書き置きを残してるところがジーンときますよね。
それではよろしくお願いします。
「戦車道大会を優勝したら、廃校を免れるって……」
誰もが最初に思ったことを武部さんは代弁した。そうだ、そういう約束だったんだろ?
「あれは確約ではなかったそうだ。存続を検討してもいいという意味で、正式に取り決めたわけではないそうだ」
んな、理不尽な……。じゃあ、あのとき、私たちが死にものぐるいで成し遂げたことがバカみたいじゃないか。
「それにしても急すぎます!」
磯部さんが声を出す。そう、本来は今年度までのはず……。河嶋先輩もそこを質問していた。
「検討した結果、3月末では遅いという結論に至ったそうだ」
「なんで、繰り上がるんですかー」
河嶋先輩は膝から崩れ落ちて泣いてしまった。
今回は泣きたい気持ちはわかる。くそっ、なんでこんなにも――私たちが……。
「じゃあ、私たちの戦いはなんだったんですか? 学校が無くならないために頑張ったのに」
澤さんも怒りを顕にしてそう言った。
みんなが一丸となれたのは大好きな学校のためだったからだ。守れたと思ってたのに、それを裏切るなんて、本当にありえない。
「納得できーん」
「何する気?」
「学校に立てこもるー!」
河嶋先輩はガシガシと校門を叩いた。いや、そんなことをすれば……。
しかし、周りのみんなはざわ付いて騒がしくなってきた。
「残念だがっ! 本当に廃校なんだ! 我々が騒ぎを起こせば、艦内にいる一般の職員の再就職は斡旋しない、全員解雇にすると、そういわれた」
まぁ、そのくらいは手回しするだろうな。しかし、こうもあっさり手のひらを返されるとは……。
まったく、大人ってのはやり口が汚いな。
余りにも酷い現状に悲観する我々。
風紀委員もバレー部復活も、学園艦GPも1年生も全部消えてなくなる。
この学校にあるものが全てなくなるんだ。
口々にみんなは無念の言葉を吐いていた。
「みんな静かに!
ん? 「今は」ですか? 会長……。あなたはまだ……。私は会長の言葉に頭を上げた。
「会長はそれで平気なんですか」
違うよ、河嶋先輩、会長の目は死んでない……。ねぇ、小山先輩……。
「みんな、聞こえたよね? 申し訳ないけど、寮の人は寮で、自宅の人は家族の人と引っ越しの準備をして下さい」
「あっあの、戦車はどうなるのですか?」
「全て……、文科省の預かりとなる……」
「戦車まで取り上げられるんですかー」
西住さんの質問に答えた会長の言葉に秋山さんが泣きそうになる。
徹底してるな。私たちの戦いの証を取り上げるか……。
「すまない……」
会長が謝罪する。しかし、私は信じてますよ。会長はまだ諦めて――ませんよね?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私は自らの引っ越し準備は後回しにして、生徒会室の整理整頓に勤しんでいた。
なんせ、この生徒会室こそ私たちの学生生活の証そのものだったから、蔑ろにするわけにはいかない。
「予算案や会計資料、はぁ、こいつらにどれだけ睡眠時間が削られたことか……」
「そんなこと言わないの。一緒に徹夜したりしたのも、いい思い出だったでしょ。まさか、この学校とこんな形でお別れするなんてね……」
小山先輩と書類の整理をしながらそんな会話をしている私たち。
「柚子、玲香! 出来るだけ持っていくぞ。これは我々の歴史だ!」
河嶋先輩はいつになく真剣な顔で一番頑張って掃除や整理をしていた。
空回って仕事を増やすことも多い先輩だけど、一生懸命さはみんなが認めていた。
「この椅子も持っていくからなー」
会長はいつもの調子を取り戻して、掃除をサボってた。まったく、ちゃんと後で働いてくれるんでしょうね?
「会長、信じてますからね」
「んー、仙道ちゃんってば、何を期待してんのかなー? そうそう、小山ー、この資料ちゃんとした形で作っといてくれるー。あー、仙道ちゃんはねー、サンダースのアリサちゃんと仲いいでしょ? ちょっと連絡とってくんない――」
資料? アリサさん? ああ、なるほど……。
小山先輩に作ってほしいという資料のサンプルを見て私は自分のすべきことを察した。
やはり、会長はきちんとやるべきことを考えている。
私は携帯を取り出してサンダースの友人に連絡をした。
「――ハロー、ボク、タカシ………。あっ、待って待って、冗談だって、嫌だなぁ、私とアリサさんの仲じゃないか――」
危うく切られそうになった、私は慌てて用件を話した。ちょうど、ケイさんやナオミさんも側に居たらしく、話は早かった。
ふぅ、これで、大事なモノのうちの1つは守れそうだ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「悪いね、みほ、私の引っ越しの手伝いまでしてもらってさ……」
生徒会室の整理に追われて自分の部屋の片付けが疎かになっていた私だったが、西住さんが手伝いに来てくれて、なんとか作業が終わった。
「ううん、私は早く終わったから」
西住さんは暗い顔をして、そう答えた。
「そっか、でもありがとう。みほが居て良かったよ」
私は西住さんの肩を抱きよせて、頭を撫でた。こうやって肌を寄せ合うと不安な気持ちが少しだけ緩和される気がする。
「ねぇ、玲香さんはこれからどうしようって思ってる? 私ね、このままだと――」
「大丈夫だよ、みほ……。私はまだ諦めてないから――。また戻れるよ、必ずここに」
私は西住さんを抱きしめて背中を優しく叩く。彼女の頑張りを無駄にするわけにはいかない……。
「でも、本当に学園艦は解体されるって――」
「それでも、何とかするさ。会長がね、『今は』従ってくれって言ったんだ……。角谷杏という人がわざわざ『今は』というような言い回しをしたってことはね、
私は会長には何か考えがあると確信していた。そして、廃校阻止のために動こうとしていることも。
ならば、私はそれを信じる。そして、そのために協力することを惜しまない。
「ふふっ、玲香さんがそんなにはっきり大丈夫って言うなら、私も信じるね」
西住さんは私の胸に顔を押しあてて、少しだけ元気そうな声を出した。
「むぅー、でもよく考えたら、少しだけ妬けちゃうよ。玲香さんが角谷先輩をそんなに信じてるなんて」
しばらくして、西住さんはそんなことを言い出す。いや、別に私の会長への信頼は違うベクトルなんだけど……。
「バカ、みほのことも信頼してるよ。それに、私が愛してるのはみほだけだよ――」
「ごっごめん。えへへ、変なこと言っちゃったね。私も玲香さんのことを、愛して――んっ」
ダンボールだらけの部屋で唇を重ねる私たち……。この瞬間だけは、束の間の幸福感を感じることができる。
何も解決しないし、会長のことは信じてるけど、私も本当は不安でいっぱいなんだ。
「話してる途中だったんだよ。それなのに玲香さん……」
西住さんがいきなりキスをしたことに不満を述べた。まぁ、照れ隠しだったんだよね。妙に気分も高揚してたし、それに――。
「ごめん、みほが可愛すぎたからさ、つい……」
「玲香さんって……、ずるいよ……」
「ああ、そうだ……。私ってずるいんだよ、みほ……」
西住さんは顔を真っ赤にさせて目をそらす。
そのあと、もう一度キスして、私たちは学校へ一緒に向かった。約束の時間が近づいていたから……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
学校へ着くと、戦車道チームのみんなが何故かほとんど集合していた。やっぱり、みんな戦車のこと好きなんだなー。
「うわー、やっぱり隊長も玲香先輩も!」
「みんな、来てますよー」
澤さんたちウサギさんチームのみんなは仲良く揃っていた。こんな時でも後輩が笑顔なんだから、私もシャンとしなきゃな。
「あっ、みぽりんとれいれいが居たー」
「お部屋まで伺ったのですが、こちらに向かわれた後だったんですねー」
武部さんと秋山さんの声がしたので振り返ると、あんこうチームのみんながこちらに歩いてきた。
「みなさんもお揃いみたいですねー」
五十鈴さんが嬉しそうな声を出した。
「あはっ、麻子さんここで寝るつもりなのー?」
西住さんは枕を抱えている冷泉さんを見て笑った。
「むぅ、もう……、お別れかもしれないしな……」
冷泉さんは枕に顔を埋めながら寂しそうな顔をした。うん、冷泉さんはよくⅣ号で昼寝してたもんな。脱水が心配でスポーツドリンクを差し入れしたものだ。
感傷に浸っていたとき、学園艦の上に爆音が鳴り響く、サンキューアリサさん、約束の時間通りだ。
「サンダース大付属のC5Mスーパーギャラクシーですぅ」
秋山さんが興奮気味でグラウンドに着陸した輸送機に駆け寄った。いやー、ありがたい。
「サンダースでウチの戦車を預かってくれるそうだ」
元気を取り戻した河嶋先輩が腰に手を当てながら微笑んでいる。
「えっ、大丈夫なんですか?」
「紛失したという書類を作ったわ」
当然の心配をする五十鈴さんに対して小山先輩が答える。ははっ、隠蔽工作に関しては小山先輩の右に出る人はこの学園艦にはいないよ。
私もあの技術を盗まねば……。悪用はするつもりはないけど、いつか必要になるかもだし。
「これで、みんな処分されずに済むね」
会長はやはり頼りになる。私たちに的確な指示を与えて、最速で戦車を守ってくれた。
「みんなお待たせー」
「まったく、玲香のやつ。久しぶりに連絡きたと思ったら、輸送機貸せってタクシー感覚で言うんじゃないわよ」
ケイさんとアリサさんが輸送機から出てきた。なんだかんだ言って協力してくれて嬉しい。
「サンキュー、サンキュー!」
「こんなのお安いご用よー。さぁみんなっ! ハリーアップ!」
飛び跳ねて喜ぶ会長にお人好しな笑顔で応えるケイさん。ホント、ケイさんって人間できてるよなー。
というわけで、輸送機にみんなで戦車を運び込む作業を開始した。
そして、すべての戦車を輸送機の中に収納して、私たちは離陸を見守る。
『確かに預かったわ。じゃあ、移動先がわかったら教えてちょうだい』
「はいっ、ありがとうございます」
西住さんは笑顔でケイさんの通信に返事をする。
『届けてあげるわ……』
ナオミさんの力強い言葉とともに、無事に輸送機は離陸して、空高く舞い上がった。
サンダース大付属には恩が出来てしまったな。いつか返せればいいけど……。
「よかった、学校は守れなかったけど、戦車は守ることが出来ました」
秋山さんの言葉を聞き、私は思う……。
そうじゃないよ、これから学校も守るんだ。きっと、必ず。
だって、ここは私たちが帰ってくるところなんだから――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
学園艦から降りた私たちは、港で出港を見守る。
「全員、揃ってるな」
「はい」
生徒会の私たちの目の前に並ぶ戦車道チームのみんな。
学園艦と別れなくてはならないので、悲壮感が漂っている。
汽笛の音もいつもより寂しく聞こえた。
「出港してしまうんですね」
「これでお別れなんですか……」
「さらば……」
別れを惜しむ私たち。いざ、出港してしまうと半身が抉られるような気持ちになる。
「こんなの彼氏と別れるより辛いよー」
「別れたこともないのに?」
こんな時も辛辣なツッコミを忘れない五十鈴さん。実に安定した精神力だ。今日くらいほっといて差し上げて……。
「行かないでー」
「笑って見送ろーよー」
「ありがとーう」
「元気でねー」
「「さようならー!」」
ウサギさんチームが走って学園艦を追いかける。辛いよな……。みんな……。
さようなら、私たちの大洗女子学園……。また、必ず会おう……。
玲香とみほのシーンを強引に足すという力技でした。
ここからも、いろいろとオリジナルシーンを足したり、原作とは違う感じにしながら大学選抜戦まで持っていく予定です。
次回もよろしくお願いします。