感想はすごくモチベ上がりますし、誤字報告のおかげでとっても読みやすくなっています。
プラウダと大洗の中盤戦!
大洗の先制がカチューシャを100パーセントの本気にさせました。
それではよろしくお願いします!
「じゃっ、なるたけ防寒具を用意するぞ。カイロもたくさん用意しておくように」
西住さんの発案により自動車部にアンツィオが使ったような車両のデコイを用意してもらった私たちは、雪の中に戦車を隠す準備をしていた。
カチューシャさんが囮を使うのか、それとも真っ向勝負で来るのかわからない以上、私たちは待ち構えるという戦術を取るほかなかった。
「カメさんチームだけぇ、外に出てるなんてぇ、ズルくないですかぁ?」
宇津木さんがいつもの妖艶な話し方で文句を言ってきた。
「いや、別にウサギさんチームでも良いけど、その後、大変だぞ?」
「優季、わがまま言わないの。玲香先輩、1番危険な仕事をお願いします」
「澤さんはキチンと全体が見れられるようになってるね。私が教えたこともよく覚えているし、嬉しいよ」
私は澤さんの頭を撫でながら素直に褒めた。私と西住さんが卒業したとき、みんなをまとめる器があるのは彼女かもしれない。
「先輩……」
「ああ、梓赤くなってるー」
大野さんがニヤニヤしながら澤さんの顔を覗き込む。
「なっなってない! あやっ、変なことを言わないでよっ!」
ウサギさんチームは仲がよろしくて何よりだ。
「おいっ! 玲香よ、上手くいったとして、その後どうする? 仲間と合流は後回しにして逃げるのか?」
「逃げませんよ。プラウダの戦車をかき分けてみんなと合流するつもりです」
「えっ……、玲香。私の操縦のスキル買いかぶってない? 大丈夫なの?」
私の大胆なプランに小山先輩が気の弱そうな顔をする。
「大丈夫ですって。今日はナマケモノが働き者になってくれるみたいですし」
「へぇ、そりゃあよかったねー。仙道ちゃーん」
会長の目がキラリと光っていつもの小悪魔スマイルを見せてきた。信じてますからね、先輩方。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
おおっ、奇襲が成功してT-34を3台撃破した上に1両も履帯を破壊できたか。さすが、西住さん、狙いも、引き際もばっちりだ。
しかし、さすがプラウダ高校だな。まさか、IS-2どころか圧倒的な火力のKV-2まで用意しているとは……。
フラッグ車は7両あったT-34/76の内の1両だったか。さっきの奇襲じゃさすがに倒せなかった。うーん、残念。
「あーあ、これで試合終了だったら楽だったんですけどねー。おそらく、フラッグ車はもう前線に出さないでしょうし……」
「何を言ってる。まだ始まったばかりだろ!」
「ええ、それでは会長。お願いしますよ」
「そんな期待されると、真剣にやらなきゃいけないじゃん」
「会長、まるでいつもは真剣ではないみたいですよ……」
会長の言葉に小山先輩が疲れた表情でツッコミを入れる。まったく、そのとおり。この人、今日まで
ほとんど働いてない。
「だってさー、仙道ちゃんってば、砲手やりながら車長も頑張っちゃってたからねー。それを邪魔するのも悪いじゃん」
悪びれもせずに会長はそう言って、砲手席に座る。そう、今回は会長が砲手で私が車長に専念する。
「まぁ、勝てたら許しますよ。会長の怠け癖……。勝てたらですけど……」
「およっ、そりゃあ許してもらえるようにやる気出さなきゃねー」
ふぅ、また1回戦の最初と同じで車長かぁ。
しかし、あのときとは違う点がある。それはもちろん砲手に会長が入ったことだ。
先日、放課後に砲撃の練習場にカメさんチームのみんなで行った。
そのときに会長が見せてくれた砲撃は恐ろしい命中精度だった。私と比べても大差ないほどの砲撃に、舌を巻いてしまった。
いつそんな練習をしたのか全然知らない。会長に聞いても『いやー、いつの間にか出来るようになってたんだよねー』と煙に巻かれてしまった。
その結果、私は車長に専念できる。これは大きい。全体の様子が見渡せて的確な指示を送ることが出来れば、戦車自体の戦力の増加は著しい。
つまり、私が十全に力を振るうことが出来るのだ。
仙道玲香は車長になって変わったと言われたことがある。私が
強力な砲手を手に入れたカメさんチームはあんこうチームほどではないにしろ、今までとは別格の強さを手にすることが出来たのだ。
「では、みほたちの所に帰りましょう。全チームが揃う必要がありますから……」
私は西住さんに倣って半身をキューポラから乗り出して、全体の様子を確認する。
うん、かなり隊列が乱れているな。さすがにあれだけ荒らされたら、カチューシャさんも簡単には統率できないか。
「小山先輩、なるべく相手の戦車に密着してください。同士討ちを怖れて手を出され難くなるので、逆に安全です。会長、私からも指示は出しますが、スキがあれば、私がグロリアーナ戦でやったみたいに履帯を狙って動けなくしてください。ゼロ距離なら撃破も狙っていいです」
「わかった。やってみるね」
「ほいほーい。でも、なるべく指示は頂戴ねー」
「あっ、河嶋先輩は頑張ってください」
「おいっ! ついでっぽい雑な指示をやめろ!」
T-34などの旧ソ連製の戦車の群れに飛び込む私たちカメさんチーム。
カチューシャさんはこちらに気付いて、目を見開いた。
「小山先輩、右手側にフラッグ車です。あちらに行くと見せかけて、左端から抜けましょう。あっ、会長、今です!」
38tの砲撃がT-34の履帯を破壊する。そんな挑発が効いたのか、4両ほどのT-34 が砲撃を開始する。
案の定、フレンドリー・ファイアとなってしまった凶弾。ラッキーなことに1両が撃破判定を受けたようで、カチューシャさんはものすごい目付きで睨んでいた。
そして、この指揮系統が混乱している中でこれ以上荒らされるのが嫌だったからなのか、それ以降は砲撃も控えめになった。
このまま抜けたらノンナさん辺りから砲撃を受けそうなので、最後に煙幕を張ってから逃げだした。多目に煙幕を用意しといてよかった。
「ふう、なんとか抜け出せた――小山先輩! 停車!」
私はあわてて停車の指示を出す。
なんと、まだ煙幕で視界が悪いままなのに、かなり離れたプラウダ本隊から砲弾が飛んできたのだ。
IS-2からだな……。砲手はノンナさんに違いない。行進間射撃でこれほどの精度。
もう少し視界が良かったり、私が車長に専念出来てなかったら撃破されてたかもしれない。
やはり、プラウダの《個の力》で一番警戒すべきはノンナさんだな。
どうにか彼女は撃破しときたいよなー。
しかし、本気で追いかけて来ないところを見ると、隊列を整えて、次の作戦を準備してからスタートするつもりなんだろう。さすがカチューシャさんは冷静に判断している。
並みの隊長なら激怒して突っ込んで来るだろうに。知波単とか特に……。
それから追撃はなく、私たちはプラウダ本隊と距離を置くことに成功した。
「やっほー、みほー、ただいまー。心配した?」
「あっ、お帰りなさい。玲香さん。ううん、玲香さんのこと、信じてたから……」
「そっか、ありがとな。信じてくれて……。じゃあ次の作戦に行くとするか……。一か八かの作戦になるが……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《カチューシャサイド》
「やってくれたわね! レイーチカに、西住流! 何両やられたの!」
「撃破された車両は4両です。さらに今、2両が履帯を修理中です」
一方的にカチューシャたちの車両だけ奇襲でやられちゃうなんて、ホントに屈辱だわ。フラッグ車が無傷でホント良かった。
でも、あなたたちの活躍はここまでよ。
「ムカつくわね。ここまでカチューシャをバカにしたやつらは初めてよ。ノンナっ聞いてる?」
『はい、カチューシャ。いかがなさいますか?』
「とりあえず、フラッグ車は隠すわ。全車を投入するなんて、まだカチューシャはあいつらを侮っていた証拠だもの。あいつらが勝つにはスキを突いてフラッグ車を狙うしか手はない。だったらカチューシャたちはその可能性を確実に握り潰せば、勝手に勝利はカチューシャのもとに転がり込んでくるの」
『フラッグ車に護衛は?』
「そおねぇ、かーべーたんをつけようかしら。後は――」
『なるほど、随分と慎重になりましたね。カチューシャ』
「まぁねー。久しぶりにゾクゾクする相手との勝負だもん。レイーチカのことは頼れる同志たちの次に認めてあげてもいいわ」
さぁ、第二ラウンド開始よ。レイーチカ、西住流!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おいっ、玲香。さっきの作戦だがあれはどういうことだ?」
西住さんから、全車両に作戦が伝えられて、私たちはその下準備を行っている。
どーするもこーするも、私たちはボスの指示に従っておけばいいんだけどねー。
「いいですか、河嶋先輩。4両撃破は出来ましたけど、相手は残り11両。ようやく倍くらいの戦力差です。しかも、相手の得意な雪原で火力も技術も平均値で言えば確実にプラウダが上です。だったら、私たちはどうやって勝てばいいんですか?」
私は河嶋先輩に質問を質問で返した。
「うーむ、根性?」
「先輩はいつからアヒルさんチームになったんですか……。 会長はどうです?」
私は会長に話を振った。いやー、それにしてもさっきの砲撃も見事だったなー。撃破には至らなかったけど、履帯は確実に貫いた。これならあんこうチームとの『あの技』も……。
「まぁ、まともにやって無理なら搦手しかないよねー。スキを突いてズドーンってフラッグ車をやっつけるみたいなー」
「正解です。さすがは会長」
会長は当然状況の把握は出来ていた。
「だったら、さっきみたいに雪の中に隠れるか? デコイはまだあるのだろう?」
「はぁ、あの前回優勝校の隊長であるカチューシャさんに、そんな単細胞みたいに同じ手が効くわけないですよ。それに、カチューシャさんはもうフラッグ車を前線に出しませんよ。どこかに護衛でも付けてひっそりとさせてます」
「はぁ? じゃあ、勝てないじゃないか! というか、誰が単細胞だ! 玲香!」
もう、だから河嶋先輩に説明するのは嫌なんだ。
「あのね、桃ちゃん。だから、フラッグ車を探す部隊と本隊を足止めする部隊に分かれたんだよ」
ここに来て小山先輩がようやく河嶋先輩にツッコミを入れた。
そう、私たちは2手に分かれた。フラッグ車を見つける《納豆小隊》と本隊を足止めする《干しいも小隊》の二つに……。
《納豆小隊》はカバさんチーム、カモさんチーム、そしてフラッグ車のアヒルさんチームの3組。
《干しいも小隊》はあんこうチーム、カメさんチーム、ウサギさんチームの3組だ。
《納豆小隊》はフラッグ車の撃破が無理だった場合、逃げを優先してこちら側と合流するように伝えている。
距離を十分に取るように伝えているし、逃げ方はこの日のために徹底的に練習をした。
「さて、納豆小隊がフラッグ車を探す時間を作って上げなきゃな。みほ、今度は『アレ』を使おう。ノンナさんのIS-2には注意しなきゃな」
「うん、撃破にはこだわらなくていいけど、攻める気持ちは見せないと怯んでくれないもんね」
みほと私は戦車から半身を乗り出して会話する。お互いが車長として共闘するのは、初めてだ。
プラウダは何両で来るのかな? 戦力差が2倍以上なのは間違いないだろうが……。
その答えは間もなくわかった。プラウダの主力が姿を現したからだ。
車両は全部で8両。T-34が7両に、IS-2が加わる形だ。まともにぶつかれば勝てないだろうが……。フラッグ車の護衛は2両だけということが分かり少しだけ安心した。
出来るだけ引っ掻き回して時間を稼ぐぞ!
干しいも小隊! 突撃だ!
お互いの思惑が交錯した中盤戦でしたが、いかがでしたでしょうか?
小隊の名前はセンスがなかったかもしれません。安直すぎた気がします。
次回はいよいよ決着か!?
大洗の運命に注目してあげてください。