大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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グロリアーナの時よりすっごく大変でした……。
一応、展開は考えていたのですが文章にすると、こうも難しいのかと思い知りました。
よろしくお願いします!


全国大会編
大洗女子学園VSサンダース大学付属高校 その1


「よしっ、みんな準備は良いか! 今日は大事な緒戦だ! 万全を期して戦おう!」

 

「「はーい!」」

 

 大洗女子学園陣営は試合準備に追われていた。

 

「あー、砲弾忘れてたぁ」

「それ、一番大事なやつじゃーん」

「「あはははっ」」

 

 ウサギさんチームの宇津木さんが早々にボケをかまして不安になる私。

 

「ちょっと、玲香。大丈夫なの? こんなゆるふわ系引き連れて、負けた言い訳にするつもり?」

 

 サンダースのアリサさんとナオミさんが私たちの陣営まで足を踏み入れていた。

 

「うわぁ、ナオミさんじゃないですか! 砲手として尊敬しています! 握手してください!」

 

「あっああ。構わないわよ……」

 

 ボーイッシュなイケメンお姉さんのサンダースのナオミさん。砲手としての腕前は超一流で尊敬する選手の一人だ。握手しちゃった嬉しいな。

 

「ちょっと、無視するんじゃないわよ!」

 

「おう、アリサさん。元気ー? てか、何しに来たの? 特技の嫌味?」

 

「誰の特技が嫌味よ! ライバルとして不甲斐ない戦いをしないように忠告しにきたのよ!」

 

「ナオミさん、そうなんですか?」

 

「いや、試合前に交流も兼ねて食事にでもと思っただけよ……」

 

「へぇー、いいねぇ」

 

 ナオミさん曰く、ケイさんが私たちと試合前の交流がしたいからってぜひ食事でもって言っていたから誘いに来てくれたらしい。会長は不敵に笑って頷いて、私たちはサンダース陣営に向かうことになった。

 

「すごっ……」

 

「救護車、シャワー車、ヘアサロン車まで………」

 

「ホントにリッチな学校なんですねー」

 

 私たちはサンダースの贅沢な陣営に驚嘆していた。久しぶりに見たけど、金持ち校はいいなー。生徒会の会計になったらやりたい放題出来そう。

 

「ヘーイ、アンジー、それにホワイトデビルも!」

 

「角谷杏だからアンジー」

「なんか、玲香のあだ名いかついな……」

 

「後生だから、聞かなかったことにしてください……、河嶋先輩」

 

「オッケー、オッケー、おケイだけにねー」

 

「あっはっはっは、ナイスジョーク」

 

「アリサさん。笑ってやってくれよ。ウチの会長に恥をかかせないでくれ……」

 

「無茶ぶりはヤメなさい! 隊長にウケたんだから十分でしょっ!」

 

 うーん。やっぱりアリサさんのツッコミは心地よい。なんか、落ち着くんだよなー。

 

「ハーイ、オッドボール三等軍曹! この前は楽しかったわー! また、いつでも来てね。ウチはいつでもオープンだから!」

 

 秋山さんの肩を組みながら笑顔でリップサービスするケイさん。こういうコミュニケーション能力の高いところは、黒森峰の子たちも見習えばいいのに……。

 

「フレンドリーだな」

「隊長はいい人そうだね」

 

「アリサさん、()()()いい人そうだって、良かったな」

 

「やかましいわね! どうせ、私たちはいい人じゃないわよ!」

「えっ? 私にも飛び火してる?」

 

 こうして試合までの僅かな時間、サンダースのメンバーと交流した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『それでは、サンダース大学付属高校と大洗女子学園の試合を開始します!』

 

「あなたとは3年ぶりの試合ね。悪いけど、今回もウィンするのは私たちだからね」

 

「はははっ、いやぁ、参ったな。勘弁してくださいよ。――ケイさん……、勝ちますよ。私は……」

 

「へぇ……。クスッ、ナァイス! いい眼をするじゃない。お互い、エンジョイしましょ!」

 

 試合前の挨拶をすると、ケイさんはウィンクをして去っていった。ふぅ、こっちは殺気を撒き散らしてるのに、爽やかなんだよなー。

 でも、一瞬だけケイさんは獰猛な視線を私に向けていたのは見逃さなかったよ……。

 なんだかんだ言ってあの人も強豪校の隊長なんだよなー。

 西住まほさんやダージリンさんもそうだったけど――なんで強豪校の隊長は怖いはずなのに……、こんなにも昂ぶらせてくれるんだろうねぇ。ふふっ……。

 

 さあ、試合開始だ!

 

「調子はどうですか? 緊張はしてますかねー? 特に河嶋先輩……」

 

「おい、こら! どういう意味だ? 玲香!」

 

「いや、先輩って肝心なところでガチガチになるんで――」

 

「仙道ちゃーん。今回はフラッグ戦だよねー。ウチらフラッグ車だけど、本当にあの作戦で良いのー」

 

 河嶋先輩の緊張を解したタイミングで会長が作戦を確認する。

 

「ええ、先ほどみほが説明したとおり、相手は戦車のスペックも台数もこちらよりも上です。じゃあどうするか? 1.上手く相手の攻撃を避けつつ、火力のあるⅢ突やⅣ号の前におびき寄せて敵の総数を地道に削る。2.フラッグ車は護衛無しで隠れているので、なるべく早く見つける。出来れば敵に悟られず。――とまぁ、この2つを前半は実行したいわけですね」

 

 私は大まかな作戦を確認すべく声に出した。

 

「そのおびき寄せ役だが、フラッグ車が撃破されたら終わりなんだぞ! なぜ、我々なんだ?」

 

 河嶋先輩は何度も説明したことを再び聞いてきた。仕方ない、もう一度話しておくか。

 

「だからですよ、河嶋先輩。全然懐かない野良犬でも、美味しそうなお肉をチラつかせてやれば尻尾振ってやってくるんですから」

 

「にしし、あたしらは、さしずめ高級肉ってことだねー」

 

「まぁ、そうですね。毒入りですから、食べたらお腹壊しちゃいますけど――」

 

 そう言いながら私と会長は凶悪な笑みをこぼしながら笑いあった。

 

「もう、会長は玲香とこういうときは気が合いますよねー」

 

「いやー、後輩が素敵な性格になってくれたから、あたしは幸せだよー」

 

 しまった――また、会長の悪癖が伝染って――。もしかして私って手遅れ?

 

「お前、この期に及んで良い子ちゃんになりたいのか……」

「玲香、ピュアだったあなたはとっくに居なくなったんだよ……」

 

 河嶋先輩と小山先輩に憐れみの目で見られてしまった。嫌だー。

 可愛げのある女子高生になりたーい。西住さんみたいな、愛されキャラクターになりたーい。

 

「じゃっ、河嶋先輩! しばらく私は車長をやるんで、装填と砲撃お願いしますねー。ああ、当てる作業はありませんのでご安心ください。ただ、間違ってもフレンドリーファイアだけはしないでくださいよ」

 

「何っ! 私に仕事を押しつけるとはいい度胸だな! そもそも車長は会長が――」

 

「おりょっ、楽できるなんて、助かるねー」

 

 会長は車長席を譲ってくれた。とりあえず、前半は囮に集中するために車長に専念しよう。

 細かい指示や敵の位置の察知は砲手席からじゃ無理だからね。

 

「西住流――なんちって……」 

 

 私は西住さんに倣ってキューポラから半身を乗り出して五感を研ぎ澄ます。ふぅ、この感じ久しぶりだなぁ。

 

 右後方300メートル地点にあんこうチームとウサギさんチーム――。左後方450メートル地点にカバさんチーム――。

 

 我らカメさんチームは先陣を切って前進している。

 

 また、アヒルさんチームは別行動でフラッグ車を探してもらっている。

 けして戦力外扱いしてる訳じゃない。

 相手が3両の小隊で活動しているなら、なるべく、こちらはそれ以上の数で対抗したい。

 

 ならば、戦闘に不向きな89式だけは分かれて静かに別の場所を探索した方が得だと判断したのだ。

 

 ふーむ、前方に森か――。

 

「小山先輩、あの森の中に入ったらなるべくエンジン音を響かせないようにゆっくり進んでください。会長、これから森に入ることをみほに連絡してください」

 

 今回のステージは随所に森がある。私と西住さんはサンダースのフラッグ車は森に隠れていると予測を立てている。これは、もちろんアヒルさんチームにも伝えていて、戦闘はなるべく起こさずに、静かに森を探索するように指示を出した。

 

 つまり、相手がそういう考えならこちらも同じ考えで森にフラッグ車を隠すと想定して小隊が分散し森を探索してるのではと読んでいるのだ。

 

 西住さんはサンダースのスタート地点に一番近い森を最初の囮作戦の実行位置に選んだ。

 

「じゃあ森に入るよ……」

 

 小山先輩が恐る恐るという口調で戦車のスピードを落とした。

 

 

 

「この辺で良いですよ。一旦、停車してください――」

 

 私は森の中央付近で停車の指示を出した。

 

「こちらカメさんチーム。予定の地点に到達――。西住ちゃーん、どうするー、何分くらい待っちゃう?」

 

『とりあえず10分を目安に待機してください。恐らくかなりの確率で小隊が現れるはずです――』

 

 西住さんは自信がありそうにそう言った。まぁ、敵がここを調べない理由が――ん? 履帯の音が複数……? ビンゴだな。さすが西住さん。

 

「河嶋先輩、右手側に20度ほど砲頭を回転させて合図と共に撃ってください。ああ、当てなくていいんで気楽にやって下さい」

 

「うるさいな! そんなことを言うんだったら本当に適当に撃ってやる!」

 

「構いませんよー、別にー」

 

 私は河嶋先輩で少し遊んで緊張を解す。

 

「小山先輩、私が合図したら最初は待ち伏せ地点ではなく、300メートルほど離れたこの位置を目指して下さい」

 

「えっ? それじゃあ合流出来ないんじゃあ……」

 

「大丈夫です。シャーマンからの砲撃が必ずありますから、逃げると見せかけて徐々に合流ポイントへ進路変更の指示を出します。あくまでも、追い詰められて、あの地点にたどり着いたと演出するのです」

 

 まったく、西住さんの注文はこちらが名優にならなきゃいけないから神経を使うよ。私も必死で逃げる演技をしなきゃな。

 

 おっと、お客さんが到着したようだ――。

 

「小山先輩、エンジンかけてください! 河嶋先輩――今です! 撃てー!」

 

 

 

「――なっ、はっ! 小山先輩! スタートしてください!」

 

 なんという奇跡! ミラクル! 河嶋先輩が適当に放った一撃はシャーマンの履帯に直撃し、一台の動きを止めるに至った。

 

「よし! 今日はいける! 宝くじに当たるくらいのミラクルが起こった!」

 

「聞こえてるぞ、馬鹿者!」

 

 河嶋先輩の怒声を聞き流して、私はシャーマン2両と鬼ごっこを開始した。

 

「奇跡ではないことを見せてやる!」

 

「あー、まぁ弾薬は無駄にしたくないですが、一応、必死さを演出したいのでお願いしまーす!」

 

 予想は裏切られなかった。このあとは1度もかすりもしない河嶋先輩の砲撃。やっぱり奇跡か……。

 私は弾丸の雨を感覚を研ぎ澄まして安全地帯を割り出して、小山先輩に指示を出す。

 もちろん待ち伏せポイントへの誘導も忘れない。

 

 フラッグ車が囮というのは効果が絶大で、シャーマンは弾薬を惜しみなく使い、必死で追いかけてくる。

 

 よし、あと少し、あと少しなんだ。大した距離じゃないのに――時間がゆっくり過ぎるように感じる。

 

 森の外に出た! 頼んだぞ、西住さん――て、早っ!

 

 待ち伏せしていたⅣ号は既に準備万端でシャーマンを確実に側面から撃破する。

 

 もう一台のシャーマンは逃げようとしたが、その逃げ道を先読みし待ち構えたⅢ突が砲撃を当て、こちらも撃破!

 

 サンダースとの最初の遭遇は、こちらは被弾なしで、相手側は撃破2両、履帯破壊1両という戦果で幕を下ろした――。

 

 このとき、私は勝てると思ってしまっていた。

 しかし、その考えは水飴よりも甘かったのだった――。

 

 アリサの策謀、ケイさんの指揮、そしてナオミさんの砲撃――サンダースはただの物量があるだけの高校では決してなかったのだ……。

 

 




原作とは異なり序盤戦は大洗優勢か!?という感じにしてみました。
いかがでしたでしょうか? つい、アリサをいじってしまう……。
次回もよろしくお願いします!

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