大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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玲香INプラウダで何が起こる?
原作と違ったオリジナル展開です。
それではよろしくお願いします!


大洗女子学園VS大学選抜チーム その3

「私たちが殿(しんがり)ですねー。うわっ、見てくださいよ、カチューシャさん、パーシングがあんなにいっぱい」

 

「あなた、いつもこんなに呑気なの? こっちは集中的に狙われてるのよ。まさか、全国大会で私たちの戦車に囲まれたときも、ヘラヘラしてたとでもいうのかしら?」

 

「えっ、いやぁ、そのう、基本的に包囲されたり、追っかけられて逃げたりが多かったので慣れちゃったんですよ」

 

「車両数が少ない学校だからこその経験ってわけね」

 

 カチューシャさんに呆れられた顔をされながら、私はとりあえず1発撃ってみる。

 

「凄いわね、レイーチカ。初めてのT-34での砲撃なのに行進間で最初から当てるなんて」

 

「いやー、履帯を狙ったんですけどねー。まっ、慣れればもっと何とかなりそうです。普段はあの扱いにくいヘッツァーで狙撃してるんで」

 

 そんなこと言いつつ。うじゃうじゃ沸いて出てくるパーシングたちに少しだけ辟易していた。

 

 ノンナさんとクラーラさんは何かロシア語で通信している。うーん、こっちが追い詰められている状況なんだから、日本語で話してほしい。

 せめて、英語ならわかるんだけど……。

 

  

「日本語でしゃべりなさいって何度言ったら分かるの!」

 

 そんなことを思っていると、カチューシャさんは何度も似たような経験があったらしく、憤慨する。

 

 あれっ? 急にクラーラさんの車両が停車したぞ……。

 何を考えてるんだ。

 

「え?」

 

『カチューシャ様。お先にどうぞ、それではごきげんよう』

 

「何!?  その流暢な日本語!」

 

 急にクラーラさんがきれいな日本語を使う。って、日本語使えるのかよ。

 

 

『クラーラは日本語が堪能なんです……』

 

 

「もっと、先に言いなさいよ! ――何する気?」

 

「カチューシャさん、クラーラさんは突撃するつもりです! させたくないんでしょ! てか、みんなで戻るつもりですよね?」

 

「えっ、突撃? そうよ、レイーチカ。それは許さないわ!」

 

『カチューシャ様、一緒に戦うことができて光栄でした』

 

 クラーラさんの車両は突撃していく。いかん、アレが飛んでくる。

 

「止めますよ」

 

 私はクラーラさんの車両の足回りを狙撃し、バランスを崩させて一瞬だけ動きを止めた。

 

 間一髪で、停車してくれたおかげで、謎の巨大な砲弾はクラーラさんの目の前で爆発し、その爆炎でパーシングの追撃も一瞬緩まった。

 

「レイーチカ! あなた……」

 

「カチューシャさんが殿を務めてて、独断専行した不届き者に喝を入れただけですよ。さぁ、彼女に戻るように命令してください。みんなで無事にみほのところに帰りましょう」

 

「そうね、クラーラ。命令よ、戻ってきなさい」

 

『カチューシャ様。申し訳ありません。あなたの力を私は見誤っていました』

 

「クラーラ! バカね、私を誰だと思っているの! 頼れる同志を一人だって欠けるようなマネはさせないわよ!」

 

 依然として、状況は悪い。だけど、わたし達は全員無事で戻ってみせる。

 カチューシャさんと私は顔を見合わせて頷くのだった。

 

『カチューシャ、しかしこの状況、敵に追いつかれて囲まれるのは時間の問題かと』

 

 ノンナさんが現実的な話をする。うーん、雨が強いから視界も悪いし、ノンナさんですら離れた的は当てにくいみたいだな。

 

 しかも、道幅が狭いから敵の攻撃は避けにくいときてる。

 

「やっぱり、道を塞ぐとか、敵の接近を邪魔する方法とかないですよねー」

 

「道を塞ぐですって? ――ちょっと待ちなさい!」

 

 カチューシャさんがハッとした表情でキューポラから顔を出して、周りを確認する。

 

「かーべーたん、ノンナっ、クラーラっどれでもいいわ。敵の上方にある木々をどんどん撃ち落としなさい。敵の進路を塞ぐわよ」

 

『『了解!』』

 

 私たちはどんどん木々を狙撃して道に落とすことで敵の進路を塞ぎ、接近を妨げる。

 

 しかし、それでも進軍を遅らせることが出来る車両は限られていて、角度的に進路を塞ぐことができなかった3両のパーシングがかなり接近してきた。

 

「仕方ないですね。やっつけちゃいますか?」

 

「そうね、リスクはあるけど、頼めるかしら……」

 

 私とカチューシャさんは踏みとどまって、応戦しようとした。

 

『お待ちください。カチューシャ。あなたはこの試合に必要な方です。あなたはウラル山脈より高い理想とバイカル湖のように深い思慮を秘めている。ここは、私が引き受けます。ですから早く撤退を!』

 

 ノンナさんのIS-2が私たちの車両を追い抜いて、敵陣に突っ込んで行った。すごい迫力だな……。1両撃破して、体当たりで1両止めるか。

 

『カチューシャ、私がいなくともあなたは絶対に――勝利します……』

 

 ノンナさんは相打ち覚悟で食い止めようとしている。

 

 

 

 

『――はっ、カチューシャ……、なぜ?』

 

 ノンナさんは、自分が体当たりした車両から白旗が上がって驚いたようだ。

 ふぅ、ようやく狙撃に慣れてきたぞ。

 

「ノンナはバカねぇ。あなたが居なくても勝利は出来るわ。でも、カチューシャはノンナを守れないほど、弱くないのよ。レイーチカっ」

 

「了解です――カチューシャさん」

 

 私の狙撃でノンナさんを狙っていたパーシングを撃破する。これで、追ってくる車両からかなり距離が取れた。

 

「カチューシャが全員で戻ると言ったら、全員で戻るのよ! わかった? ノンナ」

 

『了解です。カチューシャのお気遣い感謝します』

 

 ノンナさんの声は淡々としたものだったが、少しだけ明るいように感じた。

 

『カチューシャ、何をしている!』

 

 もたもたしてたら、まほさんが見かねて通信してきた。

 

「うるさいわね! すぐに戻るわよ! こっちは大変だったんだから!」

 

 こうしてプラウダ勢は1両も欠けるようなこと無く、撤退することに成功した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 危うく私は乗り換えた車両で撃破されるところだったなー。ホッと肩をなでおろし、私はカチューシャさんたちと共にたんぽぽ中隊との合流を目指した。

 

 あの謎の砲撃の正体はカール自走臼砲だったらしい。

 あんなのオッケーなの? 戦車なの?

 道理でバカみたいな火力だと思ったよ。

 ていうか、撃破したの会長みたいなんだけど、どうやったんだろう? どう考えてもヘッツァーで倒せるモノじゃない気がする……。

 

 ミカさんの率いる継続高校のBT-42はカールの護衛のパーシングを2両撃破してくれたけど、自らも撃破されてしまったらしい。やはり、ミカさんは只者じゃなかったか。

 いや、本当にありがたい。弁当泥棒のことは忘れてあげよう。

 

 

 そうこうしてる内にたんぽぽ中隊の姿も見え、このT-34の砲手さんも目を覚ました。

 

「じゃあ、私はヘッツァーに戻りますね。カチューシャさんと一緒の車両で戦えて勉強になりましたよ」

 

「そっそう? レイーチカはもう私の頼れる同志よ! あなたがピンチのときはいつでも助けてあげるわ!」

 

「ははっ、もう助けられてますよ。カチューシャさん……」

 

 私はカチューシャさんの目を見つめて、笑いかけた。

 

「レイーチカ……」

 

『玲香、もうカチューシャの車両には用事はないはずです。速やかに出なさい』

 

 ノンナさんから、急かすような通信が入ってきた。

 よくわからないけど、迷惑かけてるのかな?

 

 

「会長、お疲れ様です。まさか、カールを倒すとは……」

 

「んー、あんなの大したことないよー。良かったねー、仙道ちゃんは無事で」

 

「そうですねー、あのまま帰らぬ人になるとこでした。あははっ」

 

「笑い事じゃないだろっ!」

 

 ヘッツァーに戻った私は再び車長になった。

 ちょっとしか離れてなかったけど、なんか落ち着くなー。

 

 

「すまないね、みほ。心配をかけた」

 

「ううん、玲香さんなら無事に戻ってくるって信じてたよ」

 

 ヘッツァーをあんこうチームの側に並走させて、私は西住さんたちに話しかけた。

 

「BT-42、パンター2両、チハ新旧1両ずつ、合計5両が撃破されました」

 

「でもでも、こっちはカールとパーシング5両を撃破したよ」

 

「これで25対24ですね」

 

 秋山さんが大洗の撃破された車両を数えて、武部さんがこちらの撃破した車両を数えた。

 五十鈴さんの言うとおり、相手の策にハマったわりには、こちらの車両数のほうが多いという意外な結果だった。

 もっとやられてもおかしく無かったんだけどなー。

 

「ずいぶん減ったね」

 

「いや、こちらの数が多いんだ。持ちこたえたというより、大健闘と言ったところだろう」

 

「継続さんとカチューシャさんが2両も撃破してくれて、頑張ってくれましたよね」

 

「うちもなー」

 

「もちろんです!」

 

 秋山さんの言葉に、アンチョビさんが反応する。

 

「バレー部さんと会長さんたちのおかげです」

 

 カルパッチョさん曰く、アンツィオとアヒルさんチームとカメさんチームが連携してカールを倒したらしい。ますます想像できない……。

 

 

 

「西住さん、我が校は2両も戦列を離れてしまい誠に申し訳ございません」

 

「いえいえ」

 

 知波単の隊長であり、あさがお中隊の副隊長でもある西さんが西住さんに謝罪した。

 まぁ、相手が上手だったし、仕方ないんじゃないかな。突撃もしたんだろうし……。

 

「うちは全員健在よ! 当然だけど」

 

 カチューシャさんはドヤ顔でニコリと笑った。

 

「危うく、全滅しかかったと聞いているわ。油断大敵よ、カチューシャ」

 

「分かってるわよ!」

 

 ダージリンさんがカチューシャさんの痛いところをつく。うん、この場に私たち全員が居なかった可能性もある。

 

 数では偶々上回っているが、内容では完全に負けていた。

 

 

「すみません、私の責任です。最悪の結果は免れましたが、みなさんを危険に晒しました。もう少し上手くことが運ぶと思ったのですが……」

 

 西住さんもそれを感じて、少々気落ちしているみたいだ。

 

「定石通りやりすぎたな。らしくもない。みほの戦いをすればいいんだ」

 

「そういうこと、私たちらしい戦い方のほうが、相手は嫌がるかもしれないよ。まだ、みほには沢山の仲間がついてるんだ。好きに指示を出してくれ」

 

 まほさんに、続けて私もみほに話しかける。

 

「お姉ちゃん、玲香さん……」

 

 西住さんはこちらを見て頷く。

 

「それで、ここからの作戦は?  大隊長」

 

 ケイさんが西住さんにこれからの方針を尋ねる。西住さんなら、恐らくは……。

 

「局地戦に持ち込んで個々の特徴を生かしてチームワークで戦いましょう」

 

「急造チームでチームワークぅ?」

 

「急造でもチームはチームだ。互いに足りないところを補いあって戦うしかない」

 

 やはり西住さんは、得意の局地戦を選択した。少数で戦ってきた経験が多い西住さんには、そっちのほうがやりやすいんだろう。

 

 逸見さんは、余計な口出しをして、まほさんに怒られてしょんぼり顔をしている。

 

「エリカ、君って黙ってしおらしくしてると可愛いよな」

 

「なっ、何を急にバカなことを! あんたも喋りすぎて失敗ばかりしてるくせにっ!」

 

「玲香さん、作戦行動中にナンパはしないでね……」

 

 逸見さんを元気づけようとしたら、怒鳴られた上に、西住さんに怖い顔で睨まれた。

 あんな顔も出来るんだ……。

 多分、逸見さんに『可愛い』と言ったのがNGなんだな。

 

 自分だって武部さんとかに可愛いって言うじゃんとか、言い訳したら、「玲香さんが言うと生々しいから駄目だよ」って注意された。解せぬ……。

 

 

 

「チームを再編成してあそこを目指します。あの中だと遭遇戦がやりやすくなります」

 

 西住さんはあの場所を次の戦いの場所に選んだか。なるほど、楽しくなりそうだ……。

 

 とにかく、アリシアさんが動くまでに、出来るだけ多く倒しておかないと。

 イギリスで見たあの異次元の動き――間違いなく今回の敵の中で最も厄介だ……。

 

 

「パンツァー・フォー」

 

 西住さんの号令で私たちは進む。第二ラウンドは遊園地での遭遇戦だ!




補足ですが、アリシアが入った代わりにカールの護衛を1両減らしました。岩に潰された可哀想なパーシングは居なかった……。

玲香の熱血と狙撃力でプラウダ勢は全員が無事でした。
原作のカチューシャの為に散っていくシーンも好きなんですけどねー。
カール撃破はその代わりにカット。あんな面白すぎる展開は絶対に超えられないので(笑)

数で上回る大洗は遊園地で原作と同じく遭遇戦に突入です。
次回もよろしくお願いします!

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