厳密には違いますけど模擬戦のことを思い出しながら書きました。
玲香とエリカの掛け合いに注目してみてください。
それではよろしくお願いします。
「ところで、聞いておきたいんだけど、どうして私の方についたの?」
「えっ? 親友だから?」
「はぐらかさないで、真面目に聞いてるのよ」
Ⅱ号戦車に乗り込む前に逸見さんはそんなことを聞いていた。うーん、理由ねぇ。
「まぁ、エリカがこっち側の人間だからかな。私は早々に諦めたからねー。みほに勝つなんて無理ゲー」
「ふーん。そういう潔いところはあなたらしいわね。私は諦められなかったわ。だからこそ、弱いままの今の自分が許せないし、みほも許せなかったの」
潔いっていうけど、私なりに張り合った結果だからね。逸見さんもいろいろと悩んだりしたんだろうけど。
「そっか。でも、みほじゃないけどさ、エリカは強いよ。ある意味、まほさんよりもね」
「何それ? どういう意味? 慰めなら要らないわよ」
「私がエリカを慰めるぅ? ははっ、そんなことするくらいなら、カブト虫相撲でも見たほうがよっぽど面白い。まっ、強さっていうのは色々ってことさ」
壁に当たるということを知っている。絶望しても努力し続けることを知っている。
そんな逸見さんが弱いはずがないじゃないか。
「役割はどうする? あなた、砲手は上手いみたいだけど、操縦は?」
「多分、黒森峰の中等部の子よりも下手くそ」
「じゃあ、装填と砲手はあなたね。私が操縦しながら指示を出すわ」
「助かる。みほも操縦は下手だから、まほさんが操縦手だろうなー」
役割が決まって、私と逸見さんはⅡ号戦車に乗り込む。
さて、どうなることやら。
試合開始の合図は赤星さんにお願いした。
黒森峰の演習場の一つであるこの場所は小さな森や、岩場が適度にあり、身を隠すところは多めだった。うーん、戦術と腕が試されるってことか……。
西住さんがこの戦いをどういう意図で始めたのかはよく分からない。
西住さんと戦うのは校内の模擬戦でよくやるけど、今回は口出し無用だ。逸見さんの指示に従わなくては。
「で、あの子はどう攻めると思う?」
「えっ? 私って口出したらダメなんじゃないの?」
いきなりアドバイスを求められて私はついツッコミを入れてしまった。まさか、逸見さんに突っ込む日が来るとは……。
「バカね、どんなやり方でも勝てば私の実力よ。なんだって利用するんだから」
「あー、君はそういうタイプの人だったな。忘れてた。そうだな、みほのことだから、最初から――」
私は遠慮なく口出しをすることにした。なんか、無性に負けたくなくなったんだけど……。
思ったとおり、西住さんは最初から仕掛けてきた。誘うように離れた距離から砲撃をしてきたのだ。
「へぇ、よくわかったわね。あなたの言ったとおり、遠距離からの砲撃で陽動を仕掛けてきたわ」
「うん、わざとらしいくらいの陽動だね。どうする? 私だったら、しばらく様子を窺って――」
「売られた喧嘩は買う主義よ。罠があるって分かっているなら突っ込んで噛み千切ってやるわ!」
「本当にまほさん譲りだね、そういうとこ」
「当たり前よ、私が一番尊敬する戦車乗りなんだから……」
逸見さんはそう呟くと西住さんの車両目掛けてまっすぐに戦車を走らせた。
ちょっとはフェイントとかしないの?
「今よ! 撃ちなさい!」
「了解!」
「あら、やっぱり上手いわね」
最短距離で相手との距離を詰めて、相手が撃ちだそうとするギリギリのタイミングを見極めて逸見さんは指示を出す。
私の砲撃は西住さんの車両を掠めた。
「あの子は砲撃もあれからそんなに上手くなってないのね」
「まぁ、車長として、隊長としては群を抜いているけど、後はそこまでじゃないよ。操縦はエリカより下手だし、見てのとおり砲手だって私の方が上手い。だから、みほがエリカのことを強いって言ってるのは別に嫌味じゃないんだよ」
「ふーん」
逸見さんが少しだけ考え込むような顔をした。
何度か砲撃の応酬で牽制しあった後に、いつの間にか森の近くまで到着していた西住さんの車両は、身を隠した。
こういう巧みな誘導が上手いんだよなー。
「くっ、森の中に入って身を隠すなんて狡っからいことするわね!」
「基本的にみほのやり方は相手の力を封じて、自分が力を十全に振るえる状況を作ることなんだ。戦う前に勝負を決める、戦術家というより戦略家なんだよ」
「それが大洗のスタイルにハマったってわけね」
「うん。私以外は初心者だからね。みほの突飛なやり方も柔軟に受け入れることが出来たんだ」
そんなことを言っていると、隠れている西住さんの車両がこちらの側面を狙ってきた。
「下手な砲撃が仇になったわね。自分の居場所をわざわざ教えるなんて……。そっちね!」
「バカ! 素直に突っ込むやつがあるか」
砲撃の方向に直進する逸見さん。こんなに単細胞だっけ?
「でっ……、あなたならこっちに回り込んでいるでしょっ!」
急に右に旋回すると、なんと西住さんのⅡ号戦車がこちらを木々の隙間から狙っていた。
「木を倒しなさい。出来るんでしょ?」
「もちろん」
私は西住さんの砲撃よりも早く砲弾を放った――。
すると倒れてくる木を避けるために前に西住さんの戦車は飛び出す。
「装填早め、そして直ぐに――」
「任せろっ――」
二両の戦車は肉薄し、砲身が互いに向かい合う。
そして――。
「あーあ、もう少しだったな。すまん、私がもっと急いで装填してれば……」
「いいえ、あなたはよくやったわ。まさか、私があの子と隊長を相手にして……」
二両はコンマ1秒も違わずに同時に白旗をあげていた。
つまり、引き分けである。
まぁ、西住さんの砲撃がもう少し上手ければ最初の森での一撃でこちらが負けてたかもしれないが……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「エリカ、見事だったな。まっすぐに自分の力をぶつける、エリカらしい戦車道だった」
試合が終わり、隊長室に再び戻って直ぐに、まほさんは、逸見さんを称えた。
「いえ、森の中に誘い込まれた時点で本来は私の負けでした」
「そんなことないよ。エリカさんは最後まで勝つことに対して純粋でまっすぐで、すごく強かったよ。木を倒そうとしたときの気迫とか怖かった」
「……そう。あなたがなんで戦おうって言ったのかまだ分からないけど。一つだけわかったことがあるわ。私はみほに負けるのが堪らなく嫌ってことよ。――あなたが居なくなってムカついたけど、今は来年あなたを叩き潰すチャンスが貰えたと思って受け入れられるようになったわ」
「エリカさん……」
「そうか……、エリカはみほのライバルで居てくれるのだな。なら、隊長としての資格は十分だ」
まほさんは逸見さんの心境を聞いて優しく声をかけた。
「先ほどは弱音を吐いてすみませんでした。何度負けても、私は諦めません。どんな手を使っても黒森峰を最強の王座に戻してみせます」
「よし、よく言ったぞエリカ。これで、ようやく本題に戻れるな。玲香、話をしてやってくれ」
逸見さんが不貞腐れてたから、ここまで長かったけどやっと本題に入ることができた。
「そっそういえば、あなたたち何をしに来たの? 特にみほまでここに来るなんて……」
逸見さんはようやく私たちがここにいることに疑問を持ったみたいだ。それだけ追い詰められていたんだろうけど……。
「ああ、実は――」
私は先ほどまほさんにしたのと同じ説明を逸見さんにもした。
「――そう、そういうことね。まったく、早く言いなさいよ」
逸見さんは早速いつもの調子で悪態をつく。
いや、君がへこんでいたからこんなに長くなったんだけど……。
「で、どうする? アメリカユースにこっぴどくやられたみたいだけど、リベンジするのか、しないのか?」
「するに決まってるでしょ。今度は負けないんだから」
当然、逸見さんの返事は決まっていた。そりゃあそうだよね。逸見さんなんだから。
「そっか、じゃあエリカも代表ってことで。みほ、次のところに行くか?」
「うん。次はどうしよう?」
ということで、私たちは次の目的地を話し合う。
「えっ? もう行くの? 車両とかどうするとか話さないの?」
「そこは各人に任せるよ。ああ、マウスはダメだよ。あれは確か、禁止車両だ」
ルールブックではマウスやT28みたいに超重戦車のような車両は全面的に禁止になっていた。
「随分と適当ね」
「それを言うなら、代表選考を丸投げした蝶野さんに言ってくれ」
「ティーガーⅡにするわ。乗り慣れた車両でアメリカだろうとドイツだろうと蹂躙してやるわよ」
逸見さんは、ティーガーⅡでユース大会に挑むと言ってくれた。ということで、6両目の車両は逸見さんのティーガーⅡとなった。
「じゃあ、代表の強化合宿をやるみたいだから、次はそこで会おう。エリカと戦えて私は嬉しいよ」
「そっそう? 私も今日はあなたと同じ車両に乗れてまぁまぁ楽しかったわ」
「玲香さん、そういうのはダメだよ。エリカさん、お姉ちゃん、私たちもう行くから」
西住さんは私の手を信じられない力で引っ張って黒森峰女学園の出口を目指した。
何か変なことしたのか? わからん……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「次はサンダースにする? 長崎なら近いし」
私は効率を優先して意見を出した。プラウダとか遠いし、グロリアーナは大洗に帰るついでに寄れる。
「そうだね。サンダース大学付属は初めて行くよ。優花里さんと玲香さんは前に行っていたけど」
「うん、何もかもデカいんだ。黒森峰も大洗より大きいけど、あそこは桁が違う。さっそくケイさんに連絡してみるよ。今なら昼休憩中だろうし……」
私はケイさんに電話して、サンダースへの入校許可をもらった。
「ハーイ、みほ、ホワイトデビル! しばらくぶりねー! サンダースはあなたたちをウェルカムするわー」
「こんにちは、ケイさん。先日は力を貸していただいてありがとうございます」
「どうも、久しぶりです」
いつもの調子でケイさんは明るく迎えてくれた。
「聞いたわよ。ユース大会の代表選定をあなたたちがやってるらしいじゃない。まったく、偉くなったわね」
アリサさんも一緒に迎えに来た。後ろにはナオミさんもいる。
「ええ、まぁ、蝶野さんが怠けまして……。早速なんですが、ケイさん、代表になってくれませんか? 出来ればナオミさんも……」
「オフコース! 当然よ!」
「私もアメリカユースチームにリベンジしたいと思ってた。望むところよ」
ケイさんとナオミさんは即答した。
「ちょっと待ちなさい! 私を無視ってどういうことなの?」
「いや、アリサさんは興味ないかなって……」
「大アリよっ! アメリカユースに一矢報いないと気が収まらないくらい腹が立っているんだから!」
アリサさんはいつも通りのリアクションでやる気を見せていた。じゃあ、アリサさんも一緒にってことで……。
「冗談だよ、アリサさんも代表ってことで、じゃあサンダース大学付属からは三両だね」
私は黒森峰のときと比べてトントン拍子に話が決まっているのでホッとしていた。
「玲香、ストップよ。代表の車両は20両だけなのよね?」
「いや、20両もあるんだよ。実際はそこから15両使って5両のチームを毎回3つ出すんだけど」
私はルールブックを見せながらそう言った。
「いや、20両は真剣に選ばなきゃダメよ。例えば、私は車長としての力は隊長やナオミに劣るわ。はっきり言ってアメリカユースと戦って力不足を感じたの」
アリサさんは急に自信のないような事を言う。
「じゃあ、代表にはならないってこと? よく分からないな」
「いいえ、私は知恵を貸すことはできる。隊長は強いけど、参謀ってタイプじゃないでしょ。だから、私は隊長の車両の通信手として入るのよ」
意外と謙虚なアリサさんは車長としての力不足を理由にケイさんの車両の通信手として代表入りすることを望んだ。
ふむ、そういう考え方もあるのか。しかし、やはりアリサさんのこういう頭の柔らかいところは頼りになる。
「わかったよ。じゃあ、サンダースからは2両ってことだね」
ということで、サンダース大学付属高校からはケイさんのM4シャーマンとナオミさんのシャーマン・ファイアフライの二両が代表車両になり、アリサさんはケイさんの車両の通信手として参戦することとなった。
「サンダース大学付属高校からも心強い味方ができたね」
「ああ、この調子で行こう」
これで7両目と8両目が決まったな。いやー、黒森峰よりもずっと早く話が決まって良かったよ。
あっ、そういえば黒森峰ではアメリカユースの話を聞きそびれたな。ついでに聞いておくか。
「はぁ、負けた話はあまりしたくないんだけど、話さないわけにはいかないわよね……」
黒森峰とサンダースの連合が完敗したというアメリカユースチームとはどのようなチームだったのか、私が質問すると、アリサさんはその強さについて話を始めてくれたのだった――。
これで8両目まで決まりました。
エリカとみほの対決の引き分けは迷ったのですが、玲香の砲手としての力までプライドを捨てて利用しまくったエリカの気迫がみほの戦略に肉迫した結果を表現しました。
アリサは参謀的なポジションでは外せないのですが、車長としてはエース級に一歩劣る感じだと思いましたのでこのような感じにしました。決して弱くはないんですけど。
次回もよろしくお願いします。