翌日の昼休憩、私はどーしても気になって西住さんの様子を見ようと彼女を探した。
ちょうど食堂で武部さんと五十鈴さんと食事をしているみたいだったので、話しかけてみることにした。
「やぁ、みほ。それに、ええーっと武部さんと五十鈴さんだっけ? 一緒に座っても良いかな?」
私は出来るだけフレンドリーに声をかけた。
「あら、貴女は確か、昨日教室に来られていた、生徒会の書記会計の――」
「みほを説得しようったって駄目なんだからね! もう華道を選択したんだから!」
五十鈴さんが生徒会と口にした瞬間、武部さんが西住さんを守るように捲し立てる。
良かった。この二人はとても良い子みたいだ。西住さんの事情をどこまで知っているか分からないが守ってあげている。
私はかなり安心した。なんだ、やっぱりいい友達がすぐに出来たじゃないか。
「あの、武部さん、五十鈴さん、違うの。玲香さんは私の友達」
西住さんははっきりとした口調で『友達』を強調した。ちょっと元気がなさそうだけど、大丈夫そうだな。
「みほの……」
「お友達ですか」
二人は顔を見合わせた後、私を見た。
「あっ、いや、そのう。先輩たちが昨日はすまないことをした。私はみほの味方だから、無理やり戦車道を履修させるのには反対してるんだ。武部さんや五十鈴さんには、要らない警戒をさせてしまって悪かった」
私は頭を下げた。そりゃ、昨日のあの感じを見たら私は生徒会の手先に見えるのは無理ない。
「いえいえ、わたくしこそ、タイマンをはって叩き潰そうとか思ってしまい申し訳ありませんでした」
「ちょっと、華、発想が怖いから。あははっ、ごめんねー。つい、大声出しちゃって」
五十鈴さんと武部さんは笑って許してくれた。あー、良かった。
ついでに私はみほの隣に腰掛ける。
「でも良かったよ。みほにちゃんと友達が出来ていて。心配してたんだ」
「玲香さん、心配してくれてありがとう。それで……、昨日の話なんだけど、玲香さんは戦車道をとるの?」
西住さんは意外にも自分から戦車道の話題を振ってきた。嫌な話だからこれ以上するつもりはなかったんだけどな。
武部さんと五十鈴さんも首を傾げていた。
「うん。取るよ。みほには、あまり言うつもりはなかったんだけど、私は凄く戦車道がやりたかったんだ……」
私ははっきりと宣言した。友達には嘘は付けないからね。
「えっと、仙道さん。そんなに戦車道がやりたかったのに何でまた、戦車道のなかった大洗女子に入ったの?」
武部さんが興味深いといった表情で質問した。まぁ、そこは気になるよねー。
「うん、大洗女子に入った理由はね。戦車道が無かったからなんだ」
私は矛盾した答えを告げた。武部さんと五十鈴さんは訳の解らないという表情をしている。
そして、西住さんは――。
「えっ? 私とおんなじだ……」
ポツリと呟いていた。
「中学時代は戦車道をやってたんだけどね。引退試合の直後に両腕に大怪我を負ったんだ。医者にはもう戦車道は出来ないって告げられてさ、凄く戦車道が好きだったから、未練を断ち切るために戦車道の無い高校を選んだっていうわけ」
私は腕まくりをして、両腕の手術の跡を見せた。三人はドン引きしていた――しまった、余計なことしちゃった。
「ごめん、変なもの見せちゃったね。でも、結局それは誤診でね。手術とリハビリで両腕はこの通り、完治したんだよ。セカンドオピニオンって大事なんだって思ったね。まぁ、その医者を紹介してくれたのが生徒会長だったりするんだけど……。だから、せっかく戦車道が出来るようになったから、全力で頑張りたいんだ。後悔しないように……」
私が長々と話している間、みんなは黙って聞いていた。なんだろう、自分語りってすごい恥ずかしい……。
「仙道さんって、苦労したんだねぇ。大丈夫、苦労した女ってモテるよ!」
武部さんがサムズアップしながら、戯けた声を出した。うーん、リハビリ頑張ってモテるものかね?
「わたくしたちは、戦車道をしませんが、仙道さんのご武運を祈りますわ」
五十鈴さんはなんか、戦場に私が足を踏み入れるのと勘違いしてるんじゃないかしら? まぁ、応援してくれるのは嬉しいけど……。
「玲香さん、私は――」
『ピンポンパンポーン、普通科2年A組、西住みほ、普通科2年A組、西住みほ、至急生徒会室に来ること――』
河嶋先輩の声が放送され、西住さんは生徒会室に呼び出された。はぁ、やっぱりこうなるか。
あの、会長と戦うんだったら私にもそれなりに覚悟が必要だな。
「みほ、私が守るよ。君に戦車道を強制させたりはしない。絶対に……」
私は真剣な目でまっすぐに西住さんを見つめて宣言した。
「玲香さん……」
西住さんは何か言いたげな表情をしていたが黙っていた。
「みほ、私も付いていくよ。大丈夫だから」
「ええ、わたくしたちが、みほさんには付いています」
武部さんと五十鈴さんも一緒に生徒会室に来てくれるみたいだ。よし、みんなで戦おう。先輩たちと……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「西住、これはどういうことだ?」
「何で選択しないかなー?」
「我が校はこれでオシマイです!」
三者三様の反応。ちょっと待って、小山先輩、なんか変なこと言ってない? 我が校が終わりとか……。
「勝手なことを言わないでください!」
「そうよ、みほは戦車道やらないから!」
五十鈴さんと、武部さんは強気の態度だ。二人とも友達想いの良い人だなぁ。
「そんなこと言ってるとさぁ――あんた達、学校にいられなくしちゃうよ?」
はっ? なんか、会長らしくない感じのセリフだなぁ。冗談でこんなこと言うタイプじゃないんだけど……。
「おっ脅すなんて卑怯です」
五十鈴さんは憤慨して抗議した。
「脅しなんかじゃない。会長はいつだって本気だ」
河嶋先輩が冷淡な口調でそう告げる。ここで、私が睨んで河嶋先輩を怯ませることは簡単だけど、先輩の言っていることって本当なんだよなー。
会長は本気だ。多分、学校に居られなくなるのも本当。でも、それはおそらく戦車道を取らなかったから報復としてじゃない……。
私は嫌な想像をしていた。でも、だからといって、西住さんに戦車道を強制させる理由にはならない。
「今の内に謝ったほうが良いと思うよ? ねっ、ねっ」
小山先輩もすっごく嫌な態度だ。私には演技だって判るから、見てて辛かった。
もう、嫌だ。こんな争いもう止めよう。
「先輩たち! いい加減にして下さいっ! これ以上、みほに戦車道を強要しようとするんだったら、私はもう一度両腕を潰します!」
私は大声を張り上げた。
先輩たちも私の異常な宣言に面食らったようだ。
「玲香っ! お前、何をバカなことを言っている?」
「そうだよ、玲香。あんなに頑張ってリハビリをしたじゃない。おかしなことを言わないで」
河嶋先輩と小山先輩はオロオロとした態度に変化した。そりゃあ、後輩が腕を潰すなんて言ったらそうなるだろう。
「仙道ちゃーん。まさか、このあたしを脅すのかなー」
ただ一人、会長だけはいつもの態度にすぐに戻っていた。その精神力は流石だ……。
「脅しなんかしませんよ。あいにく、会長と同じで私もいつだって本気ですから」
そう、私は本気だ。じゃないと、この会長から妥協案はもぎ取れないんだから。
無言で見つめ合う私と会長。不敵な視線は強靭な彼女の意思を象徴している様だった。
「ふーん、まさか、仙道ちゃんに負ける日が来るなんてねー。しょうがないなー、西住ちゃんは諦め――」
「あっ、あのっ! 私!」
会長が諦めた様に表情を緩めたとき、西住さんが急に大声を出した。
「私! 戦車道、やります!」
「「ええーっ!?」」
私と武部さんと五十鈴さんは揃って驚きの声を出す! えっ、今、会長諦めるって言おうとしてたんだよ? いや、会長も危なかったー、みたいな顔しないでよ。
というか、痛い発言して先輩を困らせた私がめっちゃ恥ずかしいんだけど……。
でも、まぁ、あれだけ西住さんの戦車道の勧誘をやめさせようとしてた私だが、彼女の突然の心変わりが正直言ってちょっと嬉しかったりする。
だって、中学時代の最後の試合で強烈な印象を与えてくれた西住みほと共闘できるんだ。ワクワクするじゃあないか。
「みほ、本当にいいのか? 戦車道をすることが辛かったんじゃ……」
私は西住さんにゆっくりと意志を確認してみる。
「うん、大丈夫だよ。私ね、もう一度やってみたくなったんだ。玲香さんや、みんなと戦車道を……。さっき、玲香さんが頑張りたいって言ったとき、すっごく応援したくなったの。武部さんや、五十鈴さんが本当はやりたいのに庇ってくれたとき、すっごく嬉しかったの。だから、私はやるよ、戦車道!」
この顔だ……。目にはっきりとした意志が込められた、この凛々しい顔つきこそ、私があの日に見た西住みほの本当の素顔だ。
美しいと思って憧れた――あのときの顔なんだ。
そう思うと、体の芯から熱くなってきて、震えてしまっていた。
きっと、これは――武者震い。私の高校戦車道は今日から始まった。
次回から登場人物がすっごく増えるから不安で仕方ないです。
頑張ります!