よろしくお願いします!
『やったな、我らの初撃破だ! はーはっはっは』
『スゴーイ! いきなりやっつけちゃうなんて。西住流半端なーい』
開始早々に戦果を上げることが出来て盛り上がるカバさんチームと、優勢なことを喜ぶウサギさんチーム。
いやぁ、こんなに見事に西住さんの計画通りに行くとは思わなかったよ……。サンダースのシャーマンを2両もこうもあっさり――ん? なんか、あっさり過ぎる気がする……。
『全員、急いで森の中へ! 緊急回避!』
西住さんの声が通信機から響き渡る――と、同時に砲撃音が複数響き渡った。
まさか、嘘だろ――なんでこんな大胆なことを……。
サンダースは
それも、3両を陽動に使って、待ち伏せを見抜いたかのように、回り道をして6両の2個小隊はこちらが撃破に気が緩んでいるときを狙って、進軍を開始してきたのだ。
バカな何で分かった? ケイさんの作戦か?
――いや、これはアリサの奴だ。あいつの研ぎ澄まされた『女の勘』ってヤツだ。
アリサが絶好調なとき、これが恐ろしいほど当たるみたいなんだよ。まるで、こちらの陣営の盗聴でもしているように……。
とにかく、森の中へ逃げてやり過ごさないと……。ナオミさんのファイアフライはマジでヤバイから……。
アヒルさんチームもさすがにこんなに早くフラッグ車を見つけられないだろうし……。
4両は森の中に入り、カメさんチームを守るような隊列で逃亡を開始する。
「会長、車長をお願いします! 私は砲手に戻ります! 森を抜けても、逃げ切れなかった場合、シャーマン軍団と1戦交える可能性がありますから!」
「あいよっ、と」
「早く来い! 手遅れになっちゃうだろうが!」
会長は短く返事をして、河嶋先輩はすでに涙目で私に砲手席を譲る。
それにしても、カバさんチームもウサギさんチームもきっちり付いてくるな。この短期間でこれだけ成長するなんて、グロリアーナからの敗戦は勝ち以上の意味があったのかもしれない。
――だからこそ、勝ちたい!
ピンチっていうのはチャンスなんだ。乗り越えた先に希望があるのだから……。
『すっすみません。鼻が長いのに、やられちゃいましたー。――良いところを見せられなくて先輩方に申し訳が立ちません』
無念そうな声を出す澤さん。いや、君がカメさんチームの盾になるように動く指示を出していたのは分かっているから――。しかも相手はナオミさんだ……、仕方ない。
生かすべきは何なのか、功績を上げるより優先することは何なのかが、こんなに早い段階でわかって指示を出せる君はきっと私よりもいい選手になれる――。
だけど、気持ちは痛いほど分かるから――私は何としても君たちが挽回する機会を勝ち取るよ!
『玲香さん! このまま逃げ切るのは難しそうです。リスクはありますが、1戦交えます。逃走する上でもっとも厄介なファイアフライを、この地形を利用して撃破しましょう――』
西住さんが覚悟を決めたというような声を出した。うん、私もそう思ってたところだよ。
なんせ、ナオミさんのファイアフライは全国で屈指の驚異だ。高校生のレベルを超えた命中精度と、それに応える凶悪な火力。今だって、森の木々が邪魔してるはずなのに確実に行進間射撃で撃破している。
当てるだけでも大変なのに、一撃で撃破するところに彼女の恐ろしさが見える。こんなの平地で戦ったら1両に全滅させられるまであり得る。
『我らの歴史に幕が下りる――』
カバさんチームも巧みな操縦でシャーマンの砲撃を躱していたが、再び放たれたファイアフライの一撃に沈む。すまない、私の動きが遅かったが為に……。
こちらは残り3両……。アヒルさんチームと別行動は失敗だったか?
「さっさと、下準備させてもらおう……。ファイアフライの次の装填までに……」
私は砲塔を回転させて狙いを定める。上手く出来れば良いんだけど……。集中して――発射っ!
放った砲弾は上手く木の根本に当てることが出来て、シャーマンの進路を塞ぐように木が倒れる。
さらに、もう一発だ!
ニ撃目も上手く木を倒すことが出来た。これで森を抜けたとき6両全てに囲まれる事態は避けられそうか。
「玲香、森を抜けちゃうよ。アレを、やるつもりなんでしょう?」
「ええ、仕掛けるタイミングは、ファイアフライがおそらく邪魔な木を砲撃で破壊して進路を作るはずなので、その瞬間です。Uターンして一気に行きます! 会長、Ⅳ号の大体の位置を教えてください。後は私が脳内で補完するんで。河嶋先輩、腕が千切れるくらい本気で装填お願いします!」
「わかった、指示お願いね」
「まっかせといてー」
「なんか、私への指示だけ雑じゃないか?」
格別に大きな破裂音が聞こえる――今だっ!
先日、テレビで大学選抜の試合をボーッと見ていた。その中で、私は『バミューダ・アタック』と呼ばれている、3両の戦車の連携に目を奪われたのだ。
まるで、3両が一台の戦車の如くスームズに移動する美しい連携。おそらく、ノーサインでお互いの動きを全て把握しなくてはならない神業――。この技を成し遂げた大学選抜の3人の中隊長はバミューダ三姉妹と呼ばれているそうだ。
この人たちとも一度手合わせしたいと思った。いつか戦えないかなー。
それをキッカケに私は3両は無理として、2両でこれを真似ることは出来ないものか考えたのである。
私と西住さんの戦車道はなぜか噛み合う。私は彼女の動きが、西住さんは私の動きがなんとなく読めるのだ――お互いを見なくても……。
会長に大まかな場所さえ教えて貰えば、小山先輩に指示が出せる。どこに、どのタイミングで砲撃すれば良いのか分かる――。
――信じてるよ、西住さん。行くぞ、ナオミさん。これが、大洗の【
2両の戦車が並走しながら、ウネウネと曲線を描きファイアフライへ接近する。他のシャーマンは一瞬怯んだが、こちらに向かって砲撃をする。
しかし、2両が並走し曲線を描くことにより、並の砲手では狙いを定めるのに迷いが生じ、砲弾がこちらに着弾することはなかった。
そして、同時にコンマ1秒のズレもなく、2両の戦車はカーブを描きファイアフライの両側面へと回り込む。
「くらえっ!」
『撃てー!』
私の叫びと西住さんの砲撃の指示が重なり合って繰り出される2発の凶弾。
双頭の蛇の牙はサンダースの誇る最強火力の車両の急所を確実に食い千切ったのだった――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《ケイサイド》
グレイトな逸材と最初に会ったのは私の中学時代の最後の全国大会の時だったわ。
どんなに劣勢になっても諦めずに、こちらの急所を確実に狙って砲撃を続ける砲手がどーしても気になっちゃったのよねー。
中学2年のとき、すでに仙道玲香は劣勢でもネバーギブアップの精神を持つスーパーガールだったわ。
そして、才能が開花した3年時の彼女はアメージングとしか言えなかったわ。ウチの後輩のじゃじゃ馬ガールたちがなす術も無く負けちゃったのは悲しかったけど、それ以上にホワイトデビルの戦車道を間近で見てみたくなったのよ。まぁ、アリサはリベンジしたかったみたいだけどね。
今日のリベンジに燃えているアリサは冴えてたわ。陽動に使った小隊がほとんど全滅してしまったのはサプライズだったけど、彼女の読みどおり、この森に全戦力を投入して正解だった。
おかげで開始早々、大洗の主力を追い詰めることが出来たから、チャンス到来って感じ。
アリサに何でそんなことまで分かっちゃうのって聞いたら、『女の勘』だって――本当にクールなんだから、笑っちゃったわよ。
大事な後輩がこんなに成長して嬉しいわ! あとで目一杯、抱きしめて褒めてあげなきゃ!
M3リーがフラッグ車を見事に守ったときは、初心者たちをここまで育てた玲香を称賛したかったけど、ナオミの砲撃はいつもどおり冴えてる。悪いけどこちらの勝利は時間の問題よ――。
「ワァオ、玲香はサプライズが上手になったわね――」
彼女の38tは砲撃で木々を倒し、私たちの進行を阻もうとしていた。劣勢を機転で切り抜けようとしているのね。
――でも、そのくらいじゃあエスケープ出来ないわよ!
「ナオミ、道を切り開きなさい」
『イエス、マム――』
精神を集中させるために噛んでいるチューインガムの咀嚼音とともに彼女の沈着な返事が戻ってくる。こういうとき、彼女は本当に頼りになるわ。
轟音とともに木っ端微塵に木の破片が舞い上がり、森の出口が見える。残念だったわね、チーム大洗……、なかなかエキサイティングな試合だったわよ――えっ? 何かしらこの胸騒ぎ……、こちらの優位は揺るがないはずなのに――。
「オウ、ノー。あの子たちは
でも、負けてない。頼んだわよ――アリサ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《みほサイド》
コンビネーション攻撃の練習をしようって言われたときは本当に驚いた。
でも、玲香さんに大学選抜の方々のプレイを動画で見せてもらったとき、こういうことが一緒に出来たら素敵だなって思ったの。
本当は戦車を見つけた日、同じチームになりたかったし、練習のときの玲香さんを見ていると生徒会の先輩たちにちょっと嫉妬していた。
だから、一緒に練習というだけでも楽しかったし、玲香さんの戦車を感じるだけで私はとても幸せだった。
目を瞑っても、通信機なんて使わなくても手に取るように玲香さんの動きが分かる。そして、玲香さんも同じように私の動きを察してくれる。
2人で1つになるってこんなに気持ちのいいことなんだね――。今の私たちならどんな戦車にも負けない!
「撃てー!」
『くらえっ!』
心が重なり合って、コンマ1秒のズレもなく、2両の戦車から砲弾が放たれる。うん、分かっているよ――ここで終わりにしたら勿体無いよね――。
続けてケイさんの乗る隊長車両のシャーマンに肉迫してもう一撃――そして撃破……。
こんなに撃破することが嬉しかったことは無かった。1人より、2人でするってこんなに気持ちが違うんだね――玲香さん。
最後に示し合わせてないけど、あんこうチームとカメさんチームから発煙筒が同時に投げられて、私たちは戦線を離れた。ここまで来たら、勝つよ、絶対に――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《アリササイド》
「はぁ? はぁぁ? はぁぁぁぁぁぁ!?」
『てことで、指揮権はあなたに譲るわ! というか、来年の隊長はアリサ、あなただからファイト! ネバーギブアップ!』
「えっ、ちょっ、隊長!?」
えっと、どうなっているの? 私の作戦がきっちり決まったって報告があったわよね?
こんなに嬉しくない次期隊長の指名なんて考えても見なかったわよ――。
なんで、隊長とナオミの車両が撃破されてるのよー!
これで、我が校の戦車は6両……。
『すみません! 撃破されましたー!』
言ってるそばから残り5両……。
ちょっと待ちなさい。10対5で、こっちは大洗のポンコツ戦車と違って、シャーマンを使っているのよー! 5対3って、なんでこんなに差を詰められてるのー!
5万輌も作られた大ベストセラーよ! 丈夫で壊れにくいし、おまけに居住性も高い。馬鹿でも乗れるくらい操縦が簡単で、馬鹿でも扱えるマニュアル付きよ!
どういうことなのよー! とにかく見つからないようにしなければ……。ん?
「「あっ?」」
あれって大洗の89式? ええーっと、それで今、私は見つかっちゃったわけね――。
「右に転回急げっー!」
「蹂躙してあげなさーい!」
たかが89式! こいつは一瞬で撃破してやる!
くっ、ふらふらと動いて! イライラするわね! しかも、煙幕ってなんて姑息なの!?
なんで、格下相手にこんなに翻弄されるのよっ! だから
ふふっ、もういいわ。どうせ、フラッグ車の位置がバレたのなら、89式を見逃したところで問題ない。逆にこっちが単独で敵とぶつかる方がリスクが高いわ――。
もう、隊長もナオミも居ないのだから――クールにならなくちゃね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぷはぁー、生きた心地がしないっ!」
制限時間付きでナオミさんのファイアフライに突撃って、それって、なんて自殺行為?
しかし、ケイさんの車両もスキが見えたから狙ってみたけど、さすがはみほだな。こちらのしてほしい連携をちゃんとしてくれる。
あとはフラッグ車だけど――。
『アヒルさんチームから連絡がありました。フラッグ車を見つけたそうです。いま、0615地点に誘導をしてもらってます!』
よくやってくれた! アヒルさんチームはやっぱり有能だ! 信じて、単独行動させた甲斐があった!
「よしっ、みほ! 決着をつけるぞ! 私たちの全力をぶつけよう!」
0615地点でアヒルさんチームと合流したが、磯辺さん曰く、フラッグ車は撤退したらしい。89式を相手に逃げを打つとは意外だったな――。
「とりあえず、引き返した時間から推察すると、まだそんなに遠くに行っていないはず、見つけよう!」
フラッグ車を見つけるのに時間はかからなかった――なぜなら向こうもまた、こちらを探していたからだ。
シャーマンが5両、こちらにきれいな隊列で向かってきていた。そうか、アリサ――真正面からぶつかって最後の決着をつけたいってことか。ふふっ、やっぱり君はそういう熱いところも残っていたか。面白い!
「みほっ! 数でこちらは負けている! 一気に短期決戦で決着をつけたい!」
『うん、もう一度やろうよ! 私たちの――』
「「
砲弾が飛び交う戦場に双頭の蛇が牙を剥き出しにして大立ち回りを繰り広げる!
アヒルさんチームは巧みな砲撃で撃破は出来ないまでも、シャーマンの操縦や砲撃の邪魔をする。
「やはり、アリサの車両は上手いな。初見でこの攻撃を対処しようとしている――でも、だとしても、勝つのは――」
「ここだ!」
私はフラッグ車の履帯を正確に射抜き、バランスを崩させる――後は頼んだぞ――あんこうチーム!
『サンダース大学付属高校、フラッグ車、走行不能! よって、大洗女子学園の勝利!』
アナウンスが流れた瞬間、私は大洗に来て、高校で戦車道を再開して、遂に初勝利を手に入れたのだった――。
本当に長くなって申し訳ありません! 読んでいただけて感謝しかありません。
今回はかなり力を入れてサンダース戦の、玲香の初勝利までの道筋を入れたい要素全部詰め込んで書いてみました。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m