大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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エキシビションマッチの決着とその後までです。
やはり登場人物の多い戦いは難しいですね。
大学選抜戦はかなり頑張らなくてはと、気合が入りました。
それでは、よろしくお願いします。


大洗優勝記念エキシビションマッチ その3

 試合は終盤、西住さん率いるあんこうチームは集中的に狙われていたが、相手チームの戦車を翻弄し、未だに単独で逃げ切っていた。

 

 まったく、この安定感は他校にしてみりゃ脅威だろうな。こっちがいくら不利でもあんこうチームさえ健在なら何か起こせそうな空気になるもん。

 

「さて、西さん。これから、フラッグ車であるチャーチルを探します。突撃もいいですが、まぁ、ほどほどにお願いしますよ」

 

「ええ、殺る前に殺れば良いんですね。なるほど!」

 

 何がなるほどなのか、私が言ったことが伝わっているのかどうか、わからないが、確認するのも面倒なので、チャーチルを探そう。

 多分、西住さんはチャーチルを探しつつ、敵を分散して少しずつ削っているはずだ。

 

 見つけたら合流して叩けばいい。多分、IS-2を倒した今なら戦力差もかなり詰まってるはずだから、いい勝負が出来るはずだ。

 

 

 

 

 そんな感じでダージリンさんが行きそうな場所を探っていたら、美味しそうに紅茶飲んでる彼女を発見、会長に通信で居場所を伝えるようにお願いする。

 

「おーい、フラッグ車、見つけたよー。呑気に外でお茶飲んでた」

 

『わかりました。合流します』

 

 さて、みんなで合流して叩くことが出来れば勝機はあるぞって、西さーん、何を聞いていたんですかー?

 

「吶喊!」

 

 単独でチャーチルに突っ込む西さん。あっけにとられた、私は助けることもできなかった。

 

 西さんはフェイントを入れて突撃したが、動きが先程よりも大雑把な上に、同じ手に2回ひっかかるほど、アッサムさんも下手なはずもなく、あっさりと九七式は撃破されてしまう。

 

『すみませーん、撃破されてしまいましたー。面目次第もございませーん!』 

 

 さっきは、見事な動きだと思ってたんだけど、ひどいムラだな……。まぁ、集中力不足だったんだろう。

 

 とっとにかくチャーチルを見失うわけにはいかない。追いかけねば――。

 

 

 海岸を逃げるチャーチルを追う私たち。途中、海から出てきたKV-2がとんでもない破壊力の砲撃を見せつけたりということもあったが、結局、KV-2は砲塔の重みでバランスを崩して自爆したので大した被害にはならなかった。

 

「最後くらい働いてくださいよ、会長」

 

「疑り深いんだからー、大丈夫だって、仙道ちゃーん」

 

「むむっ、誰のせいで疑心暗鬼になっていると……」

 

 おそらく、本気でやり合わないとダージリンさんやカチューシャさんには敵わない。

 だから、私は車長に専念することを選んだ。

 

 チャーチルは水族館の駐車場へと登っていき、カモさんチームが先陣を切ってそれを追った。

 

 あらま、上から砲撃とは――。撃破されたカモさんチームを見て、私は現在の状況を悟った。

 

 フラッグ車を囮におびき寄せ、上から刈り取るかー。カチューシャさんだな、これは……。

 

 チャーチルの両サイドにはT-34。片方にはカチューシャさんが乗っているみたいだ。

 

「どうやら決着がついたようねー。どうするー? 謝ったらここで許してあげてもいいわよ」

 

 カチューシャさんの勝利宣言。

 私と西住さんを相手にそれは……、ちょっと早いんじゃあないのかなー?

 

「小山先輩! 今です! 登ってください!」

 

 私の号令とともにヘッツァーが、そして、西住さんの号令とともにⅣ号がチャーチル目がけて駐車場へ突っ込む。

 

 よし、あんこうチームは上手くチャーチルに肉薄したな。

 私も援護をしなくては……。

 

 しかし、ふと不安が過ぎる……。会長のあの顔だ……。しかし、今さら確認する時間もないし……。

 

「とにかく、Ⅳ号から離れないで! 近付いてください」

 

 唯一信頼している小山先輩にお願いして、後方から得意の空間把握能力で各車両の動きを読む――。

 ん? クルセイダーか……。しかし、あの勢いで飛び出したら、吹っ飛ぶんじゃ……。無視だな……。

 

 案の定、クルセイダーは明後日の方向に行ってしまったので無視で正解だった。

 

 チャーチルの動き、カチューシャさんのT-34の動き、ふむ、()()()、あんこうチームからは見えないんじゃ……。

 

「小山先輩、会長も河嶋先輩も信用出来ないので、先輩だけが頼りです……。お願いがあるのですが――」

 

「どういう意味だ! 私だって初撃破を! あっ……」

 

 語るに落ちたな、河嶋先輩、そして会長。今日は徹底してるなぁ。

 

「もう、桃ちゃんも会長も玲香をあまり困らせないで……。玲香、出来ることなら、何でもやるよ」

 

「ありがとうございます! 小山先輩、大好き!」

 

「それって、西住隊長に言ってもいいのかな? 玲香副隊長?」

 

「すみません。忘れてください……。それで、頼みというのは――」

 

 私は小山先輩に作戦を伝えた。おそらく、これでこの戦いは――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《ダージリンサイド》

 

 カチューシャの作戦に従い敵を駐車場までおびき寄せることに成功し、わたくしたちは、勝利を引き寄せたことを確信しましたの。

 

 しかし、安堵したのも束の間、みほさんのⅣ号と玲香さんのヘッツァーがこちらに向かっていらっしゃいました。

 

 なるほど、みほさんは密着して戦うことを選びましたのね。

 確かに今日の玲香さんのヘッツァーは狙撃の精度がよろしくないようですので、単独で撃破を狙うのは仕方のない選択ですわ。

 

 玲香さんもいつものような苛烈さが失せているように見えます。

 まぁ、調子を取り戻されると厄介ですので早めに、優雅に勝負を決めさせてもらいましょう。

 

「カチューシャ、お願いできる?」

 

『仕方ないわねぇ』

 

 これで、チェックメイト。ホームで敗北させるなんて、みほさんたちには悪いですが、わたくしも、カチューシャも、後輩に華をもたせるほど大人ではなくってよ――。

 

 階段を上りきったあと、チャーチルとⅣ号が対峙します。

 Ⅳ号はその瞬間を狙ってくるでしょう――。

 

 

 予想通り――みほさんのⅣ号はこちらに向かって素晴らしい早撃ちを披露していただきました。しかし、チャーチルには届きません。

 

 何故ならカチューシャのT-34が盾になって下さっていますので……。

 装填は間に合いませんよ――。

 

「アッサム、お願い」

「はい」

 

 これでわたくしたちの勝利です――。

 

 

 チャーチルの砲弾はⅣ号を確実に捉えた――はずでしたのに……。

 

 

「なっ、なぜ、貴女がここに居るのですか? 玲香さん……」

 

 わたくしは目の前の光景が信じられませんでした。確かに黒森峰との決勝戦では見事な空間把握能力だと驚きましたが……。

 

 チャーチルの砲弾はⅣ号の前に突然出てきたヘッツァーに阻まれてしまっていたのです。

 

 なるほど、貴女には見えていましたのね……、わたくしとカチューシャの動きがすべて……。

 

 玲香さん、貴女のその精悍な顔立ちを見ていると、お姫様を救うために颯爽と現れた騎士(ナイト)のように感じられてなりません。

 

 みほさんが羨ましいですわ。

 わたくしもあのように勇ましく守って貰えればきっと――。

 

 今日は完敗ですね。みほさん、玲香さん……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『聖グロリアーナ・プラウダ、フラッグ車走行不能、よって大洗・知波単の勝利!』

 

 私たちの勝利を宣言する蝶野さんのアナウンスが響き、私は安堵した。やっぱり、地元の応援の中で負けたくないからね。

 

「ふぅ、間一髪だったな、お疲れ様」

 

「うん、負けたかと思ったから、急に玲香さんが出てきて驚いたよ」

 

 私たちがあんこうチームの盾となり、チャーチルの攻撃を防ぎ、その好機をきっちり活かした西住さんはフラッグ車であるチャーチルを撃破してくれた。

 

 カチューシャさんの動きに気づいて、小山先輩を急かして正解だった。本当に紙一重の勝利だったぞ。

 

 そもそも、会長が働いてればもっと楽だったんだけどな。まぁいいかー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「本日はみんなお疲れだった。まずは参加を快諾してくれた、聖グロリアーナ、プラウダ、知波単の皆様には感謝の念を――」

 

 

 河嶋先輩の長ったらしい挨拶を聞き流しながら、私は湯船に浸かっている。

 まぁ、みんなでお疲れ様ってことで、お風呂に入っているのだ。アリクイさんチームはなんか、ゲームやってるみたいだけど……。

 

 

「西住隊長、玲香副隊長、今日は本当に勉強になりました! 特に玲香副隊長には突撃とは何たるかを教えていただき、この先も突撃と共に我が校の戦車道を盛り上げようと決心ができました!」

 

「いえいえ、私たちは何も……、というより、玲香さんは一体、西さんに何を教えたのでしょうか?」

 

 西住さんは西さんの突撃を極めるという宣言に若干苦笑いしながら、私を横目で見てきた。

 まるで、私にいらないことを言って責任は取れるのか、訴えるように……。

 

「西さん、いやぁ、突撃は確かにいい攻撃手段だけどね、私は別にそれだけを……」

 

「いえ、あのときの勇猛果敢にチャーチルへ突撃する様子や、フラッグ車を守るために身を呈してチャーチルの砲撃に割り込む突撃……。やはり、突撃はこうも奥深いということを、実践という形で我々に指導してくれた玲香副隊長は我々の師匠と言っても過言ではありません!」

 

 澄みきった純粋な瞳から力強い視線を受けて、私はもう何も反論できなかった。

 

 うん、知波単は突撃で強くなればいい。何かが生まれるかもしれないし……。責任は取れないけど……。

 

 

 

 

「あと一週間で新学期ですねー」

 

 気持ち良さそうな顔をして秋山さんがそうつぶやく。なんか、休んだ感なかったな。

 

「ああ、宿題まだ終わってないー」

 

「私もやってないよ。沙織、一緒にやらなきゃ怖くない!」

 

 私は仲間を見つけて喜んでいた。

 

「あのね、玲香さんは生徒会なんだから、ちゃんとやったほうがいいよ。私もほら、手伝ってあげるから」

  

 西住さんが優しい言葉をかけてくれる。でもなー、生徒会の仕事で手一杯だし、宿題まで手伝ってもらうのは悪いし……。

 

「宿題……、みほ、それは人生において大切なことかな?」

 

「継続の隊長さんかな?」

 

「おー、みほはミカさんのこと知ってるんだ。いやー、今回のエキシビションの話を振ったみたいなんだけど、断られちゃったみたいでねー」

 

 ふと、現在、継続高校の隊長のミカさんを思い出してモノマネをする私。

 あの人気まぐれだったもんなー。強かったけど……。

 私は中学時代に練習試合で対戦して負けた上にチームの弁当を根こそぎ奪われたことを思い出した。

 

「また、毎朝起きねばならんのか、いや、玲香との約束で遅刻はあと200日近く見逃してもらえるはず……」

 

 そうなんだよねー。そど子先輩、いや、園先輩はまだ渋い顔してるけど……。

 

「麻子、そんなこと言ってると、碌な大人になれないよ。おばぁに言うから」

 

「むっ、やはり学校など無くなればいいのに……」

 

 おいおい……。ちょっと前まで、シャレにならなかったから。冗談でもやめてくれ。

 

「廃校を免れたばかりなんですから」

 

 そうそう、もうあんな絶望するなんて御免だよ。私はきっちり卒業したいし、先輩のように大洗女子学園を盛り上げていきたい。

 

 と、思っていた矢先、放送のアナウンスが流れた。

 

『大洗女子学園の生徒会長、角谷杏様、至急、学園にお戻りください。繰り返します、角谷杏様、至急、学園にお戻りください』

 

 会長が学園に呼び出し? なんだろう? 滅多にないんだけど……。私は胸にざわついた感覚が込み上げてきた。

 

 面倒なことが起こらなきゃいいけどな……。

 

 

 そんなことを思いつつ、しばらくしてお開きになり、我々も学園艦に戻る。なんか、運送屋のトラックが近くにやたらと停車していて異様な雰囲気だった。

 

 そして、大洗女子学園に着いたとき、私たちは驚愕することになった。

 

 私たちの目に飛び込んだのは【keep out】の文字が描かれたテープが巻かれて閉まっている校門――。

 

 なんだこれは? 質の悪いイタズラか?

 

「何よ! これっ!? 勝手にこんなことするなんてー!」

 

 園先輩が怒りの声を上げる。うん、まったくそのとおりだ。意味がわからない。

 

「キープアウトってどういう意味だっけ?」

「体重をキープする?」

「してないじゃーん、アウトー」

「あっ、ひっどーい」

 

 うん、酷いのは君たちの語彙力だから……。てか、本当になんのつもりだ……?

 

「君たち、勝手に入られては、困るよ……」

 

 今朝、聞いた声が突然後ろから聞こえた。

 あの黒スーツのメガネの人って、財布落とした人だよね?

 

「あのっ、私たちはここの生徒です!」

 

 困ったような顔で河嶋先輩が声を出す。

 

 しかし、淡々と黒スーツのメガネ男は非情な宣告をする。

 

「もう、君たちはここの生徒ではない」

 

 はぁ? どういうことだ? それは……。

 

「どういうことですかー?」

 

 私の気持ちを代弁するように、悲痛な声を園先輩が上げる……。

 

「君から説明しておきたまえ」

 

 そういうと男は去っていき、後ろから会長が出てきた。いつものような余裕綽々の表情は消えて――まるであの日のような――。

 

「会長! これはどういうことですか! 学園はっ! この場所は! 大丈夫なんですよね!」

 

 祈るような気持ちで、私は会長に叫びに近い声を上げた。

 

 しかし、会長は表情をそのままに、事務的な口調で最悪の事実を告げた……。

 

「大洗女子学園は、8月31日付けで……、廃校が決定した……」

 

「「ええっ」」

 

「廃校に基づき、学園艦は解体される――」

 

 最初は驚きの声が上がり、そして――私たちは絶望に支配された――。

 

 これが夢なら……。醒めてほしいと……、私は切実に祈っていた……。

 




エキシビションマッチは原作よりも玲香プラス分の差で大洗・知波単連合の勝ちとなりましたが、いかがでしたでしょうか?
そして、ついに2度目の廃校宣告。
ここからストーリーが動きますが、次回も是非ともご覧になってください!

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