長いし、敵も味方も多いので、頭の中で整理するのが大変でした。
それでは、よろしくお願いします!
私がそこに辿り着いたとき、目の前では恐ろしい光景が繰り広げられていた。
カチューシャさんとケイさんの動きは完璧な連携に見えた。
確実に、センチュリオンの両側面を狙撃して、撃破に至らしめると私は確信していた。
しかし、アリシアさんは予め停車のポイントを知っていたかのように、砲身と車両を動かして、2回の砲撃でT-34とシャーマンを討ち取ったのだった。
『玲香さん、ボーッとしてはなりませんわ。とにかく動きなさい。さもなくば、何のためにここに居るのかわかりませんよ』
ダージリンさんの言葉にハッとした私は、小山先輩に的を絞らせないように不規則に動いて、近づくように指示を出す。
しかし、アリシアさんのセンチュリオンは全くスキが無い。
停車しようとすると、必ずその前に砲身がこちらを捉えようとする。
先ほどの攻撃を見ていなかったら迂闊に止まって狙い撃ちされて終わりだっただろう。
ダージリンさんのチャーチルも常に動きながら砲撃をするが、アッサムさんでもセンチュリオンの動きに合わせて当てることは難しいらしく、私たちは撃破どころか命中させることすら出来ずにいた。
そんな中、西さんの九七式の動きだけはセンチュリオンの狙いのさらに上を行っているように見えた。
突撃で至近距離まで近づいているにも関わらず、アリシアさんは西さんの動きだけは捉えられていない。
「吶喊!」
西さんは雄叫びを上げてセンチュリオンに食らいつく。しかし、それに合わせてアリシアさんの
「西さんは本当にセンチュリオンの動きが読めている――」
私は目を疑った。あれほど、私やダージリンさんが攻撃しても当てることが出来なかったセンチュリオンに対して、ついに西さんは一撃を与えることが出来たのだ。
それもアリシアさんのセンチュリオンの攻撃を躱した上でだ……。
旧砲塔の九七式であるから、ダメージ自体はそこまでではないが、これは大きな戦果である。
アリシアさんとて、無敵ではないのだ。
小さな希望が生まれるような気がした。
そして、私は方針を変更する。西さんの動きに合わせようと……。
タイミングさえ間違えなければ、私たちでも当てることが可能なのではないのかと……。
西さんの動きを感じ、センチュリオンの動きも同時に感じる。
私の空間把握能力をフルで活かす――。
「右です! 会長っ!」
止まるとアウトなので、行進間射撃となるが、小山先輩と会長になるべくシンプルな指示を出す。
「後方から左に回り込んで、右!」
よしっ、初めて砲撃が当たった。次は撃破を目指さなくては……。
もっと、もっと、研ぎ澄ませ――。
限界を超えるんだ――。
今度はチャーチルの動きも感じて、砲撃を避けるタイミングを狙う。
くそっ、警戒心が強くなった。動きが鋭くなる……。
「吶喊!」
西さんの突撃がセンチュリオンに肉薄する。
しかし、ついに九七式はセンチュリオンに捉えられて被弾し、撃破されてしまう。
「今だ! 会長!」
その動きを追っていた私は側面からセンチュリオンの車体の攻撃を指示する。
会長もこの戦いで徐々に狙撃精度を増していて、成長していた。
センチュリオンから煙が上がり大きなダメージを与えたという実感がこもった。
しかし、撃破判定には至らず、まだ動ける状態にあるようだ。
装填は間に合わない。砲身はこっちを向いている。
チャーチルがセンチュリオンに砲撃したが、それも避けられた――。
そして、無慈悲な砲撃が我々を襲った――わけではなかった。
『どいつもこいつも、この
そうだった、アンチョビさんたちのことすっかり忘れていた。
CV33が身を呈してヘッツァーを砲撃から救ってくれたのだ。ひっくり返りながらも堂々と存在感をアピールするアンチョビさんを見て、
『今ですわ! 玲香さん!』
チャーチルとヘッツァーは中破したセンチュリオンを再び攻撃しようと動き出す。
しかし、今のアリシアさんを相手に普通に動いても当たらないような気がしてならない……。
「仙道ちゃーん、アレをしようよ――」
会長が楽しそうな声を出した。まったく、この人ときたら……。
「ダージリンさん、最後の作戦です。協力をお願いします――」
『――なるほど、なかなか面白いですわね。よろしくてよ』
チャーチルは私が指定したポイントに移動してセンチュリオンに特攻しながら砲撃する。
「さて、最後の賭けだっ! 小山先輩! 河嶋先輩! 会長!」
私たちは最後の攻撃をすべく舞った――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《アリシアサイド》
九七式の動き……、すごいわ。
日本には『死中に活を求める』という言葉があるらしいけど――それを体現しているのは初めて見るわね。
まさか、私が読み負けた上に一撃を当てられるなんて――。
日本で無駄玉を消費したのは今回が初めてだわ。
どんどん、あたしの予想を超える高校生たち。こんなに面白い試合はイギリスでも滅多に無かったわ。
あら、今度は玲香のヘッツァーの動きが急に良くなったわね。あたしの動きに付いてきてる。
やっぱり、あの日に彼女たちから感じた強さは錯覚なんかじゃなかったのね。
近い将来、ライバルになりうる可能性。
西住みほや仙道玲香から感じたのはそんな可能性だった。
くっ、玲香さん、今の動きは上手かったわ。九七式に意識が持っていかれた一瞬を逃さないなんて……。
あたしももっと集中しなくちゃ……。
チャーチルも上手く邪魔をするわ。ダージリンさんはイギリスに留学希望だったわね。
彼女も才能豊かだから、きっと直ぐに頭角を表すでしょう。
でも、負けるわけにはいかないの。
島田流と愛里寿のために、私はここで負けてあげるわけにはいかない!
九七式の突撃――それはもう何度も見たわ。
今度はあたしが読み勝って、九七式の撃破に成功する。
なっ、なんですって? 玲香さん、貴女はどこまで強くなるの? いや、玲香さんというより、砲手の実力がここに来て格段に上がっている……。
戦いの中でチーム全体が成長するなんて、ちょっとびっくりね。
でも、ここであたしを仕留めきれなかったのは不運ね。悪いけど、これで最後よ――。
「参ったわ、完全に忘れていた。CV33、この瞬間までずっと気配を消して機を窺っていたのね……」
攻撃力が皆無のCV33は偵察や陽動、ナビゲーションと大いに活躍していたのは、報告から聞いていた。
車長は勝負勘が優れていて、全体を見るいい目を持っているわ。多分、面倒見のいい子ね。
思わぬ邪魔が入ってきたけど、次は無いわよ。私は今度こそヘッツァーとチャーチルを撃破しようと動き出す。
チャーチルがまっすぐに特攻? 作為的なものを感じるけど、どの方向からの攻撃にも対応してみせるわ。
あたしはチャーチルを撃破しつつ360度すべての方向に最大限に集中力を高めて、迎撃の準備をしていた。
さぁ、ヘッツァーはどうするのかしら? どこからでも来なさい――。
「はぁ、何よコレ? 信じられないわ……。まさか、上から攻撃されるなんてね……」
あたしは声を失ったわ。まさか、ひっくり返ったCV33をジャンプ台にして、ヘッツァーが飛んで来るなんて……。
上からのほとんどゼロ距離からの砲撃に、センチュリオンも耐えることは出来なかったわ。
まぁ、何とかこっちの砲撃もギリギリ当てることが出来たから相討ちになったけど……。
正直言って高校生に撃破されたショックの方が大きわね。
まったく、大したものだったわ。日本の高校生たちは……。
でも、とーっても楽しかった。また戦いたいわ、貴女たちと……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「まったく、撃破車両をジャンプ台にするって、会長の発想には驚きました」
「まー、一回実践してたからねー。あのときは大ジャンプのために履帯を動かしてもらわなきゃいけなかったけど、今回は角度さえあればなんとかなるかなーって」
カール撃破のとき一回やった事あるからって、あの土壇場でもう一度やろうって提案出来るか?
廃校がかかったあの場面で……、この人はずっと諦めずに勝つ方法を突き詰めてたんだ……。
まったく、敵いませんよ、会長……。
「玲香、やられたわ。まさか、こっちで撃破されちゃうなんてね」
「本当にまさかですよ、撃破出来るなんて、あははっ。あー良かった、さすがにみほも連戦はキツイでしょうから」
実際、相討ちでも大金星だ。実力でも車両のスペックでも負けてたからなー。
まぁ、こんなことがあるから戦車道は面白いんだけど。
「あら、あなたは愛里寿が負けると思っているのね。残念だけど、あの子はあたしなんかよりもずっと才能豊かな天才よ。すでにあの年齢であたしと実力が変わらないんだから」
「それでもです。私はみほが負ける姿を想像出来ません。それに、今の彼女には頼りになる、最強のパートナーがいますから」
そう、私は西住さんが負けるなんて微塵も思ってなかった。
まほさんと一緒に戦っているんだ。きっと、私たちの隊長は大洗女子学園を救ってくれるに決まっている。
私たちはみんなと西住さんとまほさんの戦いを見守ることにした。
『目視確認終了! 大学選抜、残存車両なし。大洗女子学園、残存車両1――』
審判からのアナウンスが流れる――。
ありがとう、信じてたよ……、みほ。
まぁ、驚いたけどな。あんなやり方で勝つなんて――君の戦車道はいつも私の想像を遥かに超える。
『大洗女子学園の勝利!』
蝶野さんの元気な声で私たちの勝利が決定する。
仲間たちはみんな両手を挙げて喜んだ。観客席に応援に来てくれたみんなも一緒に飛び上がって歓喜した。
「これで、廃校はなくなった!」
ニカッと笑う会長。今回は改めて働き者になった先輩の凄さを知りましたよ。
まだまだ、追いつくには遠い背中です。
「うわぁぁぁぁぁん!」
号泣する河嶋先輩。弱音を吐いてばかりだったけど、結局、最後まで頑張ってくれました。
頑張り屋の先輩だから、涙も一番出るんだと思います。
「ぐすっ……よかった……」
静かに涙ぐむ小山先輩。正直言って、毎回のことながら一番無茶ぶりをしてしまって悪かったなと思ってます。
でも、先輩は優しいからつい甘えてしまうんです。
そして、私たちの元にティーガーⅠに牽引されたあんこうチームのⅣ号が帰ってくる。
Ⅳ号から降りてきた西住さんたち、あんこうチーム。
ごめん、みんな。これだけは誰にも譲れない。
一番最初に、私たちの最高の隊長を労うことだけは……。
「みほ、また助けてくれて、ありがとう」
「玲香さん、私だけじゃどうにもならなかったよ。みんなで頑張ったから――ふぇっ?」
私は我慢できなくて、力いっぱい西住さんを抱きしめる。
「それだとしても、私は君に感謝を伝えたい! みほ、もう一度言うよ、ありがとう!」
「もっもう。玲香さんったら、みんなが見てるのに……」
顔を真っ赤にした西住さんに注意されて、私はようやく彼女を解放した。
「そっそろそろ、いいかしら? 大洗流のスキンシップはすごいのですね……。みほさん、おめでとう」
ダージリンさんが少しだけ呆れながら祝福の言葉をくれた。
「えー、あれくらいウチでは普通よ。おめでとう! エキサイティングだったわ」
「レイーチカって、情熱的なのね……、まっ、おめでとう」
「おっお前ら、前のあれは演技じゃないのか? まぁいいか。いい試合だったぞ」
ケイさんやカチューシャさん、アンチョビさんも祝ってくれた。
そして、西住さんはみんなの方を向いて挨拶をした。
「みなさん、本当にありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
私たち大洗勢は西住さんの後に続いて頭を下げた。
「こちらこそお礼を言わせていただきたいです!」
西さんが私たちに頭を下げる。あれ? 私たち、何かやりましたっけ?
おや? 大学選抜チームの愛里寿さんが何故か遊園地のクマの乗り物に乗ってこっちに向かってきてるぞ。
どうしたのかな? アリシアさんもこっちに歩いて来てるし。
愛里寿さんはポケットからボコミュージアムで西住さんに譲ってもらったぬいぐるみを、取り出した。
「私からの勲章よ」
「ありがとう。大切にするね」
ニコリと微笑んでボコのぬいぐるみを受け取る西住さん。
なんだか、愛里寿さん照れ臭そうにしているな。
「今回は楽しい試合だったわ。愛里寿にも、いい刺激になったみたい。負けるって経験がこの子には無かったからね」
そんな愛里寿さんの両肩を後ろから優しく掴むアリシアさん。
「アリシア姉様、私は別に……」
「またまたー、嬉しかったんでしょう? ライバルができたんだから」
顔を赤くした愛里寿さんはアリシアさんの背中の後ろに隠れてしまった。
そして、私たちはみんなとしばらく雑談をして、帰り支度を始めた。
「玲香さん、私ちょっと、お姉ちゃんと話してくるね」
「ん、ああ。いってらっしゃい」
帰りの船の出港前に西住さんはまほさんと何やら話があるみたいで、ふたりきりで会話をしていた。
「みぽりん、何話してるのかなー?」
「んー、まほさんの編み出した1日寝かせたカレーをより美味しく食べる方法だろーな」
「あら、それは興味深いです。どのような食べ方なのですか?」
「絶対に違うと思うが……」
「あー、それ知ってます。玲香殿もこの前の教育番組見ていたんですねー」
あんこうチームのみんなと雑談しながら、西住さんが戻るのを待っていた。
「お待たせ! みんな、ごめんね。待たせちゃって」
「気にしなくていいさ。さぁ、帰ろう。私たちの
私たち、戦車道チームを乗せた船は出港する。大好きなあの場所に帰るために……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「仙道ちゃん、改めてお疲れー」
「会長、お疲れ様です。いやー、戦って勝ったあとの食事って美味しいですよねー」
「うん、わかるー。ジャンジャン食べよう!」
「玲香、お前……、元気そうだな……」
「河嶋先輩? なんで、そんな抜け殻みたいな顔をしてるのですか? まさか、宿題を終わらせてないとか?」
「違うわ! いや、宿題はやってないけど、疲れただけだ!」
「桃ちゃん、全然誇れることじゃないよ……」
あー、こうやって平和な話ができるって幸せなことなんだなー。
会長の笑顔と小山先輩の疲れた顔、そして河嶋先輩の困った顔を見ると、私は日常が取り戻せた気がして嬉しくなった。
「にしし、仙道ちゃん。やっと、帰れるね」
「はいっ!」
私は力強く、会長の言葉に返事をした。
生徒会のみんなでご飯を食べたあと、私は風に当たるためにデッキに一人で出ていった。
ああ、潮風が気持ちいい……。
「玲香さん! ふふっ、玲香さんも風に当たりに来たんだね」
「ああ、みほか。みんなは?」
「うん、疲れて寝ちゃったみたい」
「そっか、あんこうチームも戦いっぱなしだったもんなー」
私たちはしばらく肩を並べて夜空の星を二人で見ていた。
「なぁ、みほ……。私たち、付き合ってまだ全然経ってないけど……、いや、こんなこと言っていいかわからないんだが……」
私は西住さんの両肩を抱いて、瞳をジッと見つめた。
「えっ、何かな? もしかして、私のこと嫌になっちゃった? そうだよね、玲香さんにはもっと……」
何を勘違いしたのかわからないが、西住さんの顔が曇りしょんぼりした顔をした。
「いっいや、全然違うっていうか、何ていうか……。その、みほのことが好きすぎて、もっと一緒に居たいから……、一緒に住まないか? ルームメイトってことでさ。この機会に二人でちょっと大きめの寮に引っ越したいなって思ってて」
私は恥ずかしい気持ちに耐えながら、思っていることを伝えた。
試合に勝ったら言おうと思ってた。だって試合前だとフラグっぽくなるから。
「えっ……、一緒に住む? すっ好きすぎるって……、もう、玲香さん……、やっぱりズルいよぉ」
頬が月明かりに照らされて桃色なのがわかる。時々、素直に思ったことを言うと、西住さんはこんな反応をする。
「ああ、ごめんね。まだ早かったよな。でもいつかは……」
「ううん、いつかは嫌だよ。すごく素敵な提案だと思った。私も玲香さんと一緒に住みたい」
やった。これで毎日帰っても西住さんの顔が見ることができる。
こうして、私と西住さんはルームシェアをする約束をした。
そして、またしばらく肩を寄せ合って星を眺めて、私たちはようやく眠りについた。
翌朝、戦車道チームのみんなでデッキに集合した。
私たちはもう一度、試合終了後と同じくらいの歓声をあげる。
「あれをみんなで守ったんだよな。すごいな、やっぱり……」
「うん、やっぱり近づくと実感できるね」
大洗女子学園の学園艦が、私たちの家が、日光に照らされて――私たちを出迎えてくれた。
廃校を告げられた日、私たちは二度目の絶望に潰れかけた……。
起死回生の試合が決まり、不利な条件を突き付けられたとき、私たちは諦めかけた……。
だけど、這い上がろうと誰一人として脱落することなく、足掻き続けた……。
だからこそ、そんな私たちだからこそ、再び大きな奇跡を起すことが出来たんだ!
ハッピーエンドを掴み取り、私は今、幸福という甘美な言葉を噛み締めていた――。
「ただいま」
全てはこの一言のために、私たちは本気で戦い抜いたのだった……。
そして、勇者たちは最高の母校に帰還した――。
ここまで、ご覧になっていただいて、本当に感謝しかありません。
劇場版を稚拙な文章力なりに一生懸命書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
本当に劇場版は原作の出来が良すぎたので改変するのが非常に難しかったです。
でも、テレビシリーズと劇場版に玲香を投入して描くという最初の目的は達成出来ましたので、満足出来ました。
初めての二次創作で難しいところもありましたが、楽しかったです。
もし、お時間がありましたら、一言でも結構ですので、感想なんてあれば狂喜乱舞して舞い踊ります!
あと、これが最終回とかじゃないので、次回もよろしくお願いします。