1回戦が終わって、今回からちょっとだけオリジナルエピソードが玲香を中心に続きます。
「あなたが隊長?」
「えっ、あっ、はい」
「エキサイティング! とっても素敵な試合だったわ」
「あわわっ……」
試合終了の挨拶をしたあと、ケイさんから熱い抱擁を受けてアワアワする西住さん。
「ウチもベストを尽くしてファイトしたんだけどねー。あなた達の方が強かったわ」
「いえ、ファイアフライの砲撃があと一発当たっていれば、こちらが負けていました」
「――でも、勝ったのはあなたたち! 頑張って勝ち抜いてね! エールを送るわ!」
「はいっ!」
ほう、さすがはケイさん。あの歩く人見知りの西住さんをもう懐柔するとは――抱擁こそ百万の言葉にも勝るって誰かが言ってたけど、そうなのか。
「なーに、微笑ましいって表情してんのよ。ほら――」
アリサさんがそっぽを向きながら手を差し出してきた。
ん? これは――どういうことだ?
私はしばらく無言でアリサさんの手のひらを見ていた。
「握手よ! 握手! バッカじゃないの?」
「へっ? 握手? あははっ、そうか、そうか――意外だな。アリサさんはそういうの嫌いだと思ってた」
「負けちゃったけど――そのっ、楽しかったわ。隊長の最後の全国大会だから、どうしても勝ちたかったけど――最後の最後で、隊長がフェアプレイに拘ってた意味が、やっとわかったのよ……。あんたたちのおかげよ。感謝してあげるわ……」
アリサさんは目を反らしながら、恥ずかしそうにそう言った。
なっ、なんてこった。あの、アリサさんが、3年の時を超えてデレるとは……。
「そっか、でも素直になっていいんだぞ。悔しい気持ちもあるんだろ? ほら、胸くらい貸してやるよ」
私は手を大きく広げてアリサさんにそう声をかける。悔しくないわけないもんな――。
「ぐえっ……。痛っ! 何するんだ?」
アリサさんの拳が私の鳩尾にめり込む――。
「あーはっはっは、馬鹿玲香! 無い胸なんて貸せないでしょう! あんたに弱みを見せるほど落ちぶれちゃいないのよ! 来年、あんたたちの息の根を止めてあげるから待っていなさい!」
「ちっくしょー! ああ、待ってるからな! 返り討ちにするけど――。バーカ、バーカ」
「そっちこそ、間抜けなのよ。なーにが、胸を貸すよ! 臭すぎるったらありゃしないわ!」
「「ふん!」」
こうして、私とアリサさんは顔を背けて別れて行った。まったく、素直じゃない奴め。目から水が垂れてるぞ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
試合が終わって、学園艦が出発する時刻まで自由時間だ。もちろん、生徒会以外はだが……。
私は制服に着替えて、大会の運営委員に挨拶をしに行って来た。
結構遅くなったな。もう夕方じゃないか。
しかし、まいった。携帯電話をロッカーに忘れてしまって連絡がみんなと取れなくなってしまった。何も無ければいいんだけど。
「ちょっと、あなた!」
「はい?」
私は声のした方を振り返った。誰もいない……。おっかしいなー、疲れてるのか?
「ちょっと、ふざけてるの! こっちだって、言ってんでしょうが!」
大きな声がする方向を向いて目線をグイッと下げてみると、小学生くらいの可愛らしい、金髪の女の子が怒りを剥き出しにしていた。
あれ? この子ってもしかして――あの……。
「ええーっと、私に何か用事ですか?」
「迷子になったの――」
あー、気のせいかー。あの人と背格好が似てるけど、まさか迷子になるなんてあり得ない。でも、どう見てもこの制服は――。
「そっかぁ、じゃあさ。迷子センターがあるから、そこから保護者の人を――」
「バカっ! なんでカチューシャが迷子なのよ!? 迷子なのはカチューシャの連れよ」
「かっカチューシャさん? カチューシャさんって、あのプラウダ高校の隊長の?」
うわっ、やっぱりカチューシャさんだったか。姿が月刊戦車道で見たまんまだったもん。迷子になるとは思わなかったけど。
生で見ると凄く可愛い。なんか、イケナイ扉が開きそうになるくらい可愛い。
「あら、カチューシャのこと知ってるなんて、あなた中々見どころがあるじゃない」
カチューシャさんはフフンと胸を張って、上機嫌そうな顔をした。
「もちろん存じてますよ。同じ戦車道を進む高校生として、昨年の優勝校の隊長を知らないはずがありません。私もカチューシャさんの戦術は参考にさせてもらってます」
プラウダの強さは旧ソ連戦車の性能だけではない。この地吹雪の異名をもつカチューシャの変幻自在の戦術こそがプラウダ高校の真骨頂だ。
「へぇ、じゃあ、あなたがさっきの大洗の戦いを……」
そう伝えた瞬間にカチューシャさんの目つきが鋭くなる。さっきは可愛いと思ってたのに――ダージリンさんやケイさんにも勝るとも劣らないプレッシャー……。
「ええ、一部は副隊長の私が考えました。フラッグ車を囮にして敵戦力をおびき寄せる作戦です」
「そう、あなたが大洗の副隊長なのね。――ダージリンが言ったとおり、中々見どころがあるじゃない。仙道玲香だっけ? 喜びなさい。カチューシャ直々が褒めてあげるわよ」
「ほっ本当ですか! いや、嬉しいです! 尊敬するカチューシャさんがまさか私を褒めてくれるなんて、自慢話が出来ましたよ」
「そっそぉ? ますます可愛らしいわね。いいわ、あなた、ちょっとかがみなさい!」
カチューシャさんはとても気の良さそうな顔をして私に命令する。
屈むって、こうすればいいのかな?
って、カチューシャさん? どうして私の肩に!?
「さぁ、立ち上がりなさい! ちょうどいい大きさの貴女に声をかけて良かったわ! それに、ノンナよりも大きな女の子も初めて見たわよ! 貴女をノンナ捜索隊の副隊長に任命してあげるわ!」
なんか、よくわからん内にノンナさん捜索隊の副隊長に任命された私はカチューシャさんを肩車することになった。
うーん、そんなに私は暇じゃないわけだが、この状態でカチューシャさんを置いていく非道な真似は出来ないし、さっさとノンナさんを見つけよう。
私は観念して歩き出した。カチューシャさんは高いところが好きらしく上機嫌で体を揺らしていた。ふぅ、ノンナさんって苦労してそう……。
「ねぇ、貴女……。カチューシャのこと尊敬してるって言ってたわよね?」
しばらくして、高さに慣れたのか、飽きたのか、カチューシャさんは私に質問をした。
「ええ、もちろん。貴女は体格のハンデをものともせずに優勝校の隊長にまでなった方です。その気高さと戦車道に捧げる姿勢は見習いたいと思っていますよ」
「へぇ、随分と殊勝なことを言ってくれるじゃない。じゃあ、車長の居ないフラッグ車に攻撃命令を出す隊長ってどう思う?」
「――っ」
肩の上から、またすごいプレッシャーを感じるぞ。そういえば、さっきダージリンさんに私のことを聞いたとか言ってたな。
そうか、この人は私たちの隊長が誰なのか知っているんだ。
「そりゃあ、どう思うって、当たり前のことをしたって思いますよ。逆に狙わない方がどうかしてますねー」
「あらぁ、ちょっと意地悪な質問をしたつもりなのにそんな風に返すのね。あなたの所の隊長が聞いていてもそう言うのかしら? あなたのお友達が――」
「ああ、みほが居たらですか? 出来れば、今のみほはそのことがキッカケでちょっとナーバスなので控えていて欲しいですねー。でも、私は答えを変えませんよ。ただ、ふたつ付け加えるだけです」
「ふーん、何を付け加えるっていうの?」
「まずは、みほに危ない真似はするな。少しは自分の心配をしろって伝えます。でも、ああ見えてみほって身体能力が異常だからなぁ。大して危なくなかったかもしれません。あとはですね、もし、私がみほと同じ車両に居たら。車長が居なかった程度で撃破なんてされなかったでしょう――って付け加えます。ついでに優勝も貰って帰ったりして――。まぁ、仮定の話ですけどねー」
「へぇ……優勝ねぇ」
だぁーっ、しまったー! 西住まほさんに続いてカチューシャさんに向かって何を言ってるんだ私はー! 肩越しに伝わるプレッシャーがさらに跳ね上がってるー! 戦闘力53万くらいになってるー!
「くすっ、くすくす……。あーはっはっはっは! 良いわねぇ、もう貴女、最っ高じゃない! 意地悪な質問をしたのに、このカチューシャに向かって、そんな啖呵を切るなんて――。しかも、貴女からは微塵も嘘っぽさを感じなかったわ。貴女って馬鹿な子ねー」
突如、大声で笑いだしたカチューシャさん。よかった。怒られるのかと思ったよ。
危なかった。口は災いの元なんだから気を付けなきゃ。
「そんなに笑わなくたって――」
「あっ、ノンナを見つけたわ! ノンナー、ノンナーっ! こっちよー!」
カチューシャさんが手を振る方向に、長い黒髪の美女にしてプラウダ高校の副隊長。ブリザードの異名をもつ、ノンナさんが歩いていた。
うわぁ、近くで見るとなんて美しい人なんだろう。それにキリッとしていてカッコイイ。西住さんもこういう人やナオミさんみたいな人を見てカッコイイって言えば良いのに。
「探しましたよ。カチューシャ……。一体どこへ行って迷子になったのですか?」
やっぱり迷子だったんじゃないか。
「うっ煩いわね! ノンナがカチューシャの手を握り忘れたのがいけないのよ!」
カチューシャさんは文句を言っている。
「あっ、プラウダ高校の副隊長のノンナさんですね。私は――」
「存じてます。大洗女子学園、戦車道チームの副隊長。仙道玲香さんですね」
間髪を入れずに冷静な口調でノンナさんは私の名前を答える。
「あのブリザードのノンナさんに覚えていただけて光栄です。今日はダージリンさんから誘われて来られたのですか?」
私はカチューシャを降ろしてノンナさんに話しかける。
「ええ、なんでもダージリンさんによれば番狂わせが起こる可能性が高いと言われましたので――準決勝でぶつかる最有力のサンダースが負ける可能性があるなら、一度その学校を見ようと思いまして……、カチューシャと……」
ダージリンさん、余計なことを……。プラウダに警戒なんてされたくないよ。
「珍しくダージリンがマトモなことを言ったわね。仙道玲香――だっけ? カチューシャが貴女たちを敵として認めてあげるわ! 準決勝まで上がってきなさい、叩き潰してあげるから」
「ええ、そうですね。カチューシャ。軽々しくカチューシャを肩車するような人間は磔にして砲弾の餌食にしてあげましょう」
こっ怖い……、噂通りめちゃくちゃ怖いんだけど。
「ノンナ、後輩に向かって情けないわよ」
「失礼しました。玲香、カチューシャを連れてきてくれて感謝します。それでは、私たちはこれで……」
ノンナはカチューシャの手を引いて歩き出した。
しかし、すぐにこちらを振り向いてニコッと笑った。
「そうそう、貴女と西住流の連携技を見せてもらったけど。カチューシャとの戦いのときはあんなもん使うんじゃないわよ、弱点だらけじゃない」
カチューシャさんが私の表情を読み取るように、顔を見てくる。揺さぶるなぁ、この人は本当に……。まぁ、隠しても仕方ない。
「あははっ、バレちゃってます!? そうですね、あの連携の弱点は私ですから。十分分かってますよ。そっかー、流石はカチューシャさん。敵わないなー」
そう言って笑顔を作ると、カチューシャさんはニッコリ笑った。
「ほらねー、ノンナ。この子って面白いでしょ、戦うのが楽しみね――それじゃ、また、ピロシキー」
「
そう言って2人は去って行った。
はぁぁぁぁぁぁ、すっごいなぁ、カチューシャさんは――見抜いていたか、
プラウダと戦うことになったら骨が折れそうだ。まったく、もう!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とにかくお腹がすいた私はやっと仕事が終わり、手早く携帯電話を回収して食事を出来るところを探しながら歩いた。
着信履歴を見ると、秋山さんからアホみたいに履歴が入っていて慌ててかけ直した。
どうやら、冷泉さんの『おばぁ』とやらが倒れて、急いで大洗に行かなくてはならなくなったが、船はすぐに出ない。だから、私にヘリコプターを出して欲しかったらしい。
くそっ、私は肝心なときに使えない無駄ヘリコプター免許女だ! 困ってる友達の危機に携帯を忘れてカチューシャさんと雑談していたなんて。
それで、大丈夫なのか確認したところ、なんと西住まほさんが黒森峰のヘリコプターを貸してくれたらしい。逸見エリカさんの操縦で冷泉さんと武部さんは病院に向かったとのことだ――。
うん、私もお見舞いに行こう。せめてもの罪滅ぼしに……。
それにしても、なんだ、やっぱりいい人じゃん。西住まほさんも、逸見エリカさんも。安心したよ。あとは西住さんに勇気があれば仲直り出来そうだな。
しかし、黒森峰には借りが出来てしまったな。なんとか返したい。
ふーむ、とりあえず、腹が減ったのでここで食べよう。
私は食事をすることにした。
「甘口で納豆トッピングでお願い!」
「店主、4辛で頼む。トッピングでソーセージを――」
ん? この声ってまさか――西住まほさん?
カウンター席で黒森峰の隊長と隣り合わせになってしまった。
カチューシャとノンナの関係が好きすぎて、カチューシャのようなキャラクターを魔王にして、副官をノンナのような魔剣士にしたファンタジー小説を書いた黒歴史があります(笑)
また、次回もよろしくお願いします!