大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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はっきり申し上げます。作者は根っからの理系で歴史の成績は最低でした。センター試験(死語になるかも)は倫理を選択したほどです。
なので、歴女チームのオリジナルのかけ合いは今回で最後にします。ごめんなさい。


大洗の隊長と副隊長

「かっ、会長こっこれは……」

 

「うん、いいねー」

 

 私の目の前にはゴールデン38tが止まっていた。あれ? これはなんていう復活のF? ピコ太郎?

 目立たなくて、隠密性に優れた軽戦車がなんでこんなに自己主張してんのさ。

 

「いいねー、じゃ、ありませんよ! こんなん、グロリアーナに見せたら、ダージリンさんに『随分、個性的な戦車ですわねぇ』とか言われてクスクスされるに決まってるでしょ!」

 

「およっ? 仙道ちゃん、ノリが悪いねー」

「玲香! お前、会長の趣向に文句つける気か!」

 

 会長はいつもの小悪魔スマイルで取り合ってくれないし、河嶋先輩は会長を全肯定してるから話にならない。はぁ、今日が副隊長初日なんだけど大丈夫かなー?

 

「あの、玲香。すごく伝えにくいんだけどね……」

 

 最後の砦にして大洗の常識人、小山先輩が苦笑いしながら指をさしていた。

 

「えっ、えっ? ええーっ!?」

 

 私の目に飛び込んで来たのはとんでもない光景だった。

 まっピンクなM3リー、悪ふざけしたミニ四駆みたいなカラーリングに加えて、【のぼり】が車高の低さを台無しにしているⅢ突、もはやバレー部の宣伝カーになっている89式……。

 

 あかん、戦車道舐めてるって絶対に思われるやつだ。これは正さないと。

 

 よし、先ずは隊長である西住さんと連携を取って指導を――。私は西住さんの元に走った。

 

「――なんか別物にぃー、あんまりですよねー? 西住殿ー」

 

「クスクス、ふふふっ、私、戦車をあんな風にするなんて初めて見ちゃった。なんか楽しいねー(天使の笑顔)」

 

 おう、ジーザス。隊長自ら認めちまったら何も言えないよ……。

 

「あっ、でもⅣ号戦車はまともなカラーリング保っているんだ」

 

 私はそのままのカラーリングのⅣ号を見て安心した。だってさ、あのノリだとシルバーⅣ号とか、スーパーⅣ号ロゼとかになってそうだったんだもん。

 

「はぁ、Ⅳ号も危なかったんですよ玲香殿……」

 

「ああ、秋山さんがマトモな感覚で救われているよ……」

 

 私と秋山さんは何も言わずに握手した。

 

 まぁ、最初から貴重な戦車道履修者のモチベーションを落とすわけにはいかないから、このままやろう。でも、全国大会は許さん!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「そんじゃ、今日から私たちの戦車道チームの隊長と副隊長になる2人を紹介するよー。隊長は西住ちゃーん、んで、副隊長は仙道ちゃーん」

 

「「おおーっ」」

 

 拍手の音に促されて私と西住さんはみんなの前に立った。

 

「じゃあ、就任の挨拶をしろ! まずは西住!」

 

 河嶋先輩がいつもの尊大な大度で西住さんに挨拶を促す。

 

「あっ、あの、西住みほです。よろしくお願いします!」

 

 本当に普通の自己紹介をしただけの西住さん。こういうところは可愛い。守ってあげたくなる。

 

「もっと、抱負とか色々あるだろ!」

 

「ふぇっ、ほっ抱負ですか? え、ええっーと、玲香さんと一緒に! 頑張りますので、よろしくお願いします」

 

 なんか、「一緒に」というところをやたら強調してる気がするけどまぁ良いか。

 

「うーん、まぁいい。次は玲香! お前は生徒会なんだから、ちゃんとしろよっ!」

 

 ハードルを上げつつパスをする河嶋先輩。

 

「どうも、仙道玲香です。まぁ、その、知っている方はあまりいないでしょうが、私は腕に怪我をして戦車道を出来ない体になっていました。でも、何とか回復して昨日久しぶりに戦車道をやることが出来てすっごく幸せだったんですね」

 

 ふぅ、と私はひと呼吸おく。

 

「で、私が副隊長になって、みんなに何が出来るか考えたけわけですよ。結論としてはですね、これだけ魅力的な戦車道の楽しさを伝えたい! もちろん、勝つことも大事ですが、それだけじゃない。チームで一丸となって戦う楽しさをみんなに実感してもらいたい。だから、至らないところは多々あるけど、一回信じて、私と西住さんに付いてきて欲しい。よろしくお願いします!」

 

 私は頭を下げて、みんなにお願いした。

 

「「パチパチパチパチ………」」

 

 みんなが拍手をしてくれた。私と西住さんは認められたんだ。よし、これから頑張るぞ!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「玲香先輩、シュトリヒ計算ってなんですかー? エビ料理ですかー?」

「彼氏が砲弾持ったら筋肉ついて嫌だっていうんですけどぉ」

「…………」

「あいっ! 先輩! 砲弾に当たるのが怖いです」

「止まって撃つタイミングなんですけど――」

「ちょっと、みんな、一斉に話したら先輩困っちゃうよ」

 

 私と西住さんは全体練習の後、手分けして各チームを回って指導することにした。

 練習試合ではいいところが無かったDチーム。まだまだ甘いところから抜け出せてないが、素直でいい子が多いので実に教え甲斐がある。

 

「玲香さん! バレー部に入ってください! 玲香さんの高さがあれば全国を目指せます!」

「キャプテン、玲香先輩ならあの伝説のフライングドライブスパイクを――」

「いや、雷獣サーブを――」

「いやいや、オーロラカーテンが……」

 

 Bチームはバレー部だった。

 

 しかし、私はこのバレー部の才能に驚かされた。全員、全国の猛者に勝るとも劣らない才能の持ち主。

 特に砲手の佐々木さんの才能はノンナさんやナオミさんに負けないんじゃないかなー。シュトリヒ計算を体感で正確にやってのけるし、精度も初心者離れしている。

 

 うーん、89式に乗せるのは勿体ないような。でも、多分、戦車性能最低の89式を乗りこなせるチームは彼女らだけだし……。とにかく凄い人たちだった。

 

「Ⅲ突は砲身が回転しないから待ち伏せが基本的な戦術です。まぁ、持久戦というか、我慢比べですねー」

 

「ふむ、東部戦線か……」

「いや、カンナエの戦いだろう」

「信玄の木曽攻め!」

「まさに河井継之助の戦術!」

 

「「それだ!」」

 

「………」

 

 前学期の歴史の期末テストで34点を叩き出した私にはついて行けない人たちだった。

 今気付いたけど、大正デモクラシーって、灯台下暗しと似てるよねー。

 

 ダメ元でのぼりを取れないかと質問したところ、「魂を奪うつもりか?」と4人にマジの顔で言われた。

 とはいえ、エルヴィンさんの戦車の知識は中々のもので、古今の戦術にも詳しかったので様々な作戦への理解度は高かった。

 

 

 

 うん、どのチームも色々問題は浮き彫りにはなってるけど、光るところがある。

 強くなる。間違いなく……。

 しかし、時間が足りるのかどうか、そこが問題なんだよなー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「皆さん、お疲れ様です。まだ、始めたばかりなのに良く動かせていたと思います。明日も頑張りましょう」

 

 西住さんが練習の終わりの挨拶をする。

 

「「ありがとうございましたー!」」

 

 こうして私達が隊長、副隊長に就任して最初の練習が終わった。

 ふぅ、可能性が見えた練習だったな。さて、アレを伝えなきゃね。

 

「あっ、ゴメン。ちょっといいかな! 突然だけど、今度の日曜日に練習試合をすることになった。相手は聖グロリアーナ女学院!」

 

「聖グロリアーナ女学院! 玲香殿、それは本気ですか!」

 

「聖グロリなんとかって、強いのー?」

 

「強いなんてものじゃありませんよー。準優勝経験もある強豪校ですよ。勝てるわけが……」

 

「勝てるわけがないかな? 秋山さん、忌憚のない意見を言ってくれ」

 

 私は学校の名前に唯一反応した秋山さんに質問した。

 

「はい。申し上げにくいのですが……。すみません……」

 

 しょんぼりした顔で秋山さんは答えた。

 ああ、しまった。なんか、威圧的になっちゃった。背丈が高いから言葉遣いには気を付けなきゃ。

 

「あー、ごめんごめん。秋山さん、私もそう思ってるから、そんな顔しないでくれ。あはははっ」

 

 私は出来るだけ笑顔を作って秋山さんに話しかけた。

 

「何! 玲香! 勝てる自信がないとはどういう意味だ!?」

 

 そんなことを言ったら河嶋先輩が横槍を入れる。いや、ゴールデン38tじゃ無理でしょうよ。普通に考えたらね。

 

「まぁまぁ、待ってくださいよ河嶋先輩。でもね、秋山さん。今は私はそう思ってるけど、明日は分からないんだ。ワンチャン勝てるかもって思うかもしれない。明後日には10回に1回くらいはイケるかもとか思ってる可能性もある」

 

 私がそこまで言うと秋山さんがハッとした顔になる。私の言いたいことが伝わったらしい。

 

「まっ、自信なんてやらなきゃ付かないんだ。だから、明日からはちょっとでも《勝てるかも》って思う回数を増やせるように頑張ろうね。あっあと、今度の日曜日は朝の6時に集合だから遅刻には気を付けるように」

 

 そう言って私は練習試合の連絡を締めた。みんながちょっとでもやる気になればいいなー。

 

 

 

「私、やっぱり戦車道辞める! 短い間だったが世話になった!」

 

 って、思ってるそばから辞める宣言って冷泉さん、貴女は鬼ですか? 白髪鬼もびっくりですよ!

 

「人間が朝の6時に起きられるか!」

 

 ビシッと、撃破率120%ばりのキメ顔で冷泉さんが断言する。 

 

「いや、集合が朝の6時ですから、それより1時間は早く起きないと……」

 

 無慈悲な秋山さんのツッコミがトドメとなり、冷泉さんは「やっぱり無理!」と言って帰ろうとする。

 

 

 しかしまぁ、幼馴染の武部さんの「おばぁに怒られるよ」の一言で踏みとどまってくれたので、事なきを得た。

 

 危ない、危ない。冷泉さん居なくなったらガチで勝率ゼロパーセントになるところだったよ。「おばぁ」に感謝! 今度、菓子折り持って行こう。

 

 

「玲香さんはすごいなー。今は勝てないと思ってるけど、勝てるかもって思えるように練習しようって良い考え方だねー」

 

 西住さんと後片付けを一緒にしていると、彼女は思い出したようにそう言った。

 

「そんな、大層なことは言ってないさ。それに私は嘘を付いたし」

 

「えっ?」

 

 西住さんは首を傾げた。

 

「実は勝率は10パーセントくらいあると思っているんだ。私と西住さんなら……。初めての共闘だね。どうせだったら、勝ちたいなー」

 

「玲香さんと……、共闘かぁ。うん、私も楽しみ! 玲香さんが勝ちたいんだったら、私も勝ちたいな! えへへ」

 

 はにかみながら笑う西住さん。黒森峰で共闘するものだと前は思っていたけど、何が起こるのか人生分からないものだなー。

 

 そして、時間は車長を集めた会議まで進んだ――。




次回、いよいよグロリアーナ戦スタート!?
よろしくお願いしまーす。

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