《みほサイド》
まさか、もう一度戦車道を始めるなんて思わなかったな。
でも、戦車道をやりたいのに私に合わせてくれた武部さんと五十鈴さん。
そして、一度は戦車道を諦めて、今から必死で戦車道を頑張ろうとしている玲香さん。
3人が私なんかの為に、あんなに本気で助けようとしてくれるなんて……。ビックリしたよ。
誰も私のことなんて見てくれないって思ってた。でも、初めて友達になってくれた玲香さん。クラスメートで最初に声をかけてくれた武部さんと五十鈴さん。
みんな、私を西住流じゃなくて、西住みほとして見てくれる。だから、一緒にやりたいって思ったの。もう一度、戦車道を……。
そういえば、玲香さんのポスターっていつ貰えるんだろう。飾る場所、今から考えないとなー。
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放課後、西住さんたちにアイスクリームを食べに行かないかと誘われたが、生徒会の仕事と説教があったので丁重に断って生徒会室に向かった。
「まったく、お前は独断専行で妨害した上に、あんなことを――」
案の定、生徒会室に入るなり私は河嶋先輩からお説教をくらうハメになってしまった。
「すみません。先輩、もうあんなこと言いませんので――」
私も先輩方を脅すようなことをしたのは事実なので平身低頭で謝罪する。
「西住さんを庇いたくなる玲香の気持ちは分かるけど、もう自分を傷つけるなんて言わないで。玲香のこと、私たちは大事におもっているんだよ」
小山先輩も厳しい顔つきで私に言葉をかける。知っているよ。だからこそ、最後の手段で賭けに出たんだ。
「まぁまぁ、河嶋も小山もその辺にしときなー。これから仙道ちゃんと西住ちゃんにはさー、いろいろと働いて貰うんだからねー。優勝するために」
会長はへらへらと干しいもを噛りながら、二人の先輩を諌めてくれた。本当は1番この人が怒ってるんだろうなー。
いつもよりも笑顔が怖い。
「やっぱり優勝しなきゃいけないんですか?」
私は確認するように質問した。
「当然だ。やるからには優勝出来るように動け、考えろ」
「玲香、頼りにしてるよ。なんとか優勝出来るように頑張ってみて」
「優勝しなきゃ、戦車道復活させた意味ないからねー」
3人は口々に優勝へのこだわりを話した。うん、マジみたいだね。
「わかりました。で、戦力を把握したいのですが、今、我が校には戦車って何台あるんですか?」
「わかんない」
「はぁ?」
私は素っ頓狂な声が出てしまった。
会長曰く、戦車道を当校がやめた時に戦車はほとんど売りに出されていたみたいだが、残り物の戦車はあるはずなのだとか。
でも、その場所はⅣ号戦車以外不明という状況なので、今度の必修選択科目の授業のときにみんなで探そうという計画らしい。
えっ? 何なのこの状況。
こんなの見つかった戦車がそこそこ使えるもので、その上、初心者たちが戦車を簡単に乗りこなす超絶ハイスペック集団でもなきゃ、1回戦だって勝ち抜くの無理じゃん。
私は思った以上に過酷なスタートラインだということに気付いて、頭が痛くなっていた。
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「戦車なんだから、きっと駐車場にあるよねー。イケメン教官って、あのポスターの人かなー。ああ、早く会ってみたいよー。プロポーズされたらどーしよー」
カッコいい教官が来るという言葉で戦車探しに1番乗り気になっている武部さん。あのポスターの話は早く忘れてしまってほしい。
戦車道履修者は生徒会を含めて全部で22人。戦車は全部で5両必要な計算となり、我々は手分けして必要な4両の戦車を探すことになっていた。
なんで、生徒会は私しか動いてないんだよっ! 河嶋先輩、偉そうに教官の来る明後日までに探してこいって無茶ぶりだろ!
私は西住さん、武部さん、五十鈴さんと共に戦車探しに学校を探索している。
駐車場に戦車は無いんじゃないって、今更なツッコミを五十鈴さんが入れてるところだ。西住さんも苦笑して同意してる。
どうやら私と武部さんだけが真剣に駐車場を探していたようだ……。
探すって言ってもなー、ノーヒントだとは思わなかったよ。あれ? 西住さん、急に後ろを向いて何かあったのかな?
「あの! 良かったら一緒に探さない?」
「ええっ? いいんですかぁ!?」
モジャモジャっとした癖毛の女の子が目をキラキラさせてこちらを見ていた。なんだろう。ドラクエで「モンスターが仲間になりたそうにこちらを見ている」って表現あったけど、こんな感じなんだろうか?
えっと、ねぇ、この子は確か、秋山さんだったはず。
「あっあの、普通科2年C組の秋山優花里と申します! ふつつか者ですがよろしくお願いします」
モジモジとしながら自己紹介を決める秋山さん。おおっ、合ってた。一応、生徒会として同級生の顔と苗字くらいは頑張って覚えたんだよねー。
うん、はっきり言って半分もしない内に後悔した。けど、謎の義務感で最後まで覚えた。
でも、役に立ったことは一度もない!
「こちらこそ、よろしくお願いします。五十鈴華です」
「武部沙織ー」
五十鈴さんと、武部さんも自己紹介する。順番的には西住さんの次で良いだろう。
「あっ、私は――」
「存じております。西住みほ殿と、そちらの方は仙道玲香殿ですよね!」
秋山さんは西住さんと私の名前を知っていたようだ。ふむ、生徒会やってる私の名前を知っているのは分かるけど、西住さんのことを知っているってことは――。
「秋山優花里さんだね。よろしく。私のことを知ってくれていて光栄だよ。生徒会を頑張ってて良かった」
私は秋山さんに右手を差し出した。
「うわぁ、仙道殿と握手出来るなんてこちらこそ光栄です。一昨年前の中学戦車道大会で
いや、知らないと思うよ。そんな恥ずかしい、どっかのバスケチームの監督やってそうな異名もマイナーな中学戦車道のことも。
「まぁ、随分とお強そうな異名ですねー」
「てか、玲香って有名な選手だったんだ」
五十鈴さんと武部さんが興味深そうにこちらを見ている。
「えっ、二年前? 玲香さんって……」
西住さんも何かに気付いたみたいだ。
とにかく、秋山さんが結構な戦車道のファンということは理解できた。私すら知っているんだから、西住さんのことは大いに知っているに決まっている。
「ええ、仙道殿も有名ですが、こちらの西住殿も――」
「さっ、早く探しに行こう! また、河嶋先輩に怒鳴られるのは嫌だからさ!」
私は秋山さんの言葉を遮って戦車探しに話を戻そうとした。
幸いみんながハッとした顔をして真面目に作業を開始したので、西住さんの話題には誰も触れなかった。多分、秋山さんも何かを察してくれたんだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「五十鈴さん、すっごいなぁ。マジで匂いで戦車見つけちゃったよ……」
「いえいえ、大したことありません。少しだけ嗅覚が敏感なだけですから」
戦車が五十鈴さんの匂いセンサーに捕まって簡単に見つかったので私は目を丸くしていた。
いや、少しなんてものじゃないから。この特技でご飯食べれるようになるんじゃないかなー。
「普通に華道で食べていきたいのですがー」
そんなことを言って盛り上がっていたら、五十鈴さんにまっとうなツッコミを頂いた。
そりゃあそうだな。五十鈴さんは華道の最大流派の五十鈴流の家元だ。
将来性ばっちりのお嬢様だもんな。大道芸で飯食う必要なんて皆無だ。
見つかったのは38t軽戦車。秋山さんがすっごくイキイキしてうんちくを述べている。めっちゃ詳しいじゃん。
「はっ、(t)って、チェコスロバキア製ってことで重さの単位じゃないんですよー!」
「今、イキイキしてたよ……」
若干引き気味で苦笑いしてる武部さん。ほっといてあげて、好きなものを見つけて興奮するのは普通だから。早口になるのだって多分普通だよね?
『ご苦労、運搬は自動車部に依頼しておくので、引き続き捜索を続行せよ』
河嶋先輩に見つかったことを報告すると、このような返事が……。相変わらず手伝う気は皆無らしい。
会長はきっとふんぞり返って干しいもかじってるんだろうなー。
まぁ、そんなこんなで、水没した戦車とか、断崖絶壁にあったらしい戦車とかどうやって見つけたのか謎すぎるが、とにかく無事に4両の戦車が見つかった。
「89式中戦車後型、38t軽戦車、M3中戦車リー、Ⅲ号中戦車F型、それからⅣ号中戦車d型、どう振り分けますか?」
「見つけたもんが見つけた戦車に乗ればいんじゃない?」
「そんなことでいいんですかー?」
自動車部に運搬してもらった戦車を見て、生徒会の先輩たちがそんなことを話していた。
ふーん、でも、38tには5人は多いけどなー。
「お前たちはⅣ号で……」
「えっ、あっ、はい」
そんな私の思考を読み取ったのか、河嶋先輩が私たちにⅣ号に乗るように指示をする。
「では、Ⅳ号、Aチーム。89式、Bチーム。Ⅲ突、Cチーム。M3、Dチーム。38t、Eチーム」
淡々とチームを作る河嶋先輩。じゃあ、私はAチームだな。同級生しか居ないし、気楽だ。
「ちなみに、玲香。お前はこっちだ」
またまた、私の思考を読み取ったのか、河嶋先輩がこっちに来いと手招きする。なんでなん? 38tって生徒会チームだったの?
「えっ? でも、Ⅳ号の方が搭乗人数が……」
私は抗議した。あっちに乗ると戦車の中でも下っ端扱いだ。それに多分狭い。
「口答えは許さん。経験者をバラすのは当然だろうが」
意外な正論にぐうの音も出ない私。泣く泣く同級生チームからパワハラ先輩チームに移動することになった。
というわけで、私の搭乗車両は38t。うーん、まっいいかー。
他のチームの人たちはおいおい掘り下げます。大雑把な感じで次回軽く紹介する予定です。