん。われでなくちゃみのがしちゃうね」
「いや、魔王達や俺は見てるけどな」
やれ伝統がどうだ、旧家がどうだと言う悪魔達に、ソーナは顔色一つかえない。眷属達は何かを言いたそうにしているが肝心なソーナがそれでは重鎮達は面白くない。人を貶めるのは、その反応を窺うまでが楽しみなのだから。
「何かね、言いたいことがあるなら言うといい」
「では僭越ながら……悪魔は実力主義なのでしょう?やれ生まれだ、血筋だなどと、馬鹿らしい。力ある者が力なき者を支配する。それこそが、悪であり魔性の私達の本分では?」
「……ふっ。若い」
と、重鎮の中でも上の方に座る、魔王の次ぐらいに偉いであろう男が笑う。
「真の悪魔とは古くから伝わる上級悪魔の血縁者を指す。それ以外は眷属──下僕であり、本当の悪魔ではない。『平民』と『転生者』だ。邪悪かどうかは人間や他勢力の価値観によって変化するだろうが、私は邪悪である必要性はないと思っている。この貴族社会を未来永劫存続させることが、『悪魔』のすべきことだ」
「だってよリリス」
「くだらんな。私の肉片から産まれた小僧が、良く吼える。『真の悪魔』だというなら私が生成に関与しておらぬ一般悪魔をこそさすであろうに」
「…………え」
その声に、その男は目を見開き振り返る。何時の間にか寝ているミカドの膝の上に乗り手を腰に回す女の姿がそこにあった。かなりの美人で、胸もでかい。着ている服も露出が多い。イッセーがおお、と反応する。
「バカな、貴方は……そんな、まさか………リリス様!?」
「「「────!?」」」
リリス。その名は、悪魔にとって特別なもの。
初代ルシファーの妻にして悪魔の祖。その身体に流れる血が、彼女に逆らう気力を奪う。サーゼクス達も驚いていた。初代72柱が生まれた時点でもはや女の形はしておらずただの肉塊だった彼女の顔を知るのはこの場では最初に造られたゼクラム・バアルのみ。
「ソーナ・シトリー」
「は、はい!」
ミカドと交わったことでリリスの因子が濃くなり、ゼクラム並みに彼女の存在感を感じるセラフォルーやソーナ。だから、名を呼ばれて慌てて反応する。
「私はいいと思うぞ。このような規律、意味などない。力ある者が発言権を得る?ああ、そうあるべきだ。邪悪である必要性は確かにない。好き勝手に生きて、周りが勝手に悪だと判断するだけ。なればこそ周りに合わせぬ事は悪なのだろうが、私も、お前も、悪なる魔性。好きにすればいい」
「ありがとうございます………」
「うむ……」
「ZZZ………んあ?話し終わった?よし、じゃあ若手の目的聞いたし帰るか」
ゼクラムが話し始めたところから寝ていたミカドは目を覚ますと立ち上がり部屋から出ていこうとする。
「え!?こ、このタイミングで!?リリス様について、色々聞きたいことがあるんだけど!」
「リリスは俺の嫁の一人」
以上、と言うと今度こそその場から立ち去った。
リリスの後夫という悪魔側からすれば大王や魔王以上の権力を持ててもおかしくない立場であることをさらっと暴露して。