大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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廃校の事実をついに知ってしまった玲香。
いままでメンタルの強さが強調されていましたが、今回は違うみたいです。
それではよろしくお願いします。


絶望と希望と決意

 会長は話した。文科省は維持費のかかる学園艦の統廃合を進める計画を立てており、大洗女子学園は「学校としての活動実績に乏しく、生徒数も減少傾向にある」からその計画遂行のターゲットとなったらしい。

 

 そのことを告げた役人が「昔は戦車道が盛んだった」と口にしたので、会長が大洗女子学園の戦車道復活を提案し、全国大会の優勝を条件に廃校の撤回を約束したのだそうだ。

 

「とても辛いです……」

 

 私は話を一通り聞いて、そうこぼした……。

 

「そうだな。学校が無くなるというのは――」

 

「そうじゃない!」

 

 河嶋先輩の言葉に私は叫び声を上げた。

 

「玲香……」

 

「なんでっ! どうして! 私にそれを仰ってくれなかったのですか! そりゃあ、私は下っ端で、年下でっ、まだまだ頼りないところはありますよ! 1年遅れて入った生徒会ですがっ! 私は先輩たちのことを仲間だと、誰よりも近い存在だと、信じてたのに! 今は言えなくてもっ! きっと、腹を割って話してくれるって! 信じてたのに! 私だって、先輩に負けないくらい! 大洗女子学園を愛してるんだからぁぁぁ!」

 

 涙で顔がぐちゃぐちゃになる。心がバラバラになりそうだ……。戦車道が出来なくなった日よりも辛い。

 そりゃあそうだ。私にとってすでに生徒会は、この学校はもっと大事なものなんだから……。

 

「ごめんねー。あたしら、仙道ちゃんがさ、戦車道を再開出来るのが凄く嬉しかったんだよねー」

 

「玲香には何の気負いもなく戦車に乗って楽しんで欲しかったの」

 

「お前は憎たらしいところもあるが、そこが可愛い後輩だからな。心に負担をかけたくなかった」

 

 先輩たちは悲痛な顔をして私を見た。わかってる。先輩が、あれだけ私のためにしてくれた先輩が、私を軽んじるはずがないことくらい。

 

 でも、それでも……。

 

「プラウダ高校は強いです。去年、優勝したときよりも確実に。カチューシャさんは本気で叩き潰すと宣言してます。慢心からの油断は無いとみて良いでしょう。でも、負けたら、この学校は終わりなんですよね……。ふふっ、馬鹿みたいです。勝手に真相を知って、私はびびってます……。もうダメかもしれません……」

 

 私は自分の行動で自分を潰してしまった。先輩が隠すのも当然だ……。私は河嶋先輩を笑えないくらいの豆腐メンタルだったらしい……。

 

 

 笑えてくる、どんなときも諦めなかったのに……。さっきまで、どこにも負けないつもりだったのに……。なんで、急にこんなに弱気になってるんだ?

 漠然と学校に危機が迫ってるっていう認識と、確固たる事実を知るってことはこんなにも違うんだ。

 

 

 えっ? 先輩たちはこんな重圧の前で毎日私たちの前に立ってたの? 笑っていられたの?

 私が下手をうつと学園艦が無くなる――そう考えるだけで震えが止まらなくなるのに……。

 

 

 

 

 フラフラになりながら私は生徒会室を出て、雪がしんしんと降る中を傘もささずにびしょ濡れになりながら歩いていた……。

 

「れっ玲香さん、風邪引くよ……」

 

「えっ? みほ、なんで? 先に帰ったんじゃ……」

 

 今、一番情けない姿を見られたくない人に見られてしまった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《みほサイド》

 

 生徒会室にいるときから玲香さんの顔色は良くなかった。いつも明るくて、元気なのに不思議に思っていた。

 

 話があるという角谷先輩から、結局何も聞かされずに食事が終わり、私たちは家に帰ることになった。

 

 玲香さんはずっと思い詰めた顔をしていて、ふと、顔を上げると忘れ物をしたと言って生徒会に戻って行った。

 

 私はそのまま帰ろうと思ったんだけど、なぜか途中から胸騒ぎが凄くなって、戻ろうかどうか迷ってしまった。

 そんな中、雪が強くなったので、やっぱり心配になって戻っていると傘もささずに身体中が雪まみれになっている玲香さんが力なく歩いていた。

 

 私は自分の目が信じられなかった。いつも強くてカッコいい玲香さんが、まるで亡霊のようにフラフラと歩いている。

 ショックだった。そして何より不安だった。あの玲香さんがこれほど憔悴しているなんて……。

 

「れっ玲香さん、風邪引くよ……」

 

 恐る恐る、玲香さんに私は声をかけてみた。

 

「えっ? みほ、なんで? 先に帰ったんじゃ?」

 

 玲香さんは動揺して私からすぐに目を背けてしまった。やっぱり、生徒会室で何かあったんだ。

 

「とにかく、こんなに冷えてちゃダメだよ。私の家が近いからお風呂に入って行って……」

 

 私は玲香さんの手を握って家に連れて行こうとした。手を握ったとき目を見開いてしまってた。生気のないくらいその手が冷たかったから。

 

 

 

「ごめんね、玲香さん。サイズは合わないと思うけど、このスウェットなら多少は伸びると思うから置いておくねー」

 

 玲香さんを半ば強引にお風呂にいれた。じゃないと体温も全部なくなってどこかに行ってしまいそうになる気がしたから……。

 

 

「悪いな。みほ、心配をかけた。もう、大丈夫だから……」

 

 お風呂から出て、サイズの合わないスウェットを着た玲香さんが弱々しい笑みを浮かべて私を見ていた。

 

「全然、大丈夫そうに見えないよ」

 

「――そうかな?」

 

「うん、そうだよ」

 

 それだけ話すと玲香さんは苦笑いして黙ってしまった。多分言いづらいことがあったのだと思う。私は話が下手だけど、玲香さんは違う。

 そんな彼女がこれだけ話さないのだから、余程のことだと思った。

 

「これ、ホットミルク。暖かいよ。ベッドに座って飲んでね」

 

「そっか、ありがとう。いただくよ」

 

 ベッドに座って私が渡したカップに口をつける玲香さん。私は隣に座った。

 

「「……」」

 

 しばらく沈黙が時間を支配した。どれくらい時間が過ぎたのか分からないけど、玲香さんは口を開いた。

 

「みほは、何も聞かないんだな……」

 

 ボコのぬいぐるみを見ながら玲香さんは声を出す。

 

「ふぇっ、聞いて良かったの?」

「ん?」

 

 私は変な声が出てしまった。気になっていたけど、聞いちゃいけないって思ったから聞けなかったんだ。

 

「ははっ、みほらしいな。本当に優しいみほらしい。好きだよ、そんなところに私は癒やされるんだ」

 

「むぅー。玲香さんにね、好きとか言われたり、抱きしめられると、恥ずかしいんだよ。嬉しいけど……」

 

 前もそうだったけど、玲香さんに好きだと言われてとってもドキドキした。

 最近、思うことがある。玲香さんへの気持ちは友達に対する気持ちとは違うの。沙織さんたちとは違う感情なの。

 

「そっか、でもごめん……」

「あっ……」

 

 玲香さんが急に覆いかぶさって、抱きしめてくる。彼女の吐息が耳に当たる。やっぱり変だよ、いつもの玲香さんじゃない。

 

「ごめんね。みほ、何もしないから……、しばらくこのままで居させてほしいんだ」

 

 ベッドの上で玲香さんに抱きしめられながら時間はまた過ぎていった。私はなぜか冷静だった。

 

「みほ、私のことをよくカッコいいって言ってくれてたね。でもそれは虚像だ……。私はイキっているだけの、小心者だったのさ……。さっきまで全然平気だった。でも今は怖い……。負けるってことが、とてつもなく怖くなったんだ」

  

 震えながら弱々しい声で玲香さんは弱音を吐いた。それは私にはとても衝撃的なこと。

 でも、少しだけ嬉しい気持ちもあった。玲香さんが、自分の逃げ場所に私を選んでくれたから。

 

「私は怖い……。この両手が治って、戦車道が出来るようになって、幸福だった。でも、その幸福を与えてくれた先輩たちに恩を返すことが出来なくなるのが、とてつもなく怖いんだ。プラウダに――黒森峰に――負けたらって考えるだけで頭の中がグチャグチャになって震えてしまう。こんなんじゃ戦えない……」

 

 小刻みに震えながら玲香さんは弱音を吐く。私は自然に玲香さんの両頬を撫でながら口を開いた。

 

「そっか、玲香さんはそんなになってまで負けたくないんだね。じゃあ、私も少しだけ背負いたい。こんな頼りない私だけど、玲香さんの負けられない事情を話して欲しいな」

 

 そう言って私は玲香さんの唇を自分の唇で塞ぐ。どうしようもなく、衝動が抑えられなくなってしまったから――。

 

 

 

「みほ……、なっなっ何を……?」 

「ひゃっ、えっと、ごめんなさい……」

 

 しばらく経って冷静になった玲香さんがいつもの口調で声を出した。

 

「ふぅー、驚いたぞ。いや、別に良いんだけど。初めてだったから、うーん、まぁいいや。何か色々と吹き飛んだよ……。覚悟してくれよ――」

 

「えっ、あっ、うん。キスしちゃったもんね――ええーっと、覚悟って?」

 

 私は頭の中に結婚とか浮かんだけれど、恥ずかしくって口に出せなかった。

 

「いや、キスは関係ないんだけど……。さっきさ、話を聞いてくれるって言ったじゃないか。背負ってくれるんだろ? みほは、私の重圧を」

 

「うっうん。玲香さんの嫌なことは、一緒になって悩みたいもん!」

 

 私がそう言ったら、玲香さんは苦笑いして話してくれた。それは、想像よりもずっと重たい話だった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「――っとまぁ、こんな感じで、全国大会で優勝出来なかったら我が校の廃校は決定しちゃうんだってさ」

 

 あーあ、やっちゃった。秘密というのは守れないもんだね。私は真実を知って動揺し、結局みほに全部話してしまった。

 

 だって、みほが聞きたいって言うし。それに、私の緊張を解すためにキスまでしてくれたんだ。

 

 いやー、生徒会の雑務に追われて女子高生らしいこと何一つやれてないような気がするけど、友達にキスって普通なんかな? まっ、そうじゃなきゃ、恥ずかしがり屋の西住さんがするわけないかー。

 

「それは、大変っていうか。すごい話だね」

 

「すごいな、みほは。簡単に受け入れるんだ。怖いだろ? 負けたら廃校なんだぞ」

 

「うっうん。すっごく怖いし、玲香さんがあんなになる理由も理解できたよ。だから、私が何とか安心させてあげられないかなって考えたんだけど……。勝つしかないっていうことしか思いつかなかったんだー。えへへ」

 

 私はハンマーで頭を殴られたような衝撃だった。『勝つしかない』という当たり前の結論を笑って受け入れる西住さん。

 私が知ってる彼女とは少しだけ変わった様に感じた。

 どうしてかわからないが、その笑顔を見たとき、私からは恐怖が無くなり、負ける気もしなくなっていたのである。

 

「あれ? 玲香さん、どうしたの? また、怖くなっちゃった? んんっ……」

 

「――ぷはぁっ。ん? さっきのお返し。いやー、キスって結構勇気いるんだな? あれ? どうしたんだ? みほ、顔が真っ赤じゃないか」

 

 はい、このあと、友人に軽々しくキスをしてはいけないと説教されました。いやだって、あなたがさっき――解せぬ……。

 

 

 

「しかし、この事実をみんなに話すべきかどうか……」

 

 私は自分がガクブルした経験から、戦車道チームのみんなに廃校の事実を告げるかどうか迷った。

 

「私は話した方が良いと思う。何も知らずにダメだったら絶対に後悔するもん。少なくとも、一緒に戦車に乗ってる沙織さんたちに黙っておけないよ」

 

 西住さんの言うことには説得力があった。確かに無駄に緊張するリスクはあるが、逆にただでさえ戦力差が激しいこれからの戦い、負けられない精神力は共有したいところはある。

 

 よし、話すぞ。うん、何かあったら……、そのときに考えよう。

 

「――そうだな。明日みんなに話そう。ありがとう、みほのおかげで凄く楽になった……。あれ? なんか急に眠気が……」

 

「えっ、れっ、玲香さん?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 西住さんの部屋で一泊してしまった。しかも、目が覚めたら西住さんの寝顔とご対面。

 すっごく罪悪感がありましたとさ。

 

 制服はもう乾いていて、きれいにしてくれてた西住さんに感謝しつつ、2人は揃って学校に行く。昨日はあんなことがあったのに、西住さんは何故かとても上機嫌だった。

 

 

 

 そして、戦車道の授業が始まった。生徒会の先輩はちょっと私に話しかけ辛いのか、今日は一言も話していない。

 まったく、ずっと黙ってた先輩にはちょっとした仕返しっぽくなるけど仕方がない。

 私は言っちゃうぞ。だって、会長からも口止めされてないもん。

 

 

「あー、みんな! 練習の前に大事な話があるんだ。この戦車道の全国大会だけどね、負けたらこの学校は廃校になってしまう!」

 

「おいっ! 玲香!」

「あちゃー、まぁ、こうなるよねー」

 

 みんなは何を言っているというような表情だった。当たり前だろう。おかしなこと言ってるし。

 

 だから、私は昨日会長から聞いた話をそのまま、みんなに伝えた――果たしてこの行動は正しかったのか? それは次の戦いまで分からない。

 

【第63回戦車道全国高校生大会準決勝】

 

 大洗女子学園 VS プラウダ高校

 

 試合開始までの日にちはもう、差し迫っていた。




戦車道履修者たちのリアクションは次回。
キスシーンはもうちょっと色気を出したかったのですが、申し訳ありません。次のチャンスはもっと頑張ります。
いよいよ、強敵プラウダ高校との戦いです。

プラウダはもしこの学校が本気で戦っていれば――ってなるくらいの強敵ですよね。
しかし、あの、あんこう踊りのシーンは大好きだけど書けそうにないのが悲しいです。
次回もよろしくお願いします!
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