大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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オリジナルエピソードのデート編。思ったよりも長くなったので前後編に分けます。
楽しい内容になっていれば良いのですが……。
それでは、よろしくお願いします!


仙道玲香と西住みほ、デートする 前編

 昨日――生徒会室にて……。

 

「仙道ちゃーん、2回戦の相手ってもう知ってるっしょ?」

 

「ええ、アンツィオ高校ですよね? 戦力的には恐らく問題なく勝てる相手です」

 

 私はアンツィオに対しての戦力分析を述べた。

 

「へぇ、そりゃあ頼もしいねぇ。でもさ、ちょっと情報が入ってさー、なんでも新しい戦車を購入したらしいんだー」

 

「なるほど。それを探りたいということですねー。わかりました。秋山さんに――」

 

「いや、今回は仙道ちゃんに頼むわー。潜入の手配はしてるからさー」

 

 ふむ、私が潜入かぁ。別に構わないけど……、妙だな。

 

「ああ、そうそう。潜入任務の都合上、西住ちゃんと2人で行って欲しいんだー」

 

「えーっ? みほと潜入ですか?」

 

「聞いたよー、冷泉ちゃんのお祖母ちゃんのお見舞いに行ったから、まだデートする約束守れてないんだってねー。まぁ、潜入は口実でさ、いつも頑張っている隊長と副隊長に1日くらい休んで欲しいって考えてるんだよー」

 

 会長はニカッと小悪魔的な笑みを浮かべてそう言った。別にデートっていうか、二人で出かける約束をしただけなんだけど。

 ふーん、会長が私と西住さんに休息ねぇ……。

 

「でっ? 会長は本当は何を企んでいるのですか?」

 

 私は知っている。この会長の顔は悪巧みをしているときの顔だ。きっと面倒なことを言うに違いない。

 

「にしし、仙道ちゃーん。察しが良すぎるのも問題だと思うんだけどねー」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ごめん、西住さん。会長の思いつきに付き合わせちゃって……。嫌だったら、一度会長に……」

 

 私は男物の黒ジャケットに黒シャツ黒パンツというお酒のコードネームがありそうな服装をしていた。

 

 さらにシルバーのネックレスとゴールドのブレスレット、おまけにサングラスを身につけ、どこからツッコミを入れれば良いのか分からない格好になっていた。

 

 髪型は秋山さんのお父さんに淳五郎特性ホスト風ヘアスタイルにセットされ、もはや別人と化してしまっていた。

 

「ぽーっ。――はっ、いいよ! 玲香さん、すっごくいいと思う! 私、まだ何をするか知らないけど、なんでもやるよ!」

 

 どう考えてもチャラ男にしか見えない格好を良いと言う西住さんに一抹の不安を抱きながら、今回の任務を話すことにする。

 

「いいかい、今回の任務はアンツィオ高校が新たに購入したという戦車を特定することだ。で、私たちは観光客の戦車道好きなカップルとして潜入する(すでに意味が分からないが)。何とかデートをするカップルという体裁を保ちアンツィオの秘密を探るという内容だ」

 

 絶対に半分以上が会長の悪ノリだ。しかし、西住さんと二人で出かけるって約束も果たしてないし……。

 待てよ、そもそも、西住さんはこんなふざけたことを提案を拒否するので――。

 

「わかった! えへへ! 頑張ってみるよ!」

 

 うっ、西住さん、なんでこんなにやる気に満ち溢れているんだ。

 まるで戦車について語っている秋山さんくらいイキイキしてるぞ。

 

「そして、このサングラスは映像を大洗に送ることが出来て、さらに骨振動を利用して通信も出来るらしい。どうやら、会長からの指示を実行しながら任務をこなすということみたいだ」

 

 ええ……。これが1番心配な点。絶対に私たち会長の悪趣味のオモチャにされるよ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 観光客用に出ている船に乗り込んで、私と西住さんはアンツィオ高校に堂々と正面から入り込んだ。ちなみに西住さんは顔が売れているので、麦わら帽子と伊達メガネを着用している。

 これで誤魔化せるのか不安ではあるが……。

 

 アンツィオ高校はイタリア風の学校で、資金難らしく、観光にも力を入れている。

 

 構内にはにはスペイン階段風階段や、三神変形合体教会、さらにトレヴィーノの泉などイタリアにあるような無いような怪しい建造物が揃っていて、観光客からの人気は高い。まさに『テンション上がるなぁ。テーマパークに来たみたいだぜ』って思える学園艦だ。

 学園長曰く「ローマよりもローマ」なのだとか、うーん、よくわからん。

 

 そんなわけで、観光客が堂々としていても問題ないのだ。

 

『仙道ちゃーん、やっぱりさー。カップルっていうからにはラブラブな感じが必要なわけだよー。西住ちゃんに腕を組むように頼んじゃってよー』

 

 はぁ? 何言ってんだ?

 

『まぁまぁ、もちろん西住ちゃんが嫌だって言ったら、やらなくてもいいからさー。一応、頼んでみてよー』

 

 まぁ、頼むだけなら……。仕方ないな。

 

「みほ、そのう……、腕を組んで歩かないか? 一応、オレたち、恋人同士だろ?」

 

 会長の命令によりアンツィオにいる間は男口調を強制させられている。

 

「えっ、えっと、その……、そうだね。うん……」

 

 あれれぇ? おかしいぞぉ? 殺人現場で何かを発見したコナン君みたいな声が出そうになった。

 

 西住さんは私の腕にしがみつくように、くっついて顔を肩に当てている。まるで、本物のカップルみたいに……。

 

 なんか西住さん、今日は香水つけてるのかな。甘い匂いがするんだけど――。

 あれっ? なんか変だな――どうして私はドキドキしているんだ?   

 これが、西住さんの演技? みほ、恐ろしい子――月影先生もびっくりだ。

 やはり、西住流というのは潜入術も訓練するのだろうか。

 

「ねぇ、玲香さん。これから、どうするの?」

 

「みほ、忘れるなよ。オレの名は仙道レイだろ? レイって呼んでくれ……」

 

「うん、わかったよ。レイくん」

 

「それでいい。そうだな、これから情報収集に向かいたい。ちょっと見晴らしの良いところでも行こうか? あそこなんてどうだ? あれは多分、スペイン階段風階段とかいうやつだろう」

 

 ローマのスペイン階段を丸パクリした建造物を指さして私はそう言った。ローマの休日ごっこが出来るね。

 

「うわぁー、本当の恋人みたーい!」

 

 西住さんは危ない発言をする。まったく、注意しなきゃだめだな。

 

「駄目だよ、みほ。今はオレたちは本当の恋人だろ?」

 

 私は西住さんにコッソリ耳打ちした。潜入任務の間は私たちは本当のカップルとして完全に演技しなくてはならない。

 だから、『みたい』とか言ったらダメなのだ。さっきは上手い演技だと思ったのだが……。

 

「そっ、そうだね。本当の恋人……えへへ」

 

 西住さんの腕の力が強くなる。そう、そうだ。演技に身が入ったみたいなので私は安心した。

 

 

 

「うわぁ! 見晴らしがいいねー」

 

「ああ、だけど――目的の場所は見つかりそうもないな」

 

 1番上まで行ったけど、確かに見晴らしは良いが、怪しい場所は見当たらなかった。

 てことは、ここから見えない場所か。うーむ。

 

「あっ、姐さん! すっごくまぶい、美男美女のカップルっすよ!」

 

「ばっ馬鹿っ! ペパロニ! 指をさすな! 失礼だろうが!」

 

「確かに、芸能人みたい。特に男の方なんて、俳優さんっぽいわねー」

 

 こちらの方に向かってくる3人組――真ん中の女性、ドリルツインテールと黒いリボンには見覚えがある。確か、アンツィオ高校の戦車道の隊長――安斎千代美さんだ。

 

 なんという幸運。しかし、直接接触しても良いものか……。

 

『そりゃあ、接触するしかないっしょ。まぁ、新しい戦車について聞くタイミングは任せるけどー。バレちゃいけない本命だ。イチャイチャするのは忘れないでねー』

 

 まぁ、妥当な指示だな。答えが近づいているのに離れる理由がない。

 

「みほっ、よく聞いてくれ」

 

「ひゃっ、ひゃい。レイくん……」

 

 私はヒソヒソ話をするために西住さんを抱きしめて、耳に口を近づけて話しかける。これなら、向こうからみれば、カップルがイチャついているようにしか見えないだろう。

 西住さんは潜入術を極めていると思われるので、これくらい問題なかろう。

 

「今、アンツィオの戦車道の隊長が近づいている。オレは彼女に接触しようと思っている――。話の流れはオレが作るからみほは合わせてくれ」

 

「う、うん……」

 

 みほは顔を紅潮させて、小さく返事をした。ふむ、この照れる演技……。なんか、かわいいな。

 

 では、接触してみるか……。

 

「やぁ、お嬢さん方! この学校の生徒だね? ちょっとさ、お伺いしたいことがあるんだけどいいかな?」

 

 私はくるりと振り向き、サングラスを外しながら話しかけた。

 

「ナンパっすよ! アンチョビ姐さんっ! よくわかんないっすけど、自分、目が合わせられないんすけどっ!」

 

「彼女さんの前でナンパはしないとおもうけど……」

 

「なっ、なんだ? 私たちに何の用だ!」

 

 3人は警戒心を剥き出しでこちらをみる。

 そりゃあそうだ。黒ずくめの男が女子高生に話しかけるんだ。自分で言ってて悲しいが、怪しい。

 

「ははっ、驚かせちゃってすまないね。いや、オレも彼女も観光でいろいろ見せて貰って楽しんでるんだけどさ。実は二人とも戦車道のファンでね。確かアンツィオ高校は全国大会で1回戦を突破しただろ? そんな強豪校の戦車をぜひ見たいと思って探してるんだー」

 

 できるだけ笑顔を作りながら私は話しかける。今のこの有様を西住さんに見られてるのは凄く恥ずかしい。

 

「ねっ姐さんっ! ウチらいつから強豪に、なったんすか?」 

 

「あっああ、1回戦をギリギリ、じゃなかった、順当にマジノ女学院に勝って突破したんだ。やはり反応が違うのだろう。ここまで――長かった……」

 

「ドゥーチェ、感慨深そうな顔をしてますねー」

 

 ああ、つい強豪なんてお世辞を言ってしまったが、安斎さんはジーンとしているな。

 確かこの人、愛知のスター選手で私と同様に強豪校からの推薦が結構来てたはずだ。

 それを蹴って、戦車道の衰退したアンツィオを建て直すためにわざわざ入学って、とんでもないバイタリティだと思う。

 それだけに先日の勝利は格別だったんだろうなー。

 

「よしっ、君たち気に入った! この、ドゥーチェが特別に我が校の戦車道の練習を見せてやろう! 見学するが良い!」

 

 安斎さんは上機嫌そうに笑って、私たちに練習を見せてくれると言ってくれた。なんか、上手く行き過ぎて、申し訳ないなー。

 




男装玲香再びって感じの本格デートアンドスパイ作戦です。
アンツィオだと、ペパロニは絶対に男装が似合いますよねー。
後編は20時12分に投稿予定ですので、お暇でしたら是非!

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