「会長、みほと話していたのを見ていたのですか? というか、会長なら知ってるでしょう。みほが転校してきた理由も……」
戦車道を開始するにあたって西住さんを誘おうとするってことは、彼女が何者なのか知っているということ。
それなら会長は絶対に知っている。西住さんが転校した理由を。
それなのに、私に勧誘させようなんて――なんて残酷なんだ……。
「うん、知ってるよー。でもさー、優勝するには必要なんだよねー。西住ちゃんと仙道ちゃんの力がさー」
会長は飄々としながら間延びした声を出す。いや、西住さんが居ても優勝とか無理だから……。
やめてあげて、西住さんの平穏を壊さないで。その尖兵隊に私を入れないでよー。
「無名の新参がぽっと出て優勝出来るほど戦車道は甘くないですよ。楽しくやるんでしたら、経験者は私が入れば十分です。そもそも、なんで優勝したいんですか?」
私はそもそもの疑問点をあげてみた。いくら思い付きが大好きな会長でもバカじゃない。荒唐無稽な話の裏には何か理由があるはずだ。
「それは内緒だよーん」
「また、貴女はそんな意地悪を……。とにかく、みほを誘うのはダメですからね。私はやりませんよ」
「うーん。やっぱりダメって言うかー。まっ、仙道ちゃんのキャラならそだよねー。わかった、仙道ちゃんに頼むのは諦めるよー」
会長は手を振ってこの話題を終えた。
思ったより早く引き下がって意外だったけど、良かった。
戦車道かー。勘を取り戻すのは大変だろうけど頑張ろう。
しかし、会長は全然諦めてなんてなかった。私はすぐにそれを知ることになった――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日の昼休憩の終わり時、会長が河嶋先輩と小山先輩を引き連れて生徒会室を出ていった。
「さっきも3人でコソコソと何か話していたみたいだし、妙だな……」
何か嫌な予感がした私は会長たちの跡をつけてみた。
予感は的中した――案の定、3人が入った教室は2年A組。西住さんのクラスだ。
私は会長を止めようと教室に駆け込む。しかし遅かった――。
「やぁ西住ちゃん、必修選択科目だけどさぁ、戦車道取ってね。仙道ちゃんも履修すっから」
さり気なく私を巻き込む形で会長は西住さんに悪魔のような宣告をする。
西住さんの顔からみるみる生気が消えていく。
「かっ会長! 昨日と約束が違うじゃないですか」
私は会長に詰め寄って抗議する。諦めるって言ってたのに。
「うん、仙道ちゃんに勧誘してもらうのを諦めたんだー。嘘はついてないよー」
「なんだ、玲香。お前がムキになるなんて、珍しいな。とにかく、会長の邪魔をするな!」
「河嶋先輩は黙ってください!」
「ひぃっ、柚子ちゃーん」
私がひと睨みすると、河嶋先輩は副会長の小山先輩に泣きついた。相変わらず豆腐メンタルだな。
「あっ玲香さん。あのう、必修選択科目って、自由に選べるんじゃあ……」
泣きそうな顔で私を見つめる。
「そうだよっ、無理に選ばなくても――」
「河嶋ー、小山ー、仙道ちゃんを連れて帰るよー。んじゃ、西住ちゃん、頼んだよー」
「くっ、先輩たち! 何するんですか!? やめてください!」
河嶋先輩と小山先輩に両腕をガッチリ掴まれて、私は無理やり教室から退場させられる。
西住さんや、多分友達になったのであろう、二人のクラスメート(確か武部さんと五十鈴さんだったかな?)も呆然として私がズルズルと引っ張られる様子を見つめていた。
まぁ、強制じゃないんだし、大丈夫だろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「先輩たちには、失望しましたよ……。そりゃあワガママなところもありますが……、人の嫌がることを強制するような人ではないと思ってました」
生徒会で私は3人の先輩にくってかかった。
会長は私のために医者を見つけてくれたし、小山先輩は仕事を優しく教えてくれた、河嶋先輩だって、リハビリを応援したりしてくれた。
そんなところを知ってるからこそ、私は今回の先輩たちの
「玲香! 口が過ぎるぞ! 会長はな!」
「桃ちゃん!」
河嶋先輩が何かを言おうとしたとき、ポニーテールのナイスバディな女性、小山先輩がそれを止めた。
小山先輩は三人の先輩の中で一番優しくて穏やかな人だ。会長と河嶋先輩はともかく、小山先輩が西住さんの勧誘に協力してるのは一番解せなかった。
しかも、今、河嶋先輩の言おうとしたことを必死に止めてたし……。
「小山先輩、今、河嶋先輩が言おうとしたことを教えてくれませんか?」
私はあえて、小山先輩に尋ねてみた。
「ごめんね。玲香がいくら大切な後輩でもそれは言えないの」
やっぱりいつもの優しい先輩の表情だ。それだけで私は理解した。先輩たちには何かとんでもない理由があって、戦車道の大会で優勝しなくてはならないと思っていることに……。
「そうですか。先輩たちには、何か大きな事情があることは理解できました……。私が全力で戦車道の大会で優勝を目指せるように約束もします。ですから、みほのことはほっといて――」
私は戦車道に全面協力することを約束し、その代わりに西住さんの勧誘を止めるように説得しようとした。
「それは出来ない」
静かに、きっぱりとした口調で会長が否定する。
「なぜですか? 理由は?」
私は納得できないという表情をした。
「中学のときに仙道ちゃんは西住ちゃんに負けてる上に、ブランクがある。どう考えても、黒森峰の副隊長だった西住ちゃんの方が戦力は上だ――」
「……っ」
いきなりの戦力分析に私は思わず声が詰まる。確かに、中学時代、私は西住みほに完敗した。
唐突にその事実を突きつけられて私は絶句してしまったのだ。
「それにさ、仮に仙道ちゃんの方が西住ちゃんより強くてもさ、戦力を放っておく理由は私には無いんだよねー」
更にごもっともな正論を吐く会長。先にそれを言えば良いのに、私の痛いところを突くなんて……。やっぱりこの人には口で勝てる気がしない。
「そうそう、次の授業が終わったらさ、必修選択科目のオリエンテーションをするから。仙道ちゃんも手伝ってよ」
「はぁ、わかりました……」
正攻法で説得は無理だと悟った私は――会長の言葉に頷くだけに留めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
全校生徒を生徒会の名のもとに、集合させて、説明も程々に映像が流れる。
内容は戦車道のPRだ。
「戦車道、それは伝統的な文化であり、世界中で女子の嗜みとして受け継がれて来ました。礼節のある、淑やかで慎ましい、そして、凛々しい婦女子を育成する事を目指した武芸でもあります。
以下省略
さぁ、皆さんも是非とも戦車道を学び、心身ともに健やかで美しい女性になりましょう。来たれ!乙女達!」
破裂音とともに煙が吹き出して、映像は終わる。ナニコレ? 宗教の勧誘? こんなのに今どきの女子高生が釣られるかね?
私が映像が終わったことを確認して、生徒たちの反応を伺っていると、『わぁっ』という歓声が急に上がった。
なんだろう? また、ビジョンに何か写し出されたのか……。えっ? あれって、まさか……。
「なんで、あのポスターが?」
私が振り返ると目に入ったのは昨日演劇部が撮影したポスターがデカデカと引き伸ばされたモノだった。
それは、私が薔薇をくわえながら、キメキメのポーズをとっている一番恥ずかしいヤツである。
その後、小山先輩が戦車道履修者には特典を説明しだした。
なになに、「食堂の食券100枚」「通常授業の3倍の単位」「高級学生寮への入寮」「遅刻見逃し200日」「74アイスクリーム食べ放題券20回分」だって? 盛りすぎでしょ、何考えてるんだろう。
「更にさらに、こちらの戦車道特別指導教官ポスターももれなくプレゼントといたします!」
「おおーっ!」
「へっ? 小山先輩? えっ?」
最後の特典に私はギョッとしてしまった。
いや、どう考えてもおかしいでしょう! 私のポスターを配るってなんだよっ! というか、戦車道特別指導教官ってキャラだったの?
「せっかくの出来だったからついつい量産しちゃったよー」
悪びれることもなく会長はニヤリと笑う。
はぁ、これが同級生の家にあるとか考えるだけで憂鬱なんだけどなー。
果たしてこれだけ特典をつけて、何人集まることやら、西住さんの問題もあるし……。
私は胃と頭が痛くなっていた……。
2次創作って、口調とか仕草を表現するのが難しいですね。