よろしくお願いします!
「みほさん、玲香さん、ようこそお越しくださいました。聖グロリアーナ女学院は貴女方を歓迎しますわ」
聖グロリアーナ女学院の学園艦にたどり着いて、学校まで足を運ぼうと思っていたらダージリンさんがわざわざ足を運んでくださり、出迎えてくれた。
相変わらずオレンジペコさんを引き連れて。
「こんにちは、ダージリンさん。すみません、いきなり押し掛けるような形で……」
「お気になさらないでよろしくてよ、わたくしもみほさんに会いたかったのですから」
西住さんの挨拶に涼しげに答えるダージリンさん。でも、ここまで来てくれるなんて本当に申し訳ない。
「どうも、ダージリンさん。お元気そうで何よりです」
「あら、そう見えるかしら。わたくし、玲香さんに会えなくて恋患いにかかっていたと言いますのに」
ダージリンさんは悪戯っぽく微笑みながら、そんなことを言い出した。
「ええーっと、それは英国流のアレですよね。ねぇ、ダージリンさん」
隣で西住さんがニコニコしながら、すごい敵意を飛ばしているのを感じて、私はダージリンさんに戯れをやめるように念を飛ばした。
「あら、玲香さん。以前、あれだけわたくしにアプローチされていたのを忘れましたの? 例えば、練習試合のときに――」
「わぁー、ちょっと、ダージリンさん! それだけは勘弁してください! 後生ですから!」
まさか、いまさら会長の悪巧みのツケが回ってくるとは思わなかった。
ダージリンさんは面白そうな顔で私を見ている。
「ねぇ、練習試合のときに何があったのかな? 玲香さん」
優しい声で西住さんは私に話しかける。いや、あのときはまだ西住さんと付き合ってなかったし、セーフのような気もする。
しかし――。
「ダージリン様、あまり玲香さんをイジメるのはおやめになったほうがよろしいかと……」
「あら、嫌ですわ。わたくしとしたことが……。はしたないことをしてしまいましたわね」
ほっ、やっとダージリンさんが矛を収めてくれた。
いやー、まいったな。
「玲香さん、今夜詳しく聞かせてね……」
静かに西住さんが私にだけ聞こえる声で呟く。
「玲香さん、最後にひとつだけ。英国人は恋と戦争には手段を選ばない。恋と戦争にはあらゆることが正当化されるの」
今、一番聞きたくない格言を聞かされて、私は聖グロリアーナ女学院に足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダージリンさんが紅茶を入れてくれて、お茶会が開始される。
アッサムさんやルクリリさん、そしてローズヒップさんが先に席について待っていてくれていた。
「さすが、ダージリンさんが入れてくれた紅茶です。全然詳しくないですが、美味しいということはわかります」
「わぁ、すごく美味しいです。紅茶ってこんなに美味しいんですね」
私と西住さんはそれぞれ感想をもらす。お世辞抜きで本当にいい味だった。
「お口に合ってなによりです。玲香さんにでしたら、毎日でもごちそう致したいと思っておりますわ」
「ははっ、ダージリンさん。私の負けでいいですから、そろそろ勘弁してくださいよー」
私は西住さんからの視線に耐えきれずに泣きを入れる。練習試合のことをいまさら復讐されるとは思わなかった。
「なんの話でしょうか? わたくしは別に勝ち負けの話などしておりません。そういえば、聞くところによると、みほさんと玲香さんはルームメイトになられたとか」
「はい。玲香さんと私は一緒に住んでいます」
ダージリンさんの質問に西住さんは肯定する。西住さんからダージリンさんへの圧力がすごい気がするぞ。
「そうですか……、お二人はその……、特別な関係になっているのですか?」
えっと、すごく言いにくそうに言ってるけど、素直に答えられないからね。しかもグロリアーナの人たちが聞き耳を立ててる中。
アッサムさんなんて、何かを打ち込む準備までしてるし。
いや、多分気付いてる人は気付いてる。
あんこうチームとカメさんチームは絶対に全員知ってて知らん顔してるだけだと思う。
でも、なかなか大っぴらに言えないでしょう、こういう関係って。
ストレートな質問にさっきまで敵意を飛ばしていた西住さんは顔が赤くなっている。
「ダージリン様! 特別なお関係ってなんでございますですのー!」
そんな中、ローズヒップさんは元気に挙手をして大声を出す。
「えっ? ローズヒップ? それは、そのう……。アッサムが詳しいから、彼女に聞きなさい……」
「ちょっと、ダージリン! 面倒を押し付けるのはやめてください!」
アッサムさんが不意打ちを受けたような顔をする。
これは、有耶無耶にできるのか?
「あのっ! ダージリンさん、そろそろ本題を良いですか?」
私はこのチャンスに話を切り出した。
ダージリンさんだって、自分が変なことを聞いてしまったことを後悔してるはずだ。
「ええーっと、そっそうですわね。ご用件は確か、近日中に世界ユース大会が開催される件に関することだと伺ってましたが……」
ダージリンさんはようやく話を聞いてくれる姿勢になってくれた。
「はい、実はですね――」
私はダージリンさんたちにみんなに伝えたように、大洗女子学園が代表チームの選定することを任されたという話をした。
「――代表チームですか……。なるほど、実に興味深いお話ですわ」
「ええ、是非ともダージリンさんには代表チームの要として参加していただきたいのです。黒森峰やサンダースが一蹴されたアメリカユースや、オーバーエイジ枠から出てくるであろうアリシアさんのいるイギリスユース。おそらく、ドイツやロシアも勝るとも劣らないほどの強豪でしょう。聖グロリアーナ女学院の力を貸していただけないでしょうか?」
私はダージリンさんに代表に入ってもらうように依頼した。
敵として戦ったときは、その鋭い洞察力と華麗な指揮に苦戦させられ、味方のときは冷静な判断力に幾度となく助けられた。
リーダーとしても参謀としても力を発揮できるオールマイティな戦車乗り……、そういう意味で彼女は代表チームに絶対に必要な人材である。
「――このお話はもちろんお受けいたしますわ。そこまで玲香さんがわたくしをかってくださるのですから、応えないなんて騎士道精神に反しますから」
ダージリンさんは快く、代表入りの話を受けてくれた。これで、12両目が決まった。
「あっありがとうございます! あのう、参加車両はやはりチャーチルでしょうか?」
私はダージリンさんの車両について尋ねる。
「ええ、もちろんですわ。あと、一つだけよろしいかしら? 私から代表に推薦したい人物がいます」
参加車両はチャーチルっと、えっと、推薦したい人物って誰だろう?
「ダージリンさんの推薦でしたらぜひ。みほも構わないだろ?」
「はい。私も信頼していますから、ダージリンさんのこと」
私と西住さんは推薦を了承する。
「それでは、わたくしはローズヒップを推薦しますわ。この子には勢いで空気を変える力がありますの」
なんと、ダージリンさんはローズヒップさんを推薦した。
えっと、確かにローズヒップさんは優れた人物だけど……。
「ダージリン様ぁ! わたくしも一緒に参戦つかまつることが出来るであそばされるですのー!」
「ええ、ローズヒップ。あなたの働きに期待してるわ」
このダージリンさんのローズヒップさんへの謎の信頼感……。これは信じるしかないか。
確かに操縦の腕は凄かったし……。
こうして、13両目はローズヒップさんのクルセイダーになった。
また、このとき、私はルクリリさんがただならぬ気迫を出していたことにまったく気がついていなかった――。
「それでは、私たちはこれで失礼させていただきます。貴重なお時間を、どうもありがとうございました」
「どうも、ダージリンさん。今日はとても有意義でした」
西住さんと私はダージリンさんたちにお礼を言って次の目的地に向かうことにした。
「名残惜しいですが、またお会いしましょう。玲香さん、今度はもう少し深いお話がしたいものですわね」
ダージリンさんは最後に意味深なことを言ったので、また私は西住さんにものすごい力で引っ張られてヘリコプターに向かうことになった。
そして、私は西住さんに浮気だけは絶対に許さないよ、と念を押されるのであった。大丈夫だから、それだけは安心してほしい。
「そんなに心配そうな顔をするなよ。私が愛しているのはみほだけなんだから。それは信用してほしいな」
「ごっごめんね。玲香さん。でも、つい、玲香さんが他の子に取られるかもって考えると、怖いの」
「わかったよ、私もこれから気をつける。じゃあ、プラウダ高校に行こう。カチューシャさんも歓迎してくれるって言ってくれたからさ」
「うん、プラウダ高校も初めてだから楽しみだよ」
こうして私と西住さんは聖グロリアーナ女学院を出発して、プラウダ高校を目指すことになった。
ローズヒップも代表入りです。
意外性のある子なのと、コミカルな展開にするのに必要かなーとかいう薄い理由でユースチームに入れました。果たして出番は……。
次回はプラウダ高校です。よろしくお願いします!