大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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嵐のような準決勝が終わり、今回はちょっとしたオリジナルエピソードです。
よろしくお願いします!


準決勝終了、その後の話……

「やったぞ! みほ! みんなぁ! 私たちはあのプラウダに勝ったんだ!」

 

 全員が集合したとき、私は勝ったという実感が急に湧いてきて西住さんに抱きついた。

 

「きゃっ、ううっ、玲香さん。力が強いよー」

 

「みぽりん、顔が赤いよー」

「あらあら、風邪でも引きましたか? さむかったですからねー」

「うわぁ、早く風邪薬を見つけないとー。西住殿が大変なことにー」

「違うと思うぞ……、単純に西住さんは玲香さんのことを……」

 

「麻子さん! 違うからっ……」

 

 冷泉さんが何か言おうとした瞬間に西住さんは彼女に駆け寄って首を振っていた。何だったんだろう。

 

 おや、カチューシャさんとノンナさんだ。肩車好きだねぇ。

 

 

「はぁ、カチューシャの得意な戦術を次から次へと噛み千切るなんてね……。それに……、まさかノンナまでやられるとは思わなかったわ」

 

 カチューシャさんがそっぽを向きながら話していた。

 

「私もそう思います」

「えっ?」

 

「だって、カチューシャさんの作戦はどれも凄かったから……」

 

「…………そう。とっとにかく貴女たち、大したものよっ! ちょっとだけ認めてあげるわ! ノンナっ!」

 

 カチューシャさんはノンナさんから降ろされて地に足で立つ。少しだけ涙ぐんでいるような……。

 

「んっ……」

「はいっ!」

 

 そして、差し出される小さな手。それを握る西住さん。

 

「レイーチカも、前にカチューシャが指摘した弱点を克服してたみたいね。あんなのずるいじゃない。褒めてあげるわ」

 

「尊敬するカチューシャさんに褒めてもらえるなんて、身に余る光栄です。先ほどは失礼しました」

 

「ああ、一応気にしてたのね。でも……、本当になっちゃったわ……」

 

 今にも泣きそうになるカチューシャさん。すっごく、小さい子いじめた感が出て罪悪感が酷い!

 

「カチューシャさん、失礼!」

「わっ、何を! レイーチカ!」

 

 私はおもむろにカチューシャさんを肩車した。

 

「ありがとうございます! カチューシャさんのおかげで、またウチは1つ強くなれました! このまま私たちは優勝します! カチューシャさんに高みに押し上げてもらった勢いに乗って!」

 

「ふふっ、本当に馬鹿な子ね。そうよっ! カチューシャたちに勝ったんだから、負けるなんて許さないんだから! 決勝戦見に行くから、カチューシャをがっかりさせないでよ!」

 

 上機嫌に笑うカチューシャさん。良かった、泣かないでいてくれて……。

 そして今、ノンナさんの凍てつく視線に殺されそうです。

 

 こうして、私たちは前回優勝のプラウダ高校を破り、新参校がいきなり決勝に進むという快挙を達成したのである。

 

 ただし、まだゴールにはたどり着いてない。

 

 最後に私たちを待ち受けるのは――絶対王者・黒森峰女学園! おそらく、今回以上に苦しい戦いになるだろう……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ううっ、寒いなぁ。さすがにあの格好は耐えられなかったので、ジャージに着替えて大会運営委員に挨拶を済ませてきた。

 

 お客さんも続々と出ていっているな。あれ、あの人は……。

 

 

「あっ! まほさーん! 見に来てくれてたんですね! ありがとうございます! ところでトイレの前で何で立っているのですか?」

 

「玲香か。先ほどの試合は見事だった。1回戦のときよりも強くなったな。ちょっと人を待っているだけだ、君は気にしなくていい」

 

 まほさんはどこか気まずそうな顔をしていた。ははーん、逸見さんを待っているな。みほのことがあるから、ちょっと思うところがあるんだろう。

 

「大丈夫ですよ。別にエリカが居ても――」

「まほ、待たせましたね。ところで、その男性はどちら様ですか?」

 

 長い黒髪の美人がキチッとしたスーツ姿で出てきた。うわぁ、この人、西住流の家元だよね? 確かに雑誌やテレビで見たときはこんな感じだった気がする。てことは、西住姉妹のお母さんか。

 

「あっ、お母様、この方は私の友人でして……」

 

「そう、あなたにもボーイフレンドが出来ていたのですね。しかし、あなたは今、大事な時期です……」

 

「いえ、違うのです。消してそのような浮ついた者ではなくてですね」

 

「浮ついていない? そうですか。結婚を前提でお付き合いしたいとまで考えているのですね? 確かに私も恋愛結婚でしたし、早くにあなたを生みました……」

 

 アカン、まほさんがコミュニケーション下手なせいで、家元の勘違いが加速していっている。なんか聞いてはいけないこと赤裸々に語っている。

 

「あっあのっ! まほさんのお母様! 違うのです! よく間違われるのですが、私の性別は女ですよ! 自己紹介が遅れました、私は大洗女子学園の2年生、仙道玲香です!」

 

「「…………」」

 

 文字通り、場が凍ってしまった……。家元は私の顔を凝視していた。

 

「そうですか、あなたが……」

 

「はいっ! まほさんやみほさんとは、仲良くさせてもらってます。しかし、お二人が羨ましいです。お母様がこんなに若くて美人だなんて……。一瞬、まほさんのお姉様だと思いましたよー」

 

「あっあなたは何を……。――まほ、帰りますよ」

 

 一瞬だけ、西住さんのように顔が紅くなった家元は直ぐに何事もなかったようにまほさんを引き連れて帰って行った。

 あとから、まほさんから「死にたいのか? 無謀なことはやめなさい」とメールが来た。何のことなのかさっぱりである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ってことがあったんだー。なんかまずかったかなー? エリカ」

 

「まずいというか、あなたの正気を疑うわよ。西住流の家元に向かってなんてこと言ってんの?」

 

「そっか、失礼なのか。商店街のオバちゃんは喜んでくれたし、義援金集めにも協力してくれたんだけどなー。あっ、美味しいねコレ。さすが、まほさんのオススメカレーだ」

 

「で、ずっと聞きたかったんだけど、どーしてあなたが黒森峰の食堂でウチの制服着てカレーを食べてるのかしら」

 

「あー、決勝で黒森峰と戦うことになったからねー。スパイ活動?ってやつかな。まっ、もちろん、まほさんの許可取ったけどさー」

 

 そう、私は再び黒森峰に来ている。決勝戦で勝つためのヒントを得るために。  

 まぁ、さすがに決勝の対戦相手の制服で乗り込むのは不味いので黒森峰の制服を着用していた。いやー、1回だけ着てみたかったんだよねー。

 

「どこの世界にこんなに堂々とスパイ活動するバカがいるのよっ! 隊長もなんで許可出してるの?」

 

「だよねー。まほさんってある意味、みほ以上にスキがあるから気をつけたほうがいいよ」

 

「頭痛くなってきたわ。もう考えるのを止めましょう。で、ウチに勝てる策でも見つかったのかしら?」

 

「いや、無理ゲーっぽい。大体、プラウダにだって20両出されたら勝てたかどうか……」

 

「15両に6両で勝つのもどうかしてるわよ。言っとくけど、ウチに油断はないわよ。隊長は過去最強の敵に挑む覚悟を持てってやる気出してるから。もちろん、私も本気で潰す気よ」

 

「はぁ、それは怖いな――」

 

 私はため息をついて、感想を漏らした。本気同士で戦うのは望むところなのだが、負けたら廃校って状況なら慢心して手を抜いてほしい。

 プラウダ戦で私は思いっきりそう思った。カチューシャさんを本気にさせたことを何回後悔したか覚えていない。

 

「なぁ、親友のエリカー。やっぱり、パンター5両くらいはウチに譲ってもバチは当たらないと思うんだ」

 

「いつの間に親友にランクアップしてるのよ! それ、絶対に隊長に言っちゃダメだからね!」

 

 逸見さんはいつもどおりの感じで接してくれる。お互いが決勝の対戦相手の副隊長なのに。やっぱり、いい人だよなー。

 

「あれ? エリカさん、この方は? 見かけない人ですが……」

 

 ショートカットのくせ毛の女性がこちらに話しかけてきた。

 

「どうも、エリカの親友です!」

 

「えっエリカさんに親友?」

 

「そんな訳ないでしょ! でも、意外そうな顔は腹立つわ!」

 

 逸見さんの怒声が食堂で響き渡る。ちょっとはトーンを抑えてほしいな。みんな見てくるし……。

 

「あははっ、ごめんごめん。私は大洗女子学園の戦車道チーム、副隊長の仙道玲香です。決勝では、よろしくお願いします」

 

「えっ、えっ、なぜ大洗の副隊長が黒森峰に居るのですか? まぁいいか。私は2年生の赤星小梅です。よろしくお願いします、でいいのでしょうか?」

 

「隊長の許可取ってきてるみたいだし、いいんじゃないの? でもあなた、順応早くない?」

 

 もう諦めたような表情で逸見さんはそっぽを向く。結構、逸見さんも順応早いと思うけどなー。

 

「大洗ということは、その、みほさんとも――」 

 

「ん? もちろん、みほとも友達ですよ。赤星さんはみほと繫がりがあったのですか?」

 

「ええ、もちろんです。みほさんは、私の恩人でしたから――」

 

 へぇ、なるほど。この人があのときの――。

 

 私は赤星さんと少しだけ話し込んだ。

 去年の決勝戦で川に落ちたこと、西住さんに救われたこと、お礼を言う前に西住さんがいなくなってしまったこと――。

 

「――そうでしたか。でも、気に病まなくて良いですよ。これだけは保証します。みほは、あのときの行動を微塵も後悔していないです。きっと、同じことが起こればまた同じことをするでしょうね。彼女の友人として、それは誇らしいことです」

 

「そうですか……、ありがとうございます。少しだけ、楽になりました」

 

「決勝の挨拶のときにでも、声をかけてくださいよ。どうせ、エリカが嫌味ったらしいことくらいしか言わないんです。それに比べたら、幾分お互いに雰囲気が良くなると思います」

 

「ちょっと、それどーゆー意味よ!」

 

「えっ、だってエリカって、みほを前にして、『弱小校なら、あなたみたいなのでも隊長になれるのね』っとか言いそうじゃん」

 

「あー、エリカさんなら確かに言いそうです」

 

「ちょっと、待ちなさい! さすがに公式戦の場所でそんな礼儀のなってないこと言わないわよ!」

 

 その後、しばらく雑談をして私は帰った。

 

 あー、なんにも黒森峰対策見つからなかったよ。チクショー、戦車が、戦力が足りんのだよ!

 危機感しか持ち帰れなかったが、翌日の作戦会議から戦力増加への兆しが見えたのだ。

 まだ、諦めないぞ! 必ず優勝するからな!

 




物語の進行的にはまったくいらないのですが、ちょっと思いついて書いてしまいました。
いよいよ、決勝戦が近づいて来ました。
アニメ原作はもうそろそろ終わりですねー。
これが終わったら劇場版をやって、それから……。
とりあえず、皮算用せずにアニメ原作終了を目指します。
次回もよろしくお願いします!

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