それでは、よろしくお願いします。
「よく来たわね! ミホーシャ、レイーチカ! このカチューシャが直々に出迎えてあげたわよ」
「
プラウダ高校の学園艦に着いた私たちは、カチューシャさんとノンナさんに出迎えてもらえた。
「申し訳ありません、カチューシさん。お忙しい中、時間を取らせてしまって……」
私はカチューシャさんに頭を下げた。
「そっそうね。カチューシャだって、暇じゃないんだけど、レイーチカがどうしてもと言うから来てあげたのよ。感謝しなさい」
「大事なお昼寝の時間が短くなってしまいましたね」
「のっノンナは黙ってなさい!」
ちょうど昼寝の時間だったらしいことをノンナさんにバラされて、怒り出すカチューシャさん。
こういう所は可愛げがあって親しみやすいんだけどなー。試合になるとダージリンさん以上にしたたかなんだよね。
「ごめんなさい。カチューシャさんのお昼寝の時間に来てしまって」
ここで西住さんの天然が発動して、本当に申し訳なさそうな顔をしてカチューシャさんに謝罪する。
むしろそれは煽ってるみたいになるから、やめなさい。
「いっいいのよ、ミホーシャ。カチューシャは寛大な人間なの。許してあげるわ」
しかし、カチューシャさんはカチューシャさんで、素直に西住さんの謝罪を受け取り上機嫌な表情を浮かべた。
ダージリンさんの影響なのか、カチューシャさんも私たちにロシアンティーをご馳走すると、プラウダ高校の応接室に通してもらった。
へぇー、ロシアンティーってジャムを入れるんだ。これも美味しそうだな。
私はジャムをスプーンで掬ってティーカップに入れようとした。
「レイーチカ、違うわよ。本場のロシアンティーはね、こうやってジャムを舐めてから飲むのよ」
カチューシャさんがスプーンで掬ったジャムをペロリと舐めてロシアンティーを口にした。
「付いてますよ」
「うるさいわねぇ」
カチューシャさんの口もとに付いたジャムをノンナさんがナプキンで拭く。
こうやって見ると二人は親子っぽく見えてしまう。
「ノンナさんっていいお母さんになりそうですよね」
私は思ったことを口に出してしまった。
「何よ、レイーチカはカチューシャが子供みたいだって言うの?」
ムッとした表情でカチューシャさんが私を見つめる。
しまった、地雷を踏んでしまったか。
「いえ、そんな決してそういうことでは……」
「カチューシャさんはとても面倒見が良いですし、アリクイさんチームやレオポンさんチームのみんなが、頼りがいがあるって言ってました」
「あら、そう。ミホーシャはわかってるじゃない。そうよ、カチューシャは頼りになる偉大な人間なの!」
私が返答に困っていることを見かねて西住さんが助け船を出してくれた。
カチューシャさんの機嫌はなおり、胸を張ってふふん顔をしている。
でも、西住さんも子供っぽいところは否定してないんだよなー。
しかも例のボコパジャマをカチューシャさんに着せようと提案したのは西住さんの方だし。
『名付けてボコボコ作戦です』とか言ってたし……。
「ところで、カチューシャに頼みごとって何かしら?」
ロシアンティーを楽しんでしばらくした後にカチューシャさんは思い出したように口を開いた。
「あっ、そうですね。では、お話をさせていただきます」
私はもう何回目にもなるユース大会の説明をした。
「――というわけでして、私としては是非ともカチューシャさんとノンナさんに代表チームに入っていただいてほしいと思いまして、お願いに伺いました」
私はカチューシャさんへの説明を終えた。
「ふーん。まぁ、日本の高校生の代表を決めるのならカチューシャ様の力は必要でしょうね」
「それでは、代表入りの話は承諾しますか? カチューシャ」
カチューシャさんは代表チームに入ることに前向きに見えた。
「一つだけ聞いていい? 今は20両中何両決まってるの?」
カチューシャさんが私にそんな質問をしてきた。
「えっ、13両ですけど……」
質問の意図が分からず、私は素直に答えた。
どういう意味だろう。
「ふーん。じゃあ、ミホーシャとレイーチカはカチューシャを後回しにしたのね」
「「えっ?」」
思わぬ言い回しに私と西住さんは顔を見合わせた。
「だって、そうでしょ。もう半分以上決まった状態でカチューシャのところに来たのだから、黒森峰やサンダースよりも後ってことなんでしょ?」
カチューシャは不機嫌そうに口を尖らせる。んなことで、子供みたいに拗ねなくても……。
最後になったのは偶々だし、最初から私はカチューシャさんは欠かせないと思っていた。
「違いますよー。カチューシャさんのことを蔑ろになんか全然したつもりはないです。確かに4校目に回ったことは失礼だったかも知れませんが、私が最初に声をかけようと提案したのは、間違いなくカチューシャさんでした」
私はカチューシャさんの目をまっすぐに見つめて真剣に説明した。
「そっ、そうなの? レイーチカはカチューシャを本当に重要だと思ってくれてる?」
カチューシャさんは目を潤ませて私を見る。時々、この人は少女のように純粋な目をするよなー。
「もちろんです。カチューシャさんのいない代表チームに勝ち目なんてありません。絶対に必要な人だと考えています!」
私は本心からそう答えた。カチューシャさんの指揮と作戦立案能力は誰にも負けない強さがあるからだ。
「――仕方ない子ね。カチューシャを後回しにした無礼は許してあげるわ。ノンナ、クラーラを呼びなさい。ロシアユースの情報を話させるのよ」
「
カチューシャさんの命令により、ロシアからの留学生のクラーラが呼び出された。
「クラーラ、ロシアユースについて知っていることを洗いざらい話しなさい」
「ええ、まず一番注意すべきは――(ロシア語です)」
「それは脅威ですね。でしたら、戦車は――(ロシア語です)」
「日本語で話しなさいよ!」
お約束のパターンらしいやり取りの後、クラーラさんはきちんと日本語で話してくれた。
「一番、注意すべきは、KV-2です。オクーシャ=コシェレワという恐ろしい装填手がいるのですが、彼女の装填スピードはKV-2の砲弾でも他の戦車を遥かに凌ぎます。噂ではシベリア鉄道で18トンの電車の車両を2両引っ張って動かしたとか……」
のっけから、アメリカユースにも劣らないバケモノの話を聞かされた私たち。
カチューシャさんもこれにはドン引きである。
18トンが2両で36トン……。つまり36000キログラムってこと? その人は本当に人間ですか?
「あとはロシア戦車道界の英雄とよばれる、ラドミラ=ミハイルドナ=パブリチェンコのカリスマ性にも要注意ですね。彼女の指揮するチームは異常なほど士気が高く、味方の力を限界以上に引き出します」
クラーラは簡単にロシアユースの要注意人物を二人教えてくれた。
「クラーラさんは、ロシアユースから呼び出しはかかってないのですか?」
「いいえ、私などでは代表は無理です。レベルが高すぎるので……」
クラーラさんは首を振って否定する。
彼女はかなりハイレベルな戦車乗りだと思うんだけどな。それで、全然力不足なのか……。
「では、今日は色々とありがとうございました」
「もう帰っちゃうの? 泊まって行ってもいいのよ」
私がお礼を言って頭を下げると、カチューシャさんは名残惜しそうな声を出した。
「いろいろとまだやる事がありますので、また、合宿でお会いしましょう」
「そう、じゃあ仕方ないわね。ピロシキー」
「
西住さんが諭すように挨拶をして、カチューシャさんとノンナさんといつものようにお別れした。
こうして、カチューシャさんのT-34とノンナさんのIS-2が代表チームに入り、全部で15両が決まった。
さて、強豪校はほとんど回ったし、残りの五両はどうしようかな?
「何かいいアイデアないかな?」
西住さんも考えているみたいだが、妙案は浮かばないみたいだ。
「うーん、実力者は大体声をかけたし、どういう基準で選べばいいのか難しいところなんだよね。あと、一人は心当たりがあるんだけど……、この人は捕まえるのが大変そうで……」
私は代表に入れたい人物にあと一人だけ心当たりがあった。
「えっ、誰のことかな」
「継続高校の隊長のミカさんだよ」
彼女を味方にすれば、心強い。しかし、彼女ってちゃんと高校に通ってるのかなー?
全部で15両が決まりました。
これで残りは5両です。
さて、ミカは簡単に見つかるのでしょうか?
次回もよろしくお願いします!