各校が駆けつけて来るシーンなのですが、原作どおりだと、玲香には駆け付けてくるライバルたちの言葉は半分以上が聞こえないんですね。
それを再現すると凄く味気なくなっちゃったんで、車内の会話を全部スピーカーで駄々漏れにしていることに、改変しました。
それでは、よろしくお願いします。
「おいっ、みほ。見てくれこれ……」
私は大学選抜チームが社会人チームを打ち破ったという記事をみんなに見せた。
「やっぱり、アリシアさんがいるチームだから強いんだねー」
「いや、違うんだ。みほ、アリシアさんはこの戦いに出ていないみたいなんだ。それより、これを見てくれ……」
「この子はボコミュージアムで会った……」
大学選抜チームの隊長の写真に映っていたのは、黒いリボンをした少女、島田愛里寿さんだった。
愛里寿さんは大学生だったのか……。そして、彼女は確か……、島田流の家元の娘さんのはずだ……。
会長によると天才少女と呼ばれて飛び級で大学生になっているらしい。そして、大学選抜チームの隊長もやっているのか……。
そりゃあ、家元の娘が隊長ならアリシアさんほどの人が補佐をするのも頷ける。
「つまりこの戦いは島田流VS西住流の戦いでもあるんだな……」
会長が記事を見ながらそう呟いた。まぁ、当人たちがそんなことを思ってなくても大人はそう思うだろう。
だとすると――社会人チームとの試合には出て来なかったアリシアさんまで出てくる確率は高い……。
しかも問題はそれだけじゃない。
「相手の車両は何両出てくるのですか?」
「30両……」
磯辺さんの質問に顔を青くして答える西住さん。黒森峰との決勝戦よりも10両も多い……。
試合に勝てば廃校は免れると約束したが、こんなの卑怯じゃん。あの眼鏡の野郎、どうしても私たちの高校を廃校にしたいらしいな。
「もうダメだぁ。西住からも勝つのは無理だと伝えてくれー」
すでに弱気の河嶋先輩。頼むから士気が下がることは言わないでくれ。
「確かに今の状況では勝てません。ですがこの条件をとりつけるのも大変だったと思うんです。普通は無理でも戦車に通れない道はありません。戦車は火砕流の中だって進むんです。困難な道ですが勝てる手を考えましょう!」
西住さんは力強く答えた。そうなんだ、これは私たちに残された最後の一手だから……。負けられないんだ。
「みほの言うとおりだ。私たちは今まで敗色濃厚の戦いを全て勝ち上がってきた。全員が1つにまとまって邁進すれば、奇跡は必ず起こる。自分たちの力を信じよう!」
私だって勝つ自信はない。しかし、諦めてしまったらそれでオシマイだ。
だから、私は絶望はしない。逆転を最後まで信じる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あの、30両に対して8両でその上突然殲滅戦ていうのは……」
「予定されるプロリーグでは殲滅戦が基本ルールになっておりますのでそれに合わせていただきたい」
辻さんの淡々とした宣告に、西住さんの顔がさらに曇る。
「いや、プロリーグだったら同数で戦ってるじゃないですか!」
私が大声でツッコミを入れる。どんだけ大人気ないんだ。大学選抜だって、そんな袋叩きみたいな作業やりたくないだろう。
「大会の準備はもう殲滅戦で進めてるんだって……」
日本戦車道連盟の理事長さんが、気まずそうな顔をしていた。
殲滅戦って……、8両でどうやって30両を……。
「辞退するなら早めに申し出るように」
勝ち誇った顔をして辻さんは去って行った。くっ、何かないのか? 勝つための作戦が……。
そして、決戦前夜。私と西住さんは地形の確認に出ていた。
「いやー、きつい戦いになりそうだなー」
「うん、相手の方が練度も数も上だから……、正直言って勝つのは……」
さすがの西住さんも勝つとは言えないか。
いや、私もそうだから仕方ないよ。こればっかりは……。
「でも、棄権はしないんだろ?」
「それはないかな。退いたら道は無くなっちゃうもん」
「ありがとう。みほが一緒なら、どんなに無茶な戦いでもさ、奇跡が起こせる気がするよ」
「わっ私も玲香さんとなら、きっと」
私と西住さんは見つめ合い、そして――。
「おーい、みぽりーん。れいれーい、あれ、何かしてたー?」
お互いの顔が触れそうになったとき、武部さんの声が聞こえて、慌てて私たちは離れた。
あんこうチームのみんながこっちに近づいてきている。
「なっなんでもない。ちょっとさ、みほの目にゴミが入ったみたいだから、そのっ……」
「そうなの。なっなんでもないよ」
私たちは顔を真っ赤にしながら、誤魔化した。
まずいな。最近は油断して場所を考えずにこうなってしまう……。バレるのも時間の問題かもしれない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
決戦の日、私たちは隊長と副隊長として挨拶に向かう。
目の前には大学選抜チームの隊長の愛里寿さんと、隊長補佐のアリシアさんが先に審判長の蝶野さんのそばに立って待っていた。
「相手を山岳地帯におびき寄せて分散させて各個撃破できれば勝機はみえるはず……」
「ふむ、しかし、そう上手くは分散できないか……」
そんなことを話しながら私たちは前へと進む。それは処刑台への道にも思えた……。
「まさか、再戦がこんな形になるとはね。貴女たちには同情するわ」
「でも、私たちを倒すのでしょう。アリシアさんは……」
私はアリシアさんのアメジストのような瞳を見据えてそう言った。
でないと、この場に立たないはずだ。
「いいえ、貴女たちは私が動くまでもなく……、負けるでしょうね。私はチヨ姉に、いや島田流の家元に、愛里寿が動くまで、攻撃されない限りは動くなと命じられている――。そして愛里寿はこの試合を自分が動くまでもなく終わらせる気でいるの。引導を渡せなくて残念だわ」
「なっ――」
愛里寿さんは動くまでもなくこちらに勝つつもりだって? それは島田流の力を見せつけるためなのか?
舐められている。しかし、この二人が動かなくても戦力差は……。
「ではこれより大洗女子学園対大学選抜チームの試合を行います」
蝶野さんの呼びかけで私と西住さんは並ぶ。ついに有効な作戦は思いつかなかった。こうなれば、無心になって1両でも多く撃破するしかない。
「礼」
「「よろしく…」」
私と西住さんが蝶野さんの号令で挨拶をしかけたその刹那。
思いもよらない奇跡が展開されたのだ――。
「待ったあああああ!」
えっ? この声はまほさん?
あっ、あの車両は黒森峰のティーガーにパンター?
「おねえちゃん」
「まっまほさん。ついでにエリカまで……」
私たちは目を丸くして信じられない光景を見ていた。これは――どういうこと? なんで、まほさんと逸見さんがウチの制服を着ているんだ?
「大洗女子学園、西住まほ」
「同じく逸見エリカ。――玲香、ついで扱いするなら帰るわよ」
「以下18名、試合に参戦する。短期転校の手続きは済ませてきた。戦車道連盟の許可も取り付けてある」
「おねえちゃん。ありがとう」
「礼には及ばない。大事な人たちを今度はどうしても守りたくなっただけだ」
まほさんは優しく微笑みながら西住さんの肩を叩いた。
「エリカ、よく来てくれた。さすが親友だ」
「だから、いつ親友にランクアップしたのよ。相変わらず都合がいいわね」
この援軍は大きい。まほさんも逸見さんも高校生のレベルを超えてるからな。
なんか、向こうで辻さんが抗議してるけど、理事長の態度から見ると大丈夫そうだ。
そして、援軍は黒森峰だけじゃなかった。
『私たちも転校してきたわよー』
『今からチームメイトだから』
『覚悟なさい!』
サンダースのケイさん、ナオミさん、アリサさんが駆け付けてきた。
アリサさんまで、助けに来てくれるなんて……。戦車を預かって貰った借りも返してないのに……。
サンダースの戦車も軍列に加わり、私たち大洗女子学園の戦力はさらに上がった。
『一番乗り逃しちゃったじゃない!』
『お寝坊したのは誰ですか』
『まあ別に来たくて来たわけじゃないんだけどね』
『でも一番乗りしてカッコいいところを見せたかったんですよね』
『いちいちうるさいわね!』
カチューシャさんに、ノンナさん……。来てくれて、ありがとうございます。
『やっぱり試合にはいつものタンクジャケットで挑みますか』
『じゃあなんでわざわざ大洗の制服をそろえたんですか』
『みんな着てみたかったんだって』
「聖グロリアーナやプラウダのみなさんまで!」
ダージリンさんたちまで来てくれたのか……。
次々と集まるライバルたちの車両に私と西住さんの胸は高鳴った。
『大洗諸君! ノリと勢いとパスタの国から
『今度は間に合ってよかったっすね』
『カバさんチームのたかちゃーん。きたわよー』
アンツィオのアンチョビさんたちに加えて――。
『こんにちはみなさん、継続高校から転校してきました』
『なんだかんだいって助けてあげるんだね』
『違う。風と一緒に流れてきたのさ』
まさか、継続高校のミカさんたちまで来るとは……。一番驚いたぞ……。
『お待たせしました! 昨日の敵は今日の盟友! 勇敢なる鉄獅子22両推参であります!』
えっと、西さんが来てくれたのはいいけど……。22両って多くない?
『増援は私たち全部で22両だって言ったでしょ。あなたのところは6両』
ダージリンさんが慌てて注意する。他校の人にああいう口調のダージリンさんって新鮮だな。
『すみません! 心得違いをしておりました! 16両は待機!』
爽やかに謝罪する西さん。この人は悪気が無いだけに質が悪いかも。
「みほ、すごいな。こんなにも沢山の人たちが助けに来てくれたぞ。これなら、なんとかなる!」
「うん。みんなに感謝しなきゃ」
しかし、この異常事態、そもそも試合直前での選手増員はルール違反じゃないのか、と辻さんは抗議してる。
実は私もそう思っていた。
「異議を唱えられるのは相手チームだけです」
蝶野さんはケロッとして答えた。
「我々は構いません。受けて立ちます」
「あたしもいいですよ。殲滅戦で車両の数が少なくて勝っても島田流の強さのアピールが出来ないですから」
愛里寿さんとアリシアさんはあっさりと車両と人員の増加を認めて、大洗女子学園は30両の大所帯となった。
「これだけの猛者たちが仲間になったんだ。絶対に勝とうな、みほ!」
「うん! 玲香さん!」
さて、これだけの戦力を使ってどう戦うか……。
まずは作戦を練らなくてはな……。
今回は割りと原作通りです。
ただ、改変のポイントとしては、愛里寿とアリシアはよほどのピンチまで動かないことを先に宣言していることですね。
ちなみに2人とも車両はセンチュリオンです。
次回もよろしくお願いします!