大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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ちょっと原作とは時系列は前後しますが、玲香が副隊長になった影響ということで……。


スカウトと申し込み

「なんかさ、玲香って本当に女の子だったんだね」

 

「へっ?」

 

 湯船に浸かって早々に私の心を抉る一撃が武部さんより放たれる。

 

「うふふ、なんだかわたくし、混浴の気分になってきました」

 

 五十鈴さんまで、酷い。気にしてるのに……。

 

 そんな感じで2人のスタイルを見せつけられ、私は先ほどの練習試合以上の敗北感を感じていた。

 

「大丈夫だよ。玲香さんはカッコいいもん」

「うっうん? ありがとう?」

 

 私は西住さんの謎フォローにお礼を言う。いやぁ、激戦後の風呂は気持ちいい。

 

 

「でもさぁ、やっぱり車長はみほがやってよね」

 

「ふぇっ?」

 

 そう、後で聞いたのだが、車長は武部さんだったらしい。西住さんは後半装填をやりながら指示を出していたんだそうだ。まぁ、私も装填や砲撃をしながら指示出してたし、同じようなものか。

 

「わたくしたちでは、やっぱりー、戦車のことよく分かりませんし」

 

「西住殿は頼りになりますし」

 

「えっ、そんな、無理だよー」

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくぅ!」

 

「よろしくお願いします。西住殿!」

 

「はっはい。こちらこそ、よろしくお願いします。よろしくお願いします! ううぅ」

 

 小さな勇気を振り絞って西住さんは車長を引き受ける。あー、車長でこの反応だけど、どーしよ、ついでに言っとくか。

 

「みほ、ついでに言うけどみほが隊長だから――」

 

「ふぇっ? えっ、えっ、えーっ! それは、それは無理だよ玲香さん! 無理無理、隊長なんて私なんかが……」

 

 案の定、西住さんは手をぶんぶんバシャバシャさせながら首を振った。やっぱ、戦車を降りるとキャラ変わるよなー。エグい戦略立てるのに……。

 

「大丈夫だよ。私が副隊長だから。一緒に大洗女子の戦車道チームをまとめよっ! てか、みほじゃなきゃ、駄目だよ」

 

「玲香さんと……、一緒に? 私じゃなきゃ駄目なの? 私じゃなきゃ……。――うっうん! 私、隊長になるよ! 玲香さん、一緒に頑張ろう! 一緒に! えへへ」

 

 ん? 意外と素直だなぁ。性格的にもうちょっとモジモジすると思ったけど……。何故か、満面の笑みだぞ。

 

 私は急にやる気になってくれた西住さんに驚いた。まぁ、やる気なら良かった。

 

 西住さんが車長と隊長に就任したのをきっかけに、Aチームの役割分担の話題になった。

 

 コミュニケーション力の高さを活かして武部さんは通信手に。

 アクティブなことに憧れる五十鈴さんが砲手に。

 戦車ならオールマイティになんでもこなしそうな器用な秋山さんが装填手になる。

 

 五十鈴さんが砲手やりたいとは意外だけど、この中じゃ1番メンタル強そうだから適任か。

 秋山さんも初めての砲撃であんな感じなのにあっさりと装填やるって、まさか才能の塊なのか?

 

「あとは、操縦手か。冷泉さんって、戦車道やってくれそうな感じあるかな?」

 

 私は冷泉さんスカウトに動き出した。

 

「うーん。どーだろ。麻子って面倒くさがりだからー」

 

 冷泉さんと幼馴染という武部さんは首を傾げる。そうなんだよなー。クラスで見てても孤高の天才タイプで協調性が無さそうな感じなんだよねー。

 

「ねぇ、麻子ー、操縦手お願い!」

 

 風呂からちょうど上がった冷泉さんに武部さんが話しかける。

 

「もう、書道を選択している」

 

 いや、あなたサボってたでしょ。

 

「あっあの、冷泉さんが操縦してくれると、助かります」

 

「先ほどの操縦はお見事でした。お願いします!」

 

 西住さんと秋山さんも揃ってお願いする。

 

「悪いが無理……」

 

 ちょっ……、クールすぎるだろ。唯我独尊って感じだな。仕方ない、あの手を使うか。

 

 

「やあ、冷泉さん。ちょっと良いかな? 君の遅刻日数の件で話があるんだけど……」

 

「ん? 仙道さんか……。生徒会の人間の説教なんて聞かないぞ」

 

「いや、説教なんて、まさか。その逆だよ。戦車道の履修者には遅刻200日免除が与えられるのは、知ってるだろ?」

 

「えっ? そうなの?」

 

「麻子寝てたでしょ……」

 

 武部さんが呆れた顔をする。

 

「冷泉さんが戦車道を履修してくれて、かつ、いい成績を残してくれたら特別に遅刻をその倍の400日免除しよう。どうだい? 冷泉さんの成績なら卒業確定だろ?」

 

「……!?」

 

 やっと冷泉さんは私の目を見てくれた。

 

「あら、玲香さん、そんな特別扱い出来るのでしょうか?」

 

 五十鈴さんが不思議そうな声を出した。いや、すでに戦車道履修者かなり特別扱いだからね。

 

「そうだ、そんなのそど子が許すはず……」

 

「そど子さん? ああ、風紀委員長の園先輩のことか。大丈夫、彼女は結局のところルールを守る側の人なんだ。その点、こっちはルールを作る権力持ってる側の人間だから何も言わせないよ。私は次も生徒会やるし、冷泉さんの卒業が確定するまで保証できるよ」

 

 本当は絶対に園先輩に私が怒られることになるが、そんなのは後の話だ。今はとにかく冷泉さん獲得が最優先。

 

「ふーん。よし、引き受けよう。西住さんには借りがあった」

 

「いや、絶対に遅刻免除に釣られたでしょ……」

 

 まぁ、なにはともあれ、冷泉麻子という天才がAチームに加入した。あれ? Aチームかなり強くない?

 

 

 このあと私は仕事の残りを片付けるために生徒会室に、Aチームのメンバーは仲良くお買い物に出かけて行った。うっ羨ましい……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「仙道ちゃーん、さっそく練習試合を組むよー。副隊長として、試合申込の電話をしてくれないかなー?」

 

 戻ってきて早々に会長から指示をいただく。

 

「えっ? 練習試合ですか? 新参の私たちなんて相手にしてくれますでしょうか?」

 

「大丈夫ー。絶対に引き受けてくれるところあっから。ここにかけといてー」

 

 会長が悪戯っぽく笑って番号の書いた紙を渡す。はぁ……、一体どこの高校なんだ? 私は番号を入力方法して電話した。

 

『はい、こちら聖グロリアーナ女学院の――』

 

 ええーっ!? ぐっグロリアーナ? 私はその瞬間心臓の鼓動が早くなり受話器を落としそうになった。とにかく、練習試合のしたいという旨を、その前に自己紹介か?

 

『大洗女子学園、戦車道が復活しましたのね。それはおめでとうございます』

 

 何とか隊長のダージリンさんに繋げてもらい、私は心臓のバクバクと戦っていた。

 聖グロリアーナ女学院は紅茶の名前持ちが幹部クラスっていう変わった学校だ。

 

「ええ、ありがとうございます。先ほども別の方にお話しましたが、ワタクシ、大洗女子学園戦車道チームの副隊長をしております。大洗女子学園の2年生、仙道玲香です。ダージリンさんの高名は伺っております。お話出来て光栄です」

 

『まぁ、嬉しいことを仰ってくれますのね。白い鬼さん――わたくしも貴女のことは存じておりますのよ。ふふっ』

 

「えっ、あっ、そんな。まさかダージリンさんに覚えて頂けているなんて思ってもいませんでした」

 

『あの、決勝戦の戦いを見たことのある戦車道選手なら貴女を知らないはずがありませんわ。もし、ウチに来てくだされば、今頃アールグレイ先輩の名前は貴女が継いでいたでしょう』

 

「ははっ、さすがにリップサービスは英国式なのですね。あのう、折り入ってダージリンさんにお願いがあるのですが――」

 

 私はダージリンさんに練習試合の申し込みをした。

 

『練習試合、よろしくてよ。わたくし、挑まれた勝負からは逃げませんの。大怪我をされて戦車道を引退されたと聞いていましたが、復帰したのですね。貴女の実力を楽しみにしていますわ』

 

 ダージリンさんは寛容にも新参の私たちの挑戦を受けてくれた。会長の仰ったとおりだ。

 

「練習試合を受けていただいてありがとうございます。私は長いブランクで実力は落ちているかもしれませんが――戦車道への情熱は忘れたことはありません。よろしくお願いします」

 

 実力はやはり鈍っていた。これからどれだけあの時の実力に近づけるかわからないけど、頑張るしかない。

 

『玲香さん、こんな言葉をしっているかしら? 《その人がどれだけの人かは、人生に日が当たってない時にどのように過ごしているかで図れる。日が当たっている時は、何をやってもうまくいく》』

 

「はぁ? ええーっと勝海舟でしたっけ?」

 

 欧米人の格言をよく言ってる方なのは有名なので知ってたけど、まさか幕末とは……。

 歴史は苦手なんだよなー。この前、教育番組で偶然見てたからわかったけど……、ダージリンさんも見てたのかな?

 

『私は怪我を克服して再起した貴女が弱くなっているとは想像していないわ。ぜひ、大洗女子に紅茶を送りたいものね――』

 

「えっ、ダージリンさん。それはどういう――」

 

『それでは、練習試合を楽しみにしていますわ――』

 

 こうして我々大洗女子の最初の対戦相手は聖グロリアーナ女学院に決定した。

 聖グロリアーナ女学院は準優勝経験もある強豪校だ。もっと言えば、戦車道の四強の一角である。

 

 日本の戦車道の四大強豪校といえば、一昨年まで9連覇していた黒森峰を筆頭に、去年の優勝校プラウダ高校、戦車保有台数日本トップのサンダース大学付属高校、そして、この聖グロリアーナ女学院なのだ。

 

 はっきり言って勝つのは厳しい。こちらに合わせて5対5の殲滅戦(全ての戦車を行動不能にさせたほうが勝ち)というルールだけど、勝利を掴むのは難しいだろう。

 

 うーん、『人生に日が当たってない時にどのように過ごしているかで図れる』かぁ、私は怪我を乗り越えて強くなれたのだろうか――。

 

 まぁ、とりあえず、ダージリンさんを失望させては駄目だな。勝つつもりで挑まないと。

 私は聖グロリアーナ戦の戦略を自分なりに練りながら生徒会の雑務をこなしていた。




次回、ヘンテコ戦車とか色々。グロリアーナ戦を上手く書けるかどうかが、全国大会編を書ききれるかどうかに直結すると思うので、自分的にも練習試合です。

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