大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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デート編、めちゃめちゃ長くなってしまいました。
アンチョビはいいキャラクターですよね。人気者なのがよくわかる。
それにしても、あっさりと10万字を超えるとは……。終わるときは何文字になっているのやら……。

それでは、よろしくお願いします。


仙道玲香と西住みほ、デートする 後編

 案内されて歩く間も私と西住さんは会長からの命令により、恋人繋ぎを強制されていた。

 指を絡ませて、西住さんと手を繋ぐ。いいなぁ、西住さんの手は小さくてかわいいもんなー。

 

 西住さんは上機嫌でにこにこしている。まぁ、久しぶりに休憩みたいなリラックスができて楽しいのかな? 私みたいに男装してるわけじゃないしね。

 

「そういえば、君たちの名前を聞いてなかったが……」

 

 安斎さんが思い出したように質問した。うん、ここは打ち合わせたどおりに。

 

「ああ、失礼したね。オレは仙道レイ。一応、役者の卵で20歳だ。よろしくな」

 

「清水みほです。18歳で専門学校に通ってます」

 

 予め会長が作ってくれたプロフィールを告げる私たち。西住さんはともかく、私は成人ってことになるけど、大丈夫なのかなー。

 

「そうか、じゃあこちらも自己紹介しよう! 私がこのアンツィオ高校の偉大なる指導者! ドゥーチェ、アンチョビだっ!」

 

「ウチはペパロニっす。よろしくー」

「私はカルパッチョ。ペパロニと一緒に副長をしています」

 

 ん? アンチョビ、ペパロニ、カルパッチョ? あんまり知らんかったけど、アンツィオもグロリアーナシステムを採用してるのかな?

 

 まぁいいか。それにしてもこの三人がアンツィオのトップ3か。なるほど、キャラが濃いなー。

 

 私たちもコードネーム付けようか。ジンとかラムとかウォッカとか……。

 

「アンチョビさんに、ペパロニさんに、カルパッチョさんですねー。素敵な名前ですね」

 

 西住さんはいつもの天使のスマイルで、名前を褒める。お世辞ではなく、割と本気で言ってるからこちらとしても困惑することがある。

 

「なぁ、なぁ、清水の姐さん! 聞いても良いっすかー」

 

 ペパロニが西住さんに話しかけた。なんか、清水の姐さんって任侠っぽいな。

 

「ん? なーに?」

 

 西住さんは機嫌よく返事をする。

 

「キスって、どんな感じなんすかねー。ウチら全員そういうのに疎くて、気になっちまったんすよー!」

 

「きっキス?」

 

 途端に西住さんの顔がハバネロくんぐらい赤くなって、火が出そうになる。すでに煙くらいは出てそうだ。

 

 まずいな。初心(うぶ)な西住さんにはキツい話題だったか。いや、私だって知らんよ、キスなんか。何とかフォローせねば。

 

『面白いじゃーん。やって見せてやりなよー』

 

 会長、あんたは、そろそろ限度を知れっ!

 ええい、仕方ないな!

 

「みほ、恥ずかしがらなくったって、良いじゃないか。キスくらい、いつもやってるだろ?」

 

「ふぇっ……」

 

「「「うわっ……」」」

 

 

 

 

「ねっ姐さん! すごいっす、やばいっす! なんかわからないっすけど、体がムズムズするっすよ!」

 

「うっうっうるさいな。わっ私だってこんなに近くで見たのは初めてなんだぞっ!」

 

「大人って大胆なんですね……」

 

 3人は口々に私と西住さんのキスの感想を言っている。

 

 

 もちろん、私は西住さんの唇を奪ってはいない! この場を切り抜けるために、角度を上手く見せて、キスをしてるように錯覚させたのだ。これが私の始解、鏡花水月――ではなく、まぁ、よく演劇やドラマで使う手である。

 

 いつから、キスしていると、錯覚していた?

 

「みほっ、落ち着いたか……」

「あわわ……」

 

 ふむ、すぐには落ち着かないか。まぁ、3人もちょっと興奮してるみたいだし、西住さんの動揺には気付かないだろう。

 

「おっと、すまないね。お嬢さんたちには、まだ刺激が強かったかな?」

 

「「…………」」

 

 会長が罰ゲームはあんこう踊りって発言した時くらい場が凍った。まぁいいか。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ここが我々の練習場のコロッセオだ! そして! これがっ! 我が校が毎日のおやつを気が遠くなるほどの時間、削って、削って、やぁっと私の代で買うことが出来た、秘密兵器! P40だっ!」

 

 安斎さん、もといアンチョビさんがドヤ顔した瞬間、ペパロニさんとカルパッチョさんにより、ベールが剥がされ、イタリアの誇る重戦車P40が顔を出す。

 

 なるほど、1回戦には出てなかったようだが、本当に補強されてたんだな。会長の情報網恐るべしってやつだ。

 

 よし、任務完了、帰りまーす。なんてことは出来ないよな。

 だって今、アンツィオの戦車道の履修者が続々と集まってるもん。

 

 それでさ、謎なんだけど――なんで私と西住さんはセモヴェンテM41に乗せられそうになっているんですかね?

 

 

「いやー、カルパッチョに急用が出来ちまってさー。丁度いいからその代わりに、姐さんと兄さんに戦車道の練習を体験させてやれってアンチョビ姐さんが言っちゃっててよー。これから、アンチョビ姐さんのP40チームと模擬戦をするっすっ! 姐さんと兄さんには装填と砲撃頼むっす! マニュアルそのへんにあるから読んどいてー」

 

 おいっ! どこの世界にマニュアルをチラ見しただけで戦車を動かせる奴がいる。ああ、居たなー。天才が一人……。

 

 どっちにしろ、適当にやり過ごすしかないなー。本気でやるのは馬鹿らしい。

 

「うふふ、レイくんと初めて一緒の戦車に乗れるなんて楽しいなー」

 

 西住さんは上機嫌である。そういえば、同じ車両は初めてだな。まぁ、新鮮だけど、私たちはただの観光客って設定だから。

 

「勝てるように、全力で頑張ろうね! 私も頑張るから」

 

 あれぇ? 西住さんってこんなキャラだったっけ? この前、勝つだけが戦車道じゃないって、そんな結論になりませんでしたっけ?

 

『にしし、面白いことになってんじゃーん。後のことは適当に考えて、本気でやってみたらー? 仙道ちゃーん』

 

 えっ? 会長までそう言うの? 本当に知らないぞ! マジでやるからな! 絶対、責任取ってくださいよ!

 

「よし、頑張ろう! じゃあ、ペパロニ。車長は装填手兼任でみほにやらせるが、構わないか?」

 

「そりゃあ、構わないっすけど。なんか、兄さん、雰囲気変わったっすね。めっちゃ、気合い入ってるじゃないっすか!」

  

 ペパロニはニカッと笑って嬉しそうな声を出す。そりゃあ、本気を出すからだよ。大洗の隊長と副隊長が同じ車両でね……。

 

 

「悪いなっ、お客さんたち! でも、戦車道の魅力を伝えるにはやっぱり戦車に乗ってもらうのが一番だ! みんな! そうだろー!?」

 

「「「ドゥーチェ! ドゥーチェ!」」」

 

 コロッセオで響き渡るドゥーチェコール。すげぇ統率力だな。このドゥーチェことアンチョビさんのカリスマ性は要注意だぞ。

 

「じゃあ、観光客相手には申し訳ないが、P40を使った初めての実戦練習だ! 本気で行くぞ!」

 

 いや、だったら部外者が居ないときにやってください。おかしいだろ、絶対に。

 

 アンチョビさんチームはP40とCV33が2両。

 

 ペパロニさんチームはセモヴェンテ1両、CV33が2両である。

 

 ルールはフラッグ戦らしいが、撃破されると整備に金がかかるからダメらしいので、車両に急所となる半径20センチメートルほどの丸型のポイントを三ケ所作って、特殊なペイント砲弾をいずれかのポイントに当てれば撃破判定というルールだ。

 

 

 うん、これって機銃しかないCV33は何も出来ないやつだね。せいぜい邪魔をするくらいか。

 まぁ、実戦でも何も撃破出来ないのは似たようなもんか。89式は危ないかもだけど……。

 

 

 戦車に乗り込む私と西住さん。ちょっと楽しくなってきたのは内緒だ。

 セモヴェンテってⅢ突と同じタイプだからな。慣れてないから、当てるのはちっとばかり大変そうだ。

 まぁ、まずはペパロニさんの操縦技術はどんなものか見させてもらおう。

 さぁ、練習開始だ!

 

 

 

「右に曲がると見せかけて、まっすぐに――。そこで左です! 撃てー!」

 

 西住さんは冷泉さんにいつもしているような無茶振り指示をペパロニさんにも容赦なくだす。

 

 しかし、ペパロニさんの操縦は確かな実力で、冷泉さんに引けを取らない感じだった。アンツィオを見くびっていたかもしれないな。

 

 西住さんの指示も的確ですでにCV33を1両屠り、P40にも私が的を外したのがいけなかったが、一撃加えている。

 

 うーん、仕留めたと思ったのになー。アンチョビさん、さすがに車長としては超一流ってわけか。

 

 ふっふっふ、燃えてきたよ!

 

「みほっ、装填ちょっとだけ早くしてくれ!」

「うんっ! わかった! ペパロニさん、そこで右折!」

 

「あいよっ! うひゃー、アンチョビ姐さんの砲撃をこんなに簡単に躱したことないっすよー」

 

 セモヴェンテはうねりながらP40ににじり寄る。

 

 さすがに、この位置では外さないよ!

 

「撃てーっ!」

 

 私は西住さんの号令で砲弾を撃ち出す。よくわからない状況だけど、楽しいってことだけはよくわかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「いやー、まさか、お客さんに完敗するなんてなー! はっはっは」

 

 練習を終えてアンチョビさんが笑顔で私と西住さんのところに歩み寄る。

 

「いや、運が良かった。まさか、偶然砲弾があたるなんてな」

 

「ええーっ? 兄さん、あれ、まぐれだったんすかー!」

 

 ペパロニは驚いた声を出す。そんなわけ無いでしょ。

 

「いや、本当に素晴らしいぞ! 西住みほに仙道玲香! さすがは大洗女子学園の隊長と副隊長だ!」

「えっ? 姐さん、どういうことっすかー?」

「説明しただろ!? もう忘れたのか!?」

 

「「!!」」

 

 しっしまった。バレてたんだ。とっくに……。そりゃあ、そうだよな。戦車に普通は乗せないもん。

 

「逃げるぞ、みほっ!」

「えっ、玲香さん!?」

 

 私は西住さんをお姫様抱っこして走り出す。めちゃくちゃ恥ずかしいけど、走るのが速い私が抱えて逃げた方がいい。

 

『あー、仙道ちゃーん。大丈夫だよー。ちゃんと、チョビ子には許可取ってあるから、逃げなくてもー』

 

 はぁ? はぁぁぁぁ!?

 何を言ってるんだ? あのクソチビツインテールは!?

 

 

「玲香さん、ごめん。騙しちゃって……」

  

 会長の通信を聞いて憤慨してる私を見て、西住さんがすまなそうな顔をして衝撃の告白をする。

 

「ええっ、嘘だろ……。みほも知ってたの?」

 

 私は膝から崩れ落ちそうになった。

 

「うん。玲香さんがデートに誘ってくれた、すぐ後にね。生徒会の皆さんが、1回戦勝利のご褒美だから玲香さんとアンツィオでデートを好きに楽しんでって言われたの。任務なんて本当はないけど、アンツィオとの約束を守るために玲香さんには黙ってて欲しいって、そのとき口止めされたんだ。ごめんね、嫌だったよね。私と一緒になんか――」

 

 西住さんは泣きそうな顔で私を見ていた。その顔は申し訳なさと悲しさが同居するなんとも言えない表情だった。

 

 はぁ、西住さんには敵わないなぁ。

 

「嫌なわけなんてあるか。私はいつだってみほのこと好きだよ」

「ふぇっ? 玲香さん……」

 

 私は西住さんをおろして、抱きしめながら頭を撫でた。なんで、こんな行動をしたのかわからない。でも、たまには感情を優先させたっていいじゃないか。

 

 

「おーい、角谷から話聞いたかー? もう演技しなくていいんだぞー」

 

 CV33に乗って追いかけて来たアンチョビさんが私たちに声をかけた。

 

「あっ、すみません」

「えっ、あっ……」

 

 私は西住さんを引き剥がして、アンチョビさんの方を向いた。まったく、してやられたよ。

 この人も役者だなー。

 

 

「一体どういうことですか? 全部知ってたって、どうして手の内を見せるような真似をされたのですか?」

 

 私は率直に1番の疑問点を質問した。会長から話を振られてもメリットがなきゃ引き受けないはずだ。

 P40の存在って隠したかったんじゃないのか?

 

「もちろん、隠すつもりだったさ。でもな、君たちの1回戦の様子を動画で見させてもらって、考えが変わった。今のままじゃP40があっても勝てない、じゃなかった、勝つのが難しい……。だから角谷の案に乗ったんだ。情報と引き換えに大洗の隊長と副隊長の実力を目の前で見せてもらうっていう提案を――」

 

 なるほど、こっちもこっちで情報を与えていたってわけか。ん? だったら、おかしいぞ。

 

「だったら、普通に交流って感じで良かったんじゃないですか? なんで、私が男装させられているんですかー?」

 

 これじゃ、無駄に辱めを受けてるだけじゃないか。まったく、意味わからんぞ。

 

「ああ、そのことか。いや、さすがに私もそれだけじゃ割に合わんと言ったら、角谷の奴が――」

 

《知ってるよー、今、アンツィオってさー。カップルの観光客を増やそうって力を入れてるんだってねー。いいPRの仕方を教えてあげるよー》

 

 うん、話を聞くだけで、会長の悪い笑みまで想像できたわ。

 つまり、私たちは終始どこからか撮影されていたみたいだ。そして、その映像と画像を無制限に使って良いと、本人に何の承諾もなしに、我が校の生徒会が許可を出したらしい。

 

 マジでそろそろ辞表を提出してやろうかな?

 

「あっはっは、おかげでいい映像が取れたぞ! さて、お客様! これで帰るなんて言わないでくれよ!」

 

「「えっ?」」

 

 私と西住さんは不思議そうに顔を見合わせた。

 

「お客様には最っ高のおもてなしをするっ! それがっ! アンツィオの流儀だーっ!」

 

 アンチョビさんが一声かけると、なんと、アンツィオ校の生徒たちが雪崩のような勢いで調理を開始して、瞬く間にそこは立食パーティーの会場に変化した。

 

 ははっ……。すごいな。この人は――。なんというか、豪快だ――。

 

「さぁ、好きなだけ食べてくれ! 2回戦は私たちは善戦するぞ、じゃなかった、ギリギリ勝つ!」

 

 ニカッと笑うアンチョビさんたちと交流を深めつつ、私と西住さんはとても美味しい料理に舌鼓を打ったのだった。

 

「玲香さん、とっても楽しいねー。私、玲香さんに出会えてすっごく幸せだよ」

 

 西住さんが私の腕に寄りかかって、甘えるような声を出す。おーい、西住さん。もう演技は終わってもいいんだよ。

 

 

 

 そして、あっという間に時は流れて、ついに始まる第2戦! もちろん、負けられないぞ!

 

 

【第63回戦車道全国高校生大会2回戦】

 

 大洗女子学園 VS アンツィオ高校

 

 試合開始まで、あと少し!




次回予告!

やめて! マカロニ作戦がバレてしまったら、ドゥーチェ、アンチョビが必死に立てた作戦が水の泡になっちゃう!
お願い、負けないでアンツィオ高校! あなたたちが今ここで負けたら、ベスト4、じゃなかった優勝の悲願はどうなっちゃうの?  戦車はまだ残ってる。ここを耐えれば、大洗にだって勝てるんだから!

次回、「大洗女子学園大勝利! ベスト4進出決定!」
デュエル・スタンバイ!

すでに誰かがやったネタかもしれませんが、どうしてもやりたかったので……。

結構いろんなガルパンの創作は読んだのですが、ネタっぽく瞬殺か、マカロニ作戦が成功して原作よりピンチになるというパターンが多かったんですね。
出来れば被りたくないなーって思いましたので、こういう展開にしたのですが、どうでしょうか?
次回、果たして大洗の運命は? 是非ともご覧になってみてください!



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