王神帝はその容姿も相まって、直ぐに学園の有名人になった。
片目を隠した黒髪で、赤い左目のみ周囲に向けられている。
主席合格、身体能力も高く文字通り文武両道。共学になった弊害か、女子に良くない行為をしようとするやからを力で黙らせたりもした。故にその名に併せて名付けられた二つ名が駒王学園の皇帝。
あくまで眷属候補の一人に考えていた彼に会おうとしたのは、彼がチェス部の全員に勝利したと聞いた時だ。
入学から二ヶ月。彼の噂はいろいろ聞く。野良猫に芸を教えてたり、自習中教鞭をふるって抜き打ちテストの成績を上げたり、と色々している。
今回もその理由不明の行動なのだろう。しかしチェス……彼と対戦することにした。
強かったが、自分が勝った。彼は悔しそうに頭をかきむしっていた。何というか、子供っぽくて可愛いな、と思った。
次の日から度々彼とチェスを打つ。だんだんと強くなっていく彼に負けぬように此方も新たな手を考え、負けると悔しそうな彼を見て微笑ましく思う。それは椿姫も同じだったらしく、よく二人で彼について話していた。
生徒会の仕事で忙しいというと手伝ってくれたりもした。必然的に、自分がもっとも親しい男子は彼になった。
彼が何時か自分に勝ったら、お祝いしようかなんて考える程度には、親しくなった。
そして、その日が来た。初めて負けて、彼が本当に楽しそうにはしゃいで、椿姫と二人で肩をすくめた。明日も勝ち越してやると言う彼に、明日は負けませんよ、と笑う。
そして放課後。校舎内の見回りをしてから彼へのプレゼントを買いに行こうと校舎の中を歩いていると気配がした。居残りではないだろう、注意しようと扉をあけると、その彼がいた。
机に座る彼の上に乗るのは女子生徒。上着ははだけて下着もずれ、乳房がむき出し。彼女の下から除く彼の足も、ズボンもパンツも脱いでいた。
どうみても、そういう行為だ。固まる彼女と違い、ミカドと重なっていた女子生徒は慌てて服を整え逃げるように去っていった。対照的にミカドは落ち着いた様子で服を整える。
「な、あ……あ、貴方、何を!?」
「ナニって、不純異性交遊?」
叫ぶソーナに落ち着いて服を着て香水の匂いに気づき男物の香水で上書きするミカド。あっけからんとした態度に怒りがわくより先に、まず落ち着いた。
「………恋人、居たんですね。でも学内であのような行為は」
「ん?今の奴は別に恋人じゃねーぞ。俺も彼奴も、相手は別にいる」
「……え?」
「別におかしな事じゃねーだろ。俺は女子に人気高いし、相手にされたってだけで精神的優位に立てる。彼氏に対しても付き合ってやっているだけと上に思えるようになるしな」
「え?え?ま、待ってください………彼女じゃない!?なのにあんな行為を、それも相手が居るのに!?」
「さっき言ったのと、背徳感ってのもあるだろうな……背徳感は癖になるらしい。俺は単純に気持ちいいからやってるだけだが………まあ、見つかったもんは仕方ねー。良いぜ、別に退学でも。それだけクズな行為してる自覚あるからな」
そういうと横を通り過ぎる。自分に、あんな光景を見られても全く気にした様子はない。彼の中で、自分が余りに小さい存在なのだと思い知らされる。
「………私に、見られて、何も思わないんですか?」
「何も?強いて言うなら、これで退学かなぁ、ぐらいだな……じゃあな、お前とのチェスはなかなか楽しかったぜ」
もうこれで終わりだけどな、と言外に言われた気がした。彼との楽しかった時間を、他でもない彼に否定された気がした。生徒会の一員として、彼を裁くのが正しいのだろう。それで終わりだ。本当に、何もかも、終わる。頭の中はグチャグチャ、混乱しきっていた。
だから、そこから先はほぼ無意識。俗に言う魔が差したという奴だ。彼を追って、その手を掴む。
「ん?ああ、ひょっとしてさっきの女について教えろって?うーん、そうなるとあの女も退学、彼氏とは漏れなく破綻になるわけか……まあ誘ってきたのは向こうだし向こうの責任か。彼奴は隣のクラスの──」
「私と……」
「ん?」
「その、中途半端で……そういうのは、気分良くないって聞いたので…私と、しませんか?」
彼の行っている行為の、共犯者に自らなった。それなら自分に訴える資格などないと考えて、冷静になれば何言ってんだと言いたくなるような考え。そうして、はじめて彼と体を重ねた。
次の日、椿姫に急用が入って約束を反故にしたことを謝罪し、自分に勝った彼へのご褒美を買いに行く。
何となくだが、椿姫も彼のことが好きなんだろうな、と思った。何でも出来るくせに負けず嫌いで子供っぽい彼をよく気にしているし。その椿姫は、昨日自分と彼がした行為を知らない。それを隠している自分と、今こうして買い物をしている。
成る程、この背徳感は、クセになる。
それから、機会を見つけては彼と体を重ねる。時には、生徒会室で。生徒の見本になるべき生徒会役員の自分が、その一団の部屋で、これにはとても興奮した。
まあ、だから椿姫に見つかったのだが……。
その椿姫も今では彼と関係を持っている。
「こうしてはぐれ悪魔を侵入させてるくせに、何が管理者なんだろうな」
ブチブチと肉を噛み千切るミカド。肉がなくなり骨だけになったら骨をボリボリと食う。
「ソーナもよ、被害がでる前に対処してやってんだから感謝しろとでも言ったらどうだ?」
「知ってたんですね。もしかして、私が知らないはぐれ悪魔もいたりしましたか?」
「いいや。お前はきちんと侵入したの全部気づいてたぜ。お前がいなけりゃ月に一人は死んでる。お疲れ、よく頑張ってるな」
「……そう思うなら、もう少し甘えて良いですか?」
「お好きにどーぞ」
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