まだまだ序盤っぽいですけど、主にカメさんチーム視点なので、どのくらいの長さになるのか書いておきながら予想できないです(笑)
それではよろしくお願いします!
『もくもく作戦開始!』
大洗の車両から煙幕が展張されて黒森峰の車両の目を遮る。
これで軽々には撃って来ないだろうし、あちらの重戦車よりフットワークは軽いから追いつかれないだろう。
鈍足のポルシェティーガーもワイヤーでしっかり固定して引っ張って運んでるし。
「おいっ、玲香! 大丈夫なのか! 置いてかれたぞ!」
「私たちは奇襲するから別行動って、さっきの作戦会議でも言ってたでしょう。楽しい時間を貰えたんです。頑張りましょう」
「あれは楽しいとは言えないんじゃない?」
「いいよねー。スリルがあってー」
「みほは、履帯破壊くらいでいいって言ってましたけど、撃破したいですねー」
そんなわけで、私たちは回り道をしつつ、黒森峰が通るであろうルートを予測して、森の中に身を潜めて待ち伏せをしているのである。
「さすがにここからフラッグ車は無理っぽいですねー。まほさんスキがなさ過ぎ……。会長、今です――」
まずは一撃目でヤークトパンターの履帯破壊。
「もう一発行けます!」
そして次はパンターG型の履帯に命中。さすがは会長。停車状態だとホントに外さないな。
「そろそろこっちも狙われてるよー」
「んじゃ、バックしながらもう一発。ほら、勇み足でこっちに向かおうとしてる粗忽者を狙ってください」
そして、後ろに下がりながら、威嚇のつもりで放った一撃が見事にパンターG型の履帯を貫く。
「一応、逃げるふりしときましょう。そうしないと、みほたちのお客様の到着が遅れちゃいますから」
そして我々は森の奥に撤退して身を潜めた。案の定こちらを深追いすることなく、履帯を破壊された車両以外はウチの主力が待ち構える高地へと向かって行ったのだ。
そっちの健闘を祈る。こっちはこっちで――。
「さて、207地点で戦闘が開始されました。次の作戦まで少々時間がありますから、やり残した仕事を片付けましょう」
「ああ、いいねー」
私の言葉に反応して、会長はニヤリと笑う。割と危険な仕事でも肯定的に楽しんで捉えてくれる会長とは、本当に気が合う。
「玲香、隊長はそこまでしなくてもってー」
小山先輩が不安そうな声を出す。
「はい、後は私の判断に任せるって、みほは言ってました。まぁ、履帯を壊された3両なんてプラウダに包囲されたときよりマシですって。それに……、最後の最後で黒森峰の戦力を少しずつ削ったことの意味が絶対に出てきます。数の差はすなわち連中の自信。戦力差が減っていくというのは中々の恐怖なんです」
「なーんて言ってるけどさー。本当は抑えられないんでしょー。仙道ちゃん、凶悪な顔になってるよー」
「あははっ、バレちゃいました? まっ、危険に感じたら無理せずに撤退しますんで、ちょっとだけ私のワガママに付き合ってくださいよ」
「まったく、何かと理屈を並べてると思ったら、ストレス解消とは」
「ストレス解消に黒森峰の戦車を撃破って、怖い後輩を持ったなー」
そんなことを言いつつ、小山先輩は履帯破壊されたヤークトパンターたちのところまで戦車を走らせてくれた。
案の定、のんきに履帯を直してた黒森峰の選手たち。ちっとは警戒してると思ったんだけど……。
しかし、こちらの接近に気づくと、さすがに迅速なスピードで戦車に乗り込んだ。うーん、修理に時間のかかっているヤークトパンターを守ろうって感じだな。じゃあ、まずは前の2両のパンターG型から……。
「大きく左に……、そして、少しだけ右にフェイントをいれて、もう一回左! 停車! そして、右です! 撃てっ!」
「一瞬だけ後方に下がり、全速前進! 左にフェイントかけて、右! そして、停車から、左! よし、装填時間内は撃たれません。まっすぐに近づいて、停車! 撃てっ!」
今朝から感じていた鋭敏な感覚は相手の戦車の動きを手に取るように教えてくれて――。外に顔を出せば、まるで光の道が出来るように安全地帯が頭の中に浮かんでくる。
私はそのレールに案内するだけでいい。最速で最短の撃破へのルートがそれだからだ……。
ヤークトパンターの履帯修理が終わったとき。2両のパンターG型からは白旗が上がっていた――。
「なっ、あんたらなんてことしてるのー!」
ヤークトパンターの車長がぎょっとした顔でこちらを見ていた。
そんなことより、守るべきものがあるよね?
「会長ー」
「あいよー」
私の号令でヤークトパンターの履帯をとりあえず破壊しとく。頑張って直したところ、悪いね。
「ウチの履帯は重いんだぞー」
「そうですか。もう修理する必要ありませんよ」
「えっ!?」
「左側から背後に回り込んで、密着! 会長!」
「ほいさっ!」
ゼロ距離からの砲撃でヤークトパンターの背後を目掛けて強烈な一撃を加える。
うーん、黒森峰って個人の判断で行動するの遅いなー。大会終わったらまほさんに教えておこうか。いい車両に乗っているのに消極的過ぎる。
『玲香さん、大丈夫ですか?』
「ん? みほか。こっちは3両撃破しといたよー」
『さすがは玲香さん。そろそろ、こちらは撤退しようと思ってます』
「オッケーだ。じゃあ始めるか」
「「おちょくり作戦開始!」」
高地は黒森峰が大戦力で侵攻中だった。
うわぁ、先日見せてもらった重戦車たちがウチの戦車たちに容赦なく襲いかかってるなー。
「小山先輩、要するにプラウダの時と同じです。戦車に密着しとけば、あいつら攻撃しませんよ。してくれたらありがたいって感じです。ルートは責任を持って私が指示を出します。会長も砲撃準備は怠らないでください。河嶋先輩は頑張って」
「わかったよ。やっぱり怖い」
「小山ーガンバだよー」
「もう頑張ってる! 馬鹿者!」
軽口を叩きながら、私たちは黒森峰の重戦車軍団に突入を開始した。
「右です、そこは左によって、少しだけ右、ちょっとだけバックでもしてみます? はい、左から、直進しばらく、そして右」
ウネウネと黒森峰の戦車の間を縫って走り、時々トリッキーな動きで挑発する。
ちょっとふざけた動きをしながら、満面の笑みで黒森峰の戦車に手を振ってあげると、割と挑発に乗ってくれて、砲撃してきてくれた。
格下に挑発されるのって名門校の子には有効かなって思ったけど、思った以上の効果で怖い。この子たちはよく訓練されてるが、突発的な事態に対処するのは著しく苦手のようだ。会長に撃たせるまでもないな。
同士討ちまでするとは……。
「やっ、お疲れ様! 思ったよりも策にハマってくれてるね」
最後に煙幕をはって逃げ出すことに成功し、我々はチームと合流する。
「うん、このまま、あの場所に向かうけど……」
「追ってきてるな。ティーガーⅡが……。任せろ、私が止めてやる。なんだったら撃破だって……」
「でっでも、これだけ走ればきっと足回りに……」
「まぁ、その可能性もないことは無いが……。偶然の産物に頼るのはなるべくやめよう」
「それでも、ヘッツァーだけじゃ……。だって、あのティーガーⅡは多分……」
「エリカだろ? それくらいは分かるよ。あれは、他の車両とは別格で強い。だったらさ、1両借りて行っても良いか?」
「えっ? あっ、うん。どのチームを?」
「アリクイさんチームだ。ここ最近は彼女らと特訓してたから、連携が取りやすい」
「わかった。玲香さんに任せるよ。頑張って」
「うん、行ってくる」
西住さんの目を見つめながら微笑んで、彼女も同様に見つめ返す。
ははっ、全然心配してないなー。信じてもらえてるってことで良いのかな? じゃあそれに応えなきゃな。
1両だけで先行して追ってくるティーガーⅡを待ち受ける、カメさんチームとアリクイさんチーム。
アリクイさんチームに搭乗する3人に共通した弱点は体力不足とパワー不足だった。
砲弾は重いし、操縦するにも力と体力がいる。車長には特に必要ないが、不測の事態には役割交代だってあり得るので、とにかく体を鍛えることから始まった。
玲香副隊長による、レイカ・ザ・ブートキャンプである。生徒会で体育祭前に悪ふざけで買った、酸素カプセルや様々なプロテインが役に立つときが来たのだ。
とにかく、通常の訓練に加えて、筋トレを徹底的にさせた。
そして、アリクイさんチームは目覚めた、鋼の肉体に! えっと……、その、片手で砲弾掴んでいるんだけど……、短期間でこんなにパワーってつくのかね? すごいね、人体……。
「基本的に私たちが引っ掻き回すが、アリクイさんチームも止まらずに的を絞らせないように動いてくれ。当てることに拘らなくて構わないから、ドンドン数を撃って気を逸らせて。それだけでもかなりのストレスになるから」
どうせ狙って当たるもんでもないから、手数を優先してもらった。当てるのはこっちの仕事だし。
『れっ、玲香さん……、ボクらを見捨てないで鍛えてくれて……、ありがとう。みんな、やる気満々だよ……』
「お礼を言いたいのはこっちだ。慣れないことを強制させてすまなかった。ちょっとハードだったよな」
『うっうん。ちょっとどころか、控えめに言って地獄だったし、みんなで玲香さんを呪おうってネットで呪いの藁人形を注文したりしたけど……、今、戦車を動かせて……、感謝してるよ……』
「ん? 今、聞き流せないようなこと……」
『あっ、ティーガーが来たみたいだね。頑張ろうね、玲香さん』
今度があるなら、少しだけ優しくしよう……。
さて、久しぶりだね。逸見さんと戦うのは……。
「まさか、あなたが待ち伏せてるなんてね……」
「悪いね、エリカ。君を止めるのに2両使わせてもらうよ」
「舐めないでもらえる! 貧弱な車両が2両揃ったところで、私を止められるものか!」
「うーん、舐めてるのは、たったの1両でノコノコ現れた――君の方だろ?」
「なっ、調子に乗るなよ! 玲香ぁぁぁ!」
「かかってこいよ、エリカぁぁぁ!」
「「撃てっ!」」
同時に号令して、戦いの幕が切って落とされた。
「右です、その後、砲撃来ますが、左に逃げつつ前進! 会長!」
相手の動きを読んだ上で放たれる凶弾――しかし、黒森峰の副隊長は伊達じゃない。瞬時に車体の角度を変えてこちらの攻撃を装甲の厚いところで受け止める。やるなぁ、最短の防ぎ方だ……。
アリクイさんチームは装填手と砲手が兼任なのにも関わらず、なかなかのペースで砲撃を続ける。いや、短時間でよく成長してくれた。恨まれてるんだろうけど……。
グズグズしてると、黒森峰の本隊がこちらに来て袋叩きにされちゃうな。
仕方ない、一度しか使えない手を使うか。
一流の戦車乗りを相手にしか使えない必殺技を――。
「やるなぁ! エリカ! 中学のときよりずっと強い!」
私は大声でエリカに声をかけた。
「当たり前よ! 話しかけて気を逸らそうとしても無駄よ!」
逸見さんが私を睨みつける。そして、私も睨み返す――。
「そうか! なっ、まさか!」
私は驚いた顔をして、視線を遥か遠くに追いやる!
「えっ?」
逸見さんは私の目に注目していたがために、突然の私の反応に反射的に応えてしまって、視線を追った――。
「スキみっけた。会長!」
「あいよー!」
「しまっ……! 撃てっ!」
大きな破裂音が2つほぼ同時に発生する。
ヘッツァーの砲弾は見事にティーガーⅡの履帯を破壊して動きを止めた。
ふぅ、これで追われることはなくなったか。早く離脱しなくては……。
『すみません、玲香さん。ボクたち……、撃破されました……』
ねこにゃーさんの悲痛な声。なんと、三式から白旗が上がっていたのだ。
逸見さん、あの瞬間に……、なんて判断力だ……。
相手の思った以上の強さに舌を巻きながらも、アリクイさんチームに怪我の有無を尋ねる。よかった、全員無事か。
「はじめての戦いで、よく頑張ったね。君らが居なかったら、この足止めは失敗して大ピンチになっていたよ。ありがとう、無駄にしないから――」
『うん、学校を守ってね。みんな……』
アリクイさんチームが脱落して私たちは残り7両となった。依然として戦力差は厳しいけど……。負けないからな……。
逸見さんのティーガーⅡの足止めに成功した私たちは、追ってくる黒森峰本隊から身を隠しつつ、先に行っている大洗本隊との合流を目指す。
そして、その先に待ち受けるのは、まさに死闘であった――。
戦車の知識が皆無なので調べながら書いてます。変なところがあったらすみません。
地団駄エリカなど、居なかった。
私はナンバー2同士の戦いって好きなんですけど、どうですか?
最後の玲香の切り札は『はじめの一歩』の青木勝の得意技のひとつの『よそ見』みたいなものです。
それでは、次回もよろしくお願いします。