大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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初投稿作品です。よろしくお願いします。


戦車道再開編
何故か男装をさせられた私


 まったく、会長が安請け合いしただけなのに、なんで私がこんな格好を……。

 二年生に上がって、生徒会もそのまま続行。書記会計という役職はあるが、実態はワガママな先輩方が押し付ける雑用だった。

 

「おおー、やっぱり似合ってるねぇ、仙道ちゃん」

 

 にかっと小悪魔的な笑みで私を満足そうに見つめるツインテールの小柄な先輩は大洗女子学園生徒会長の角谷杏。

 広い学園艦を一手に管理する手腕は素晴らしいの一言。その上、この人は私の恩人だ。

 私は彼女を尊敬していた。こんなことをしなければ……。

 

「会長、やはり、いやどう考えてもこの格好は変ですって。なんで、私が男物のタキシードを着て、こんな髪型にしなきゃいけないんですか?」

 

 私は会長命令で男装をさせられていた。真っ黒のタキシードにショートカットヘアを無造作な感じにセットされて……。

 なんでも、演劇部のポスターの撮影に協力してほしいってことらしいんだけど。書記会計の私がそんなことをする理由が分からない。

 

「まぁまぁ、これは生徒会にも必要なことだから。それにしても、違和感ないねぇ、多分河嶋辺りなら仙道ちゃんって気付かないよぉ」

 

 会長は満足そうに頷きながら、男装姿を褒める。違和感ないって言われても普通の女子高生は嬉しくないからね。

 確かに身長は180近いし、地声がかなり低いから私服だと男に間違われてトイレで悲鳴を上げられたこともあるけど……。

 

 でも、さすがに長いこと一緒に仕事をしてきた私をいくらあの河嶋先輩でも、見間違えるなんて――。

 

「会長、この間の件ですが――。はっ、お客様がいらしてましたか」

 

 生徒会室のドアが開き、どこで買ったのか聞いてみたいけど、聞けてない片眼鏡(モノクル)をかけた聡明そうな女性が入ってきた。

 

 彼女は河嶋桃先輩、生徒会広報。見た目は有能、中身はドジっ子。これが彼女を表現する全てだと言っていい。

 後輩の私が何度、彼女の仕事を押し付けられたことか。ていうか、せめて私だって気づいてよ。

 

「あっ、あの河嶋先輩?」

 

 ひと目で気付かれなかったショックが大きくて、私はつい彼女の肩を掴んで顔を近づけてしまった。

 

「ひゃうっ/// かっ会長ぉ。この方、誰ですかぁ」

 

 顔を真っ赤にした河嶋先輩は、涙目で会長に助けを求める。

 あっ、これはホントに気付かれてないヤツだ……。さすが、河嶋先輩……、私の想像なんて軽く超えている。

 会長は会長でニマニマ笑って楽しそうにこちらを見ている。

 

「先輩、私です。玲香(レイカ)ですって」

 

 情けない気持ちを必死で隠して、先輩に私の名前を告げる。

 

「何っ、玲香だと? 玲香の兄ってことか? あいつに兄など居たのか……」

 

 どーして、そうなるの? 大丈夫なのかなぁ? 今更だけど……。どうも先輩の頭の中では今の私=玲香という構図が取れないみたいだ。

 

「じゃなくてですね。私自身が仙道玲香なのですよ。私=仙道玲香です。オッケー?」

 

 小学生に説明するようなゆっくりとした口調で諭すように教える。

 

「あなた、イコール、仙道玲香?」

 

 なんでカタコトになってフリーズするんだよ……。そんなにショックか? 私の方がショックだよっ!

 

「はぁ? おっお前が玲香だとっ? どうしてそんな格好をしてるんだ?」

 

 フリーズ状態が解除されて、途端に元気なった先輩が指をさしてブンブン振る。なんか、可愛いなこの人……。

 

「私が仙道ちゃんにお願いしたんだよー。()()のポスターの撮影に使おうと思ってね」

 

「ああ、アレですか。確かにこのクオリティなら女子受けは間違いなさそうですが……」

 

 会長の一言で河嶋先輩は納得した。というか、アレって何? これは演劇部のポスター撮影じゃないの?

 

「ああ、気にしないでいいよー。あとお楽しみってことでっ」

 

「気になりますよっ!」

 

 いつもの軽いノリで流されて――猛烈に嫌な予感がするがこれ以上は怖くて突っ込めない。

 会長のやりたいことの邪魔は出来ない。これは1年生のときに悟ったことだ。まさに暴君……。

 

「嫌だなぁ、暴君だなんてさ」

 

「えっ、口に出してました?」

 

「あー、やっぱり暴君だって、思ってたんだー」

 

 やっぱり、この人には敵わない……。

 

「こら、玲香っ! 先輩には敬意を持て!」

 

 河嶋先輩はさっきの醜態がなかったかの如く私に悪態をつく。この切り替えの早さは見習わなくては。

 

「そうですね。尊敬する先輩の仕事が終わりそうじゃないな、なんて思うのは失礼だと思いますので、敬意を持って手伝うことを止めにします」

 

「ええーん、玲香ちゃーん」

 

 涙目で縋ってくる先輩。小山先輩が見てたら、私が睨まれるんだから、程々にしてください。

 最近、河嶋先輩と絡んでいるときの小山先輩の視線が怖い……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「いいですねー。さぁ、もう一枚撮りましょう!」

 

 演劇部の先輩は私を見るなりハイテンションでパシャパシャとポスターの撮影を開始した。

 

 背景は大空の下にⅣ号戦車D型が佇むというハリボテ。

 なんでも戦車道をテーマにした演劇らしい。

 

 だから、なんで淑女の嗜みの戦車道の演劇のポスターに紳士のコスプレした女が写らなきゃならんのだ? という、疑問を素直にぶつけてみた。

 

「女子校で人を集めるには、イケメンの力が必要なんです!」

 

 おっおう……。演劇部の先輩の迫力に負けて私はこれ以上は意見を出さなかった。

 今の私って、イケメン――なの? 解せぬ……。

 

 

 

「貴重な時間をありがとうございまーす!」

 

 恥ずかしいポーズを取らされて、昔、写真に写ると魂が抜けるという現象を体感したと思っていたら、ようやく地獄から解放された。

 

 さあ、早くこんな格好、着替えてしまおう。

 私は足早に生徒会室へ向かった。

 

 それにしても、戦車道ねぇ……。中学時代を思い出すな。

 

 中学生の頃、私は戦車道にどっぷり浸かっていた。あの頃は背丈も小さくて髪も伸ばしていたから見た目はもっと女の子っぽかったと信じたい。

 

 中学最後の全国大会は決勝まで勝ち進むぐらい頑張った。まぁ、決勝で常勝軍団の黒森峰女子の中等部に負けたけど……。

 思い出すなぁ。対戦校の隊長の顔。彼女は本当に強かった――。

 

 私はその後、事故で両腕に大怪我を負って戦車道を出来ないと診断された。

 だから、未練を断ち切るために戦車道の無いこの学校に進学した。

 

 結局、その診断、誤診だったんだけどなっ!

 

 高1のとき、会長に紹介してもらった大洗のブラックジャックとかいう怪しげな医者に診てもらい、私の両腕は奇跡の復活をした。

 死ぬほど辛いリハビリはやったけど、両腕はほとんど完治したんだ。

 

 あー、治るんだったら推薦来てた黒森峰に行けば良かった。まぁ、大洗に来なきゃ、そもそも腕は治ってなかったんだけど……。

 

 めっちゃ、戦車道やりたーい。大学に行ったら絶対にやる! 私はそんな誓いを密かにたてていた。

 

 生徒会室に戻る途中、ふと私はかなり時間が経っていたことを思い出した。

 

 時間を確認するために、ポケットの中の携帯電話を取り出そうとゴソゴソと探ると、ポロンとお気に入りのストラップが地面に落ちてしまう。

 

 両腕が包帯でグルグル巻きになっているクマのキャラクターのストラップ。アンコウの帽子を被っている大洗限定のレア物だ。

 

 名前は――。

 

「ああーっ、ボコだぁ!」

 

 栗毛の女の子が目を輝かせてストラップを拾って見つめていた。


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