大洗のボーイッシュな書記会計   作:春日闇夜
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主人公をカメさんチームに入れて良かったと思ったのは、決勝戦の前半、単独行動が多かったことですね。
そのおかげで色んなエピソードを挟みやすかったです。
それでは、よろしくお願いします!


大洗女子学園VS黒森峰女学園 その3

 何とか黒森峰本隊から身を隠した私たちは、チームとの合流を目指して急いでいた。

 何事も起こらなきゃいいけど、時間はそこまで余裕があるわけじゃないし……。

 

「予定なら、そろそろあの川を越えていると思ったのですが……、変ですね……」

 

 私たちは身を隠しながら、川越えをしようとしてる、仲間たちの異変に気がついた……。

 

『エンジンがかかりません!』

 

「なっ……、ウサギさんチームに……、エンジントラブルか……」

 

 川の中央でウサギさんチームがエンストして動けなくなってしまったみたいなのだ。

 

「なるほど、セオリーなら、ウサギさんチームはここで――」

 

「切り捨てると言うのか?」

 

 河嶋先輩は何とも言えない表情で私を見た。

 

「普通はそうでしょう。1両のために全てが危険に晒されるなんて、愚かですから。でも、みほは見捨てませんよ。絶対に……」

 

 私の信じたとおり、西住さんはウサギさんチームを見捨てたりしなかった。

 戦車をいなばの白ウサギのように飛び移って、M3リーまで辿り着いたのだ。

 

 そして、必死になってワイヤーを使って、他の車両と連結させて逃げる準備を行っていた。

 

 そうこうするうちに、黒森峰の本隊も履帯を直した逸見さんも追いついてきて、あちらの様子を窺っている。

 

「そうか、負けを覚悟しても仲間を救うか……、私たちの隊長は馬鹿なのだな」

 

「似たようなもんじゃないですか、私たちはみんな。だから、毒のある役回りは私らが引き受けてるんですよ。誰よりも優しくて、仲間のためにこそ強くなる、それがみほの戦車道ですから。だから、私はみほに憧れて、共に戦車道をやりたいって思ったんです」

 

 良かった……。無事に川を越えられそうだ……。

 こんなの見せられたら、廃校とか関係なく負けられないじゃないか。

 

 

 

 みほ、君の戦車道の強さ――私が証明して見せるよ――。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 もう一回、スキを見て黒森峰の車両に一撃を与えようとしたら、まほさんと目が合っちゃった。

 

 笑顔で手を振ってやり過ごそうとしたら、まほさんったら、他の車両を先に行かせて私を追いかけて来た。

 ティーガーⅠとヘッツァーがにらめっこしている。

 

「ちょっと、まほさん! フラッグ車の隊長が何やってるんですか?」

 

「どうするもこうするも、不穏因子には消えてもらおうと思ってな。プラウダ戦を見て思った。玲香よ、君をみほの元へは行かせない。エリカで無理なら私が出るのが一番被害が少なかろう」

 

 まほさんから獰猛な猛獣のような殺気が迸る。やばい、あれはやばい……、高校戦車道最強と言われる黒森峰の隊長が殺る気満々だよ――。

 

 

 その時の私の気分と言ったら、なんていうか、そのう――。

 

 

「もう、最っ高です! 私も貴女とはずぅーっとヤリたいと思ってましたから! じゃあ、優勝旗を頂いちゃいますねー!」

 

「ふっ、私も君と戦ってみたかった。しかし、玲香――君はまだ私やみほには及ばない……」

 

「会長!」

「撃てっ……」

 

 ヘッツァーとティーガーⅠのタイマンが始まった。相手はフラッグ車だ。倒せば、大洗女子学園の優勝! つまり、廃校は撤回されるんだ!

 

 

 

 

「左に2回、右に1回フェイント入れて、左に回り込みます! ――なっ、どうしてこっちに砲塔が!? 緊急回避!」

 

 何度もティーガーⅠの意表を突くために、先輩たちに指示を出して挑むが、まほさんの野生の動物のような鋭い視線からは逃れられない。

 

 くそっ、化物めっ! 逸見さんには悪いけどさっきの戦いとは格が違う……。

 

「参りましたね……。どうにも、勝てないっぽいです」

 

「呑気に情けないこと言っとる場合か!」

 

 いやいや、私の認識が甘かった……。観戦するだけじゃあ全然分からなかった……。

 

 まほさんが強いのはもちろん知ってたけど、こんな異次元とは思わなかった。先読みの深さと洞察力が半端ないんだ。

 フェイントにも全然引っかからない上に、こっちが動こうとする位置に砲撃を先回りさせる。

 

 未来予知と読心術が使えるみたいだ……。

 そういえば、西住さんも似たような部分がある。こりゃあ、将棋も独学でやってあれだけ強いわけだ……。

 

「ちっ、先読みがなんだっ! こっちのフェイントが通じないなら、真正面から突っ込んで捨て身で一撃食らわせてやる! とにかく、ノーダメージで帰すわけには――」

 

 私は小山先輩にジグザグに動きつつティーガーⅠに突撃するように指示を出した。

 

 ――そのときである。頭に浮かんだのは金髪の少女の笑顔であった。

 

『レイーチカには笑わせてもらったわ! フラッグ車を囮に出したら、飢えたヒグマみたいに簡単に罠の前に出てくれるんだから。こんなに仕留めやすい獲物ったら無いわ』

 

「全速後退! 会長っ!」

 

 小山先輩に咄嗟に後退の指示を出し、会長に威嚇射撃させる。ティーガーⅠからの砲撃はかなりズレたところに着弾した。

 

 まほさん、これは予測してなかったみたいだな。

 まさか、こちらの殺気を読んでいるのか? だから、攻める気がない動きはそこまで正確には読めない……。

 

 しかし、まだまだピンチだ……。どうしよう……。

 

 頭の中に金髪の紅茶を飲んでいる淑女の姿が浮かぶ……。

 

『玲香さん、こんな言葉を知っているかしら、《勝つべからず者は守なり》。戦力が足りないと自覚するのなら、守りを重視するものよ』

 

「小山先輩、もう一度、アタック仕掛けると見せかけて急旋回! 会長! その間に一発撃ち込んでください!」

 

 私は逃げを選択した。実力不足を実感するのは、死ぬほど悔しい。でも、ここでもし撃破なんてされたら死んでも死にきれない!

 

『ホワイトデビルっ! あなたを待っている仲間が居るんでしょ! チーム一丸となっての強さ、それがあなたたちのストロングなところじゃない!』

 

「煙幕をはって逃げます! 小山先輩出来るだけ広範囲に煙が撒かれるように大きく蛇行してください!」

 

『今は敵わなくても、次は負けない、じゃなかった、絶対に勝つって思えるように頑張ればいいんだ。今の自分に出来ることを冷静に考えろ』

 

 なんで、こんなピンチのときに――思い浮かぶのは、敵だった先輩たちの顔なのだろうか……。

 

 はぁ、なんとか撃破されずに逃げ切れたか……。

 

「このまま、市街地を目指して、チームと合流を試みます。冷静に考えれば、まほさんが指揮を放ったらかしにして、本気で私を追いかけて来るはずないんだ。でも、フラッグ車という餌で私を釘付けにして仕留めようと考えた……。くそっ、1回戦で自分が使った手で窮地に陥るとは……」

 

 敗北感と苦い気持ちを噛み締めながら、合流を目指す。序盤で感じていた妙な万能感は跡形もなく消し飛んで、自信は砕かれていた。

 

 まほさんの目的はこれもあったのかな? 

 

 相手の心を折るほどの、徹底的な勝つための戦車道――撃てば必中、守りは堅く、進む姿に乱れなし――西住みほとは違い、彼女は西住流そのものだった――。

 

「まだわかんないよー。今の戦いは別に仙道ちゃんが負けたわけじゃないしねー」

 

「えっ? 会長?」

 

「だってさー、姉住ちゃんの目的はヘッツァーの撃破っしょ? あたしらは、ちゃんと逃げ切っているからねー。つまり、相手の目的を挫いてやったってこと。今頃、あっちも悔しがってると思うよー」

 

「うん、玲香と西住さんを合流させない目的なら、チームと合流した時点でこっちの勝ちだよ」

 

「勝ちたいという気持ちを抑えて、冷静に判断したんだ。良くやったぞ、玲香」

 

 私が気分を落としているのを察した先輩たちは優しい言葉をかけてくれる。

 

 そうだよね。今の私の役割はフラッグ車の撃破ではない。

 それに、西住さんと一緒に戦えたら――。

 

「すみません。ちょっと鼻がへし折られて、ナーバスになっていました。もう大丈夫です! 勝てるように実力に見合った行動で最善を尽くしましょう!」

 

 私はどうにか立ち直り、勝利のために自分の役割を果たす決意をした。待っててくれ、西住さん、みんな……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 市街地にたどり着き、チームとの合流ポイントに向かう――。今のところ静かだけど……。

 

 そんなとき、少しだけ離れた位置から巨大な砲撃の音が聞こえた。えっ? ありえない大きさだったけど……。

 

「なっ、何なんだ? 今、とんでもない轟音が聞こえたぞ……」

 

 慌てて音のした方角に向かうと、ひっくり返って白旗を上げているルノーB1bisの姿と、ボロボロになって白旗を上げているⅢ突の姿が見えた。

 さらに逃げ腰になっているチームのみんなの砲塔の先を見てみる……。

 

 あははっ、いくらなんでも大人気ないような……。まさか、超重戦車のマウスまで出てきたとは……。

 

「なんかすごいタイミングで合流したなー」

 

『あっ、玲香さん。良かった、無事だったんだね』

 

 西住さんから嬉しそうな声で通信が入る。まぁ、良かったのかなー。これって大ピンチっぽくないか?

 

「うーん、アレどうしよっか? あまり時間かけられそうにないぞ……」

 

 とりあえず、スキだらけで煽っていたⅢ号を屠ってから私は西住さんと相談した。

 あのマウスは正面から全チームの砲撃をマトモに受けてもケロッとしてる。あんなのチートすぎる。

 

『幾ら装甲の厚いマウスでもスリットに至近距離から当てることが出来れば、Ⅳ号の砲撃でも撃破出来るけど……、狙っているうちにこっちがやられちゃう……』

 

「だったらチームプレーだな。私たちがマウスの攻撃を無力化させよう――。あんなデカいのぶら下げてるんだ。スキをつけば私なら……」

 

『――わかりました。玲香さんを信じます』

 

「会長、砲手を代わってください。行進間射撃ですが、鈍足のマウスくらい任意の場所に当ててみせます」

 

 

 ヘッツァーとⅣ号が縦列に並び、マウスに向かって走る。

 こちらに砲塔が向いて砲撃が放たれる刹那、同時に2台は揃ってマウスの左側面側の坂を登る。

 

 マウスの砲身がこちらを向く……。まだ遠いな――。精神を集中……。

 

「小山先輩……今!」

 

 マウスの砲撃の瞬間を見極め指示を出し、寸前で最短の動きで避ける。爆風で車体が揺れる……。あんなの喰らえば即撃破されてしまう。だから……。

 

「上から、この至近距離なら――その自慢の150mm砲を――破壊できるっ! 今だっ!」

 

 私は狙いを定めて砲弾を放った――。

 ヘッツァーの砲弾はマウスの長い主砲の砲身を上方から潰すように直撃して曲げることに成功する。

 

 まだ、終わってないぞ――。今度は……。

 

「小山先輩、また来ます……」

「わかってる」

 

 副砲からの攻撃のタイミングを読み切り、これもギリギリで躱す。

 

「副砲は砲身が短いけど――集中……」

 

 精神を集中させて、狙いを定める。多分、これは今の大洗で私にしか出来ないことだから――。必ず成功させる……。

 さらにもう一発! 

 

 時々、放った瞬間に命中を確信することがある。まさにこの一撃はそんな砲撃であった――。

 

 マウスの主砲と副砲を封じることに成功……。

 

 

 自慢の攻撃力を失ったマウスなど、恐れるべくもなく……。

 

『撃てー!』

 

 Ⅳ号が上から正確にスリットを射抜き――超重戦車マウスは白旗を上げる結果となったのだ。

 

 

 

 ふぅ、なんとか遭遇戦を開始する前に強敵を撃破することに成功したな。私たちは市街地で待ち伏せて黒森峰の主力との戦いに備える。

 

 ええーっと黒森峰の残りって、向こうは11両くらいだっけ? しかも、エレファントにヤークトティーガー、エリカのティーガーⅡに、まほさんのティーガーⅠまでいる。

 

 こちらの戦力はあんこう、カメさん、ウサギさん、アヒルさん、レオポンさんの5両。

 戦車のスペックも上、数は倍以上で遭遇戦をせねばならない。

 

 西住さんの作戦は最終的に敵のフラッグ車とあんこうチームとの一騎打ちに持ち込むことだ。

 

 それには超えなくてはならないハードルがまだまだ多いけど、決まっていることがある。

 この遭遇戦ですべての決着がつくということ。

 

 つまり、大洗女子学園の命運が決まるということである。

 

「みほ、最後の戦いだ。悔いのないようにな」

 

『うん、玲香さん。一緒にがんばろう』

 

「ははっ、みほと一緒に戦えて私は幸せだよ」

 

『ありがとう。玲香さん……』

 

 

 

 そして、黒森峰女学園の主力部隊がついに、市街地へと足を踏み入れた。

 




マウスの倒し方、正直に言いますと思い付きませんでした……。
あの戦車強すぎるし、だからといってカメさんチームはまだ撃破されるわけにはいかない……。少し強引で申し訳ありません。

まほVS玲香はやりたかったエピソードだったので、挟むことが出来て満足です。
次で決勝戦は終わりです。アニメ原作が無事に終わりそうなので少しだけ安堵しています。

次回もよろしくお願いします!


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