試合が近づいてまいりました。
それではよろしくお願いします。
その後、しばらく私と家元は文科省へ行く日取りや時間を確認したりした。そして、話はうまくまとまった。
「そういえば、玲香さん、貴女は確か、全国大会の決勝戦でもティーガーⅡを挑発して足止めをしたと聞いております。誰に習ったのかわかりませんが、あの場面でチームの勝利を優先させ、あのような動きができることには感心しました。そんな貴女だからこそ、お願いがあります。――みほのことをよろしくお願いします」
「お母さん……」
娘の母親として頭を下げる家元を見て、西住さんは信じられないという顔をしていた。
多分、この方は西住さんが思ってるほど怖い人じゃないと思うよ。
ただ、不器用だから、いろんな立場があって、人間として上手く立ち回れないだけなんだ。
まぁ、母娘の問題は当人たちのことだから、私がでしゃばる気はないけどね。
だけど、少しだけ、パスをするか。
「みほさんの事はどの友人よりも大事に思っておりますので、その点だけはお任せください。あっ、そういえば、みほさんは転校手続きの書類って出さなきゃならないんじゃ? そのために今日来たのだろう? すまないね、私の用事が先になってしまって」
「ふぇっ、れっ玲香さん?」
いきなりパスを回されて、動揺する西住さん。
ここが案外踏ん張りどきかもしれないぞ。
「まほさん、少しだけお話したいことがあるのですが……、外で話せないでしょうか?」
「えっ? ふむ、それは大丈夫だが……」
まほさんはちょっとだけ迷った顔をした。しかし――。
「そうだな。お母様、しばらく玲香と席を外します」
「じゃっ、みほさん。ちゃんと、判子もらっておいてね。まぁ、廃校は阻止するつもりだけど、万が一ってこともあるからさ。さっ、行きましょう、まほさん」
私とまほさんは一緒に中庭で雑談することにした。
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「まったく、君というヤツはよく口が回る。お母様を挑発って、私の方が緊張したぞ」
まほさんはずっと固い表情だったが、ようやく安心した顔になった。心配をかけて申し訳ない。
「あはは、手段を選んでられなくなってますからねー。確かに厳格な西住流の家元には多少の恐怖はありましたけど、譲れないモノの為ならなんだってやりますよ」
実際、相手が相手だからいつも以上に挑発には神経を使った。やり方を間違えるとオシマイだし。
「みほに、甘くしてしまって申し訳なかった。確かにあれではみほの為にはならないかもしれない……」
「いえ、まほさんが妹を大事に想っている気持ちはとても良く伝わりました。私の方こそ出過ぎた真似をしてしまったと、思っております」
実際にまほさんとは初対面の頃から、西住さんへの気遣いというか、暖かい感情があることには気付いていた。
多分、妹を守れなかったことを悔やんでいるんだろうな。
「人間って、誰だって後悔することはあると思うんですよ」
「どうした、藪から棒に?」
まほさんが不思議そうな顔をした。
「でも、私もそうなんですけどね、反省っていうのは中々難しいんです。過去のダメだった部分を省みて、正すって大変なことなんですよ。大抵はダメだ、ダメだ、って後悔するだけで成長できてないのですから。だから、私も同じ失敗ばかりやっちゃいます――」
「そうか……。じゃあ、反省できる人間にならないとな」
「ええ、私たちには
そう言いながら、私とまほさんは少しだけ笑って、最近のオススメのカレーのトッピングに話は移った。
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「それでは、長居をしてしまい申し訳ありませんでした」
西住さんが無事に判子とサインをゲットしてくれたので、私たちは大洗へ戻ることになった。とはいえ、家元とはまたすぐに会うことになるが……。
「いえ、またいらしてください。まほとみほの友人として……」
家元はかなり表情が柔らかくなったように感じた。西住さんと話したからだろうか?
「はい、是非ともお伺いさせていただきます!」
私はニコリと笑ってみせた。いろいろとあったが、楽しかったな。
「あと、間違っていたら申し訳ないのですが、貴女のお父様は舞台俳優の仙道玲次郎様ではありませんか?」
えっ? なんで、家元がウチの父親のこと知っているの?
「はぁ、確かに父は舞台俳優を演ってますが……。まさか、ご存知とは……」
テレビには出ない劇団の役者だからそんなに知ってる人居ないんだけどな。私が物心ついたときからは主演だってほとんどなかったし。
「道理で見た目が若い頃の玲次郎様にそっくりなはずです。姓が同じなのでもしやとずっと思ってました。昔はよく舞台を拝見させていただいたものです。主演をされた際には花も送らせていただきました。今も年に1回は見に行っています」
私の幼い日の記憶にアホみたいに大量の花が送られて、苦笑していた父の顔を思い出した。
そっか、昔は確かに若い女性のファンがそれなりに居たとか言ってたな。見栄だとばかり思ってた。
というか、急にグイグイ来たな、家元は……。あの毎日薄くなった髪の毛ばかりイジってる親父のどこが良いのかさっぱりだ。
「そうなんですね。この足で実家に判子を貰いに行く予定ですので、父に伝えておきますよ。きっと喜ぶと思います」
「そっそうですか。でしたら、その――」
家元は顔を少し赤くして私にお願いをした。まぁ、別にそんなのは簡単だけど……。
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まほさんにⅡ号戦車で駅まで送ってもらえた私たちは大洗を目指して帰宅中である。
「まさか家元にウチの親父のサインを頼まれるとは――」
私は家元のまさかの頼みごとに驚いた。何でも、若い頃、恥ずかしくてサインを本人に頼めなかったらしい……。
シャイなところは西住さんのお母さんって感じだな。
「玲香さんのお父さんなんだから、きっとカッコいいんだろうなー」
西住さんはそんなことを言っているが、至って普通の顔である。昔はモテたとか言っているが、全然信じられない。
「そんなことより、お母さんとちゃんと話せたんだろ? エライじゃないか」
私はみほの頭を撫でた。よく頑張って勇気を出したな。パスは出したけど、実はかなり不安だった。
「もう、玲香さん、子供扱いしてる……。ちゃんと話したよ。西住流としては、私の戦車道は認められないけど、親としては応援してくれるって……。あと、お正月には帰って来なさいって言われたよ」
西住さんは、淡々と、しかし嬉しそうに話してくれた。
良かったじゃん。だったら尚更このまま廃校は受け入れられないよな。
文科省との交渉は必ずや成功させなくては――。
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というわけで、大洗女子学園からは私と会長。
そして、日本戦車道連盟の理事長と日本戦車道プロリーグ強化委員である蝶野亜美さん。
さらに、西住流戦車道の家元である西住しほさん。
5人で文部科学省学園艦教育局長である辻廉太さんと話し合いを開始した。
まずは家元が鋭い目付きで辻さんを睨み付ける。辻さんはすでにちょっとだけ顔が引きつっていた。
「若手の育成なくしてプロ選手の育成はなしえません。これだけ考えに隔たりがあってはプロリーグ設置委員会の委員長を私が務めるのは難しいかと」
最初から文科省の弱いところを攻撃する家元。ふむ、勝つために徹底的に攻めている。これが西住流か……。
「いや、それは……。今年度中にプロリーグを設立しないと戦車道大会の誘致ができなくなってしまうのは先生もご存知でしょう」
なんとか穏便に話を進めたい辻さんは、穏やかな口調で諭すように話していた。
やはり、家元の迫力に押されているようだ。
「優勝した学校を廃校にするのは文科省が掲げるスポーツ振興の理念に反するのではないでしょうか?」
この矛盾点は私も思ったが、子供が言うのと家元が言うのでは意味合いが違う。
「しかし、まぐれで優勝した高校ですから」
「戦車道にまぐれなし! あるのは実力のみ!」
「ひっ……」
ダンっとコップをテーブルに叩きつけて、家元は激高する。
まぐれかぁ……。さすがにそれは私たちだけじゃなくて対戦相手全員の侮辱と取られてもおかしくないセリフだよね。
「どうしたら実力を認めていただけるのですか?」
「まぁ、大学強化選手に勝ちでもしたら…」
今、言ったね? 私は確かに聞こえたよ。ねぇ、会長――。
「わかりました。勝ったら廃校を撤回してもらえますね?」
「大学選抜が相手だろうと、私たちは勝ちますよ!」
会長と私はここぞとばかりに捲し立てる。
「ええっ……?」
辻さんは私たちの反応が意外だったらしく、困った表情をした。
今回はこれだけの面子の中で言質をとったから大丈夫だと思うけど……。
「今ここで覚書を交わしてください!」
会長が《せいやくしょ》を片手にサインペンを渡そうとする。
「噂では口約束は約束ではないようですからねぇ?」
私が尊敬し、憧れた角谷杏先輩が絶好調のときの小悪魔的なスマイルだ。
この笑顔の会長はノリに乗っている。みんなに力を与えてくれる。
「暑い中、お仕事をされるのは大変かと思いますが、今度は、ぜひ私たちの強いところを見てくださいね」
私もニコリと笑って、辻さんにひと言添えた。
そんなわけで、大学選抜と大洗女子学園の戦車道の試合が決定した。
大学選抜にはアリシアさんもいる。厳しい戦いになるに決まっているが、今回は負けられないぞ。
ちなみに家元、《西住しほさんへ》と名前を入れた、私の親父のサインを渡したら、すごく大事そうにしまって、可愛い方だと思ってしまいました。
今日は本当にありがとうございます。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私と会長はその後、試合を決行するために関係する組織を回って許可と判子をもらい、吉報を届けにみんなの元に戻った。
河嶋先輩をあまりにもほったらかしにしていたので、私と会長が戻ってきたとき泣かれてしまって困った。
そして、戦車道チームは体育館に呼び出された。いい加減に泣き止んでくださいよ、河嶋先輩!
「みんな。試合が決まった!」
「試合?」
「大学強化チームとだ」
「ええっ……」
「大学強化チームとの試合に勝てば今度こそ廃校は撤回される」
会長から先ほど決まったことが話される。戦車道チームは急な話に騒然となる。
「文科省局長から念書もとってきた。戦車道連盟、大学戦車道連盟、高校戦車道連盟の承認ももらった」
「さすが、会長ー」
念書を掲げる会長に飛びつく河嶋先輩。先輩も会長のことずっと信じてたんだもんな。
「もう隠していることはないですよね?」
カエサルさんが念を押す。これで、さらにサプライズがあったら泣くよ私……。
「ない!」
会長は胸をはってはっきりと答える。
「勝ったら本当に廃校撤回なんですね?」
磯部さんがさらに念を押す。
「そうだ!」
堂々とした宣言に私たちは沸いた!
「無理な戦いということは分かっている……。だが必ず勝ってみんなで大洗に学園艦に帰ろう!」
「「おぉぉぉ!」」
今、再び、私たちの心は1つになる。
奇跡が再び起ころうとしていた――。
会長の見せ場までは奪えなかった玲香。
さて、いよいよ大学選抜との試合が開始されます。
原作以上に強力な敵にどう挑むのか? ぜひ次回もよろしくお願いします。