その後、一度大洗に戻り……っていう回です。
日常回は書いてて楽しいですねー。
「黒森峰との連合っていうけど、2チームは自らの学校の中で精鋭を集めて5両ずつ出したの。で、残りの1チームを車両を出し合って作るってことにしたのね。結局、1セットも取れずにストレートで負けたから最後のチームの出番は無くて終わったんだけど……」
アリサさんが言うには黒森峰のみのチームとサンダースのみのチームがそれぞれアメリカユース代表と戦って負けたらしい。
「私たちが戦ったチームには米国の高校戦車道で最強の砲手と名高いマーサ=ジェシカ=ケネリーが居たわ。別名カラミティ(災厄)・ジェシカと呼ばれる彼女は機械のように正確で迷いのない砲撃で遠距離からドンドンこちらの陣営を追い詰めたの……」
アリサさんはそのときの事を思い出したのか、少しだけ顔を青くしていた。
「遠距離からの砲撃ということは……。ジェシカという人の車両は……」
「ファイアフライよ。私と同じね……」
ナオミさんは悔しそうな顔をして静かに呟く。彼女が感情を顕にするのは初めて見た。
「私たちはジェシカ一人に負けたと言ってもいい。実際、5両中、4両が彼女に撃破されたのだから……。まさに災厄の異名通りの化物だったわ。行進間で動きを正確に先読みして、素早く砲撃を繰り返すというシンプルな戦い方を淡々と実行されただけなんだけどね」
いや、私も砲手やってたから分かるけど、それが一番怖いからね。のっけから厄介な話を聞いたんだけど……。
カラミティ・ジェシカ……、アメリカの高校生最強砲手か……。
「黒森峰のチームはもっと厄介そうだったわよ。アメリカユースチームの隊長が居たからね。彼女は世界的に有名だからあなたたちも知っていると思うわ。隊長の名前はミレーユ=ロドリゲス、知ってのとおりハリウッドでも活躍しているスターの中のスターよ。まぁ、世界一有名な戦車乗りでしょうね」
へぇ、有名な若手ハリウッド女優であるミレーユが戦車道をしてることは知ってたけど、アメリカユースの隊長になるほどの人なんだ。
ていうか、そんなユースチームに入る時間の余裕があるんだ。
世界的なスターの名前が出てきて私はびっくりした。
「ミレーユの試合は敵ながらとってもエンターテイメント性を感じるものだったわー! 圧倒的な統率力からダイナミックに敵車両を駆逐する感じなんてハリウッド映画さながらって感じで台本でもあるのかと思っちゃった」
ケイさんは黒森峰のチームとアメリカユースの試合を振り返ってそんなことを言う。
うん、逸見さんには聞かせちゃいけないな。
しかし、黒森峰を相手にそれだけ一方的に台本の存在を感じさせるような試合をしたってことは、ミレーユの隊長としての統率力や作戦実行能力はかなり高いんだろうなー。
こうして、アリサたちからアメリカユースチームの情報を手に入れた。なんていうか、強烈そうだったな……。
カラミティ・ジェシカとハリウッドスターのミレーユ=ロドリゲスか……。
「すみませんケイさんお時間を取らせてもらって、とても参考になりました。では、私たちはこれで……」
西住さんがケイさんにお礼を言う。
「えー、もう行っちゃうの? せっかく来たのに、もっとステイしてっても良いじゃない!」
「ははっ、あと12両見つけないとダメですから。また合宿で会いましょう」
私たちは丁寧にサンダースの方々に頭を下げて次の目的地について考えながらヘリコプターへ戻った。
「次は聖グロリアーナ女学院がいいかな。玲香さんはどう思う?」
「ん? そうだな、私も――」
西住さんに同意しかかったとき、会長から着信があったので、私は携帯電話に出た。
『やっほー、仙道ちゃーん。調子はどう?』
「そうですねー。黒森峰とサンダースからそれぞれ2両ずつって感じです。今はサンダースの学園艦にいます。これからグロリアーナの学園艦に行こうかなと、思っていたのですが……」
『なるほどねー。それなんだけどさー。今日は一度、こっちに戻ってきてくんないかなー。これからお客様が来る予定でねー。そっちの対応を頼みたいんだー』
会長に現状を報告すると、帰還命令が出た。
お客様って誰だろう? 文科省? それともまさか、蝶野さんとか?
「わかりました。――みほ、大洗に一度戻るぞ」
「うん、お客様って聞こえたけど、誰だろうねー」
私たちは一度大洗女子学園に戻ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、悪いねー、急に戻らせちゃってー」
会長はいつも笑顔で干しいもを美味しそうに食べている。なぜか隣では愛里寿さんも一緒に干しいもを食べてる。
まぁ、愛里寿さんは今は会長とルームメイトとして一緒に暮らしているから西住さんを除くと一番仲がいいから、影響されたんだろうけど……。
会長は愛里寿さんの母親である島田千代さんに今年度の内は愛里寿さんを学園艦生活に慣れさせるために色々と面倒を見てほしいと直接頼まれたらしい。
それで、どうせだったらということで、会長が卒業するまで愛里寿さんをルームメイトとして迎えたのだ。
愛里寿さんは最初は人見知りを発動させてたみたいだが、気さくで、ある意味天才気質の会長のキャラクターと妙にウマがあったらしく、今は姉のように慕っている。
まぁ、そういう流れもあって愛里寿さんは生徒会に興味を持ったのだが……。
「それで、お客様というのは?」
「あー、島田ちゃんがさ、オーバーエイジ枠の3人にうってつけの人材がいるって教えてくれてねー」
そっか、愛里寿さんなら大学選抜チームにツテがあるもんな。
3人ということは、おそらく――。
「メグミ、アズミ、ルミ。私の友達……」
愛里寿さんは干しいもを食べ終えて、そう声を出した。やっぱり、あの三人の中隊長か……。
強かったもんなー。逸見さんたちと四人がかりでギリギリだったし。
「愛里寿ちゃんの友達なんだねー。どんな人なんだろう?」
西住さんは楽しそうな顔をした。
確かに気になるな。戦っただけで特に交流もなかったから、私も全然話をしてない。
「そういえば、学園艦まで愛里寿が呼んでくれたのか? なんか、悪いなー」
「ううん、私はアズミに電話しただけ。そしたら、三人で大洗の学園艦に来ると言ったから会長に許可をもらった」
「えっ? 自分からわざわざ、こっちまで来るって言ったの? そんなにやる気なのか……」
学園艦に来るなんて面倒だろうし、先輩なんだからこちらから出向くのが筋だというのに……。
「まー、来てくれるって、せっかく言ってくれてるんだしー、季節外れの鍋パーティでもして歓迎しようよー。河嶋と小山に買い出しに行かせてるからさー」
「いいですねー。みほも食べてくだろ? 会長のあんこう鍋」
「うん、この前食べさせてもらったけど、美味しかった。そのあとは色々とあったけど……」
西住さんは準決勝前のことを思い出したのか、顔を赤らめた。
ああ、あのとき廃校のことを知って私は大泣きして西住さんから――。
「みほさん、色々ってなに?」
「ふぇっ? そっそれは言えないよー」
興味津々の愛里寿さんに対して手をブンブン振っている西住さん。そりゃ私だって言えない。恥ずかしいし。
「愛里寿はこっちで鍋パーティは初めてだもんな。まぁ、会長の鍋は美味しいから期待してくれ」
「うん。なんだか楽しそう。こっちに来て初めてのことが多くて嬉しい」
私が話題を変えようと、愛里寿さんに声をかけると、彼女は無邪気にニコッと笑う。
「おや、お客様がご到着だねー。あたし出迎えてくるわー。ちょっと待っててねー」
珍しく会長が動き、大学選抜チームの中隊長だった三人を出迎えに行った。
どんな感じの人なんだろう。やっぱり大学生だから私たちより随分と大人なのかな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「隊長ー、お久しぶりです。お元気そうで嬉しいです」
「どうか、高校をやめて戻ってきて来てください!」
「ルミのバカっ、それはもうちょっと後でって言ったでしょぉ」
赤っぽい茶髪のロングヘアのメグミさん。
青髪のショートカットとメガネが特徴のルミさん。
黄色っぽい茶髪のウェーブがかった髪でスタイルが良いアズミさん。
三人は愛里寿さんの顔を見るなり、ダッシュで彼女に駆け寄った。
なんか、すごく愛里寿さんって慕われてたんだなー。
「あっ、あのう……」
西住さんが困った顔をしている。
こちらから挨拶をしようとしているのだが、愛里寿さんに付きっきりで、私たちは呆然とする他なかった。
「みほさんたちが話したがってるから、聞いてあげて……。あと、私はもう隊長じゃないから」
愛里寿さんが見かねてこちらにパスを出してくれた。
やっと、話ができるかな?
「隊長はずっと、隊長です! 何? 西住、あたしらの隊長を盗ったことを自慢したいの?」
「ルミ、私も手伝うわ。やっぱり潰しときましょ、ねぇ? アズミっ」
「だから、本心は隠せって言ったでしょ」
今度はルミさんを先頭に、西住さんに絡んでくる。この人たち面倒な人なのかな?
「まぁまぁ、先輩方。今日は私たちがごちそうしますので、穏便に……。愛里寿が見てますよ」
私は三人の前に出て、仲裁しようとした。
「「……!」」
「ちょっと、ここって女子校よね? あの子、女の子?」
「そりゃあ、そうでしょう。一応、制服着てるし……」
「あの子は危険ねぇ。見て、隊長の顔。あれは恋する乙女の顔よぉ。隊長が友達と言っている西住よりもやばいかも……」
なんだか、ヒソヒソしてるつもりで、割と駄々漏れな失礼な会話。
悪かったな、こんな見た目で。
「みんな、みほさんたちと仲良くはなれない?」
戦争でも起こそうという表情の三人を心配そうな顔でウルウルとした瞳で見つめる愛里寿さん。
「「はっ……」」
「まさか! 隊長のお友達と仲良くなれないはずがありません!」
「そうそう! ただ、やっぱり、こういう事は最初が肝心なんですよ!」
「西住さんたちのことを、どうやって隊長に紹介してもらおうか、相談していたところなんですぅ」
態度変わるの早っ! 何ていうか、もう愛里寿さんへの態度は心酔って感じだ。逸見さんのまほさんへの態度、いや、ノンナさんのカチューシャさんへの態度に近いかもしれない。
「そう、だったの。それなら、早く言えば良かった。私からみんなを紹介する」
「「はいっ! よろしくお願いします」」
この息がピッタリ合う感じが、私生活でも染み付いてるからあの信じられない連携が実践出来るのだろう。
「知っていると思うけど、こちらが西住みほさん。大洗女子学園の戦車道チームの隊長。よく、みほさんの部屋には泊まりに行ってボコの話をしてるの……」
「たっ隊長とお泊りですって……」
「やはり、西住は潰さなきゃ……」
「ルミ、三回目よ。いい加減にしなさい」
愛里寿さんが西住さんを紹介する。もうすでにちょっとピリピリしてるんだけど。
「そしてこちからが仙道玲香さん。戦車道チームの副隊長。みほさんとルームメイト。生徒会の先輩で優しく仕事を教えてくれる」
「西住と同棲?」
「てことは、あの二人は……」
「なるほどねぇ。隊長は割と安心なんじゃなぁい」
こういう勘は鋭いのか、三人は私と西住さんをチラッと見比べて笑みを浮かべる。
まぁ、違わないんだけど……。なんだかなぁ。
「そして、こちらが角谷杏さん。大洗女子学園の生徒会長で私のルームメイト……」
「「ええーっ!」」
「たっ、隊長、待ってください! るっルームメイトということは、こちらの角谷さんといっ一緒に住んでいるのですか?」
メグミさんが唖然とした顔で愛里寿さんに質問する。
別に変じゃないだろ。むしろ、会長と一緒なら安全安心だぞ。面倒見はいいし。
「うん、会長はすごいの。お外で食べるご飯みたいな料理が作れる。ハンバーグに目玉焼きが乗ってるのも上手だった。前にみんなに食べさせてもらったお家のも美味しかったけど、会長のは凄かった」
まぁ、会長は料理が得意だけど、別に外食ってほどキレイな感じじゃないけどなー。
「お外のご飯?」
「お家のハンバーグ?」
私と西住さんも顔を見合わせる。
「そういえば、先輩たちは島田ちゃんにハンバーグを作ったげて、これはお家のハンバーグですって仰ってたらいしですねー」
悪い笑みを浮かべながら三人を見つめる。
「ちょっと、あなたが玉ねぎの皮を剥かずにフードプロセッサーにかけたから……」
「生卵買わずに、ゆで卵買ってきたくせに……」
「だからレトルトにしましょうって言ったのよ……」
この人たち、何を愛里寿さんに食べさせたんだ? そりゃ、会長のハンバーグが外食並になっちゃうよ。
「いやー、先輩たちに家庭料理を教えてもらいたいですー」
「「ううっ……」」
「この子、高校生よね?」
「なんか、敵に回したくないぞ。本能的に……」
「悪魔に見えてきたわ……」
ええ、この人は悪魔です。高校生だけど、文科省の役人相手に一歩も引かない胆力があるんです。
愛里寿さんが私たちを紹介しているうちに河嶋先輩と小山先輩が買い出しから戻ってきて、バミューダ三姉妹を交えた鍋パーティが始まった。
アメリカユースの選手は私の米国のイメージが西部劇とかハリウッドっていう薄い理由であんな感じにしてみました。
愛里寿と会長の同棲については、なんとなく天才肌同士合うかもっていう理由です。沙織も考えたんですけどねー。
次回の鍋パーティ回もよろしくお願いします!