玲香の実家の設定はいろいろと考えた結果、あまり捻らないことにしました。
最初は忍者の末裔とか、遺伝子操作で作られたとか考えてたのですが、面倒なので没に……。
それではよろしくお願いします。
「転校の振り分けが決まるまで、ひとまず、ここで待機となります」
「クラスごとに教室が割り当てられているー。速やかに移動しろー!」
「ええーっと、君はB組だから、この先の階段を上がってもらって――」
学園艦の生徒は多いので、それぞれ別れて待機となった。戦車道チームはまとめて同じ待機場所である。
私たちは廃校となった学校の跡地にひとまず腰を落ち着けていて、生徒会がこの場所の生徒たちを取りまとめている。
「河嶋先輩、大丈夫ですか? 随分と落ち込んでいたみたいですが……」
「お前に心配される必要はない。こういう時こその生徒会だ。それに、会長がなんとかしてくれる」
「そうですね。私たちが信じなきゃですよね」
「桃ちゃんも玲香も大丈夫みたいね。一緒に踏ん張ろう」
私たち3人はこんなときこそ、何とかしてくれるって会長をとことん信じてる。
ただ、干しいもかじって怠けてるだけじゃないって分かってるから……。
生徒たちの教室への割り当てがある程度終わり、仮の生徒会室で雑務的な処理を開始しようとしたとき、空から轟音が聞こえた。
その音に反応したのは戦車道チームの仲間たち……。
慌てて私たちは外に出ると空からサンダース大付属のスーパーギャラクシーが高度を下げていた。
そして、次の瞬間、次々と落下する戦車たち。思ったよりも大きな音がしたから、少しだけ不安だったが、そんなことくらいで参るくらいのヤワな戦車ではない。
すべての車両が無事にサンダース大付属のおかけで届けられたのだ。
『約束通りちゃんと、送り届けたわよー』
「ありがとうございます」
西住さんに輸送機から通信が送られる。
『この借りは高くつくわよ』
「えっ?」
『この借りを返すために戦車道を続けなさい。今度は私たちがあなたたちをコテンパンにするんだから』
「はいっ!」
さすがアリサさん、ツンデレが板についてきたな。アリサさんには、今度、お礼に恋愛成就のお守りを買ってあげよう。
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「とりあえず、当面はここで生活出来そうだなー」
仮の生徒会室で会長はセンスで仰ぎながら余裕のある表情でそんなことを言った。
まぁ、特にトラブルもなくまとまってはいるから、生活する分には大丈夫そうだよね。
「いいんですか? このままここに居て……」
「こんな場所だが、学園艦と同じように全員無事なのを確認するように」
河嶋先輩の質問には答えずに指示を出す会長。
「わかりました」
それでも、河嶋先輩は会長を信じているから返事だけをして部屋から出ていった。
どうやら風紀委員を探しているらしい。
なんか、さっき風紀委員を見たとき、すごくやさぐれていたんだけど、大丈夫かなぁ?
「それで、会長、本当のところはどうなんですか? そろそろ、お考えを拝聴したいのですが」
河嶋先輩が離れたのを確認して、私はこっそり会長に質問した。
「んー、内緒に決まってるよ、仙道ちゃん。――あっ、でも、もしかしたら近いうちに仙道ちゃんに動いてもらうように頼むかもしれないから、そのときは頼んだよー」
会長はいつものような小悪魔スマイルでニカッと笑ってみせた。
ふぅ、なんだってやりますから、是非とも任せてください。
私は会長の笑みを見て安堵した。
『ぜーんいんしゅーごー』
気だるそうな園先輩の放送で生徒たちはグラウンドに集まる。
私たちがグラウンドに出ると、案の定やさぐれて、だらけきった表情の風紀委員の3名が、出欠を取りに出てきた。
「顔くらい洗えっ! そど子!」
「はいはい、どうせ私はそど子ですよー」
まさかの冷泉さんにツッコミを入れられる始末。しかも、投げやりな態度で返してるし。こりゃ、普段真面目な分の反動が来てるな。
「出欠を取ります。全員いるわねー、はい終了」
「随分とアバウトな出欠ですわねー」
五十鈴さんもこれには唖然である。
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「れいれいですら、キチンと撮っているのに、これはないよー」
Ⅳ号戦車に無理やりお邪魔させてもらってあんこうチームと買い物に出かけている。
話題は冷泉さんの眠そうな顔で写っている戦車の免許だ。しかし、私ですらっていうのは聞き流せないぞ。
「私のなんかお見合い写真にも使えるよー」
「無駄に写真が気合い入ってて少しだけ引くな。なぁ、みほ」
「えっ、うーん。沙織さんらしくて、かわいいから、良いんじゃないかな」
おのれ、西住さん、裏切ったな。これじゃ私が悪者じゃないか。
「そういえば、時刻表を確認しなくては……」
「ん? 優花里はバスに乗る予定なんてあるのか?」
「明後日に一度、親のところに帰るのですよ。転校手続きの書類にハンコを貰わなきゃなりませんし」
なるほど、そういえばそうだ。
「私も明後日に親のところに帰ろうかなー。麻子はおばぁのとこに行かなきゃね」
「また、小言を言われるに決まってる。憂鬱だ……」
「あはは、冷泉さんのお祖母さん強烈だもんな」
「あれっ? れいれいの実家ってどんな所なの?」
武部さんは思い出したように質問してきた。あー、そういえば話してなかったな。西住さんには言ったことあるけども。
「えっ、ウチの実家の話? いや、別に普通だよ。両親共に劇団で芝居やってるくらいで――。みほや、華みたいな面白い実家じゃないよ」
私の両親は二人とも役者やってる。まぁ、だからといって私が演劇に興味があると言えばそうでもない。
ただ、変わった衣装を着させられるのは慣れてるから耐性はある。男装は嫌だけど……。
「あら、そうだったのですね。玲香さんはわたくしの実家を面白いと思っていたとは知りませんでしたわ」
「うん、私も……」
いや、その面白いっていうのは、いわゆる興味深い的な意味で……。
「いや、ふたりの実家は面白いぞ……」
「そうだねー、華の実家ってお屋敷だったし」
冷泉さんと武部さんが援護射撃してくれた。そうだよなー。面白いよね。五十鈴さんの実家には行けなかったけど……。
それにしても、みほの顔が暗いな。
「みほ、実家って熊本だろ? 一緒に行ってもいいか? 実はまほさんに一度遊びに来いって言われてるんだ」
きっと実家で家元と話すのが怖くて暗い表情だと思い、私は気を利かせた。まぁ、社交辞令的な感じでまほさんから遊びに来いって言われたのは本当だ。
「えっ、そんなぁ。玲香さんに悪いよぉ。でも、お願いしてもいいかな?」
西住さんはうつむきながら、そう言った。
最近、割と素直になってくれているので嬉しい。
「もちろんだよ。前に家元に会ったときにちょっと失礼なこと言っちゃったからね。それも謝りたいし……」
「ああ、あんなことお母さんに言うなんて、お姉ちゃんも生きた心地しなかったろうな……」
この件は西住さんにもかなり叱られた。西住姉妹に揃って「死にたいのか?」と言われたのである。
友人の母親に「若く見えてキレイ」って普通に言わないですかね?
ということで、私は西住さんの実家に付いて行くことになった。何気に楽しみである。
秋山さんが羨ましいと言ったところ、今度みんなで遊びに行くことになった。これも楽しみだ。
戦車でそんなことを話しながら車道を走行していると、西住さんが急に「停車」と叫んだ。
「後方へ移動してください。ストップ!」
何事かと思い、西住さんが見ている方向の看板を見ると、私と西住は目を輝かせて同時に声が出てしまった。
「「うわぁ、こんなところがあったなんて」」
学園艦解体とか廃校とかを一瞬忘れそうなくらい、私と西住さんは興奮していた。
目の前にそびえるのは《ボコミュージアム》という、なんでもっと全面的に宣伝しなかったのか、地元のボコファンの私ですら知らない夢の国であった。
入口からサプライズが訪れる。なんと、生ボコに会えたのだ。うわぁ、マジでかわいい!
「おおー、よく来やがったなお前たち! オイラが相手をしてやろう! ボッコボコにしてやるぜ」
「ねぇねぇ、玲香さん、生ボコだよぉ! かわいい!」
「おっ落ち着け、みほ、一緒にしゃっ写真を撮るぞ!」
私は生ボコの前で緊張して、震える手でブレブレの写真を撮った。見かねた秋山さんが親切にも私と西住さんのツーショットを撮ってくれた。
「うわぁ、何をする! やめろー! や・ら・れ・たー! 覚えてろよ!」
「だから、何もしてないって」
「粋がる割に弱い……」
「「それが、ボコだから!」」
と、二人で力説したら可哀想な人を見るような目で見られた。
てなわけで、予定そっちのけでボコミュージアムで遊ぶことになった。
実に斬新なアトラクションが多数あって、興奮冷めやらないとはこの事だと思った。
イッツアボコワールド、ボコーデッドマンション、スペースボコンテンという素晴らしいアトラクションに私も西住さんもウッキウキである。
まぁ、スタッフも客もほとんど居なくてどうやって経営が成り立っているのか謎だが、そういうことは些細なことである。
そして、勇敢な生ボコの武勇伝が鑑賞できるボコショーを今はみんなで楽しんでいる。
例のごとく、小さな理由で喧嘩を売ったボコがボコボコに殴られるという内容で、私たちも必死に応援した。
そして、声援を力に変えたボコが敵に挑み、きっちりとボコボコにされるという、ファンなら感涙する出来の最高の舞台であった。
応援したのは私たちもだが、他にも観客はいたみたいで、少しだけ離れた場所から声援が聞こえた。
なんか、聞いたことある声も混ざってた気がするけど、気のせいだよね。
そして、私たちはボコグッズ売り場を練り歩くことにしたのだ。
「すごく頑張ってたな、ボコ」
「うん、とっても頑張ってた」
「なんか、会話についていけない私が変なのかなぁ?」
沙織さんは首をかしげながら私たちを見ていた。
「おっ、あと1つみたいだぞ、これは私は持ってるから」
「えっ、本当? じゃあ、私が」
「それって、そういう手なんじゃない?」
「「あっ……」」
残り1つのレアボコに西住さんが手を伸ばすと、ベージュ色の髪の毛に黒いリボンが特徴的な小中学生くらいの女の子が同時に手に取った。
あら、手を放してお互いに遠慮してるよ。
「いいの、いいの、私はまた来るから」
西住さんは笑顔で女の子の手にボコの人形を渡した。うん、西住さんはやっぱり西住さんだ。
しかし、女の子は気まずそうな顔をすると、ボコの人形を片手に走り去ろうとした。
うむ、お礼くらい言えばいいのに……。
そんなことを思っていたら、またもや聞き覚えのある声がした。
「こら、愛里寿。ちゃあんと、お礼を言いなさい。そのぬいぐるみ、譲ってもらったんでしょう」
その声は先日私たちがイギリスで会った、銀髪の大学生――。
「奇遇ね、こんなところで会うなんて。みほ、玲香、元気にしてた?」
アリシア=シマダさんである。なんで、イギリスのボービントン大学に通うアリシアさんが日本にいるんだ?
思わぬ再会に私と西住さんは驚きの表情を隠せなかった。
アリシアが早くも再登場。
愛里寿の保護者的な感じになってますね。
さらに、玲香が西住家に訪問が決定。これも書きたいエピソードの1つでした。
次回もよろしくお願いします。