テレビアニメ原作では1番の難所だと私は思ってます。実際、ナメプしなきゃプラウダの勝ちでしたし。
それだけに本気のプラウダとの戦いを描くのは難易度高いです。
楽しく出来ていれば良いのですが……。
それではよろしくお願いします!
やっちまったのかもしれん……。
廃校の事実を告げると格納庫内の空気は一気に暗くなった。
ウサギさんチームなど泣き出す始末である。
「この学校がなくなったら、みんなはバラバラになっちゃうの?」
「そんなの絶対に嫌です」
武部さんと五十鈴さんはみんなと一緒にいられないことを悲観した。
「単位取得は夢のまた夢か」
冷泉さんは単位か……、まぁ1番の目的だもんな……。
「バレー部復活……」
「これで我らの生きた証が……」
とにかく暗い、めちゃめちゃ暗い。
「優勝なんて無理だよ!」
誰かかそんなことを口にした。そして、それに対して、真っ先に反論したのは――。
「そんなことはありません。優勝できる可能性は十分にあります。やれるだけやってみましょう」
西住さんだった。誰よりも強くて誠実な彼女の言葉は重みがあった。
彼女のこの一言でみんなの顔がパッと明るくなったのである。よし、私も副隊長として言葉を出さねば。
「うん。もちろん私も優勝以外の結末を考えてない。でもね、そのためにはみんなの力が必要なんだ。力を貸してくれれば勝機はある。だから私たちと一緒に戦ってくれ! 必ず勝利まで連れていくことを約束するから!」
「「はいっ!」」
戦車道履修者たちが声を合わせて返事をしてくれた。誰一人かけることなく(多分丸山さんも)。私は昨日何をビビってたんだ……。こんなにも居るじゃないか、頼もしい仲間が……。
そして――準決勝へ向けての練習が開始された。
私と西住さんは時間を見つけては作戦を練った。プラウダは火力装甲ともに高い戦車が多い上に、カチューシャさんの戦術が加わってくる。
あらゆる可能性を考慮する必要があったので、私たちもいろんなパターンに合わせた戦術を想定する必要があったのだ。
だけど、私も西住さんも絶望してなかった。話し合いに話し合いを重ねて、それなりに自信が持てるようになっていたのだった。
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「まったく、お前の独断専行は相変わらずか。あんな顔して出てったくせに次の日にはケロッとした顔で暴露しおって」
放課後の生徒会室で河嶋先輩に小言を言われている。
「でも、ずっと黙っておくなんて無理ですよ。そもそもプラウダを相手にするにはこちらの慢心は消しておくべきです」
私は静かに答えた。そもそも、2回戦に勝って以来、どこか浮足立った空気を感じていたのだ。
勝つという確率を上げるのなら、この機に言うのはベストかもしれない。
試合が開始してしまったら、のんびり語ってる時間なんて貰えるはずがないのだから。
「私は罪悪感がすごかったから、言ってもらえて良かった」
小山先輩が常識人らしさをだす。
「いやー、悪いねー。後輩に嫌なこと押し付けちゃってさー」
「悪いと思ってるんでしたら、何かご褒美でもくださいよ」
「ん? そだねー。じゃあさ、このあと、ちょっと付き合ってよー」
会長はいつもの口調で答えたが、表情は凛々しかった。
そのご褒美は“希望”だった。会長、あなたはいつの間にこれほどの――。
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「うぅー、死ぬー、寒いぃぃぃ」
私は寒さでガチガチに震えていた。暑いのは平気なのだが、寒いのは凄く苦手なのだ。だから、進学先にプラウダの選択肢はなかった。
というか、雪の中でパンツァージャケットにスカートなのだから寒いに決まってる。 なんでみんな元気なの?
ウサギさんチームは雪合戦してるし、カバさんチームはなんか凄いクオリティの雪の像を作ってる。楽しそうだな、おい。
そんな中、カモさんチームが緊張した顔で立っていた。そりゃ、最初の試合で負けたら廃校って言われてるんだから、そんな顔になるわな。
「園先輩、ごめんなさい。最初からキツい戦いになります。緊張するな、とは言いませんが、困ったら頼ってください」
「わっわかったわ。仙道さんを頼ればいいのね」
「まぁ、私はもちろんですが、特に操縦などを教えた麻子を頼るといいでしょう。なぁ? 麻子!」
私は近くにいた冷泉さんの両肩を叩いた。
「んっ……。いつでも無線で質問してくれ、そど子……」
「だからぁ、そど子って呼ばないでよ! 私の名前は園みどり子!」
「わかった……そど子……」
「全然わかってないじゃないのー!」
青筋をたて怒っているそど子先輩、じゃなかった園先輩だったが、緊張はほぐれてるみたいだ。
――ありがとう。冷泉さん……。
「あら、よく見ると随分と弱そうな戦車じゃない。これは、練習で使った物資は無駄だったかしら?」
先日聞いたばかりの高飛車な声……。カチューシャさんだ。ノンナさんと一緒に歩いてきている。
「かっカチューシャさん、どうしたんですか?」
私はカチューシャさんに驚いて目を丸くした。
「やっほー、レイーチカ。カチューシャが直々に挨拶に来てあげたわよ。ノンナっ!」
カチューシャさんは挨拶に来てくれたらしいのだが、私を見上げるなりノンナさんに肩車をさせた。レイーチカって私?
「あなたたちはね、すべてがカチューシャよりも下なの! 戦車も技術も身長もねっ!」
「あははっ、ノンナさんも大変ですねー」
「いえ、これは私が好きでさせてもらってますから……」
「ちょっと、何とか反応しなさいよ! あら……」
カチューシャさんは玩具を見つけたような顔をして西住さんを見つめた。
「西住流の――ふふっ、去年はありがとう。あなたのおかげで優勝が出来たわ。こんな子と一緒なんてレイーチカも災難ねぇ、今年もよろしくね、家元さん」
揺さぶるなぁ。この人はどこまでも――。しかし、私の大切な人がここまで言われて黙ってるほど……、お人好しじゃないぞ。
「カチューシャさん、先ほど、物資が無駄になったかどうか気にされてましたよね。気にする必要は皆無ですよ……」
「ん? どういうことよ?」
「温存する必要がないからです。なぜなら、今日勝つのは私たち、大洗女子学園です! 今年のプラウダ高校の戦績は準決勝敗退ってことですよ。ですから、物資は惜しみなく使っちゃって大丈夫です!」
満面の笑みを作って私はカチューシャさんに宣言する。まぁ、怒って冷静さを欠いてくれたら儲けもんってことで……。
「ふふっ……、あーはっはっは! やっぱり、レイーチカは最高ね。カチューシャに向かってそんな態度を取るからには、つまらない試合をしたら、シベリア送り25ルーブルにしてやるわよっ!」
うっ、うん? よくわからんけど怒らせるのは失敗かな?
「あなたたち、運がいいわ! そこにいるレイーチカのおかげで、カチューシャたちプラウダ高校の本気を見ることが出来るのだから! じゃあねー、ピロシキー」
「
やたら上機嫌になって、カチューシャさんたちは去っていった。あれ? 煽ったのって逆効果?
「やっちゃったねー。仙道ちゃーん。煽る相手を選ぶことは、そろそろ覚えなよー」
会長は私の腰をポンポンと叩いて師匠らしい一言をくれた。はーい、精進しまーす。
さあて、試合開始だ。ここを勝ち抜いて、先に決勝戦進出を決めている黒森峰と戦うんだ。
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《カチューシャサイド》
ダージリンから「面白い選手がいるから、番狂わせが起こるかもしれないですわ」と声をかけられ、本来は見るまでも無い1回戦の観戦に足を運んだわ。つまらなかったら文句を言うつもりでね。
意外なことに試合は最初からなかなか楽しかったわ。特にあの、38tが囮になる作戦は練度はまだまだお粗末だったけど、カチューシャの作戦に似ている。
なかなか見どころがあるやつがいるみたいじゃない。
ダージリンから聞いた話だと、去年のフラッグ車を放ったらかしにした西住流の娘が隊長になってるみたい。だから何って話だけど、そんな甘っちょろい奴だけじゃ、あの作戦は実行しないと思うのよね。
だとすると、もう一人のほうね。ダージリンが妙に気にしている大洗の副隊長――。
試合が終了して、ちょっとだけ一人で歩いていたらノンナが居なくなっちゃったの。
そんなときよ、私が彼女に出会ったのは、ムカつくくらい大きな体躯の白髪の女――仙道玲香にね。
玲香は面白い奴だったわ。カチューシャを尊敬してるって可愛げがあるし、答え難そうな意地悪な質問もケロッとした顔で答えるの。
しかも、去年の決勝戦のフラッグ車に自分が乗っていたら、あのトラブルの中でも撃破されなかったと言ってのけたわ。そんな答えを普通、カチューシャの目の前でする?
短い間だったけど、気に入っちゃったのよねー。だからこそ、可愛がってあげるわ。レイーチカ、せいぜいカチューシャを楽しませなさい。
「さぁ、お腹が空く前に決着をつけるわよ! この試合は出し惜しみをするつもりは無いわ! 敵はたったの6両よ、カチューシャたちの全戦力をつぎ込んで雪崩込むだけで簡単に潰せるわ」
「スチームローラー戦術……、それほどの相手ですか? 大洗は……。決勝を考えると無駄に撃破されるのは避けたいところですが……」
カチューシャの作戦にいつもみたいな仏頂面で意見するノンナ。はぁ、貴女の冷静な意見には助けられていることは認めてあげるけど、今日は意見を変えないわよ。
「だったら、撃破されないように努力するのね。そうだわ、撃破なんてされたら、ツンドラで強制労働、30ルーブルよ! 許さないんだから!」
「
カチューシャの最も得意な戦術で文字通り潰してあげるわ!
全車を大洗女子学園の陣営に向けて進行させる。向こうがどんな策を用いるのか、それなりにわくわくしてるわ。
さあて、西住流、そしてレイーチカはどう迎え撃つのかしら。
『隊長、敵を発見しました。道幅が狭くなっている場所に6両全てが集結して、鶴翼の陣のような隊列で待機しております。おそらく、包囲出来ない場所に陣地をとったのかと』
偵察のために少しだけ先行させていた車両から報告がくる。なるほど、待ち伏せをして、こちらの動きに合わせて対応するつもりね。
そして、カチューシャの得意の包囲殲滅戦法も潰そうとしてきた。
まぁ、このカチューシャに多彩な戦術があるってレイーチカは知っているみたいだし、後出しをして有利を掴もうって魂胆ね。
「甘いわね。甘いわ……。こんなものだったのね……」
浅はかな手にイラッときたわ。あーあ、買いかぶり過ぎたみたいね。今日のお昼は早く食べられそうだわ。
「一気に殲滅しなさい。フラッグ戦とか関係ないわ。実力の差を思い知らせなさい!」
全車両に命令を出して大洗陣営に攻撃を指示する。はぁ、カチューシャが出る幕はなかったか。
『38tのみ、いち早くこちらに気付き逃げ出しました』
「構わないわ! 他の車両から倒しなさい。38tはフラッグ車なの?」
『いえ、フラッグ車ではなかったようです』
「ん? 変ねぇ。どうして先に逃げるような……」
『カチューシャ様っ! 大洗の車両はここには居ません! 車両はすべて張りぼての看板でした!』
「なんですって! くっ、やられたわ! こっちの出方を38tに偵察させて、その逃亡時間を稼ぐためにデコイを使うなんて! やるじゃない! 全車両前進! 38tを追うわよ! その先に大洗の本隊があるはず!」
なかなか面白い手を使うじゃない! でも、逃さないわよ!
カチューシャたちは全速力で38tを追う。でもそれは狡猾な罠だった……。
『カチューシャ様、雪ですっ! 雪の中からⅣ号戦車がっ! きゃっ、撃破されました』
『こちらも謎の砲撃より、撃破……』
『履帯を破壊され、動けません!』
『後方より砲撃! どうしますかっ!』
「なっ、まさか……。この極寒の中……エンジンを切って、雪の中に隠れてたとでも言うの!?」
大洗の38t以外の戦車は雪の中で隠れていて、カチューシャたちをやり過ごし、背後から攻撃をしてきた。
はぁ、認めるしかないわね。大洗女子学園は強敵――カチューシャが本気の本気で叩き潰す甲斐がある敵だわ!
マカロニ作戦ツヴァイ+原作のプラウダ戦の最後に雪の中で待ち伏せたアレです。ちなみにデコイは自動車部が一晩で作ってくれました。
圧倒的な戦力差の中で一撃を加えることの出来た大洗でしたが、いかがでしたでしょうか?
激戦は始まったばかりですが、続きもぜひご覧になってください!