大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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今は改めてますが、最初に投稿した段階で大学を見に行くのを最終日にしていましたが、最終日前日に変更しました。
イギリスというか、キャンパス見学が思った以上の長さになってしまって1話に収まらなかったので2話にします。
オリジナルエピソードですが、よろしくお願いします。


大学選抜戦編
イギリス旅行とキャンパス見学


「なんていうか、その、長かったな……、ここまで……。安いからって飛行機を乗り継ぐことになるなんて……」

 

「でも、空港のラウンジって広いんだねー。海外って初めてだから楽しかったよー」

 

「えっ、初めてなの? それでも、パスポートは持ってたんだ」

 

「うん! 黒森峰にいた時、本当はお姉ちゃんとドイツに短期留学する予定だったから、そのときに作ったんだー」

 

 西住さんは終始テンションが高かった。まぁ、私も西住さんと旅行に行けて楽しいけど……。

 しかし、もう夕方か。ロンドンはサマータイム中だから、日本とは時差が8時間。

 なんか、時差ボケとか気分が高揚しててよくわからん。

 

「とりあえず、観光は明日からにして、ホテルにチェックインしよう。夕飯はその後でいいだろ?」

 

「うん、それでいいよー。玲香さんは何か食べたいものあるかな?」

 

「ん? カレー」

 

「あー、玲香さんはカレーが好きだもんねー。じゃあ、カレーが食べれるとこ探そうかー」

 

 いかん、冗談でカレーって言ったんだけど、西住さんには通じなかったか。

 武部さんあたりだったら、「そんなプランじゃモテモテになれないよー」とか言うんだろうけど……。

 

「ははっ、冗談だよ、みほ。せっかくなんだ、せっかくなんだイギリスっぽいものを食べに行こう。ほらっ」

 

 私はみほに手を差し出した。

 学校だとまだ堂々と恋人って言うのは恥ずかしいから内緒にしとこうって話し合った。

 だけど、ここは海外だ。思う存分、恋人として堂々と振る舞えるぞ。

 

「うん! やっぱり楽しいねー」

 

 西住さんは笑顔で手を握ってくれた。あー、会長、ありがとうございます。

 

 およそ2時間後……、私たちは本当にカレーにしておけば良かったと、後悔することになる。

 ごめん、イギリスのレストラン……、口に合わなかったよ……。

 

 その話は置いといて、会長の悪意を感じたのは、ホテルの部屋をツインではなくダブルベッドルームで取っていたことだ。やっぱり、会長は知っている……。

 なぜ知っているのか考えると頭痛がするので考えないことにした。

 

 とりあえず、食事も済んだし、シャワーも浴びたから、寝る前に明日回るところでも話そうかとガイドブックをごそごそと探していたら、西住さんはスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。

 

 まぁ、ついこの前まで戦場の中に居たようなものだった上に、長距離の移動で疲れたのだろう。飛行機でもあまり寝れなかったし。

 

 じゃあ……、私が調べて……置くか……。

 

 イギリス旅行、初日……、思いっきり寝る……。

 

 

 駄目だー、せっかく海外に来て寝るって、何考えてんだー。

 

「えへへ、玲香さんと一緒に寝たら、すっごくよく眠れたよ(天使の笑顔)」

 

 海外に来て、思いっきり寝過ごして、この余裕とは――西住さんの強さの秘密がわかった気がした。

 

 とりあえず、ベッタベタな観光名所を2日かけて見て回った。ビッグ・ベンとか、バッキンガム宮殿とか、タワーブリッジとか……。

 

 生徒会や戦車道で忙殺されて気付かなかったが、私たちって本当に遊び慣れてない。こういうとき、武部さんのありがたさがよく分かった。

 

 ロンドン・アイっていう観覧車で私たちは新しい戦術について話し合うって、とことん戦車道から離れられないんだなと、実感した。

 

 そんなこんなで3日目は遂にボービントン大学の見学である。

 ロンドンから片道2時間以上かけて広大な敷地にそびえる歴史のありそうな大きなキャンパスにたどり着く。

 イギリスの戦車道の人口は日本の3倍以上と言われて、プロリーグがあるのでレベルは日本よりも高い。

 スター選手ともなると、契約金だけで数十億円と言われて、CMなどにも出ているのでスポンサー契約も含めるととんでもない年収という噂だ。

 

 なので、戦車道ドリームを掴むために幼いときから英才教育なんてざらにあるのだ。

 

 だからこそ、欧州の戦車道のレベルを体感出来れば、私たちがこの先、練習メニューを考える上で大いに参考になるだろう。

 

「確か正門の前で待ち合わせだったな。緊張するよなー、こっちの大学のエースに会えるなんて」

 

「うん、私は人見知りだからちゃんと話せるか不安だよー」

 

「ははっ、確かにみほは怖がりだもんなー。いい人だったら良いな」

 

 そんなことを話していたら、キャンパスの方からこちらに手を振って歩いてくる銀髪のポニーテールの女性が見えた。

 

「ごめんなさいねー。ちょっと遅かったかしら? あなたたちが角谷さんが言っていた大洗の子達ね。特徴を聞いていたから、すぐにわかったわ」

 

 凛々しい顔つきでアメジストのような瞳の色白の美人が声をかけてきた。

 

「そうです。私は大洗女子学園の戦車道チームで副隊長をやっております。仙道玲香です」

 

「はっ初めまして。大洗女子学園の戦車道チームで隊長をしてます。西住みほです」

 

 私たちは少し緊張して頭を下げた。

 うわー、大人っぽい人だなー。しかも、女優さんみたいに綺麗な人だ……。

 

「うふふ、日本の高校の大会での優勝校の隊長と副隊長に会えて嬉しいわ。あたしはアリシア=シマダよ。アリシアって呼んでくれて良いわ。今日1日、あなたたちにこの学校を案内するからよろしくね」

 

 ニコリと微笑むアリシアさんはとても感じのいい人だった。

 もっと偉そうな人かと思ったから安心したよ。西住さんも安堵してる。

 

「さっそく案内してあげたいんだけど、もう一組、一緒にまわる子たちが居るから、少しだけ待ってくれるかしら?」

 

 アリシアが言うにはキャンパス見学にもう一組、彼女にガイドを頼んだ人たちがいるみたいだ。

 

 なので、私と西住さんはしばらく正門の前でもう一組の到着を待つ。

 

「それにしてもさ、イギリスの大学って言っても、日本とあんまり学生の感じは変わらないな。てっきりグロリアーナの生徒みたいな人ばかりだと思ってたよ。紅茶を持ってさ、こう、『みほさん、こんな話を知ってるかしら』っみたいにさー」

 

「あはは、玲香さん、似てるー」

 

 西住さんにダージリンさんの物まねがウケた。

 だって、あの学校はイギリスをイメージしてるって言ってたからてっきり本場はもっとすごいって思ったんだもん。

 

「玲香さん、こんな言葉を知っているかしら? 《別れの痛みは、再会の喜びに比べれば何でもない》」

 

「チャールズ・ディケンズ(英国の小説家)ですね」

 

「うわぁぁぁ! ダージリン様ぁぁぁ! バカでっかい大学であそばされるですわー」

 

 聞き覚えのありすぎる声に私と西住さんはギョッとして振り返った。

 まさか、アリシアさんが待っている、もう一組って……。

 

「お久しぶり、というほどではありませんね。玲香さん、みほさん。まさか、異国の地で貴女たちと巡り会えるなんて思いませんでした」

 

「ダージリン様が留学される大学の候補を一緒に見て回っていたのですが、まさか、大洗の方々と再会できるなんて驚きましたわ」

 

「あー、この方々はー! 優勝校の人たちですわねー! こっちの方、くっそイケメンであらせられますわー!」

 

 ダージリンさんとオレンジペコさん、そして何だか落ち着きのないピンクのウェーブがかった髪の女の子がアリシアさんの元へ歩いていく。

 

「来たわね、聖グロリアーナ女学院の皆さん。あなたがダージリンという方? こっちで勉強したいって中々やる気があるわね。アリシア=シマダよ。よろしくね」

 

「ええ、よろしくお願いしますわ。アリシア様とお会いできて光栄ですの」

 

 ダージリンさんはアリシアさんに礼儀正しく頭を下げた。随分と畏まった感じなんだな。

 

「もう、堅苦しくしなくていいわよ。日本人と会うのは久しぶりなの。もっとフランクに話したいわね」

 

 イギリス人は二枚舌だと言うが、これはどちらなんだろう?

 

「ダージリン様、この方、超絶美人ですわー! わたくし、ローズヒップと言いますのー。よろしくですわー」

 

 落ち着きのないピンクの子はローズヒップというらしい。紅茶の名前持ちってことは幹部なんだろうけど、大丈夫か?

 

「ローズヒップ。あまり、はしゃいではなりませんよ。人を指さしては失礼です。申し訳ありません、こちらのローズヒップが失礼を……」

 

「あら、元気があって、あたしはこの子のこと好きだわ。ダージリンさんも肩の力を抜いて、せっかく来てくれたんだから、楽しく回りましょう」

 

 アリシアさんは楽しそうに笑い、さっそく構内を案内してくれることになった。 

 

「ここが、戦略資料室よ。実際の戦争での戦略資料はもちろんだけど、世界中の戦車道における戦いの歴史資料もどこよりも多く取り揃えているわ。やっぱり、新しいことも大事だけど、ある程度パターン化されている部分もあるから、昔のことを知っておくって大事なの」

 

 市の図書館くらいの大きさのフロアにずらりと並ぶ資料集を見て、私たちは圧倒されてしまった。

 

 知識の面でも私たち、日本の戦車道の選手は大きく遅れを取っているのかもしれない。

 

「ここは、シミュレーションフロアよ。今はVRを利用した本格戦闘訓練が出来るから、室内で実戦さながらの練習が出来るわ。AIも実際のプロ選手からデータを取っているから、かなり高水準の戦いを披露してくれるしね。やっぱり、こなした戦闘回数が物を言う世界だから、これからさらに重要になってくるはずよ」

 

 なんか、ゲームセンターみたいに見えるが違うようだ。色々な戦車の中を再現した小さな部屋がいくつも並んでいて、チームで利用できるようになっている。

 確かにこれなら戦車が壊れたりしないし、体力的にも楽だから実戦に近い練習としては、かなり効率が良さそうだ。

 でも、こんな設備、大洗女子学園じゃ買えないだろうな。私がどんなに予算をやりくりしても……。

 

「そして、お待たせしたわね。ここが大訓練場よ。まぁ、ここはあまり貴女たちの学校と代わり映えしないでしょうけどね。今は5対5の殲滅戦を3つのグループに分けてやっているの」

 

 大訓練場は高地や草原があったり、市街地をモチーフにした場所があったりと、様々な場所を想定した訓練が可能となっていた。

 そしてとにかく1つの町なのかってほど大きい。

 

 アリシアさん、私の学校とは代わり映えしまくるから……。

 

「うわー、大きいねー。玲香さん」

 

「ああ、何かこう、スケールの違いを実感するなー。世界観が変わったよ」

 

 西住さんと私は訓練場の大きさに感嘆していた。

 

「あら、あれはセンチュリオンですわね。わたくし、あの車両が一番好きですの」

 

 ダージリンさんが見ている方向には、イギリスの誇る高性能戦車、センチュリオンが動いていた。あれって、確か、ギリギリルール内でセーフの戦車だっけ? 世界大戦時に設計図は出来ていたからオッケーみたいな。

 

「ああ、あたしの車両もセンチュリオンよ。車長をやってるの」

 

「あら、そうでしたの。アリシア様が羨ましいですわ――」

 

 ダージリンさんが実感の籠もった声でそう言った。何か悩みでもあるのかな?

 

「アリシア様、5対5の殲滅戦の練習にはどのような意味があるのですか?」

 

 オレンジペコさんがアリシアさんに訓練内容の意味を質問した。

 

「ああ、それは世界大会を意識してるのよ。世界大会は5両同士の殲滅戦を最大3セットやって2セット先取した国の勝ちっていうルールが採用されることが濃厚になっているから」

 

 アリシアさんが説明をする。

 ふーん、世界戦はやっぱりプロ仕様の殲滅戦になるんだ。なんか、聖グロリアーナとの練習試合を思い出すな。

 

「貴女たちの決勝戦での戦いを見せてもらったわ。最後のフラッグ車同士の戦い、見事だったわよ。でもね、フラッグ戦は所詮は欠陥のある戦なのよ。やっぱり偶然、弱いチームが勝つってことがあり得るから。だから、貴女方もプロを意識するなら殲滅戦に慣れておいた方が良いわよ」

 

 殲滅戦こそがチームの総合力を顕著に表すかー。確かに全国大会のルールが殲滅戦だったら、優勝なんて絶対に無理だったもんなー。

 

「さあ、貴女たちも見てばかりじゃつまらなかったでしょう? どう、これから殲滅戦の訓練に混ざらない? 日本の高校生の力を知りたいの」

 

 アリシアさんが私たちを練習に誘ってくれた。うわぁっ、イギリスの名門大学の練習に混ざれるなんてまたとない経験だぞ。

 

「アリシアさんっ、日本人の高校生なんて入れるつもりなの? 止めなさいよ! 自信喪失させちゃうわよ!(英語です)」

 

 突如、アリシアに大声で注意する大柄な金髪のショートカットの女性が現れた。うわっ、私より大きい女の子初めて見た。180cm以上は軽くあるな、さすがは欧州……。

 

「シンディ、彼女たちは日本の優勝校とベスト4にまで行った子たちよ。才能豊かな子たちだから大丈夫よ(英語です)」

 

「はっ、どうだか? 私もあなたと決勝の動画見たけど、あんなの負けた隊長が無能の雑魚だっただけじゃない。あの子、日本の最大流派のニシズミ流とかいうところの家元の娘なんでしょ。それがあの程度なんだから、やるだけ無駄よ(英語です)」

 

 ちなみに、私は英語はネイティブレベルである。だから、まほさんの悪口は聞こえたし、聞き捨てならなかった。

 ダージリンさんも憮然とした表情みたいだから、分かっているようだ。

 

「だったら、試してみます? ああ、でも恥ずかしいですよねー。散々、日本の高校の戦車道を馬鹿にして撃破されるのは……(英語です)」

 

 私はシンディとかいうデカイ女に向かってそう言った。

 

「はぁ? 日本のガキが生意気言ってんじゃないわよ! いいわ! やってやろうじゃない。アリシアっ! 日本人との実力の差を見せつけるわよ!(英語です)」

 

 シンディは思ったとおりに挑発に乗り、私たちと戦う意思を見せた。そして、また私はやってしまったと後悔をしていた。

 

「あははっ、玲香さんって面白い子ね。この大学は1軍と2軍に別れているけど、シンディは1年生ながら1軍にいるくらい強い子よ。そうねぇ、戦車のスペックで差が出ても詰まらないわね。マチルダだけを使って殲滅戦の練習試合をしましょうか。シンディに是非とも、ひと泡吹かせてね。じゃあ、15分ほど時間をあげるから貴女たち5人の役割を決めておいてちょうだい」

 

 アリシアさんは上機嫌になって練習試合を提案した。よし、日本の高校生の力を見せてやるぞ! 

 

 こうして、西住さんと私の大洗女子学園の隊長と副隊長と、さらに聖グロリアーナ女学院の3人が1つの戦車で一緒に戦うことになった。

 

 イギリスの名門大学の実力はどんなものか分からない。

 しかし、私はまほさんや、日本のライバルたちを軽んじたことは撤回してもらえるように全力で戦おうと誓ったのだった。




大洗、聖グロ連合誕生です。
ライバル同士が手を組むって展開好きなんですよねー。
だからこそ劇場版は本当に好きです。
全国大会では思ったよりも聖グロとの絡みが出来なかったので、楽しんで書いてます。

世界大会のルールは適当に考えただけなんで、今のところは気にしないでください。
次回もよろしくお願いします!

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