さて、今回の話は原作の第10話の中盤辺りまでです。
決勝戦を控えた大洗を描きます。
それではよろしくお願いします!
「決勝戦は20両までいいそうだから、ティーガー、パンター、ヤークトパンター。これでは余りにも戦力の差が……」
西住さんは自分の元々いた学校との戦力差に顔を曇らせる。
やっぱりきついな。そもそも、私たちの38tではまともにダメージが与えられん。
黒森峰の様子を見てもみんなやる気満々、王座に何としても返り咲くつもり満々だった。
プラウダ以上に士気は高かった気がする。
「玲香、新しい戦車の購入は無理そうか?」
「頑張って義援金集めたんですけどねー。中古の安物すら無理っぽいです。今ある車両の強化に使ったほうが現実的に戦力アップが見込めそうですよ」
私は会計資料を河嶋先輩に見せながら説明した。戦車ってなんであんなに高いのかねー。
「そうだ、西住、88mm搭載のアレはどんな感じだ? アレさえ使えるようになれば、かなりの戦力アップが見込めるはずだぞ」
「今、自動車部の皆様がレストアされてますが、いつになるのかは――」
このタイミングで小山先輩の携帯の着信が鳴る。
「――はい、はい。わかりました。――レストア完了です」
大洗陣営に希望が訪れた瞬間である。
「うわぁ!」
「すっごーい!」
「強そーう!」
素直に目を輝かせるウサギさんチームの面々、こういう可愛らしいところ、昔の私にもあったと信じたい。
「あー、これ、レア戦車ですよねー」
そんな1年生たち以上に目を輝かせていたのは、もちろん大洗の戦車博士、秋山優花里さんである。ウキウキが止まらないって感じで、散歩に出かけたがる柴犬のようだった。
「ポルシェティーガーか。なんで、また、大洗に……。本当に意味がわからん」
私はちょっと前にレストア中のこの戦車を見せてもらったから嫌な予感はしていた。マジでなんで、こんな世界に10両くらいしかないレア物がここに?
しかも、この戦車は困ったことに……。
「まぁ、地面にめり込んだり……」
「過熱して炎上したり……」
「壊れやすいのが難点ですけど……」
秋山さんが言ったことは、稼働して1分もしない内に起きてしまった。
これって、その、いわゆる……。
「欠陥品だよな、完全に……」
「玲香殿ぉぉ! そんな辛辣なこと言わないでくださいよー。マニアにはたまらない逸品なんですよー」
秋山さんに肩を揺らされながら抗議を受ける。ははっ、だってこんなのマトモに動かせる連中なんているわけがないじゃないか。
「そうだ、ヤフオクに出せば、きっとマニアから高値が!? 相場を調べて、そこから購入できる戦車を……」
私はおもむろに携帯電話を取り出して出品の準備に取り掛かった。任せてくれ、書紀会計として1年間鍛えたこの金銭感覚で必ずや大洗の窮地を……。
「ああーん、玲香殿! そんな現実的な話をしないで下さいよ! もっと夢を見ましょう! このポルシェティーガーが戦場で大活躍する夢を!」
「夢ならアニメでいくらでも見れる! 私は現実を突き進む! ええい、
「ええ、いくらでも
「そうじゃない! 離せと言ってるんだ!」
私と秋山さんが小競り合いをしていると、消火活動をしていた、自動車部のナカジマさんとツチヤさんがこちらに歩いてきた。
「玲香さん、大丈夫ですって、この子は私たちが乗りこなしますよ。ツチヤのドライビングテクニックを信じてあげてください!」
「ちょっと今は手間取っちゃってるけど、そのうちドリフトくらいは出来るようになるよー」
どうやら自動車部の皆さんはこのポルシェティーガーをとても気に入ってしまったらしく、搭乗することが楽しみになっているらしい。
私としても大恩のある自動車部の懇願に対してノーと突っぱねることなど出来るわけもなく、快く了承するしか選択肢はなかった。
まぁ、なんか自動車部なら不可能を可能にしちゃいそうな気もしたし、本心としては秋山さんと同様にポルシェティーガーの活躍が見たかった。頼みますよ、自動車部の皆さん。
かくして、大洗の最強火力チーム、レオポンさんチームが誕生した。
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「とりあえず、ヘッツァー改造キット買ったから」
会長がどんなルートで買ったのかわからないが38tをヘッツァー仕様に改造するための部品を購入してくれた。
はぁ……、これで貧弱な火力から解放される。黒森峰の重戦車にもそこそこダメージが与えられるだろう。撃破するには基本ゼロ距離って何の罰ゲームかと思ってたし。
最近、妙に調子が良いから決勝戦ではもっと研ぎ澄まして頑張りたい。
「あとは、Ⅳ号にシュルツェンでも取り付けますか?」
「おおー、河嶋先輩にしてはまともなこと言ってますねー」
「お前はいちいちうるさいぞ!」
「いいなー、河嶋先輩は玲香さんと仲良くて……」
「「えっ?」」
私と河嶋先輩は顔を見合わせて首を傾げた。
時々、西住さんがよくわからない。天然なのかな?
ともかく、Ⅳ号がパワーアップ。
追加装甲のシュルツェンを加えることで攻防力共に急上昇したH型に改造されたのだ。
「あのぉ、西住さん?」
「あっ、猫田さん」
蚊の鳴くような声で西住さんに声をかけたのは同級生の猫田さんだ。グルグルっとしたメガネとネコミミのカチューシャが特徴の金髪の女性である。
「ボクも戦車道、今から取れないかな?」
「えっ?」
「ぜひ、協力したいんだ。その、操縦は慣れているんだ」
「本当! ありがとう! でも、余っている戦車がどこを探してもないの。ねぇ、玲香さん」
「うん、今、カモさんチームとウサギさんチームが血眼で探してくれているんだけどねー。期待は薄いかな?」
ダメ元で私たちは戦車の捜索を行っている。あとは船底ぐらいしか――いや、あんな無法地帯探せるはずない。
「あの戦車は試合では使わないのかな?」
猫田さんは戦車の場所に心当たりがあるみたいだ。すごく探したんだけど、一体どこだろうか?
――駐車場だった。マジか……。ここって、ウサギさんチームが……。
「あれぇ、この戦車使えるんですかー」
阪口さんがポカンと口をあけてそんなことを言う。
「ずっと置きっぱなしだったから使えないんだと思ってましたー」
大野さんもポカンとした顔だった。
うん、君たちはとりあえず報連相から覚えようか。
かくして三式中戦車チヌが新たに大洗の戦車道チームに加わった。
搭乗員は猫田さんの仲間というがどんな人だろうと思っていると――。
「「わぁ、かっこいいー」」
「みんな、オンラインの戦車ゲームしている仲間です」
「ねこにゃーです」
「おおっ、ももがーです」
「ぴよたんですー」
「うわぁっ、ももがーさんとぴよたんさん……。リアルでは始めましてです……」
桃の形の眼帯をした茶髪のヘソ出しルックの女性が1年生のももがーさん。
デカイ(もはや、説明不要)、3年生の銀髪の女性がぴよたん先輩だ。
「ちょっと待ってくれ、まさか戦車の操縦に慣れてるってゲームのこと?」
「「はいっ!」」
「はぁ!? お前ら戦車道をゲームかなんかと勘違いしとりゃあせんか?」
「ちょっと……、玲香さん?」
私の中の
「走れっ!」
「「えっ?」」
「戦車の洗車は私がやるっ! 終わるまで、グランドをランニング! そのあとは私が徹底的に君たちを鍛える! 安心しろっ! 君たちを決勝戦までに完全なソルジャーに育て上げてみせる! ほらっ! 走った、走った!」
ネトゲチーム、改めアリクイさんチームが誕生した。この子たちは急いで育てないと開始早々撃破される。多少はスパルタで特訓しなくちゃ。
「西住さん、ちょっと彼女たちは別メニューにするから、私に任せてくれ」
「玲香さん、目が怖いよぉ」
「大丈夫、人の限界を見極める作業は得意だから」
「余計怖いなぁ……」
隊長の許可を得て、アリクイさんチームの専属コーチに私は就任した。
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アリクイさんチームの強化に勤しんでいると、時はあっという間に過ぎて、明日は遂に決勝戦だ。
その間にあったことはというと、冷泉さんのお祖母さんが退院したという朗報を聞いたり、五十鈴さんの華道の作品が展覧会で見られるというので見に行ったりした。
五十鈴さん、お母さんに認められて和解できたみたいで良かった。心配だったからなー。
そんな五十鈴さんを寂しげな顔で見ている西住さん。
まほさんのメールによれば、家元は西住さんの勘当を考えてるらしい。そんなに拗れていたとは知らずにこの前はやらかしたなー。
西住さんは私がずっと支えようと誓った瞬間だった。
てなわけで、最後の練習を終えて私は戦車道履修生たちの前で生徒会を代表して、また副隊長として、話をしている。
「明日はいよいよ決勝戦だ。まぁ、優勝なんて荒唐無稽だと思ってたけど、正直言って驚いてる。君たちがここまで強くなったことに……。確かに黒森峰は強敵だし、世間も私たちが勝つとは思ってないだろう。しかし、私たちも強いんだ! きっと、プラウダ戦で見せたような奇跡はもう一度起こる! 勝って、私たちの母校を私たちの手で守ろうじゃないか!」
「「おおーっ!」」
みんなは拳を天に突き上げた。
「よしっ、最後は隊長のみほだっ! ほら、出てきて話してくれ!」
「えっ、私? うっうーん……」
西住さんが私に促されて前に出てくる。
「明日対戦する黒森峰女学園は、私がいた学校です。でも、今はこの大洗女子学園が私の大切な母校で、だから、あの、私も一生懸命、冷静に落ち着いて頑張りますので、皆さんも、頑張りましょう!」
「「おおーっ!」」
西住さんは微笑みながら演説した。不思議とやる気と力が湧いてくるような話だった。
そして、私たちは更に天高く拳を振り上げた……。
明日は勝って、みんなで泣いたり笑ったりしたい――。
大洗の学園艦は私たちのみんなの家なのだから……。
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「おい、玲香は良いのか? 西住たちにご飯に誘われていたみたいだったが……」
生徒会のみんなで下校をしていると、河嶋先輩はそんなことを聞いてきた。
「ああ、それなら河嶋先輩が泣いちゃうからって断っておきましたよ」
「馬鹿者、誰が泣くか!」
いつもの調子で河嶋先輩は激怒する。
「冗談ですって。だって他のチームがみんな全員揃ってるのに私だけ他のチームにお邪魔なんて出来ないじゃないですか」
「それもそうだね。玲香はあんこうチームと仲が良かったから、あんまり気にしてなかったよ」
小山先輩が気がついたような声を出す。
「それに――私が一番この学校で過ごして来たのは生徒会ですから。学校の命運が決まる決戦前の食事くらい尊敬する先輩と取りたいですよ」
まさに私の大洗女子学園での青春は生徒会にずっと振り回されていた。
腕に力がほとんど入らなくなり、思うように動かなくなってイラついていた入学当初。干しいもをかじりながら妙に絡んでくる先輩と出会って運命が変わったんだ。
バカみたいな事にバカみたいに一生懸命になり、バカみたいに笑った日々。いつだって私たちは本気だった。
そして、高校での戦車道を諦めていた私に、打算があったとはいえ、復帰のチャンスを与えてくれた。
「あたしらも負けないくらい、仙道ちゃんに感謝してるんだからね。まったく、仙道ちゃんはあたしらにゃ勿体ないくらい、いーい後輩だよ。なぁ、河嶋ー、小山ー」
「もう二度と言わんが、お前を後輩に持って私は幸せだと思ってる。まったく、最近は腹立つほど会長に似てきたがな」
「玲香が入ってきたおかげで、会長に文句が言える人間が出来たからね。私たちじゃ、言いにくいことも言えるし、年下だけど、いつも頼りにしてたよ。感謝してる」
先輩たちは口々に私を泣かそうとするくらいのことを言ってきた。こっこれって、会長のドッキリでは?
「ドッキリじゃないよー」
「あっ、違いましたか」
心の中を読まれることにも慣れた自分が怖いなー。
さあ、勝負前日には必ず来る店に着いたぞ。
カツカツ食べて、明日も勝つぞ!
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うぷっ、食べすぎた。河嶋先輩、自分のキャパぐらい計算して注文してくださいよ。
頼み過ぎた上に大将がサービス盛りとかするから――。
会長は全然手伝ってくれずに、「仙道ちゃんは、ほら、タッパがあるからさー。イケるっしょ」とか言ってるけど、普通ですからね。五十鈴さんみたいな異次元ブラックホールじゃないですから。
はぁ、随分と遅くなってしまったな。ちょっと作戦を復習したら寝よっと。
ん? こんな時間に着信? 西住さんからか。なんだろう?
『あっ、もしもし、玲香さん? ごめんね、遅くに電話しちゃって』
「ん? 大丈夫だよー。どした?」
『うっうん。なんでもないんだけどね。これから会えないかな? 少しだけでいいから』
西住さんから、思い詰めたような声がしたので、私は自転車を西住さんの寮まで飛ばして行った。
一体、どうしたというのだろうか?
【第63回戦車道全国高校生大会決勝】
大洗女子学園 VS 黒森峰女学園
試合は翌日に迫っていた。
いよいよ明日は決勝戦の前に少しだけオリジナルエピソードを……。
でも、そんなに長くないので、次回はいよいよ黒森峰女学園との決勝戦が始まります。
今まではナメプを消すことで激戦を演出しましたが、原作の決勝戦は割と全力だったんですよねー。
なんとか、原作に負けないくらいの熱戦をお届け出来るように頑張ります。