「あ、レイヴェルさん」
「げぇ!王神命!」
「女の子がそんな声出しちゃ駄目ですよ~」
「
と、叫ぶレイヴェル。ミコトは何故自分がまるで狂人の様に扱われているのか理由がさっぱり解らず首を傾げる。その態度に、レイヴェルも毒気が抜ける。
(バラバラにしたのは此奴等だが)眷属の命を救ってくれたのは事実だし、何より悪魔は、根本からミコトを嫌えない。
ミコトはリリスの因子を全ての魔人の中で最も色濃く受け継ぐ個体。二柱の神と魔の祖を宿すミカドと、リリスと言う存在の力をこの世に反映させるために生み出された器の肉片を媒介に作られた彼女は悪魔の祖の気配が濃い。故に、貴族悪魔はミコトを本当の意味で嫌うことが出来ない。むしろ、母親に抱くような安心感を覚えてしまう。
「時に、貴方のお父上はどこへ?リリス様の後夫と聞き、改めて挨拶しようと思ったのですが」
「あれ?何処でしょう…………」
「うう、ひっぐ………怖かったよぉぉ………美猴は一撃でやられるし、『猫魈の肉って珍味なんですよぉ』って捕まるし、口とお尻からスライム突っ込まれた後香り付けで果物を入れられて、焼かれそうになったし………此奴等、本気で私食べる気だった」
「………………」
グスグスと泣きながら自分の腰に手を回し胸に顔を埋める姉を見つめる小猫。涙目の姉、可愛い………。
「さあさあ別れの挨拶は済みましたね?ではでは、さっそく料理開始ですね♪」
「ひぃ!?」
「だな、胃と腸の中に流し込んだ果物がもったいねぇ」
「ひぃぃ!?」
涙目になって小猫の後ろに隠れる黒歌。慌てて動き、そのせいでグギュルルル、と腹の奥から音が聞こえうずくまる。そういえば先程肉の臭みをとると言われ上からも下からも突っ込まれていた。
はぁはぁと息を荒げ、片手で腹を、片手で焼く時に漏れでないようにと突っ込まれた栓を押さえる。敏感な内臓の粘膜を擦る栓による圧迫感に唸る姉を見て、小猫はゴクリと喉を鳴らす。
「た、食べるんですか?」
「食べちゃいますよ♪」
「食べないでください」
「?何故ですか、だって、それは
「─────ッ!」
ビクッと震える黒歌。そうだ、別に姉が殺されたところで、彼らを罪に問うことは出来ない。止める権限など小猫にはない。
「んー……御姉妹ですしね、思うところもあるのでしょう。とはいえ犯罪者を庇うのは当然犯罪行為………私達は立場的にも貴方より遙かに上ですし、私刑の権限もあると思うのですよ」
実際どこかの赤虫が文句を言ってきたとしても、リリスの夫であるミカドの一言さえあれば悪魔共も黙るだろう。
「先に貴方を頂いちゃいましょうかね?それとも、細かくすり潰して姉妹の子宮包み焼きにでもしましょうか」
「──────ッ!!」
すう、と妲己が目を細め、瞳孔が縦に裂ける。途端、巨大な獣が喉元に牙を突きつけてきたような、そんな幻を見る。
殺される!?違う、食われる!
へたり込み下着やせっかくのドレスが濡れていく。身体が震えることすら出来ず固まっていると抱き締められた。
「───……ね、姉……様?」
黒歌だ。黒歌が抱き締めてくれた。暖かくて、漸く震えることが出来る程度の安心感が戻ってくる。
「……こ、この子は………この子だけは!御願い──お願いします!わ、私はどうなっても良いから。好きなように料理して良い、煮るなり焼くなり何でもして!でも、白音だけは手を出さないで!」
「………あれ?何で私、悪者になってるんでしょう?おかしくありません?ねぇ、ミカド君。私、何も悪いことしてませんよね?犯罪者向こう、正義私たちですよね?」
「悪いこと?してないしてない。俺達は一切法を犯してないからな。てか、今夜のご飯もとい黒歌ちゃんよ、お前が俺に交渉できる立場だと?」
「う、あ………え、えっと……それは───」
犯罪者から何を奪おうと別段罪に問われることはない。それが悪魔社会だ。だから黒歌の追っ手の中には黒歌の処女を奪おうとする者も多くいた。彼が自分に何をしても、それは変わらない。
ならば生かして役に立つ何かを差し出すしかないのだが、例えば女として……無理だ。女の自分でさえ見とれる美女を侍らせている。仙術?そもそも種族として初めから使える自分と違い修行し手に入れた向こうが上手。こうして対面すれば既に混じり合っているのが良く解る。
食材として身を捧げる?そもそもそのつもりだ。それで妹を見逃してなど願えるはずもない。
「安壬堂数量限定モナカ税込540円………」
「ん?」
「し、白音?」
小猫の言葉にミカドが止まり黒歌が戸惑う。
「わ、私は彼処の常連で、特別に20個、とって貰っているんです。それ、今後毎日差し上げます」
「………一週間でいーよ。俺が買えなかった時は譲って貰うがな」
「……………」
限定モナカ540×20×7=75600円。黒歌の命の価値、八万円以下。
「は、あ、ぐぅ………」
「ね、姉様!?」
「お、お腹……痛い。漏れる、ト、トイレ………あ──」
「そして私達は気づいたんです。考えてみれば私たちが手を出す必要ないのでは?と。安全は悪魔が保証したわけですからね。なので早贄にしていた猿とそれを回収しにきたメガネは放っておきました。ま、報告は終わりですので姉の威厳が死んだ黒歌さんを捕らえた側として是非とも引き取りたいんですが。いざという時裏切って、形も残さず潰されたら食べれませんからね……もぐもぐ」
「妲己もこう言ってることだし、良いよな?魔王サマ」
襲撃を受けた責任として今回周辺を護衛していた悪魔を全員差し出せ、と突然命じて、護衛についていた新人から古株まで受け取ったと思ったら会談に遅れてハンバーガーを食べる魔人とその主ミカド。悪魔達が憤怒の視線を向ける中アザゼルは「妲己だと!?」と目を見開く。
「うーん。ま、たかだかはぐれ悪魔
「ま、待ってくだされセラフォルー様!そんな、簡単に!この者達がテ───」
「それ以上いったら凍らせちゃうぞ♡」
もう凍らせられてる。
「し、しかし相手は仮にもSS級はぐれ悪魔。と、捕らえているのも大変でしょう?我々が代わりに投獄して」
「俺達が大変だったらお前等が閉じ込めておけるわけねーじゃん。ごくり」
「全くですねぇ。身の程をわきまえないんですから……はむ」
その言葉にギシリと歯軋りする悪魔達。二人は気にせず食事を続ける。
「ふむ、そやつが噂の魔人とその王か?」
何かを叫ぼうとした瞬間、老人の声が聞こえる。凍りついた叫ぼうとした貴族二名以外が振り返る。
「オーディン」
「オーディンって、確か北欧の?」
「うむ。初めましてじゃの。かのシヴァ相手に逃げ切った人間よ」
アザゼルはシヴァだと!?と目を見開く。
「それを何処で?」
「チャット」
「…………チャット?」
「うむ。数年前、チャットメンバーを探している。参加しなきゃ殺す、と言われての。そいつ以外のメンバーに会ったことはないが、なかなか楽しいなあれ。で、その中で恐らくシヴァと思われる奴が言っておったのじゃ」
「………あいつチャットとか、やるのか」
「うむ。どうじゃ、死後北欧にこんか?と、お主は寿命が存在しない仙人じゃったな」
と、悪魔達を完全に無視して話し合う北欧のトップ。貴族の一人が恐る恐る話しかけた。
「オ、オーディン殿、お久しぶりです。ようこそ冥界へ」
「?誰じゃお主。まあ良い、それで王神帝よ。北欧ではお主を勇者として迎えいるつもりがあるぞ」
「かの大神から直接の勧誘、光栄の限り。しかし私はどこかに仕える気はありません。私自身、己の力がパワーバランスを崩す存在でありますので」
「ほっほっほ。そうか、確かにな……時に、何を食っておるんじゃ?」
「デーモン親子バーガー」
「ふむ?ここは悪魔の領地だからデーモンは解らなくもないが、親子?雛と成鳥の肉か?」
「似たようなものですよ」
食べます?と差し出してくるミカド。オーディンは夜食は高級ホテルでとる予定だったので断った。
護衛の中には父親にあこがれその仕事についたものも居たとか居なかったとか