大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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いつも感想や誤字報告ありがとうございます!
今回はほとんどオリジナルエピソード。
踏み込んで良い距離感が難しかったです。


西住みほの強さ

「しかし、ルクレールではカッコつけて『覆せる』とか言っちゃったけど、改めて見るとエグい戦力差だなー」

 

「ええっ? 玲香さん、カッコつけてたのー? 何もしなくてもカッコイイのに……」

 

 放課後、私は西住さんの部屋で2人で作戦会議をしている。いやいや、結構私はダサいから。

 多分、西住さんは転校してきたばかりで私の醜態を見てないからそんなことを言うんだな。

 体育祭や文化祭なんて、あんこう踊りどころじゃ無かったんだぞ。

 泥んこプロレス大会なんて思い出したくない!

 

「カッコつけるのはタダだからねー。それでいい方向に動くならいくらでもつけるさ。大体、副隊長の私が弱気じゃ締まらないじゃないか。人の上に立つときは、たとえどんな不利な状況でもそれは顔に出さないようにしてるんだ」

 

 これは会長にならっている部分が大きい。まぁ、あの人はそもそもピンチにならないように動くタイプだけど。

 

「へーそうなんだ。あっ、でも、なんで私にはそんなことを言ったの?」

 

 西住さんは首を傾げて不思議そうな顔をした。

 

「そりゃあ、みほは隊長だろ? 上には虚勢を張る必要ないからねー」

 

「むぅー。私は玲香さんの上だなんて思ってないのに……。でも、私には無理だなー、虚勢を張るなんてしたことないよー」

 

「みほは、そんなことをする必要ないさ。君は素で強いから。みほは自分らしい戦車道をすれば良いんだ」

 

 そう、西住さんは強い。本人は自覚してないが、同世代の中では圧倒的に強い。だから、そのままでいい。

 西住さんの強さを見せるだけで、人は付いていく。私がそうなったように……。

 

「私らしい戦車道? 前にお姉ちゃんにも言われたけど、よくわからないや」

 

 西住さんはやはり自分の恐ろしさや強さを、そしてその根源をよくわかってないみたいだ。

 

「うーん、私が答えを教えることは不可能だけどね。ちょっと昔の話をしようか――この前も話に出たけど、私と西住さんは隊長同士で一度戦っているんだ。あのときのこと、覚えてる?」

 

 私は一昨年前の全国中学校戦車道大会の決勝の話をした。苦い思い出だけど、そこに私は西住みほという人間に付いていきたいと思った理由があった。

 

「うん、覚えてるよ。玲香さんの見た目が全然違ったから大洗で出会ったときは思い出せなかったけど」

 

「ははっ、腕を怪我して、怪しいリハビリをしていたら身長がアホみたいに伸びたからね。まぁ、それはいいや。私はどうしても優勝したかった。それで、黒森峰の前の試合を偵察して勝つ方法を考えたんだ」

 

 実際、高校ほどではないが中学戦車道も黒森峰は抜きん出てた。私の母校は古豪と言われていたけどベスト4から遠ざかっていたし、黒森峰の絶対的な有利は間違いなかった。

 

「この前会った逸見エリカさん。みほには悪いけど、私には逸見さんの強さがよく目に止まった」

 

「うん。エリ、逸見さんは中学のときから強かった。私なんかよりずっと……」

 

 名前を何で言い直したんだろう? というか、この前も逸見さんのことガン無視してたような……。

 まぁ、個人間の確執だから触れないようにしとこう。

 

「とにかく逸見エリカさえ撃破すれば黒森峰は揺らぐ。そう信じた私はフラッグ戦にも関わらず執拗にフラッグ車でもない逸見さんの車両をマークして、彼女の撃破に尽力した。その過程で他の車両を6両撃破は出来過ぎたけど、何とか彼女を倒すことが出来た」

 

「覚えてる。あのときの玲香さん、すごく強かった。お姉ちゃんと同じくらいかもって思ったもん」

 

 西住さんは、当時の私を過大評価する。ただ、あの日はなぜか神経が異常に研ぎ澄まされて実力以上の力が出ていたのは確かだ。私が戦車道をやっていて最も強かった日はあの日だと言い切れる。

 あの日みたいな力が出せる日が高校生のうちにあるかどうか……。

 

「あはは、西住まほさんと比べられると格段に下だよ。でね、何が言いたいのかというと、実は私は後悔したんだよ。逸見さんを撃破してしまったことを……」

 

「えっ? あんなに活躍してたのに?」

 

「原因はみほ、君だよ……」

 

「わっ私?」

 

「あのとき、みほはどう思った? 逸見さんが撃破されたとき。黒森峰がピンチになったとき……」

 

「えっと、そのう。負けられないって思った。私たちが負けたら逸見さんが責任を感じちゃうって思ったから――」

 

 西住さんの答えは思った通りの答えだった。自分のことよりも、まずは友人を大切に想う。仲間のために際限なく強くなる誰よりも優しい戦車道……。

 

「あの後のみほは凄かった。個人としても強かったけど、指示もまさに軍神って感じで裏を何回かかれたことか……。結果は私たちの惨敗。虎の尾を踏むって言葉を実感したね」

 

「そっそんなことないよー。勝てたのはみんなが頑張ってくれたからだもん」

 

 西住さんは手をブンブン振って否定した。

 

「いや、それもあるかもしれないが、些細なことさ。勝ったのは間違いなく君の力だよ――。そして、そんな君だから敵だった私も君のいる黒森峰で一緒に戦車道がしたいと思ったんだ」

 

「玲香さん……、そんな前から私なんかと……」

 

「『私なんか』なんて言ったら駄目だよ。私はあの時にね、みほに憧れたんだ……。そうだなぁ、恋い焦がれたと言っていい程にね。君と同じ高校で戦車道をするのをどれほど待ちわびたことか……」

 

「えっ? 今、恋って……? えっと、玲香さんが私に、ひゃうぅぅ……」

 

 あー、やってしまったー! 調子に乗って何を言ってるんだ私は……。つい、比喩表現を間違って使ってしまった! 絶対に西住さん引いてるよ……。

 

「………」

 

 俯いて顔を真っ赤にさせてる西住さん。これ、怒らせたんじゃないかしら……。いや違うって。そんなつもりじゃなかったんだ……。

 ただ、凄く憧れてたから、恋に似てるなって言いたくて……。

 

 気まずい……。めっちゃ気まずい。目の前に私の決めポーズポスターが睨んできている。

 

「なーんて、ね! あはははっ、何バカなこと言ってるんだろうねー? 私は……。ごめん、ごめん。今度、どこかに遊びに行ったとき何か奢るからさ。許してくれ――」

 

「えっ? 本当に!? 玲香さんと2人でお出かけ出来るの?」

 

 ガバッと顔を上げて上目遣いで私を見る。いや、思ったより回復早いな!

 

「う、うん。サンダース戦が終わったらどっかに遊びに行こうよ。みんなも誘う?」

 

「たまには玲香さんと2人だけがいい」

 

「そっそうか。了解だ……。じゃあ、2人でサンダース戦の祝勝会をやろうじゃないか。ははっ……」

 

「わかった。うわぁ、なんだろう……。色々と作戦が思いつくような気がするよー」

 

 このあとの西住さんはあの時の軍神のようなオーラに包まれて、対サンダース戦の作戦を次から次へと考え出してくれた。

 

 

 

「――ふぅ、これで大まかな作戦は決まったね。玲香さん。ごめんね、いろいろと相談に乗ってもらって」

 

「いやいや、やっぱり西住さんが隊長で良かったよ。私じゃ、絶対に行き詰まる。間違いない。じゃあさ、これは私のワガママで実現可能かどうか教えて欲しいんだけど――」

 

 私は西住さんに『あること』が出来るかどうか質問した。

 

「――うーん。Aチームのみんなと相談しなきゃわからないけど……。面白いと、思う。私はやってみたいよ」

 

「そうか、じゃあ、みんなに了承を取って練習後にちょっと戦車を使ってさ――」

 

「うん、そうしよう」

 

 これが出来ればサンダースだけじゃなく、今後に戦うであろう強豪校に対しても武器になるかもしれない。こうして、1回目の隊長、副隊長の作戦会議は終わったのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「はぁ、カメさんチーム……か?」

 

「うん、かわいいでしょ?」

 

 戦車のカラーリングを戻す際、アルファベットのチーム分けじゃあ無骨すぎるという意見が出て、各戦車のチーム名を考えようって話になった。

 

 私の出したチーム名【エクスカリバー】とか【バハムート】とかは却下され【カメさんチーム】になってしまった。解せぬ……。

 

 

 うーん。『【エクスカリバーさんチーム】は【バハムートさんチーム】と合流、【ダークドレアムさんチーム】の援護に向かってください』とか言いたかったのに。

 

 他のチーム名は……。

 みんな仲良しⅣ号チームが【あんこうチーム】。

 

 バレー部89式チームが【アヒルさんチーム】。

 

 歴女の集いⅢ突チームが【カバさんチーム】。

 

 かわいい1年生M3リーチームが【ウサギさんチーム】である。

 

 それぞれのチームの戦車に各チームを象徴したキャラクターのエンブレムが描かれて、みんな自分の戦車に愛着が出てきたようだ。

 

 さらに背中にチームエンブレムが描かれたパンツァージャケットも完成。

 

 ええ、採寸をしたとき色んな意味でダメージを受けたのは内緒だ。西住さん――意外とあるのな……。

 

 さらに、西住さんと最初の作戦会議をした、あの日から、あんこうチームとカメさんチームは合同で居残り練習し、私が提案した『あること』は現実味を帯びて来たのだった。

 

 

 

 

 そして――いよいよ、戦車道全国大会が始まる。1回でも負けたら終わりのトーナメント。

 

【第63回戦車道全国高校生大会1回戦】

 

 大洗女子学園 VS サンダース大学付属高校

 

 試合開始まで――あとわずか……。

 




ついに全国大会が始まってしまいました。
全国の強豪校と原作とは違う展開でどう渡り合うのか、楽しんで頂けると嬉しいです。

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