大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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原作の4話の終わりまで。
感想にモチベーションを支えて貰ってます。いつもありがとうございます!
今回、みほの心理描写を書いていると、シンフォギアの「歪鏡・シェンショウジン」が頭の中で流れてました。あれって最高の百合ソングだと思うんです。


練習試合の結末、そして……

《ダージリンサイド》

 

 わたくしは大きな勘違いをしていたようですわ。大洗女子学園は《仙道玲香》以外は取るに足らないと……。

 もっと疑問を持つべきでした。なぜ彼女が隊長ではなく()()()という地位に甘んじているのかを……。

 想定するべきでした。彼女()()の実力者の存在を……。

 

 そもそも、わたくしが彼女の獲得を焦ったのにはある予感がしたからですの。この二人を同じ高校に入れてはならないという……。

 

 あの決勝戦を勝利した方の隊長である西住みほ。彼女は当然、黒森峰の高等部に進学する。

 そして、その黒森峰を相手に大立ち回りをした仙道玲香を来年隊長になる、まほさんが放って置くはずがない。

 西住みほと仙道玲香が3年間、一緒に黒森峰に居るなんて想像すると、黒森峰は10連覇どころか12連覇する姿が容易に想像が出来て目眩がしたものです。

 

 とにかく、あの二人の戦車道は敵同士の状態ですら、どこか噛み合うように見えていて、危険に思いましたの。

 

 小さなスキを見逃さずに簡単にマチルダを撃破するⅣ号と西住まほを彷彿とさせるように、半身をキューポラから乗り出して戦う栗毛の少女……。わたくしの記憶が正しければ彼女はおそらく――。

 

 とにかく、あのⅣ号も危険ですわ。確実にここで仕留めませんと……。

 

「一か八かの突撃に見せているのは、フェイク。おそらく側面に回り込もうとするはず。――アッサム、そこを狙えるかしら?」

 

「任せてください。ダージリン――」

 

 ある程度の動きは予測出来ましたが、あの動きは予想以上でしたわ。

 Ⅳ号が砲撃を開始する前に決めようと思っていましたのに、砲撃はほぼ同時……。チャーチルの装甲をこれほどありがたいと思ったことは無かったかもしれませんの。

 

「ふぅ、これで厄介なⅣ号は――」

 

 と、安心したわたくしは自分の無能さを呪いましたわ。

 あるはずの無い衝撃音に驚いたとき、我がチャーチルから白旗が上がっていました……。

 

 まさか――仙道玲香がこれほど早くマチルダを、ルクリリのマチルダを38tで撃破したと言いますの?

 

 ――敗北!?

 

 この2文字が頭に過ったとき、アナウンスがわたくしの鼓膜まで届きましたわ。

 

 

『残存車両確認、残存車両、大洗女子学園0、聖グロリアーナ女学院1、よって聖グロリアーナ女学院の勝利!』

 

 勝利したのは我が校。しかし、これほどまで敗北感を覚えた勝利は初めてですの。

 新参校に隊長車両が撃破されるなんて、OG会が聞いたら何を言われるかわかったものじゃありませんわ。

 

 でも、全国大会前に戦えて良かったです。あの子たちはもっと強くなる。

 うふふ、強力なライバルが誕生しましたのに、なんでしょう、わたくしは彼女たちのファンになってしまいましたわ。

 

 それにしても、あの時の仙道玲香さんの告白――本気で受け取ってよろしいのでしょうか? あの時、きっとわたくしは、はしたない顔をしていたのでしょうね。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《みほサイド》

 

 まともに攻めてもチャーチルの装甲を抜けるまで接近できない。だったら、側面に回り込むしかない――。冷泉さんなら、それができるはず。

 

 期待どおり冷泉さんはフェイントを入れながら、きれいに回り込んでくれました。

 

「撃てー」

 

 号令と共に五十鈴さんが見事な砲撃を披露します。しかし、こちらも被弾してしまい撃破されてしまいました。

 せめてチャーチルを撃破出来ていれば、玲香さんが何とかしてくれるはず。お願い!

 

 

 私の祈りは虚しく、Ⅳ号の砲弾はチャーチルの撃破判定を出すまでには至りませんでした。

 ごめんなさい、玲香さん。私、負けちゃったよ……。

 

「にっ西住殿、玲香殿がチャーチルを!」

 

 秋山さんの言葉と共に破裂音が私の耳まで届きました。なんと、38tは見事にⅣ号が砲撃した場所を正確に撃ち抜き、チャーチルを撃破したのです。

 

 私は玲香さんに憧れていました。そして、その理由が今、わかりました。

 

 玲香さんはお姉ちゃんに似ている――。

 

 

《諦めないこと、そして、どんな状況でも逃げ出さないことですね――》

 

 お姉ちゃんがインタビューで答えたことを笑って実践している玲香さん。

 

 あのとき、玲香さんは「逃げてもいい」って言ってくれてたけど……、ずるいよ、玲香さんは逃げたりしてないのに……、優しすぎるよ――。

 

『残存車両確認、残存車両、大洗女子学園0、聖グロリアーナ女学院1、よって聖グロリアーナ女学院の勝利!』

 

 決めた! 私はもう逃げないよ。戦うよ。玲香さんの隣に立って今度は勝てるように――。

 だから、私の側に居て――玲香さん……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「本当にごめんねー、玲香ー」

 

 涙目で謝る小山先輩。いやいや、先輩は全然悪くないですよ。本当に私が悪いから。

 

 今回の戦いで誰が1番消耗したのかと言うと、ダントツで小山先輩だ。

 最初の囮作戦から、ここまで初心者離れしたドライブテクニックで私の期待に応えてくれた。

 

 でも、私は失念していた。先輩とて普通の人間。度重なる戦いは知らず知らずのうちに小山先輩の体力と精神力を大幅に削っていただろう。

 

 そして、最後の射撃のタイミングで先輩の色んなところに限界が来た。

 そう、先輩は走行中に失神したのだ。そして、全速力でチャーチルに肉薄した38tはそのまま激突。我々も結局チャーチルと運命を共にしてしまったのである。

 

 はぁ、勝ちに焦ってしまって仲間の異変に気が付かないなんて……。最悪だ……。

 西住さんに合わせる顔が無いよ……。

 

「ねぇ、玲香。まさか私に対して責任を感じてない?」

 

「こっ小山先輩?」

 

「体調が悪いって言わなかったのは私のせい。ふふっ、私はね、玲香が戦車道を出来るようになって凄く嬉しかったんだよ? だから、先輩として好きで玲香のために無理したの。後輩のために無理するのは先輩の特権なんだから、これからも無理させてね!」

 

 小山先輩はにっこりと私に笑いかけてくれた。

 

「先輩――ありがとうございます。私、大洗に、生徒会に入って、本当に良かった……」

 

「馬鹿玲香が、今ごろ素直になりおって」

 

「あれぇ、なんで河嶋が泣いてんのー」

 

「かっ会長、別に私は泣いてなどおりません」

 

 会長に茶化されて顔を隠す河嶋先輩。

 ありがとう、先輩方。

 

 なんで戦車道で優勝したいのかまだハッキリと分かりませんが、必ず私と西住さんとで優勝をもぎ取ってみせます。

 

 それくらい恩返ししなくちゃ――先輩方に悪いですからね……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あなたが隊長さんですわね? あなた、お名前は?」

 

 試合が終わり、整列をして挨拶をしたあと、ダージリンさんが後ろにチャーチルの乗員を引き連れて西住さんに話しかけていた。

 

「えっ、あっ、はい。西住みほです」

 

「やはり西住流の――ふふ、随分とまほさんと違うのね」

 

 不敵な笑みを浮かべたダージリンさんは楽しそうだった。

 

 

「どうも、ダージリンさん。いやぁ、こちらに台数も合わせてもらって、その上、ホームだったにも関わらず完敗でした。おかげさまで、今日はいい勉強が出来ました」

 

「あら、わたくしたちの車両を撃破しておきながら完敗とは――過剰な謙遜も嫌味に聞こえますわよ」

 

「謙遜したつもりはなかったのですが――。実際に結果以上の差を実感しましたし……」

 

「練習試合で貴女たちと戦えたことは聖グロリアーナ女学院としても収穫でした。また、成長した大洗女子学園と戦いたいものですわね」

 

 そう言い残してダージリンさんは帰ろうと背を向けた。あれ、これはダージリンさんが大洗女子学園を好敵手として認めてくれたってことかな?

 

「いやー、惜しかったけど、負けちゃったねー。どんまーい」

 

「玲香、西住、約束通り踊ってもらおうか、あんこう踊り」

 

「「えぇーっ」」

 

「まぁまぁ、こういうのは連帯責任だから……」

 

「えっ、会長まさか……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 私たちは一生懸命あんこう踊りを踊った。

 

 

 はっきり言って、めっちゃ楽しかった! もう、みんなでダンスとかって体育祭みたいで本当に好きー! ちょっと、興奮しちゃって悪ノリしたけど気にしないようにしよう。

 

 

「なんか、お嫁に行けなくなるとか考えるのが馬鹿らしくなったよ――」

 

「私はあんこう踊りで黄色い歓声を聞くのは初めてです。玲香殿がまさかあんなキレッキレのダンスを踊るとは――」

 

「あんこう踊りってあのようなアクティブなモノでしたっけ?」

 

「眠気が覚めてしまったぞ――」

 

「玲香さん、やっぱりカッコいいなー」

 

 なんか、全力であんこう踊りを踊って、ついでにバク宙を決めたら予想外に盛り上がった。

 

 河嶋先輩に「お前には罰ゲームになってない! 不平等だっ!」って責められた。頑張ったら怒られるなんて……、解せぬ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 あんこう踊りの後はみんな夜の出港まで自由時間だ。

 えっ? 私? 練習試合の後処理とか色々と雑務がありますけど何か? やはり、生徒会はブラック企業だ。有給くれ、有給。

 

 Aチームのみんなは仲良くお出かけいってらっしゃい。羨ましいぞ、コノヤロー。

 

 そんなこんなで雑務をこなしていたら、生徒会に勝るとも劣らない働き者に声をかけられた。

 

「仙道さん。ちょっといいかしら――」

 

 声の主は風紀委員の伝統のオカッパヘアーの似合う先輩。園みどり子先輩だ。

 これは、怒ってるときの先輩だな。

 

「あっはい。園先輩じゃないですか。お疲れ様です! 私は今ちょっと忙しいので――」

 

「ちょっといいかしら?」

 

「はいぃ! 大丈夫です!」

 

 迫力に負けて私は姿勢を正した。

 

「この前、生徒会から届いた戦車道履修者の特権の項目に目を通させてもらったわ。遅刻200日免除、この件、私がどんな気持ちで了承したかわかってる?」

 

「さっ、さぁ……。たははっ」

 

「さぁ? まぁいいわ、あれは角谷会長の名前で出ていたから。断腸の思いで飲み込んだのよ。そしたら、更に特別項目を追加ぁ? しかも、あの冷泉さんの遅刻は400日見逃せって、貴女の名前で書類は提出されていたわよ! 何考えているの! そもそも、ルールというのは――」

 

 このあとめっちゃ園先輩に説教された。

 

 そして、学校全体を強制参加させる風紀委員主催のルールを守る大事さを語ってもらう講習会を開催することを約束してこの件は折れてもらった。

 

 

 夜も遅くなり出港時間が近づいてきた。『おばぁ』とやらに会いに行ったという冷泉さんはすでに戻っているが、Aチームの他のメンツが戻っていない。

 心配して園先輩の傍らで冷泉さんと待たせてもらうと、涙目の角刈りの男が人力車で4人を乗せて爆走していた。

 

 園先輩の小言が終わったタイミングで理由を聞いてみたら五十鈴さんが戦車道のせいでお母さんから勘当を言い渡されたらしい。

 

「えっ? 五十鈴さん、それって大丈夫なの?」

 

「はい、これが私の新たな門出ですから――」

 

 凛とした表情で返事をする五十鈴さん。メンタル強っいなー。こういう所が砲手の適性だな。Aチームはまだ強くなる。

 

 

「西住隊長、玲香副隊長! 戦車を放り出して逃げ出したりしてすみませんでした!」

 

「「すみませんでしたー」」

 

 なんと、Dチームの1年生たちが頭を揃って下げていたのである。

 

「先輩たちカッコ良かったです」

「すぐ負けちゃうとおもったのに」

「私達も次は頑張ります」

「絶対に頑張ります!」

 

 甘かった目つきが変わったな。これはこの先、Dチームは化けるかもしれないぞ。それだけで今回の負けは価値がある。

 

「まぁ、あたしたちも次はもっと頑張るからさー。この次もこの調子で頼むよー。んでこれ――西住ちゃんと、仙道ちゃんに……」

 

 小山先輩と河嶋先輩が1つずつバスケットを持ってきた。あれは、まさか……。

 

 バスケットの中身は思ったとおりティーセットだった。

 

《今日はありがとう。貴女のお姉様との戦いより面白かったわ。また公式戦で戦いましょう》

 

 ふむ、西住さんの手紙にはまほさんとの比較が書いてあったか。さて、私のは――。

 

《素敵な告白をありがとう。わたくしでよろしければいつでも待っているわ。愛してるって初めて言われたから》

 

 私は手紙を速攻で閉じた。なんか、これは不味い気がする。

 

「玲香さん、手紙には何て書いてあったのー?」

 

 西住さんが顔を覗いてきた。これは、わからないけど、見せたら色々と終わりそうな気がする。

 

「似たような内容だよ。あははっ、聖グロリアーナは強敵と認めたところにしか紅茶を送らないんだよ。ねー、秋山さん」

 

 私は秋山さんにパスを回した。

 

「はい! しかも、2つ送った高校はおそらく無いと思いますよー。昨日の敵は今日の友ですねー♪」

 

「公式戦は勝たないとねー」

 

「はい、次は何としてでも勝ちたいです! 玲香さんと一緒に!」

 

「公式戦?」

 

「はいー、戦車道の全国大会ですー!」

 

 ふぅ、話題が反れて良かった。しかし、いよいよ全国大会か。

 もう、二度と私は負けないぞ。1回戦までに全盛期の状態まで強くならないとな……。

 

 

 そして、時間はあっという間に進み、全国大会の抽選会にAチームと私たち生徒会は足を踏み入れた。




次回は抽選会からスタート。
いよいよ、カレー好きなお姉ちゃんとハンバーグ好きな銀髪さんが出てきます!
実は書くのが楽しみな2人です。

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