大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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いよいよ、練習試合開始です。
原作とは違う展開の上にツッコミ所満載かと思いますが、ご用者ください。


作戦会議と試合開始

「聖グロリアーナは強固な装甲を利用した浸透強襲戦術が得意だ。まぁ、簡単に言えば、ちょっとやそっとじゃ傷つかない車体を盾にして、じわじわと侵攻して戦力を削るスタイルだね」

 

 私は聖グロリアーナ女学院の特徴を話した。

 

「まぁ、主力のマチルダⅡは100m以内の至近距離の砲撃じゃないと撃破は無理だから、何とか近づいて攻撃したいところ。それで、どうするんだ? って話なんだけど、1台が囮になってキルゾーンに誘きよせて、高低差を活かして攻撃する作戦を実行しようと思う」

 

 ぐるりとホワイトボードに書かれた地形図のキルゾーンに丸をつけながら説明した。

 

「「おおーっ」」

 

 車長たちが感嘆の声を上げる。

 

「ほう、さすがは玲香だな。私が考えた作戦と同じだ――」

 

 河嶋先輩が自信満々の表情でふんぞり返る。やめてください。ここからの話がやり辛いから。西住さん、オロオロしちゃうから。

 

「で、この作戦の弱点は何だと思う? 西住さんならわかるでしょ?」

 

「なにっ! 弱点だと? 完璧な作戦じゃないか!」

 

「河嶋先輩、発言は後で受付ますから。西住さん、お願いします」

 

「むっ、玲香のクセに……」

 

 河嶋先輩はしぶしぶ引き下がる。

 

「あっ、はい。すみません。聖グロリアーナは当然囮作戦を想定してくると思います。裏をかかれて逆包囲されるかもしれません」

 

 そして、打ち合わせ通りに西住さんはこの作戦の問題点を話してくれた。

 

「そゆことー。まっ、みんなが考えそうなことは向こうも想定してるって訳だよ」

 

 とりあえずセオリーと、それに対して相手がやりそうなことは話して置かないとね。

 

「なるほどー」

「そっかー」

 

「ちょっと待て! それじゃあ何か! 私が凡人の考えだとでも言うのか!?」

 

 河嶋先輩が顔から煙を出して怒りだす。

 

「そうではありません(そうです)。ただ、強豪のグロリアーナには河嶋先輩クラスの知将が居ることくらいは想定しなきゃダメってことです」

 

「ん? 知将かぁ、ふーん。まぁいい……」

 

 こっちは長い間この人の後輩やってるんだ。扱い方くらいは心得ている。

 

「にゃるほどねー、じゃあ、当然西住ちゃんたちには、それ以上の作戦があるわけだー。囮作戦は結局やらないのー?」

 

 干しいもを食べながら会長が身を乗り出す。

 

「いえ、囮作戦はやります。ここからは玲香さんと話し合った作戦なのですが――」

 

 西住さんは自分の考えた作戦を話し出した。

 正直言って私はまたまた西住みほの戦略家としての才覚に驚かされた。

 本当にこの子は人畜無害な小動物みたいな顔してるのに考えることが大胆だよ。勝てないわけだ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「なるほどー。それは面白いねー、うん、大好きだよ、そういうのー」

 

 得意の小悪魔スマイルで会長は干しいもをぷるぷるさせる。

 ああ、こういうのはこの人好きそうだもんなー。

 

「しかし、リスクがありますね。失敗したときは――」

 

 小山先輩は不安そうな表情だ。まぁ、失敗したらボロ負け確定だからなー。

 

「しかし、成功すれば我々の勝ちが見えてくる。圧倒的に優位だ」

 

「西住先輩、すごいですよー。こんな作戦思いついちゃうなんて……」

 

「スーパーサーブでサービスエースだ!」

 

 各車長たちは乗り気になってくれたようだ。

 うん、これが決まれば勝率は40パーセントくらいにはなると思う。まったく、西住さんには驚かされる。

 

「んじゃあさー、勝つ可能性が出てきたんだからさー。もし勝ったら西住ちゃんと仙道ちゃんには豪華賞品プレゼントしちゃおうかなー」

 

「えっ、会長。豪華賞品ってなんですか?」

 

 私は即座に反応した。珍しいな。会長からプレゼントなんて。

 

「高級干しいも3日分!」

 

「「……」」

 

 場が凍るってこういう事を言うんだなー。日本語にまた一つ強くなったよ。

 

「えっ、じゃあ、もし負けたら?」

 

 磯辺さーん、それは地雷だから。絶対にダメなヤツだから。嫌な予感がする。

 

「そだねー、大納涼祭であんこう踊りでも踊って貰おうか」

 

「あー、よかった。なんだーそんなことか。会長、驚かせないで下さいよ。――って、あれ?」

 

 シンと、静まりかえった会議室。ん? さっきより静かなんだけど。

 

「「えーっ!」」

 

 そして、ドン引きした表情の各車長たち。あ然としている西住さん。

 私の反応ってもしかして間違ってるの?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あっあんこう踊りー、恥ずかしすぎるー! あんなの踊ったらお嫁に行けないよー」

 

 カランと飲みきったジュースの缶を落としながら武部さんは絶叫する。

 

「絶対にネットにアップにされて、全国的な、さらし者になってしまいますー」

「一生言われますよね」

 

 秋山さんも五十鈴さんも顔を青くした。

 

 えっ? そういうもんなの? 寧ろ私は好きなんだけど、あんこう踊り。衣装も男装よりも可愛いし。

 もしかして、私は生徒会にいる間に10回くらいお嫁になれなくなってる? 感覚麻痺してるの?

 

「そんなにあんまりな踊りなんだ……。玲香さんがまったく動じてなかったから分からなかったよ」

 

 私が無反応だったせいで、西住さんは話が思ったよりも重いことに気付いたような顔をした。ごめん、西住さん。私が不感症になったせいで……。

 

「つか、勝とうよ! 勝てばいいんでしょう!」

「負けたら私もあんこう踊りを踊ります! 西住殿と玲香殿だけに辱めは受けさせません!」

「わたくしも踊ります!」

「私も!」

 

「みんな――ありがとう!」

 

 うっ美しい友情。

 みんな――ごめん、私はもう手遅れだよ。でも、西住さんは共に守ろう。

 

「つか、私は麻子がちゃんと起きれるかどうかの方が不安だよ」

 

 いや、まったくもってそのとおり!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、そして、時間は一瞬で過ぎて去って遂に対峙する聖グロリアーナ女学院と我々、大洗女子学園。

 

 冷泉さんが遅刻しそうって連絡来たときはヒヤリとしたけど、無事に間に合ってよかった。

 

 私の目の前には金髪の淑女、聖グロリアーナ女学院の隊長であるダージリンさんがいる。

 人見知りな西住さんがどうしても挨拶を変わってほしいと言ったから、私が隊長代理として挨拶をすることになった。

 

「私たちの申込みを快諾してくださってありがとうございます。ダージリンさん、お会い出来て嬉しいです」

 

「ええ、私も貴女に会えるのを待ちわびてましたのよ。それにしても、個性的な戦車ですわね」

 

 予想したとおりの困ったような笑顔でダージリンさんはジャブを入れてくる。もっ申し訳ない。私が至らないばかりに……。

 

「えっ、そうですよね。はははっ、でも、やる気無くしたりしないでくださいよ。せっかく聖グロリアーナ女学院さんと戦える機会をもらって楽しみにしてましたので、本気でお願いします」

 

「うふふ、安心なさって。わたくしたちは、どんな相手にも手は抜きませんの。サンダースやプラウダのような下品な戦い方は致しません。騎士道精神でお互い頑張りましょう」  

 

 ダージリンさんはそう言うと右手を差し出した。私はそれを握る。うわー、ダージリンさんと握手しちゃったよ。

 

「ええ、ダージリンさんの期待に応えてみせますよ!」

 

「うふっ、楽しみにしてますわ。貴女のファンとしても――中学生の頃より、その、素敵な方になりましたわね」

 

 本当に英国式のリップサービスがすごいなー。ファンなんて言われて本気に受け取るはずがないだろうに。

 

「それでは、これより、聖グロリアーナ女学院と大洗女子学園の試合を開始する。一同、礼!」

 

 さて、試合開始だ。作戦を開始しようとしますか。みんな、頼むぞ!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おおー、さすがは聖グロリアーナだねー。あんなにキレイに隊列組むんだー」

 

「まぁ、練度が違いますからね。なんせ、彼女らは戦車の中で紅茶飲んでますから、激しく揺れてたらカオスな状態になりますよ」

 

 私と会長は偵察に出ていた。今回の囮役は我々、Eチーム。重大な任務を担っている。

 

「んで、勝てんのかなー。あたしたち」

 

「さぁ、戦術と腕だけじゃ難しいでしょうねー」

 

「あっそうなのー?」

 

「戦車道にマグレなしって言葉もありますけど、今回はマグレにも期待しちゃいましょう」

 

「いいねー、仙道ちゃんのそういうとこ好きだよー」

 

 そんな軽口を叩きながら、私たちは足早に戦車に戻った。

 

「さて、挨拶をさせていただきますよ。グロリアーナの皆さん……」

 

 私は照準を定めて、砲撃を放つ。よしっ、手応えあり!

 

「おおー、当たったねー、さすがは仙道ちゃーん」

「うむ、見事だぞ玲香!」

 

 1番手前のマチルダⅡに砲弾は直撃してくれた。うん、今日の私は調子が良いみたいだ。

 まっ、ちょっと隊列が乱れたくらいの効果しか無いんだけどね。この距離だと。

 

 だけど、当てた意味はある。こっちの射撃の精度が高いと知ると軽々にグロリアーナは私たちに近づかないだろう。そうなると囮作戦の成功率はグッと上がる。

 

 さらに大洗の力をこれで過大評価してくれれば尚良い。全ての車両に気を割くようになれば、スキも突きやすくなる。

 

「小山先輩、練習通りで大丈夫です。ジグザグに走行して、団体さんをキルゾーンまでご案内してください!」

 

「うん、自信ないけど、やってみる」

 

 小山先輩が操縦を開始する。さてさて、追いかけっこの始まりだ。

 前回もそうだけど逃げてばっかりだな。

 

 苛烈な砲撃が私たちを襲う。まぁ、そうそう当たらないけど、Ⅳ号とかと違って耐久力は低いから戦々恐々である。

 

 しかし、小山先輩の走りは安定していて、キチンとグロリアーナの戦車たちを【あの場所】に誘き寄せている。小山先輩って気弱そうな顔をしてるけど、度胸はあるんだよなー。

 

「どう? 玲香、ちゃんと計画通りに行けてるかな?」

 

「ええ、大丈夫です。会長、みほに連絡を。あと2分であちらに着きます」

 

「オッケー。あっ、もしもーし、西住ちゃん元気ー。うん、あと1分30秒くらいでさー、お客さん着くから、おもてなし宜しくー」

 

 会長はいつも通りの口調で西住さんに連絡した。こういうとこ、尊敬するなー。

 

 そして、私たちは無事にキルゾーンへの誘導を果たした。よし、ここまでは作戦通りだ。

 

 小高い丘で待っているのはⅣ号ただ一機のみ。

 そう、待ち伏せするのは私たち2両だけだ。

 

 つまり、Ⅳ号と38tでまずは聖グロリアーナ女学院の5両と一戦交える! まったく、西住さんは大胆なことを考える。

 真正面でまともに聖グロリアーナ女学院の練度についていけるのがAチームとEチームだけなら、初めから2両で迎え撃とうだなんて――。

 

 確かにグロリアーナの人たちは5両で待ち伏せしてると思っているから2両しか見えないとなると、少なからず注意力が散漫になって、スキが生まれやすくなるはずだもんな。

 

 だけど、考え付いて実際にやらないだろう。2対5なんて状況をわざわざ作るなんて。本当に敵にも味方にもエグい作戦だよこれは……。

 あー、怖すぎる。本当に……。

 

 名付けて《こそこそしてるフリ作戦》! 

 

 圧倒的な戦力差に私と西住さんのコンビが対決を挑んだ――。




実際にこの作戦は悪手なのかもしれませんが、みほと玲香の共闘を全面に出したかったのでこんな展開にしました。
次回もよろしくお願いします。

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