大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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スミマセン!アンツィオ戦はより一層ワンサイドゲームになりそうだったので、ダイジェストにしました。
いやー、P40が2台とか新オリジナルキャラとか考えたんですけどねー。
プラウダ戦は力を入れますので、許してください。
それではよろしくお願いします!


2回戦とあんこう鍋

「――全力でねぎらう! これがアンツィオの流儀だぁー!」

 

 デジャヴではありません。現実です。

 私たちはアンツィオ高校に圧勝してしまった。

 

 アンツィオの『ノリと勢いがあり、調子に乗せると手強い』という前評判は確かだった。

 

 まず、デコイを利用したマカロニ作戦に見事に引っかかった私たちはアンツィオの戦車に包囲された。

 ピンチに陥った私たちだったが、私と西住さんの連携技である【双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)】で強引に道を切り開く。

 さらにアヒルさんチームの佐々木さんが覚醒し、行進間射撃で確実に豆戦車のCV33のエンジン冷却部を破壊するという神業を何度も披露した。

 

 また、カバさんチームのカエサルさんこと鈴木貴子さんは、なんとカルパッチョさんと幼馴染だった。お互いのことを「たかちゃん」、「ひなちゃん」と呼ぶ彼女たち。カエサルさんの知られざる一面を発見したという感じだ。

 

 彼女の乗るセモヴェンテとカバさんチームのⅢ突は激戦を繰り広げることになったのである。勝負は引き分け。お互いの砲撃を受けて白旗を上げる結果となった。

 

 まぁ、そうこうしている内に、アンチョビさんのP40はカメさんチームとあんこうチームの2つを同時に相手にしなくてはならなくなって――P40は善戦するも、あえなくⅣ号の凶弾の餌食となってしまったのだ。

 

 ごめんなさい。アンチョビさん。正直、この前の練習の時点で『勝てるっ絶対に勝てる』って死亡フラグが怖いくらいの自信を持ってしまいました。

 

 でも、アンチョビさんは素晴らしい選手ですし、尊敬すべき先輩だと思います。ぜひ、上に立つ者としての精神を見習わせて頂きたいです。

 

 こうして、大洗女子学園は戦車道が復活したその年に準決勝に進出するという快挙を成し遂げたのだった。

 

 しかし、誰もが思っているだろう――大洗女子学園はここまでだと……。

 なんせ、準決勝の相手は――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「長砲身つけて、外装もそれに合わせて変えておきましたー」

 

 作業着姿の小柄なショートカットの女性。自動車部のナカジマさんがⅣ号に先日見つけた75mm砲身を付けてくれた。

 

「おおーっ、F2っぽいですねー!」

 

 思ったとおり秋山さんは目をキラキラさせて反応していた。

 

「ありがとうございます!」

 

「いえいえ、大変でしたけど、やりがいがありました」

 

 西住さんのお礼にも、謙虚に微笑んで返す自動車部の面々。正直、私の嬉しい誤算はこの自動車部の超人ぶりである。

 私たちが無茶な練習でボロボロにしても、一晩で修理や整備をしてくれる。たったの4人で、だ!

 

 死ぬほど大変なはずなのに、ケロッとした顔でニコニコと楽しいそうに整備している、仏様のような方々である。さらに、現在、絶賛レストア中のアレに搭乗してくれることも決定している――。

 

「砲身が変わって、新しい車両が1両……」

「そこそこ、戦力の増強が出来たな。どうだ、勝てそうか?」

 

 河嶋先輩が私に尋ねる。

 

「どうでしょうかねー。勝負は時の運と言いますから――」

 

「そこは勝てるって言わんか! 玲香!」

 

「まっ、善処しますよ。安心してください。河嶋先輩」

 

 私は河嶋先輩の背中をポンポンと叩いた。わかってますって、勝てるように頑張りますから。

 

「そっそうか――って、先輩にポンポンするなー!」

 

「ルノーに乗るチームは?」

 

 西住さんが気になる点を聞いてきた。そういや、私も知らない……。会長はあてがあるって言ってたけど。  

 

 そんなことを考えてると――格納庫におかっぱ頭の3人組が入ってきた。

 

 えっ――会長はどうやって彼女たちを……。

 

「今日から戦車道を履修する風紀委員長の園みどり子と風紀委員の2人です」

 

 園先輩と、私が生徒会に入った同時期に風紀委員に入った2人の同級生、後藤モヨ子と金春希美である。

 

 会長から園先輩は略してそど子だと紹介され、ついでに2人の二年生もゴモヨとパゾ美と略されてしまった。

 

「じゃあさー、何チームにしよっか」

 

 会長は風紀委員のチーム名を決めようと案を募集した。

 

「魔剣グランドリオンチー」

「ルノーって、カモっぽいですよねー」

 

「じゃあ、カモチームで……」

 

 くっ、どうして私は無視されてるんだ? なんか、あっちでは冷泉さんが園先輩と小競り合いをやってるな。あの二人ってなんだかんだ波長が合うようにみえる。

 

 まぁいいや、とりあえず準決勝の相手の話でもしよう。

 

「みんなが頑張ってくれたから、次はいよいよ準決勝だ! で、次の相手は去年の優勝校プラウダ高校に決まった。今までと比べて苦しい戦いになると思うけど、何とかして勝てるように頑張ろう!」

 

 そう、次はプラウダ高校。あの、カチューシャさんが隊長の高校だ。正直言って、戦力を分析すると勝率は……、先日のグロリアーナとの練習試合よりも低いだろう。はぁ、気が重い……。

 

「そうだ、絶対にお前ら勝て! 次は無いと思えっ!」

 

 河嶋先輩が無駄にプレッシャーをかけるようなことを言う。だから、そういうのは逆効果だと何回言えば……。

 

「次が無いって、どーしてですかー? 来年があるじゃないですかー」

「だって前回の優勝高ですよー」

「そうそう、胸を借りるつもりでー」

 

 1年生が当然の疑問を口にする。私もずっと気になってる。あえて聞かないようにしていたけど……。

 

「次は無いんだ!」

「ちょっと、桃ちゃん!」

 

 河嶋先輩が怒鳴り、小山先輩が諌める。前にもあったな。こんなこと。

 

「勝たなきゃ駄目なんだよねー」

 

 会長が静かにそんなことを言う。

 

 えっ? どうしてですか? いつも余裕たっぷりな貴女が……、なんでそんな顔をしてるのですか……。

 

 おそらく、長く付き合ってる私でないと気付かないほどの会長の顔色の悪さ。いつも自信に満ち溢れてた貴女が、なんでそんなに弱々しい表情(かお)をしてるのですか?

 

「ふん、西住! 指揮!」

 

「えっ、あっ、はい! それでは、今日の練習を開始します!」

 

 河嶋先輩に促されて、練習が始まった。まさか、でも――それしか……。私の疑問はすでに確信になっていた。しかし……、どうして、そんなことに……。

 

「西住ちゃーん、仙道ちゃんと練習後に生徒会室に来てくれる? 大事な話があっから」

 

 会長が西住さんに練習後に私と一緒に生徒会室に来るように言ってる。そうですか、ついに話してくれるのですね……、先輩……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「いやー、寒くなってきたねー」

「北緯50度を越えましたからね」

「次の会場は北ですもんねー」

「まったく、試合会場をルーレットで決めるのはやめてほしい」

 

 ルーレットは公平性を出すためだから、仕方ないが、プラウダ相手に雪原フィールドか……。多分、去年の決勝よりも手強いぞ。

 雪の戦いこそプラウダ高校の真骨頂だからな。

 

「あっあの……何の話で……」

 

 何で呼ばれたのか分かってない、西住さんが困った顔をしている。

 

「まぁまぁ、あんこう鍋でも食べてー」

「会長のあんこう鍋は最高なんだよー」

「まずは、あん肝をじっくり炒めるのがコツなんだー。そこに、味噌をいれて……」

 

「いや、鍋の作り方はいいですから」

 

 割りとスルースキルの高い、西住さんのツッコミ。

 

 まぁ、言い出し辛いから話が切り出せないんだろう。

 私の嫌な予想が当たっているのなら……。

 

「コタツ暑くない?」

 

 小山先輩がそんなことを尋ねる。今、それ訊かなきゃいけないことかね?

 

「これ、仙道ちゃんがねー、予算をやりくりして買ったんだよー」

 

「へぇ、玲香さんが!」

 

 何故かコタツの話しに西住さんは飛び付いた。

 

「仙道ちゃんってば、ダメ元で予算出すように頼んでも結局うまーく屁理屈を作って買ってくれんだよねー」

 

「それを今、言うことですか?」

 

「いろいろ買ったよなー」

 

「冷蔵庫とか、電子レンジとか、ホットプレートとか……」

 

「体育祭とか文化祭とかの前日はよくここにみんなで寝泊まりしたなー。去年は仙道ちゃんがカレー好きだって言ったから、大カレー大会をやってだなー」

 

「会長が唐突に好きな食べ物を聞いてきて答えただけです。私が発案みたいに言わないで下さい」

 

「あのう、思い出話も良いですけど……」

 

 西住さんは相変わらず困った顔をしていた。

 

「あっ、私たち3年は1年のときから生徒会でね。そこに去年は玲香が入ってきて、4人で頑張ってきたんだよ」

 

「よしっ、面白いもの見せてやるよー。ほらっ、河嶋が笑ってるー。こっちは去年の――ほら、玲香がこんなに小さいんだー」

 

 会長は一昨年と去年に校門前で撮った写真を西住さんに見せていた。

 

「わぁー、玲香さん。かわいいですねー」

 

「みほ、恥ずかしいからあまり見ないでくれ」

 

「玲香、1年で私と桃ちゃんの身長をあっという間に抜いちゃったもんねー」

 

「これは仮装大会の写真、これは夏の水掛け大会、そしてこれは笑えるぞー泥んこプロレス大会だー」

 

 だぁーっ、それ見せちゃダメなやつ。良い子には見せられないやつじゃん! もしかしたら、R-18扱いになっちゃうかもしれないやつじゃん!

 

「楽しそうですねー」

 

 西住さんは私の醜態をスルーしてくれた。

 

「うん、本当に楽しかった――」

「楽しかったですね」

「あの頃は――」

 

 しんみりしてる先輩たち。やめてください。もう、確信してます……。この学校は……。

 

「ん?」

 

 西住さんは不穏な空気にいたたまれないという反応だ。

 

「鍋、煮えてますよ」

「そうだな食べよっ」

「はいっ」

 

 えっ、この空気で飯食うの? ちょっと、大事な話を言わないのですか……。

 

 

 

 結局、誰も大事な話をしなかった。

 鍋パーティー?はそのまま解散となったのだった。

 

 

「結局、何の話だったんだろうね? 玲香さん」

 

 西住さんは狐につままれたような表情だった。うん、言えなかったな先輩たち……。くそっ! 変なところで……。

 

「西住さん……、ごめん、ちょっと生徒会室に……、忘れ物してきた……、先に帰っていて……」

 

「えっ? 玲香さん? 待って……」

 

 

 

 

 

 私は走って生徒会室に戻って、扉を開けた。

 

 生徒会室にはまだ、先輩たちは残っていた。私はつかつかと河嶋先輩に近づく。

 

「なんだ、玲香か? どうした?」

 

「河嶋先輩……、なんで……、学校が……、無くなるのですか?」

 

「なっ、玲香……、なぜそれを知って――」

 

「河嶋ぁ!」

 

 会長の大声は遅かった。河嶋先輩の答えよりも何よりも、3人の顔色が私に対する答えだった。

 

「はぁ、仙道ちゃーん。1番ボロを出しそうな河嶋に不意討ちって、そういうところ、誰に似たのかねー? でっ? いつから知っていたんだ?」

 

 珍しく真剣な顔をした会長が、私に尋ねてきた。

 

「みほを戦車道に強引に誘ったときからオカシイと思ってました。《我が校は終わり》とか、《学校にいられなくする》とか、変なことをいってましたから……」

 

 私はずっとこの可能性を頭に入れていて考えないようにしていた。だけど、この先輩たちが必死になるのはいつも学校の為だった。だからこそ、私の不安は大きくなる一方だった。

 

「そんな前から――」

 

 小山先輩が青ざめる。

 

「で、会長……、話してくれますよね……」

 

「ああ、大洗女子学園は今年度をもって、廃校が決定した――」

 

 会長は私の目をまっすぐに見つめて淡々とした口調で非情な宣告をした。私の心の中で何かが弾けたような音がした。

 




玲香に非情な言葉が……。
生徒会と関わりが深い玲香は学校にも格段に思い入れがあると勝手に思ってます。
これまで、ポジティブで強い性格だった玲香ですが、果たして……。
次回もよろしくお願いします!

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