大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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いつも、感想や誤字報告をありがとうございます。
ついに遊園地での戦いが開始されました。
大学選抜チームとの戦いの中盤って感じです。
それではよろしくお願いします。


大洗女子学園VS大学選抜チーム その4

 というわけで、遊園地の中に突入した大洗戦車道チーム。

 

 うーん、隠れる場所はたくさんありそうだ。逃げながら倒すには最適だな。

 

「こんなへんぴなところまで撤退するとは」

 

「違う玉田。これは転進だ」

 

「なるほど!転進ですか」

 

 知波単の子たちはやはり引くという精神が苦手みたいだね。西さんの言う、転進とは言い当て妙なのか?

 

『面白い戦いになりそうね』

 

『お言葉ですがデータの上では厳しい戦いになりそうです』

 

『覚悟の上じゃないですか』

 

『運命は浮気者。不利なほうが負けるとは限らないわ。ね、隊長?』

 

「はい。私たちは私たちにできる戦いをしましょう」

 

 ダージリンさんの言葉に西住さんは頷く。

 そうだ、まだこちらの方が数が多いし、相手がどんなに強力でも――私たちは負けない。

 

「私もみほを出来る限りサポートする。大丈夫、私たちが一緒に戦えば勝てない戦いはないさ」

 

「うん、一緒に頑張ろう。玲香さん」

 

 私と西住さんは目と目で合図して、遊園地の中を進軍して行った。

 

 東通用門にて、私はダージリンさんたちと待ち伏せをする。

 どうやら、敵はまほさんたちが守りを固めている南正門に集中しているらしい。

 

 こちらは、ハズレだったか――。

 

 しかし、南正門からの情報を整理するとどうも、攻撃が緩いというか消極的なのだそうだ。

 

 

 妙に思っていると、偵察をしていたアンチョビさんから通信が入る。

 

「くそっ、騙された! 隊長、陽動作戦だ! あの煙は煙幕だ!」

 

 派手に土煙をあげて南正門に大軍を送っているように見せたのはフェイク。

 本命は別のところからというわけだ。

 

 ということは、こちらにも間もなく――。私は外に顔を出して周囲の気配を探った……。

 履帯の音が聞こえる……。これは、まずい……。

 

「いざ尋常に勝負!」

 

 ローズヒップさんのクルセイダーが音の方へ突っ込む。

 

「駄目だ! ローズヒップさん、退いて!」

『戻りなさい! ローズヒップ!』

 

 私と同時にダージリンさんも戻るように指示を出す。

 

 

 くっ、こんなものまで来るのか……、マウスと同じく、超重戦車――T-28重戦車がお出ましとは……。

 

 こんな狭いところでやり合うのは無理だろう。とりあえず、引くか……。

 

 私たちは砲撃をするが、思ったとおり、T-28の装甲は固いのでダメージを与えられない。

 

『こちらドゥーチェ、こりゃ間違いなくこっちが主力だぞ!』

 

『サンダースのみなさん東通用門に向かってください』

 

 西住さんの指示でこちらに援軍が送られる。

 

 敵の狙いは戦力を分散し各個撃破だろう。それなら、私たちは常にまとまって行動することを意識する他ない。

 

「2ブロック後退――」

 

 T-28の火力と硬さは凄まじく、おおよそ弱点を見つけることが出来ない。

 ダージリンさんの指揮がなくては、とっくに私たちはバラバラになっていただろう。

 やはり、強固な守りに定評のある聖グロリアーナ女学院の隊長だ。この人が味方で心強い。

 

「あら、玲香さん。私の顔に何かついてまして?」

 

「いや、ダージリンさんが味方で良かったって単純に思っていただけです。だってこんなに美しくてきれいな(指揮)んですから」

 

「…………」

 

「ちょっとダージリン、ティーカップを落としてますわ!」

 

 アッサムさんの怒声が聞こえる。

 ダージリンさんが手を滑らせてティーカップを落としたみたいだ。なんか、前にもこんなことあったような……。

 

 私たちは何とか主力部隊の攻撃を流しながら、敵の戦力を削っていた。これならなんとか、まとまって行動し続けることは可能だな――。

 

 いや、待てよ、現在は超重戦車によって圧倒されている気もするけど、主力部隊が来て、まだ1両も撃破されていないなんて変な気がするなー。他のチームもほとんど被害を受けてないのは、

 単純にこちらが上手くまとまっているからだけなのだろうか?

 

 私は外の様子を見つつ、頭の中の全体の地図と今ある情報を照らし合わせて、未来の動きを予測する。

 これが、こっちに動いて……、そして、こう攻めると――。

 

 詰め将棋のように一手ずつ、ジグソーパズルのように1ピースずつ、相手の狙いを考えてみる――。

 

 このまま行くと――その先はあそこだ!

 

 この仮説が真ならば、連中の狙いはマズイ……。一見派手だけど、手ぬるい攻撃の意図、それは――。

 

 私は西住さんに通信を繋ぐ。

 

「みほ、急ぎの話だ。これは仮定の話なのだが、聞いてくれるか――」

 

 私は西住さんに自分の考えを話した。

 ちょっとだけ、人よりも空間を見渡す力があるからこそ、今のこの状況にざわついてならない。

 私たちは現在、地獄へと誘われているのでは? そんな仮説が私に出来上がったのだ。

 

「アンチョビさんなら、この仮説が当たってるかどうか、多分わかるはずだ! 確認を頼む!」

 

『うん、もうCV33に通信は繋げてるよ』

 

『玲香! ビンゴかもしれんぞ! 上から見ると連中は確かにYO地点に誘導して、包囲網を敷こうとしてる可能性がある』

 

「やはり……。だが、これはチャンスかもしれない。みほ、この状況を逆に利用できないかな?」

 

『うん、恐らく、相手もこんなに早くこちらが狙いに気付いているとは思わないはず。気づかれないように伏兵を忍ばせて――』

 

 ちょっとした無茶振りだと思ったが、西住さんは私が感じたちょっとした仮定から、見事な作戦を考えてくれた。

 

 西住さんが作戦指示を出そうとする少し前に、まほさんとダージリンさんから通信が届く。

 

『こちら正門チーム。チャーフィーの動きに仕組まれた何かを感じる。通用門組は注意せよ』

 

『こちら最後尾。追尾攻撃は散発的。妙ね』

 

 私の仮定を裏付けるような違和感をまほさんとダージリンさんが感じ取ったらしい。

 

 予想は大当たりで大学選抜チームはYO地点、野外ステージの低いところに私たちを押し込み、高い場所から包囲しようとしていたのだ。

 

「ふぅ、向こうの隊長さんは見事な用兵家だよ。ここまで鮮やかに誘導するなんてね。危なかった……、あと少し気付くのが遅かったら勝負は決まっていたかもしれない――」

 

『各車両、YQ地点に向かって一斉に動いてください。KV-2、IS-2、ファイアフライは活路を開くために一斉に砲撃をお願いします』

 

 予め、3両には先に狙撃地点に待機してもらい、こちらはおびき出されるフリをずっとしていた。

 

 パーシングが包囲網を敷こうとしてることが予めわかっているなら、逃げ道を最初から決めて、そこに集中砲撃を加えて穴を開けてやれば良い。

 

 狙い通り、突然の伏兵による砲撃によって、逃走通路が確保出来た私たちは、包囲網の完成を阻止して、逃げおおせることが出来たのだ。

 

 さらに嬉しい誤算が生まれた。

 

 慌てて私たちを追う大学選抜チームの主力部隊の車両だが、なんとそのタイミングで遅れてこちらにやって来た知波単の子たちが突撃を敢行したのだ。

 

「突っ込め!」

 

 遠くからでも聞こえる、西さんの威勢のいい掛け声とともに最高の場面での必殺の突撃。

 

 

 大学選抜チームは後ろを突かれるという形になり、4両の知波単車両に2台のパーシングが倒されるという事態が生まれた。

 

 ここからの私たちはまさに大学選抜チームを圧倒していた。

 

 各自が部隊を再編成させて、独自の判断で動いて撃破を重ねたのである。

 

 ちなみに、今の私は西住さんと巨大迷路でパーシングと応戦中である。

 

「みほっ!」

「玲香さんっ!」

 

 アンチョビさんのナビゲートのおかげでもあるが、私たちが完全に空間を掌握して、パーシングを2両葬った。

 

 こちらは依然として25両が健在。一方大学選抜は遂に9両まで数を減らしてしまっていた。

 

 2倍以上の車両数の差がつき、私たちの有利は磐石の形となり、大学選抜チームは窮地に立たされたと私はおろか、西住さんも、そしてまほさんを始めとする各校の隊長たちも思ったであろう。

 

 しかし、私たちは痛感することとなる。

 チーム戦が基本の戦車道――その戦局を圧倒的な【個の力】が全てをひっくり返すという理不尽を……。 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

《アリシアサイド》

 

「ほらね、最初からあたしたちが出ておけば良かったのよ。みほさんや玲香さん、それにダージリンさんたちもみんな強いんだから」

 

 あたしはタブレットを凝視しながら、自分の立てた策が破られたことを確認している愛里寿に声をかけた。

 

「アリシア姉様、彼女たちはまるでボコね。何度もボコボコにしたつもりだったけど、倒れずに起き上がってきた」

 

「えっと、ボコってその人形? そっそうね、諦めないネバーギブアップの精神力は認めなきゃ。そして、チームとしての力と機転も……」

 

 ボコのことはよくわからなかったが、愛里寿が大洗の子たちに興味を持ち始めたことは伝わった。

 

「やってやる、やってやる、やーってやるぜ! いーやな、あーいつをボーコボコにー」

 

「あっ愛里寿?」

 

 突然歌い出した、妹分に少し驚きながらも、ついに動くのだということを察して、私は嬉しかった。

 ようやく、大洗の人たちと戦えるので、気分が高揚していた。

 

「行くよ――アリシア姉様」

 

「ええ、愛里寿。油断してると足元を掬われるわよ」

 

 

 私と愛里寿の2両のセンチュリオンは遊園地へと入って行った。

 

「二手に別れる。アリシア姉様もその方が戦いやすいでしょ?」

 

「あら、付き添いは要らなかったかしら。歯医者には付いてきてほしいと、涙目だったのに」

 

「子供扱いしないで……」

 

「ふふ、そんなにほっぺたを膨らまさないの。愛里寿の言うことをちゃんと聞くわよ。あなたが隊長なんだから。ところで、彼女たちは、放っておいても大丈夫なのかしら?」

 

「3人で集まって、車両の撃破にあたるように伝えておいた」

 

「そう、わかったわ。じゃあ、あたしもなるべく多くの車両を倒せるように頑張るわね」

 

 単独行動はよくあることだけど。日本では初めてね。

 さぁ、楽しませて頂戴。大洗女子学園さん。

 

 

 

 私が入っていったエリアはウェスタンの舞台のようなセットがある場所だった。

 ちょっと前に交戦していたみたいね。

 

 あら? 珍しい戦車じゃない。ポルシェティーガーなんて初めて見たわ。そして、三式中戦車……。あとはロシアのKV-2にT-34ね。

 

 この前は日本の高校生の力に驚かされたわ。さあて、この子たちはどのくらいの実力なのかしら? お手並み拝見といかせてもらうわ。

 




観覧車は無事でした(笑)
そして、ついに動き出すセンチュリオン。
9両しか残っていない大学選抜チームが大洗女子学園に反撃します。
次回もよろしくお願いします。

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