大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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みほの実家に玲香がついて行く話。
それではよろしくお願いします。


仙道玲香、西住家に行く

「あっ、アリシアさん日本に来てたのですか?」

 

 私は突然の再会に驚いていた。イギリスで会ってからまだそんなに経っていないからである。

 

「あはは、あの後すぐにどうしてもって頼まれて、こっちの大学に短期留学してるのよ。日本の大学選抜チームの隊長の補佐をしてって頼まれちゃってねー」

 

 アリシアさんはニコリと笑いながら、日本にいる理由を話した。

 大学選抜チームの隊長の補佐かぁ。確か、島田流の家元が大学戦車道連盟の理事長だったから、そういう繋がりかな?

 

 

「アリシア姉様、この方たちと知り合い?」

 

 アリシアさんの背中に隠れて不安そうな表情の愛里寿と呼ばれた少女。

 この子は妹か何かなのか? でも、アリシアさんはイギリス人とのハーフだけど、愛里寿って子は純粋な日本人っぽいぞ。

 

「ああ、この子は従姉妹のチヨ姉さんの娘よ。愛里寿っていうの。愛里寿、こちらは、高校生の戦車道の大会で優勝した学校の子で、西住みほさんと仙道玲香さんよ、ご挨拶なさい。あと、そのぬいぐるみのお礼も……」

 

 アリシアさんは愛里寿と呼ばれた少女の肩を優しく抱いて、私たちの前に立たせる。

 アリシアさんの従姉妹の娘さんってことは、まさか、島田流の家元の娘ってことか。

 

「島田愛里寿……、です。譲ってくれてありがとう……」

 

 西住さんみたいな、人見知りな彼女は伏せ目がちになりながら、自己紹介をした。

 

「私は西住みほです。そのボコは愛里寿ちゃんのところに行きたいって言ってたから、愛里寿ちゃんのものだよー」

 

 西住さんは腰を落として、愛里寿さんの顔を見てニッコリと笑ってみせた。

 

「仙道玲香だ。よろしくね、愛里寿ちゃん」

 

「…………」

 

 愛里寿さんは私の顔を見るなり、顔を真っ赤にして、アリシアさんの背中に隠れた。

 待って、何か変なことしたかな?

 

「もーう、この子ったら、チヨ姉が心配するわけだわ。ごめんなさいね、本当はもっとお話したかったんだけど……。このへんで失礼させてもらうわ。また戦車で試合しましょうね。それじゃあ」

 

 アリシアさんと愛里寿さんは去って行った。

 また、戦車で試合か……、でも今の私たちは……。

 

「西住殿、玲香殿、今の方ってもしかして、先日話されていた、ボービントン大学のエースっていう?」

 

「ああ、そうそう、なんか日本に短期留学してるんだってさ」

 

「あー、やっぱりそうだったんですねー。もっと早く気付いていれば、サイン貰っていたのにー」

 

 秋山さんが頭を抱えて悔しがった。ブレないのは彼女らしいなー。

 

「優花里さん、またきっと会えるよー。元気出して」

 

 西住さんはそんな風に慰めるけど、大学生だし、短期留学と言ってたから、なかなか会うのは難しいだろう。

 とりあえず、ボコミュージアムを見つけられて良かったなー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「なんか、みほには悪いけど、こうして二人きりで出かけられて、ちょっと嬉しい」

 

 船の椅子に腰掛けながら、私は西住さんに話しかけた。

 

「ううん、悪くなんてないよ……。私も玲香さんと一緒で嬉しいから」

 

 西住さんは私の肩にもたれかかって返事をした。周りに誰も居ないけど、最近スキンシップが大胆になってきてるよな。

 

「そっか、でもよく考えたら西住流の家元の家に行くんだから、もっときっちりとした服装にすれば良かったな。いつもどおりのラフな感じにして後悔してるよ」

 

「ええー、玲香さんはそういう感じのほうが似合うよー。カッコいいもん」

 

 私服のメンズファッションに対して西住さんはそんな感想をいう。彼女は私が私服を着るとテンションが上がる。

 そういうもんなのかな?

 

 時間をたっぷりかけて熊本にたどり着き、さらに少しだけ時間をかけて西住さんの実家の前に立つことができた私たち。

 

 予想通りの大きな家であった。旧家のお屋敷って感じ。

 

 入ろうかどうか、さすがに少しだけ躊躇っている西住さんに声がかかる。

 

「みほ、おかえり……」

 

 犬の散歩から帰って来てた、まほさんに声をかけられた。

 うわぁ、あの犬は柴犬かな? すごく尻尾振ってる。

 

「お姉ちゃん……」

 

 西住さんは少しだけ安堵した表情になった。

 私はまほさんが犬の散歩ってだけで何でこんなにもシュールに見えるのだろうとか考えてた。

 

「玲香もよく来てくれたな」

 

「あはは、やっぱり、みほやまほさんの家って興味ありましたから。あと、家元にも先日の件をお詫びしたいと……」

 

「本当に、この前のようなことはやめてくれ。あの後、私に真顔で姉妹に見られるくらい自分が若く見えるか客観的に答えなさいとか無茶なことを言われたのだぞ。わかるか? そのときの私の気持ちが?」

 

 まほさんにそのように釘が刺されて、若干罪悪感に沸いて、申し訳なくなる。

 

 

 そして、私たちは何故かこっそりと裏門の方に案内される。ああ、いきなり家元と西住さんを会わせないようにする配慮か。

 

 しかし、家元の部屋を通り過ぎるとき、気配を感じたからなのか、声がかけられる。

 

「まほ、お客様ですか?」

 

「がっ学校の友人です……」

 

 チラッと私を見てからそう答えるまほさん。うん、嘘は付いていないな、同じ学校とは言ってないもん。しかし、そんなに自信なさそうにしなくてもいいじゃないか。

 

 

「うわぁ、あのときのままだー」

 

 実家の西住さんの部屋に入ると、きれいにされており、彼女が出ていったときのままであるようだ。

 うーむ、埃とかもないし、定期的に掃除はされているみたいだけど……。そんな小姑みたいなことを思っていると、まほさんが西住さんに転校の書類を受け取っていた。

 

 あー、家元にまほさんから頼むつもりなのかな? 厳格そうだから本人じゃないと取り合ってくれなさそうだけど……。

 

 

 しばらくすると、まほさんは戻ってきたみたいだ。手には、家元のサインと判子が押されていた。

 

「お姉ちゃん、これ?」

 

「しーっ」

 

 指を口元に当てるまほさん。あー、この人は西住さんのために自分で……。

 

「あっ、ありがとう」

 

 そう言って、書類を受け取ろうとする西住さん。いや、ちょっと待ってね。

 

「駄目だよ、みほ。生徒会としての立場的にこれは見逃せないよ」

 

 嘘、見逃せる。こちとら、戦車紛失の書類だって捏造してるんだから、見て見ぬふりは出来る。でも、これは西住さんのためにならないから見逃せない。

 

「玲香、知っていると思うが、みほは……」

 

「知ってます。だけどね、みほ。君は勇気を振り絞ってここまで来たんだ。私はそれを応援しにきた。だったら、自分がどうすべきかわかるだろ? ほら、これが予備の書類だ」

 

 私は念の為に用意した、転校書類の予備を西住さんに手渡した。

 

「玲香さん、私……」

 

 私の反応に面食らったのか、西住さんは書類を手にして泣きそうな顔をする。ふむ、思ったよりも恐怖が強いか。

 

 そんなとき、私の携帯のバイブが振動する。

 ん? 会長からか……。

 

「まほさん、電話に出ても?」

 

「ん? それは、構わないが……」

 

 了承を得て、私は電話に出た。会長からということは何か動きがあったのかもしれない。

 

『やぁ、仙道ちゃーん、今どこー?』

 

「先日話しましたように、みほの実家にお邪魔してますよ。何か、急ぎの用件でしょうか?」

 

『おっ、さすがにいいタイミングでいい所に居るねー。じゃあさ、前に言ってた頼みごとをしたいんだけど、大丈夫かな?』

 

「はぁ、頼みごとですか? もちろん、私に出来ることなら、何なりと……」

 

『うん、仙道ちゃんならそう言ってくれると信じてたよー。頼みっていうのは――』

 

 会長からの用件を聞く私。なるほど、会長は日本戦車道連盟にかけ合って居たのか。ふむ、西住流の家元が文科省主催のプロリーグ設置委員会の委員長に……。

 なるほど、さすがは会長だ。これなら、逆転の一手をかけれるかもしれない。

 

「わかりました。その任務は必ずや私が達成してみせます。ええ、大丈夫ですよ。私だって会長の背中をぼんやり眺めていただけじゃありませんから」

 

『そっか、んじゃー、待ってるよ。あんがとね、仙道ちゃん』

 

 会長から大任を預かった私はどうしようもなく嬉しかった。背中を見てただけだった会長に、託されたんだ。大丈夫、私ならやれる。

 

「みほ、すまないが、君よりも先に私が家元と話さなくてはならなくなったようだ……」

 

「えっ、玲香さん? 角谷先輩から何を?」

 

 西住さんは私の発言に驚きを隠せないでいた。まぁ、無理もないか……。

 

「廃校を撤回させるための道が見えたんだ。そのためには、西住しほさん、つまり君のお母様の力がどうしても必要になった。――まほさん、友人としてお願いします。貴女のお母様のお時間を少しだけ頂戴出来るように口添えをしていただけませんか?」

 

 私は西住さんに話したあと、まほさんにお願いをした。

 

「ふむ、まだ話が掴めないが、それくらいなら容易い。私も同席しよう。みほはここで、待っていなさい」

 

 まほさんは快諾してくれた。ありがたい。

 

「待って、私も行くよ。私だって大洗女子学園の一員だもん。廃校が無くなるかもしれないなら、お母さんにだってなんだって怖くないよ――」

 

 西住さんは戦車に乗っているときのような凛々しい顔つきになる。うーん、ここまで腫れ物扱いされてる家元って?

 

 とにかく、娘さん2人が援護してくれるなら母親として無碍にはしないだろうと打算も働いて、私たち3人は西住しほさんの元に向かった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 大きな和室で、テーブルを挟んで私たちと家元が対面する。

 怖くないと言っていた西住さんはやはりというか、仕方ないのだが、俯いて目をそらしている。

 

「本日は急なお話にも関わらず、貴重なお時間をいただけたことを感謝しております。また、先日は失礼な言動をしてしまい――」

 

「前置きはいいです。手短に用件だけお話ください」

 

 ピシャリと挨拶がシャットダウンしてしまった。まぁ、それでも話ができるのだからありがたい。

 

「承知しました。それでは、大洗女子学園の生徒会会長代理としてお話をさせていただきます。現在、大洗女子学園は文科省の進める学園艦統廃合の計画の対象校となってしまい、廃校の危機に瀕しております。しかし、我々はそれに納得できておりません。なぜなら、今年の戦車道全国大会に大洗女子学園の戦車道チームが復活して参戦した理由が、優勝した場合、廃校は撤回されるという約束があったからです」

 

 私は簡単に状況の説明から開始した。

 

「なるほど、優勝という条件を達成したにも関わらず、約束を反故にされたということですね。しかし、お気の毒とは思いますけど、私には関係のない話に思えますが……」

 

 まぁ、そうなるよね。さて、ここから会長ならどう攻めるか……。

 

「ええ、家元が懇意にされているのは黒森峰女学園です。しかし、高校戦車道連盟の理事長としてはどうですか? 優勝するほど強い学校が廃校というのは損失だとは思いませんか?」

 

「損失といえば損失でしょうね。しかし、だからといって文科省の取り決めに口を出すほどではないと言っているのですよ」

 

 ふむ、なかなか手強いな。こういうことはあまり言いたくないのだが……。

 

「そうですか。実はそう言われる予感はしていたのですよ。来年の全国大会の優勝候補の筆頭である大洗女子学園が無くなったほうが、家元個人としてはありがたいと考えるのではないかと……。なんせ、黒森峰女学園にとって有利ですからねー」

 

「ちょっと、玲香さん……」

 

 私の挑発とも取れる言動に西住さんは顔を青くする。ごめん、不安にさせて……、でもこれは賭けだから……。

 

「そうきましたか。仙道玲香さん、でしたっけ? 貴女はもし大洗女子学園が来年も存在していれば、連覇できるとお考えなのですね?」

 

 少しだけ、ピリッとした空気を感じながら、私は家元の質問を身に受ける。

 

「戦力的には有利だと思っております。大洗女子学園の戦車道チームは私とみほさん以外は初心者で立ち上げました。その初心者軍団がサンダース、プラウダ、黒森峰を打ち破り優勝したという事実。そして、私もみほさんもまだ2年生で来年も出られます。引退されるまほさんと違ってです。さらには、プラウダのカチューシャさんも引退される。この差は大きいと思いませんか?」

 

 私は来年に大洗女子学園残った場合の優勝への見通しを話した。実際、本当にそんなに甘く思ってるわけじゃない。大洗女子学園だって居なくなる人材は多いし、少数精鋭だったからこそ、居なくなる人間による戦力の低下は著しく大きい。

 

「貴女の意見はわかりました。最後に、みほ、貴女はどうなの? 来年も優勝する自信があなたにはありますか?」

 

 げっ、いきなり西住さんへキラーパスとは、この人は侮れないな。

 

「わっ、私は……、玲香さんと一緒なら……、来年も……、優勝できると……、思う……」

 

 西住さんは絞り出すような声ではっきりと優勝への見通しを語った。

 勇気を出して、言いにくいことを、よく言ってくれたね。

 

「――ふぅ、大洗女子学園が無くなると、来年の優勝候補を黒森峰が叩きのめすことが出来なくなりますね……」

 

「そっそれでは……」

 

「ええ、貴女と共に一度、文科省と話してみましょう」

 

「あっありがとうございます! ご協力に感謝いたします。また、数々の無礼な言動があったことをお許しください」

 

 やりましたよ、会長。無事に家元を味方にすることができました。

 私は会長から言い渡された任務を無事に遂行することができて自分が誇らしかった。

 

 よし、廃校回避へ1歩前進だ!




交渉の場でも得意の煽りは健在の玲香です。
この辺も劇場版のシーンを書く際にやりたかったことですね。
会長に背中を預けられる玲香を書きたかったのです。

いよいよ、大学選抜戦が迫ってきました。
書きたいシーンは何個もあるのですが、繋ぎをどうしようかと考え中です。

次回もよろしくお願いします!

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