生徒会室の近くのトイレ。一般教室や部室などからは離れた場所にあるため利用するのは殆ど生徒会役員のみだ。その男子トイレからミカドが出てくる。何もおかしいことではない。ミカドは時折生徒会の仕事を手伝うのだから。
おかしいことと言えば男子トイレから女子であるソーナが一緒に出て来たことだろう。
「お前最近スリル中毒になってきたよな」
「……かもしれませんね」
うっとりと頬を染めるソーナ。その顔は、リリスを思い起こさせる。ようするに悪魔らしい笑みと言うことだ。
欲望に忠実な悪魔。リリス曰く、ルシファーのクソヤロクが勝手な秩序を創ったとか。しかもその秩序を管理する貴族悪魔を秩序を嫌うリリスを切り刻み創ったというのだから笑える話だ。
考えてみればソーナはシトリー。人を脱がさせるのが得意な淫欲方面の伝承が残される悪魔だ。才能はあったのだろう。
「皆、お待たせしました」
「よ、手伝いにきてやったぜお前ら」
生徒会役員達は匙を除いて嬉しそうな顔をする。球技大会も近くなった今、人手は欲しい。匙もリアスもソーナの不利になることは言わないから、生徒会役員達は何も知らない。というか、仮にも惚れた相手が他の男と寝ていたのだ。トラウマになってもおかしくない。他の女とも実は、と思ってしまって聞けないのかもしれない。
「失礼しまーす。あ、お兄様」
と、不意に扉が開き入ってきたのはミコトだった。その手には気絶したイッセーが引きずられており、後を数人の女子が付いてきていた。
「覗きです」
「本当にいい加減どうにかしてください!」
「もう限界なんです!これ以上この変態が野放しなんて、私達怖くて学校これません!」
「わ、私……この下着、彼氏に最初に見せたかったのに………」
よく見ると女子達はハゲと眼鏡も連れてきていた。何があったか尋ねると、ミコトが覗いていた三人を発見したらしい。
何でも可愛い下着だねー、彼氏に見せるために買ったんだー、そーなの?彼氏より先に見ちゃってごめんねー、女子だけだからいいよ、などという会話をしていると、ミコトが『まあ彼氏さんも見るの四人目の男子になっちゃいましたけどね』と呟いたらしい。そして、思わず動いてしまった彼等を女子達が捕まえた。
「変な思考誘導結界があったせいで暴力で解決しようとしてましたよ?医療を志す者してはそれは見逃せないので~……」
解除しちゃいました、とソーナの耳元で呟く。ソーナはリアス、と呆れたようにため息を吐いた。そして、こうして生徒会に相談してきた以上対応せざるを得ない。いや、やっと対応できると言うべきか。取り敢えず普通に犯罪行為なので退学、にしたいところだが相談に来たのが今日が初めてである以上、校則に則り停学にしかできない。
それでも再発をするようなら退学にするが、ここの校則を作った奴はやけに変態行為に甘い。共学化に伴い当時の生徒会長が決めたらしいが、男は変態行為をするのが当たり前だから仕方ないとでも思っていたに違いない。
「ソーナ、どういうことよ!」
「女子生徒数名からの苦情ですからね。ところでリアス『自分達で解決するから大事にしない』という認識操作の結界を勝手に張っていたことに弁明は?」
「弁明……?」
首を傾げるリアスに、はぁ、とため息を吐くソーナ。もう良いです、と再び書類に目を通す。いくらこの学校がノーヘッド本田を受け入れる頭がちょっとあれ……もとい簡単に動じない生徒が多いとは言え、何か妙だと思っていたがそんな結界を張っていたとは。てっきりはぐれ悪魔対策だと………考えてみれば学校にしか張らないのはおかしかったが、まあリアスだしな、と思っていたのが裏目にでた。
「兵藤一誠君の停学二週間は覆りませんよ。次は一ヶ月、その後は退学も視野に入れると伝えました。他に何か?」
「訴えが取り消されれば覆るのかしら?」
「まあ、そうですね………」
「そう……」
「言っておきますけど、人外に襲われたわけではないのに洗脳はやめてくださいね。あれ、日本神話から抗議が来たので外交問題になります」
「────ッ!」
リアスはキッ、と書類仕事をしているミカドを睨みつける。ミカドはリアスが来てから一度も視線を向けていない。どうでも良いからだろう。そのまま扉を勢いよく閉め早足で去っていった。
「彼女は貴方が嫌いになったようですね。兵藤一誠君を停学させたから」
「俺のせいじゃねーだろ。自己責任だ」
「はい。ですのでお気になさらず………ところで、その………」
「?」
「匙に使い魔を与えるために、冥界の使い魔の森という場所に行く予定なのですが、よろしければ一緒にどうですか?」
「……………まあ良いか。俺もアーシアに与えてやりてーし」
どうせなら家族も誘うか、とミコト達を迎えに行くことにした。
「ああ?変態たちが居るから学校来たくないだぁ、ならこなきゃ良いだろうが」
「そ、そんな……」
「そいつ等に仕返ししてぇなら今は耐えるこったな。覗きのスポットになりそうなところに監視カメラでも仕掛けて数が揃ってからネットに流せ。実名、住所付きでな……一度ネットに乗っちまえば人を虐めるのが大好きなクズ共が勝手に追いつめてくれる。自分達は正義の味方だーってな」
「ガキに何教えてんだ。良いぞもっとやれ」
職員室で生徒の相談を聞いていたシンを迎えにいくミカド。使い魔の森とやらに行かないかと事情を説明しながら聞くと、めんどいからパスと言われた。
ちなみに使い魔の森で何が起きたかというと、健康ボディの水の精霊がミコトに解剖されたり、人体を溶かせないのに服だけ溶かせる謎の液体を出すスライムがミコトに様々な薬品を突っ込まれたり、女性の分泌物を好む触手がどのような脳をしているのかバラバラにされたり、どんな動物にも反応するのかと水の精霊をつっこまれ水の精霊に引きちぎられたり、ヒュドラの毒腺をアーシアとミコトが二人がかりで搾り採ったりなどだ。
「アーシアちゃん、新しい瓶用意するからちょっと待ってね……はい、OK。ロープ思い切り引っ張って毒を絞って」
「はい、いきます!」
「シュアァァァァッ!?」
「丁度弱ってるし、要るか?」
「ああ、うん……もうあれで良いや」
「ところでミカド君、何を食べているんですか?」
「ドラゴンの尻尾。喧嘩売ってきたから適当にボコって鱗全部はがして爪と牙削って尻尾貰った」
「………奪った、では?というか、殺さなかったんですね」
「生かしときゃまた材料がとれるからな」
「あ、アーシアの使い魔忘れてた」
帰宅し、思い出したように呟くミカド。様々な実験結果の資料や実験材料を手に入れ幸せそうだったミコトとアーシアはあ、と固まる。とはいえ、今から向かうのも面倒くさい。適当に作るか、と影を蠢かせていたが不意に止まり、空間に波紋を浮かべ一本の剣を取り出す。
「アーシア、これやる」
「これは、聖剣?」
「ああ、外国観光中に湖の精霊から貰った。名前は確か────」