今回は原作の10話の最後くらいまでです。
よろしくお願いします!
「あっ、玲香さん。ごめんね、こんな時間に呼び出して。どうしても玲香さんに会いたくなったの……。部屋に入って、お茶を出すから」
西住さんはうつむきながらモジモジしながら、そう言った。
一体どうしたんだろう。確か、あんこうチームは西住さんの部屋でご飯会をしてたはずだけど……。
「みんなはもう帰ったんだな。どうしたんだ? なんか、思い詰めたような声だったけど……」
「うん……、ちょっとね……」
西住さんはお茶を出してくれた。これって、グロリアーナ戦のあとに貰ったやつ?
前みたいに二人で並んでベッドに座る。
「沙織さんがね、私に『彼氏のひとりでも作ってみなさいよ』って言ったの……」
「そっかー、まぁ、みほは可愛いからな。出会いがあれば直ぐに彼氏なんか出来るだろ」
武部さんは相変わらずだなー。でも、西住さんが誰かと恋愛なんて今のところ想像できないなー。
「そんなことないよ。それに――」
「ん? それにどうしたんだ?」
「それに、あの、玲香さんは気持ち悪いって思うかもしれないけど……、私が、誰かとね、付き合うとか……、そのう……、恋愛するって、想像するとき、あっ相手が……」
みるみる内に西住さんの顔が真っ赤になる。一体どうしたんだろうか?
「みほの想像の相手がどうしたんだ?」
「うっうん、その相手がね……、玲香さんなんだ……」
そこまで言うと西住さんはうつむいて泣きそうな顔になった。
えっ? それって、どういうこと?
西住さんが恋人を想像するとき、私を想像するってこと? えっええーっ!
「ごめんなさい。気持ち悪いし、引いちゃうよね……。ずっと気になっていて、あの日、玲香さんがここに泊まった日に自分の気持ちに気付いてからは、玲香さんの顔を見るたびに胸のドキドキが止まらなくて……。沙織さんの話を聞いて、明日の試合で全てが決まるって考えたら……、どうしても気持ちを伝えたくて……」
西住さんは頭を上げて、まっすぐに私を見つめた……。
「玲香さん、あなたが好きです。友達としてではなくて、恋愛対象として……」
目がウルウルと涙目になりながら、真剣な顔で西住さんは私に気持ちを吐き出した。
本気なんだろうな……。そっか、あの日のキスって、そういう……。私は自分の唇を指で触って、その時のことを思い出した。
うわっ、私はなんてことしたんだっ! 西住さんの気持ちも知らずに……。
それより、私の気持ちはどうなんだ? 西住さんのことは確かに好きだ。愛おしいとすら思っている。
でも、恋愛対象としては……。
私は西住さんの目をジッと見つめた。泣きそうな瞳に吸い込まれそうになる。
そうか、私は――。
「ごめん、みほ……、私はバカみたいに鈍感だったみたいだ……。君から告白されて、気付いたのだが……、どうやら、私はどうしようもなく、みほのことが好きらしい」
「えっ?」
「だから、その……、そういうことだ。みほと同じ気持ちってことだよ。好きなんだ、みほのことが……。なんか恥ずかしいな……」
「玲香さん……」
西住さんがガバッと抱きついて来た。私はそれを受け止めてギュッと抱き締めた。
「みほってなんか抱き心地がいいな。うん、癒やされる……。マイナスイオンでも出てるんじゃないか?」
「もう、玲香さんったら。――私、すごく幸せなんだよ。嫌われるかもって思ったから……」
「そうか? だったら、決勝戦前にこんなこと言わないと思うけどなー。ホントは自信があったんだろ?」
「玲香さんは意地悪だなぁ。えへへ」
そのあと、しばらく見つめ合って、そしてお互いの唇を重ねた――。あー、コレは抜け出せなくなるやつだ。人をダメにするやつだな。
結局、私はそのまま西住さんの家に泊まって。早朝に自分の部屋に戻って準備することになった。
いやー、決勝戦に遅刻するなんて洒落にならないから……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ごきげんよう、玲香さん」
「あっあれ? ダージリンさんじゃないですか? 来てくれてたんですねー」
私は笑ってダージリンさんの手を握った。
「えっええ。あなた達の応援に……、ねぇ、ペコ」
ダージリンさんは耳の辺りが少しだけ赤くなり、オレンジペコさんに話を振った。
そして、なぜか西住さんに腕を引っ張られてダージリンさんから引き離された。なんかちょっと不機嫌になってる……。あれ?
「まさか、あなた方が決勝戦まで残るとは思いませんでしたわ……」
「私もです」
オレンジペコさんの言葉に微笑んで返す西住さん。さっきの不機嫌な感じは気のせいだったらしい。
「くすっ、そうね、あなた方は毎回、相手の全力を引き出しつつそれを上回るような戦い方を見せて、わたくしたちの予想を覆してきた。今度はどんな戦いを見せてくれるのかしら?」
「頑張ります!」
ダージリンさんの激励に頷く西住さん。わざわざ大洗の陣営まで応援に来てくれるなんていい人だなー。
「みほー、ホワイトデビル!」
ケイさんたち、サンダースの面々も来てくれた。
「また、エキサイティングでクレージーな戦いを見せてね! 期待してるわ!」
「玲香! あんまり無様にやられると私たちも弱いって思われちゃうから、せいぜい頑張るのね!」
ケイさんはみほに、アリサは私に一声かけて行ってしまった。
「ミホーシャ、レイーチカ……、カチューシャ様が見に来てあげたわよ。黒森峰なんてバグラチオン並みにボッコボコにしちゃって」
カチューシャさんとノンナさんまで、激励に来てくれるなんて……。
「じゃっ、頑張ってね。ピロシキー」
「
これだけの面子に応援されたらやる気が出ないわけないな。
「あなたたちは不思議ね、戦った人たちとなぜか仲良くなってしまう」
ダージリンさんは爽やかな笑顔でそんなことを言う。まー、確かに気持ちのいい試合が多かったしなー。
「えっと、それは皆さんが素敵な人たちでしたから……」
「まっ、人に恵まれたのは確かだな。黒森峰ともそうなれば良いのにな」
「玲香さん……」
私と西住さんは今までの対戦を思い出しながら答えた。
「貴女たちにイギリスのことわざを送るわ……、四本足の馬でさえ躓く。強さも勝利も永遠じゃないわ」
「はいっ!」
「じゃっ、最強さんを転ばせに行こっか?」
私と西住さんは同時に返事をした。
よしっ、優勝しちゃうぞ。西住さんと一緒に。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『両チーム、隊長と副隊長は前へ』
審判の号令により、私と西住さんは試合会場の中央に進む。
向こう側からまほさんと逸見さんが歩いてくる。
「久しぶりね、貴女がどれだけ本気なのか見てあげるわ」
「……」
「おい、みほ、なんか答えてあげなよ。エリカのやつ、スゲー大きな独り言を言ったみたいになってるから……」
「ちょっと、玲香! 恥ずかしいフォロー入れないでよ!」
「ああ、エリカは独り言を言っていたのではなかったのか。安心した……」
「たっ隊長?」
まほさんの思わぬ天然炸裂に逸見さんは困り顔をしていた。
「あれ? 仲良くない? 玲香さんと逸見さん……」
西住さんは不思議そうな顔をする。
「ああ、あれだ。私とエリカは友達になったからな。たまにメールもしてるぞ……」
「ふぇ、エリじゃなかった、逸見さんと友達に!? 玲香さんが!?」
「ああ、ちなみにまほさんともお互いの好きなカレー屋さんを教え合う仲だ」
「お姉ちゃんとも!? というか、お姉ちゃんって友達いたんだ……」
「なんか、姉に対して意外と辛辣なんだな……」
「むぅー、お姉ちゃんにも、逸見さんにも、玲香さんは渡さないよ!」
西住さんから謎の宣言が飛び出し苦笑いする私。そっか、さっきからそんなことを心配してたのか。
「あんた、何を宣言してるの……」
これには逸見さんも唖然である。
「あの、そろそろ試合を始めたいのだけど……」
審判長の蝶野さんが遠慮がちに話しかける。ああ、申し訳ない。
「両チーム、代表者、礼!」
「「よろしくお願いします!」」
さて、挨拶も済んだし、そろそろかな……。
「みほさんっ!」
赤星さんが西住さんに駆け寄る。あのときのお礼を言っているみたいだ。
彼女はあのことがきっかけで西住さんが戦車道をやめないか、どうかが気になっていたようだ。
「私はやめないよ! 戦車道!」
西住さんは力強く答える。
この宣言は実は私も嬉しかったりする。これから先、西住さんと一緒に進んで行けるんだ……。更に高いところへ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「相手は先日のプラウダと同様におそらく火力に物を言わせて一気に攻め込んできます。ですから、出来るだけ早く陣地を獲得して長期戦に持ち込みましょう。相手とはスタート地点がかなり離れていますから、すぐに遭遇することは無いと思います。ですから、試合開始と共に速やかに207地点へ移動しましょう」
西住さんは作戦の最終確認を終える。いよいよ開始か。体が溶けそうなくらい熱い。早く戦いたいなー。
「では、みなさん! 各車に乗り込んでください!」
「「はいっ!」」
そして、私たちは自分達の車両へ乗り込んだ。
さあ、いよいよ最後の戦いが始まるぞ。絶対に優勝旗を大洗に持って帰るんだ。
「みほ、いよいよだな。これに勝ったらさ。今度こそ本当のデートしような。好きだよ、みほ」
私は西住さんに耳打ちする。
「ふぇっ、そっそうだね。玲香さん……、不意打ちは酷いよ……」
「ははっ、みほにはマトモに行っても勝てないからな。試合ではスキを見せるなよ」
「むぅー、絶対に約束守ってね。私、頑張るから!」
そう言って、私はヘッツァーに、西住さんはⅣ号に向かって歩いた。
「仙道ちゃーん。今日は何だかイキイキしてるじゃん。緊張はないのー」
ヘッツァーに全員が乗り込むと、会長はにへらと笑いながら尋ねてきた。
「うーん、今日は凄く寝覚めが良かったんですよね。そしたら、何か怖いとか、負けたらとか、そういう感情がどっかに飛んで行ってしまって……、今は感覚が研ぎ澄まされて、何両でも撃破出来そうな気分です。今日の私は調子がいいですよ! 準決勝よりも!」
私は今朝、西住さんと同じベッドで目覚めたわけだけど、妙に高揚した気分がずっと続いていた。
でも、頭の中はスッキリしていて、ちょうど中学時代の決勝戦のときの万能感に似た感覚を再び体験していたのだ。
「ほう、それは頼もしいな。期待してるぞ、玲香」
「ええ、私も頼りにしてますよ。先輩」
そう言うと、河嶋先輩は変な顔で私を見つめた。
「お前、本当に玲香か? 軽口を叩かないなんて……、変なもの食べたのではないか」
「なんですか、藪から棒に……。劣勢になってもいつもみたいにパニクるなとか、ちょっと有利だからって増長するなとか。諦めてすぐ泣くなとか、まだ色々とありますが、どれを言ってほしかったのです?」
「玲香! おっお前というやつは! だが、それでこそお前らしい! 今日は特別に許す!」
河嶋先輩が腕を組んで顔を背けた。へぇ、いつもと雰囲気が違うんだな。
「小山先輩にも、今日は無茶ぶりが多いかと思いますが、今日だけは無理をしてもらいます」
「うん、構わないよ。どんな要求にだって答えるから、安心してね」
安定感のある小山先輩の一言に癒やされながら、遂に試合は開始されら私たちは出発した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『こちらはあんこうチーム、207地点まであと2キロ。今のところ黒森峰の姿は見えません。ですが、皆さん油断せずに行きましょう。交信終わります』
アマチュア無線2級をいつの間にか取得したという武部さんからの通信を聞き、最初の目的地が近いことを意識する。
しかし、本当に何もないのだろうか?
――そんなことを思っていた時だ。左側面から砲撃を受ける。
「森の中をショートカットしてきたのか!」
河嶋先輩の言うとおり、黒森峰は森の中を突っ切って最速でこちらに強襲を仕掛けた。
はぁ、まほさんらしい苛烈な戦術だな。なんで、私たちは想定しなかったのだろう。
「まっ、仕方ないですね。来ちゃったんだったら逃げるしかないですし」
「呑気なこと言う取る場合か」
『各車両、なるべくジグザグに動いてください』
西住さんからの指示により、私たちは逃げの一手を取ることになった。
「小山先輩、左側120度曲がって。会長、あの不届き者を威嚇してあげてください」
「わかった」
「あいよ!」
私はあんこうチームからは死角になる位置からフラッグ車である彼女らを狙うティーガーⅡを威嚇射撃する。
砲弾はティーガーⅡの車体を掠めるだけだったが、あちらからの砲撃をブレさせることに成功してあんこうチームへの不意打ちは失敗に終わった。
「じゃっ、逃げますか。そろそろ、私たちは逃げだけは一級品だって自信を持って良いはずですよねー」
「そういや、そうだねー」
「そんな情けない自信など要らん!」
「はいはい、桃ちゃん。でも、今は逃げるときだから……」
いつもの調子のカメさんチーム。しかし、やはり砲撃の威力が上がったのは大きいな……。
そんな中、私は小さな手応えを感じていた。
黒森峰、もう少し後で存分に私たちの力を見せてやる!
決勝戦はまだ始まったばかりだ……。
とりあえずアリクイさんチームはまだ生き残りました。
さて、ここから徐々に原作と変わった展開をお見せしたいところです。
次回もぜひ、よろしくお願いします!