いよいよ劇場版に手を付けてしまいました。
エキシビションマッチから、登場人物の多さにドン引きしていますが、面白く出来るように頑張りますのでよろしくお願いします!
旅行から帰ってきたらすぐに夏休みがやって来て、私たちはようやく学園艦が守れたと実感していた。
しかし、夏休みだろうと生徒会の仕事は無くならない。それどころか準決勝前あたりから溜まっていった仕事がタワーを作っていて、私たちは毎日遅くまで学校で業務に勤しんでいた。
あんこうチームのみんなや、時には西住さん一人が生徒会にやって来て仕事を手伝ってくれた時には、泣きそうになるくらい感謝した。
あまり西住さんとはデートに行けなかったが、よくお互いの家に泊まったりはしていた。
しかし、泊まった日は寝すぎてしまって遅刻しそうになり、会長にニヤニヤした顔で見られたりした。
みんなが助けてくれたおかげで、仕事にも余裕が出てきた夏休みのある日……。
「エキシビション……、ですか?」
私と西住さんが会長に話があると言われて聞いてみれば、『大洗優勝記念エキシビションマッチ』の企画の話を出された。
「そ、せっかく優勝したからさぁ、それを全面に押し出して大洗女子学園を盛り上げたいんだよねー。でさー、各校に予定を聞いてみたら、プラウダ高校と聖グロリアーナ女学院と知波単学園が協力にオッケーしてくれたんだー」
ふーむ、プラウダとグロリアーナは関わりがあるけど、知波単はあまり知らないんだよねー。
やたら、無謀な突撃をする学校ってことぐらいしか……。
「知波単の隊長は仙道ちゃんや西住ちゃんと同じ2年生が新たに務めるみたいでねー。優勝校の隊長、副隊長が同じ学年ってことで是非とも勉強させてほしいってはりきってたよー」
へぇー、そうなんだ。どんな人だろう。楽しみだなぁ。
「じゃあ、4校が一緒に試合をするのでしたら2校ずつに分けて混成チームで戦う感じになりますかね?」
「それなんだけどさー、聖グロリアーナもプラウダも大洗と戦いたいって引かなかったんだよー。だから、ウチは知波単と組んでやることになったよー」
強豪から完全にマークされてるのか……。光栄だけど、来年はさらに厳しい戦いになるんだろうなー。
「ダージリンさんとカチューシャさんが手を組むなんて、想像したくないな。だけど、私たちも簡単に負けるんじゃ、優勝校として情けないから――勝つつもりで挑もう。なっ? みほ」
「うん、エキシビションだから、あまり勝敗にこだわりすぎるのも良くないけど、手を抜いたら失礼だもんね。一緒に作戦を考えようね、玲香さん」
私と西住さんは顔を見合わせて頷いた。また、カチューシャさんやダージリンさんと戦えるのかー。
今回は負けたら廃校とかじゃないから、精神的に楽だ。
てか、もう二度とあんな馬鹿みたいな緊張感で試合なんてやりたくない。
と、言うわけで戦車道チームのみんなは夏休みだというのに快くエキシビションへの参加を了承してくれて、練習も真夏だというのに熱を入れて頑張った。
あー、この学校で戦車道がやれるなんて、やっぱり幸せだなー。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あーしまった……不覚だ……。明日の作戦を練っていたらアラームかけずに寝てしまって、寝坊したー! 西住さんから電話が無かったら完全に試合に間に合わなかったぞー。
集合場所に走る私、ん、あの人――財布を落としたぞ……。
「あっ、あのう、財布を落としましたよ……」
私は黒い高そうなスーツを着た眼鏡の男性に声をかけた。
急いでいたけど、見過ごす訳にはいかないからね。
「これは、どうも……」
眼鏡の男は会釈をして財布を受け取った。
こんな暑い休日にスーツを着て仕事なんて大変だなー。
「暑い中、大変ですねー。お仕事ですかー? 私なんてこんな涼しい格好でもヘトヘトになりそうですよー」
「ええ、まぁ。お嬢さんは夏休みではないのですか?」
「あははっ、ご存知かもしれませんが、これから戦車道の試合をやるんですよー。私はその選手なんで、これから試合に出るんです」
「ほう、そうでしたか」
戦車道という言葉を聞いて、眼鏡の男は一瞬ビクッと動いた気がした。戦車道のこと嫌いなのかな。
「それでは、私はこれで……。お仕事頑張ってください!」
私が笑って手を振ると、彼は小さく振り返してくれた。
いやー、こんな猛暑でもちゃんとお勤めしてる人って偉いなー。
私もああいう大人を見習わなきゃ。遅刻する副隊長なんて本当にダメだ。
「ごめーん、みんな、遅れちゃったよ」
「れいれい遅いよー。もうみんな集合してるよ」
「すまない、おっ沙織、リップグロス変えた? いい感じゃん」
「変えてないよ……。でも、いい感じって言ってくれてありがとう」
適当なこと言ってすまん。
「あー、玲香さん。よかった、間に合って。こちら、知波単学園の隊長の西絹代さん。西さん、こちらは大洗女子学園の副隊長の仙道玲香です」
西住さんの隣には、凛々しい顔つきの黒髪のロングヘアの女性。知波単学園の隊長、西絹代さんがビシッと姿勢を正して直立していた。
「西絹代です。今日は勉強させていただきます!」
「ああ、西さんですね。みほからの紹介もありましたが、大洗女子学園の戦車道チームで副隊長をやってます。仙道玲香です。玲香って呼んでください」
私は右手を差し出して、なるべく緊張を解そうと笑顔を作った。
「……はっ、玲香副隊長ですね。よろしくお願いします!」
西さんは少しだけ顔を赤くしてフリーズしていたが、ハッとした表情で両手で私の右手を握った。
「まぁ、そんなに固くならないでいいよ。ウチは隊長も副隊長も2年生なんだし、もっと気楽にいこう」
「いえ、そういうわけには……」
西さんの背中を叩いて、そう声をかけた。彼女は少しだけ困ったような笑顔を向けていた。
いやー、知波単はお嬢様学校と聞いていたけど、同じ礼儀正しいでも、グロリアーナとも違う感じだな。なんというか、大和撫子って感じだ。
「ミホーシャ、レイーチカ、久しぶりね。カチューシャ様が戦いにきてあげたわよ!」
「みほさん、玲香さん、イギリスで会って以来ですね。今日はいい試合をしましょう」
カチューシャさんとダージリンさんがこちらの陣営に挨拶に来てくれた。もちろん、ノンナさんとオレンジペコさんを引き連れて。
あれ? ノンナさんの隣の金髪の人って誰だろう? どう見ても海外の人だよな。
「カチューシャさん、ダージリンさん。今日はわざわざ大洗までありがとうございます。エキシビションですが、勝つつもりで挑ませてもらいますので、よろしくお願いします」
「さすがはレイーチカ。堂々と勝利宣言なんていい度胸じゃない! でも、勝つのはカチューシャよ。ねっ、ノンナ、クラーラ」
「「
へぇ、金髪の女の子はクラーラさんっていうのか、ロシアの人かな?
「わたくしも負けるつもりはありませんの。素敵な戦いを期待してます」
ダージリンさんははっきりと宣言した。
闘志を迸らせながら、二人の隊長の目が光る。やっぱり、煽るクセどうにかしないとなー。
【大洗女子学園優勝記念エキシビションマッチ】
大洗女子学園・知波単学園VS聖グロリアーナ女学院・プラウダ高校
試合開始!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふぅ、どうにか作戦がハマってくれたなー。知波単学園の子たちも普通に上手いし、全国大会も黒森峰が相手じゃなきゃいい所まで行けたんじゃないか? 噂じゃ突撃ばかりの、考えなしって聞いていたけど……」
「そだねー。今日は楽できそうだよー」
干しいもかじって、ふんぞり返っている会長。今日はニートスタイルみたいだ。
だから、私は砲手と車長を兼任している。
廃校の件がないからって露骨に手を抜かないで欲しい。
「しかし、知波単の連中はパンツァー・フォーの意味もわからんみたいだったぞ」
「まっ、あんなのドイツ語ですからねー。どこの学校も使ってるわけじゃないですよ。私なんて、中学のときは普通に戦車前進って言ってましたから、こっちで始めたばかりの頃は慣れなかったです」
河嶋先輩が知波単学園に対してボヤキを入れたので、フォローしておく。
しかし、西住さんは全国大会以降、さらに腕を上げたな。今回は今までにないくらい鮮やかに作戦がキマって聖グロリアーナの戦車をゴルフ場のバンカーに釘付けにしている。まさか、あんな手があるなんて……。
そして、今、大洗知波単連合は砲撃の準備を整えてるところだ。
『大洗知波単連合、攻撃部隊準備整いました。守備隊の様子はどうですか?』
『じわじわ来てるよー。ええーっと……、あと、5分だって。でも、どっちにしても長く保たないからねー』
西住さんが、守備隊としてプラウダを抑えているレオポンさんチームたちの状況を確認する。どうやら抑えられる時間は大体5分と言うところらしい。
まぁ、5分あればなんとかなるでしょ。
『……ふぅ、砲撃開始!』
西住さんの号令で砲撃が開始される。
よし、狙いを定めて……っと。私はマチルダを狙って砲弾を放つ。
あれま、今日は調子悪いみたいだなー。当たんないぞ、まったく。
こういうときって、至近距離まで近付いて、スリルでも与えて貰わなきゃ精度上がんないんだよねー。
くぅー、突撃したいなー! この当たらないモヤモヤっとした状況が私の中の闘争本能を誘惑する。
まぁ、さすがに命令を無視って突撃かましたりはしないけどねー。
おおーっ、さすがは五十鈴さん。見事に当てるなー。もはや私よりも安定感を含めると優れた砲手になってるだろう。
まったく、あんこうチームは天才揃いだから困る。それと比べてウチの正砲手ときたら……。
「ん? 仙道ちゃん、干しいも食べるー」
はぁ、今日は期待しないでおこう。
「玲香! お前、一発も当たってないぞ! このノーコンが!」
「はぁ? よりによって河嶋先輩にノーコンって言われたくないんですけど。逆に百発百中のクセに!」
「なんだとっ! 馬鹿玲香!」
「もー、桃ちゃんも玲香も、こんな時に喧嘩しないでよ」
私と河嶋先輩が言い争いを始めると、小山先輩がそれを止める。うーん、それにしても今日は不調だぞ。困ったな。
知波単の子たちがマチルダを撃破して異様に盛り上がっている。なんか、写真撮ってるし、すげー年代モノのカメラだな、それ……。
というか、どうしたんだ? 知波単学園の人たち、えっ? なんでグロリアーナ目がけて突っ込んでんの? この状況でそんなことできるなんて――。
「ふふっ、面白いじゃん。いいねー、知波単学園。好きだよ、私はそういうの。会長、みほと繋いでください」
「あいよっ!」
『玲香さん、どうしましたか?』
「いや、知波単の子たちがさ、突っ込んで行ったから、私も突撃しちゃって良いかなって、許可貰おうと思ってさ。面白いと思うんだよね、どうせ、グロリアーナに致命傷与えられないんだったら、リスキーでも攻めるだけ攻めるのも……」
『ふふっ、玲香さんらしいですね。では、お願いしても良いですか? くれぐれも無理はしないでください』
「了解! てことで、小山先輩、得意の戦車の中への突撃をお願いします。大洗の切り込み隊長の力を見せてやりましょう」
「玲香? いつから、私の特技は戦車たちの中への突撃になったのかな? そりゃ、基本ゼロ距離を強制されてたけど……」
「にしし、仙道ちゃん、いい口実が出来て良かったねー」
「はて? なんのことやら、わかりませんね」
と言うわけで、私たちも知波単の戦車に混ざって突撃を開始した。
うーん、このスリル、緊張感、生存本能が掻き立てられて集中力増してきた――。
炎天下の中で開始したエキシビションマッチはまだ始まったばかりである――。
働き者の黒スーツ眼鏡を応援する玲香。果たしてこの男の正体は誰なのでしょう?
西さんの口調が意外と難しい……。
前回はローズヒップに苦労しましたが、それ以上かも。
全国大会で玲香は割と突撃ばかりしてた気がするので、今回のような感じにしてみましたが、いかがでしたでしょうか?
次もよろしくお願いします!