大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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ここからは原作無視の世界ユース大会編です。
見切り発車ですが、楽しくできるように頑張ります。
それでは、よろしくお願いします!


U-18世界ユース大会編
役人三度、大洗女子学園へ……


「やぁやぁ、西住ちゃん、悪いねー。呼び出したりしてー」

 

 愛里寿さんが転入してしばらく経ったある日、会長は西住さんを生徒会室に呼び出した。

 前もって私や愛里寿さんも一緒に用事があると会長は言っていたので、戦車道関連の話だろう。

 

「あのー、その前にいいですか? 河嶋先輩はどうしてあのように落ち込んでいるのでしょうか?」

 

 西住さんはデスクでうなだれている河嶋先輩を不思議そうな顔をして見ていた。

 

「みほ、それはだな。愛里寿が原因なんだ……」

 

「えっ? 愛里寿ちゃんが?」

 

 西住さんは驚いて愛里寿さんの顔を見る。愛里寿さんは何のことだか分からないので首を傾げていた。

 

「ほら、愛里寿さん、生徒会の庶務として入ってきてくれたでしょ。それで、桃ちゃんが2日かけてギリギリ終わらせた量の仕事を、たったの1時間で処理しちゃって……」

 

 小山先輩がことの顛末を話した。

 そう、愛里寿さんは私たち生徒会に興味を持って、入りたいと申し出てくれたのだ。

 

 元々勧誘しようと思っていた私は渡りに船だと思い、庶務という役職を作成して、さっそく入ってもらった。

 

 するとどうだろう。愛里寿さんはそもそも飛び級で大学生になるほどの天才だ。

 それは戦車道の天才ってことではない。頭脳が天才ということなのだ。

 

 つまり、愛里寿さんはその天賦の才を生徒会の事務的処理能力で遺憾なく発揮し、河嶋先輩はそれを目の当たりにして自信を喪失してしまったのである。

 

「まっ卒業の怪しい河嶋には刺激が強すぎたんだよねー」

 

 会長は干しいもを噛りながら、ニヤニヤしていた。

 

「河嶋先輩、気にしないでほしい。誰にでも向き不向きはある。先輩には先輩の良いところがきっとあると思う……」

 

「ううっ……、私の良いところってなんだー? 教えてくれ、愛里寿ぅぅぅ」

 

「えっ、と。それは……」

 

 私は目を逸して、あんなに困った顔をした愛里寿さんを初めてみた。船酔いした時よりも辛そうな顔をしていた。

 

 河嶋先輩……、戦車道で淡々と大量の車両を撃破した天才少女を追い詰めるとは――。

 

「そんなことより、みほまで呼んだ話って何なんですか? 私と愛里寿も、ということは戦車道関連だっていうことは分かるのですが……」

 

「いやー、それはまだわかんないんだよねー。今日なんだけど、文科省の人が、ウチの戦車道の代表者と面会を希望しててさー。だから、隊長と副隊長とついでに島田ちゃんも同席してもらおうって思ってねー」

 

 へぇ、文科省がどうしてウチの戦車道に? 会長もわかってないのか……。ふむ、謎だな。

 

「わかりました。しかし文科省ですか……。正直、いい印象ではないですよね……」

 

「また、廃校って言われたら……」

 

「みほさん、大丈夫。この学校は絶対に守る」

 

 一抹の不安はあったが、さすがにあれだけガチガチに約束をしたのだから、こんなに早く反故にはしないとは思った。

 

 だからこそわからないのだが……。

 

「おっ、噂をすればだねー。小山ー、お客さんを応接室に案内してー。あたしらも行こっか?」

 

 会長の電話に連絡が来て、小山先輩は文科省の人の出迎えに向かった。

 

 そして、私たちも応接室に向かった。 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 『文部科学省学園艦教育局長』に加えて、『文部科学省戦車道世界大会誘致委員長』とかいう長い肩書が増えた男性、辻廉太さんが大洗女子学園を訪問した。

 

 どの面下げてとは思ったけど、今回は高級チョコレートケーキの手土産つきである。

 こんなケーキごときで絆されるものか、と思ったけど、ケーキに罪はない。後で美味しく頂くために冷蔵庫に入れておこう。

 

「どうもー、お久しぶりですねー。辻さん、お元気そうで何よりです」

 

 会長はいつもの笑顔で辻さんに挨拶する。本当は一番憎んでいるでしょうに……。

 

「いえ、皆さんもお元気そうで……。廃校にならなくて良かったですねー。ははっ」

 

 それをあなたが言いますか。まぁ、この人がウチを今さらどうこう出来そうには無さそうだけど……。

 

「で、辻さんはわざわざケーキ渡して、そんなことを仰るために来られたわけじゃないですよねー」

 

 会長の目がキラリと光る。まさか、これだけのやり取りで何の用件なのか察したのか?

 

「もちろんです。実は近々日本でU-18(高校生以下)の戦車道世界ユース大会の開催が決定しまして、日本代表のユースチームの隊長車両と副隊長車両を大洗女子学園から出してほしいのです。ユースとはいえ、世界大会に隊長として出られるとは、名誉なお話だとは思いませんか?」

 

 世界ユース大会? そんな話があったんだ。でも、わざわざ辻さんがどうして?

 

「別に出なくてもいいですよー。あたしたち優勝校ですから、次の大会に向けて、手の内をさらしたくないですしねー」

 

 会長は間髪を入れずにそう答える。

 おかしいな? イベント好きな会長が、そんなことを言うなんて……。

 

「ええっ? 世界大会で活躍すれば大洗女子学園の知名度アップは間違いなしです。おおいに盛り上がると……」

 

「まさか、前哨戦である世界ユース大会で日本が惨敗したら、本番の世界大会の誘致が出来なくなるなんて話じゃありませんよねー?」

 

 見透かしたような顔で会長は辻さんの表情を伺う。どうやら図星のようだ。

 

「あー、なるほど、辻さんの立場が世界ユース大会で日本の成績が振るわなかったら悪くなるんですね。確か世界大会って5対5の殲滅戦ですから。みほと愛里寿のいるウチの存在は大きいというわけですか。黒森峰とかの大きな強豪校は何も言わなくても出てくれそうですし……」

 

「もうひとつあるよー、仙道ちゃん。この前、秘密裏に黒森峰とサンダースの連合チームとアメリカのユースチームが練習試合をやったらしいんだー。で、連合チームは手も足も出なかったんだって。多分、辻さんはそれで不安を煽られちゃったんじゃないかなー。上からも色々と言われただろうし……。まぁ、その試合には姉住ちゃんは出てなかったらしいけどねー」

 

「あっ、お姉ちゃんは今、短期留学中です……。冬にドイツの大学に進学する予定で……。明日くらいに戻ってくるって聞きました」

 

 まほさんが居ないとはいえ、完敗ってほどの負けだったんだ。

 そりゃ、日本の高校トップの連合軍が負けたならヤバいと思うよなー。

 

「なっ、なぜそれを……」

 

 辻さんは眼鏡がずり落ちて、驚いた顔をしていた。ウチの会長は情報網が半端ないんですよ。諦めてください。

 

「そっか、統廃合の計画も失敗して、その上、世界大会の誘致も失敗しちゃったら……」

 

 私はそう言って辻さんの顔を見た。

 

「……」

 

 彼は黙って顔を背ける。まぁ、立場が悪くなるのは当然だろうなー。

 

「まぁまぁ辻さん、落ち着いてくださいよー。過去にはあたしたちも色々ありましたけどー。お友だちになれないこともないと思うんですよねー。あたしたちは……」

 

 そう言って、会長は誓約書と書かれた紙を辻さんに手渡した。

 

「会長、やっぱりどんな話か知ってたんじゃないですか」

 

「予測はしてたけど、確信まではなかったよー。世界ユース大会の話をされるまではねー」

 

 なるほど。だから、あんな誓約書を前もって準備していたのか。

 私は会長の渡した誓約書をチラ見して内容を見ていた。

向こう20年は大洗女子学園の学園艦を存続させるようにする内容だった。

 

 恐らく辻さんのキャリアとかを考えて出来る範囲内を最大限に活かした誓約書なんだろうな。

 

「はぁ、わかりましたよ。この条件を飲みましょう。ですから――」

 

「西住ちゃーん、島田ちゃーん。世界ユース大会に出てくんない?」

 

 早っ……。この変わり身の素早さは見習わなくては……。まさか、ウチを廃校に追いやった張本人のために戦うとはなー。

 

「ふぇっ? 私が世界ユース大会ですか? ええーっと、わかりました。会長がそういうのなら、頑張ります」

 

「私は構わない……」

 

 西住さんと愛里寿さんは出場を承諾した。

 いいなー。世界ユース大会だったら、私も出たい。

 

「大洗女子学園のご協力に感謝します。出来れば、ベスト4いえ、準優勝くらいを目指していただけると助かります。あと、ユースチームの監督なのですが……、戦車教導隊所属の蝶野亜美一等陸尉にお願いしたところ、世界ユース大会の参加選手の選定は全国大会優勝校の大洗女子学園に一任すると仰ってまして……」

 

 蝶野さん、何をいい加減なこと言ってるんだ。

 きっと、「大洗の子たちにドーンと任せちゃって」とか言って困らせたんだろうな。

 

「なるほど、代表の任命権は私たちに委ねられたわけですね。というより、そういう事情ならなおさら私たちを出すように促さざる得なかったのですか……」

 

「ええ、まぁ、そうですね。ですから、貴女方にはまずは、代表の20両分の選手を決めてほしいのです。そこから、毎回5両の3チームを作って最大3セットの試合をするルールですから。基本的に18歳以下の高校生から決めていただきたいのですが、オーバーエイジ枠が認められていまして、22歳以下の者から3名までは出場可能です」

 

 簡単に言えば20両の搭乗員を高校生から選ぶけど、大学生でも3人まではオッケーみたいな感じか。

 

「では、代表選手が決まりましたらご連絡を……、合宿場などの準備もありますので……。あと、禁止車両などもありますので、それはルールブックで確認していただきたい」

 

 そう言い残して辻さんは大洗女子学園から去って行った。

 U-18の戦車道日本代表選手かー。誰を選ぶのが良いのだろう。

 

 というか、西住さんはあんこうチームで出れば良いけど、愛里寿さんはどうするんだろう? 愛里寿さんの私物のパーシングが大洗の格納庫にあるんだけど、愛里寿さん以外の搭乗者が居ないんだよねー。ちなみにセンチュリオンが当然欲しかったんだけど、あれはいろいろ理由があって無理でした。

 

「西住ちゃん、てことでさー、代表選手を決めなきゃなんだけどー、誰がいいかなー?」

 

「そうですね。まずは生徒会の皆さん。カメさんチームが味方だと助かります」

 

 西住さんは即答した。えっ、私を最初に選んでくれるの? すごく嬉しい……。

 

「ありがとう! みほ、大好き!」

 

「ふぇっ? れっ玲香さん、そういうのはここじゃ……」

 

「じぃーっ……」

 

 愛里寿さんにすごく興味深そうな顔で見られたので、私は目を逸らせた。

 いや、嬉しかったからつい……。

 

 とっとりあえず、話を戻そう。

 

「やっぱり、ウチで1番の火力のあるレオポンさんチームは外せない気がするぞ。いろいろモーターもイジってるって噂だし……」

 

 私は代表選定の話に無理やり戻した。

 

「そっそうだね。自動車部の皆さんが居れば心強いかも」

 

 ということで、レオポンさんチームには後で声をかけることにした。

 

「あと、アヒルさんチームも……」

 

「いや、さすがに5対5の殲滅戦で89式は……」

 

 磯辺さんたちには悪いけど、89式はあまりにこの条件だと不向きだ。

 

「やっぱり、乗ってくれないかな? 磯辺さんたちはパーシングに」

 

「ああ……、愛里寿と組ませるのか。確かに、練度で言えばアヒルさんチームはあんこうチームにも劣らないくらいだけど……、こだわりが強いからなー」

 

「あの89式の動きは見事だった。あの戦いでみほさん以外に被弾したのは彼女たちの車両だけだ」

 

 愛里寿さんもお墨付きか。後で頼み込んでみるかな。

 

 とりあえず、今のところ仮に決まったのは……。

 

 Ⅳ号(あんこうチーム)、ヘッツァー(カメさんチーム)、ポルシェティーガー(レオポンさんチーム)、パーシング(愛里寿+アヒルさんチーム)の4両か。

 

 あと16両もある……。まぁ、大洗の子に声をかけるのはいつでも出来るから、他の学校を回ってめぼしい人たちに声をかけるか。

 

「じゃっ、西住ちゃんと仙道ちゃんは明日から全国の学園艦を回ってきなよー。磯辺ちゃんたちの説得はこっちに任せてさー」

 

 会長がそう言ってくれたので、私と西住さんは全国の学園艦をヘリコプターで回って、選手たちを集める旅に出ることになったのだ。

 

 世界ユース大会か……。ワクワクしてきたなー。




世界ユース大会編の出だしはいかがでしたでしょうか?
ここから、各地を回って代表チームを作っていきます。
愛里寿には絡みやすくするために生徒会の庶務になってもらいました。

アヒルさんチームの89式への愛情は理解出来ているのですが、愛里寿の車両に誰を乗せるか考えるとアヒルさんチームしか思い付かなかったのです。
一応、ユースチームの愛里寿は車両がパーシングで搭乗員もアヒルさんチームなので大学選抜チーム時よりは弱いって設定にします。
大学選抜チーム時の強さだと車両も砲手も操縦手もバケモノレベルなのでバランスが悪くなってしまいますから。
それでもあんこうチームと匹敵する強さです。

次回もよろしくお願いします!

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