強豪からだけで選んだ感を払拭したくて、エセ平等ですが、こういう場を設けたという事実を作りたかったのです。
それでは、よろしくお願いします。
トライアウトは会長が蝶野さんに頼んでくれて、東富士演習場を一日貸し切りで行うことになった。
出場枠は少ないので、参加者を絞るために各学校につき一両のみというルールで一週間ほど高校戦車道連盟や日本戦車道連盟の力を借りて宣伝したところ、全国から腕自慢の戦車乗りたちが集まってくれた。
「うわぁー、いっぱい人が集まってくれましたねー、西住殿ー、玲香殿ー!」
一番、テンションが高かったのは、もちろん戦車に関することなら何でも大好きな秋山さんだ。
「知った顔もいるけど、知らない人も結構いるな……」
「うん、せめて会ったことある人くらいは覚えてないと失礼だよね」
西住さんはクラスメイトの全員の名前と誕生日と血液型を覚えるほど几帳面な人だし、私とて同級生の顔と名字を覚えた人間だ。
そうそう忘れるなんて……。
「お久しぶりですわね。大洗の皆さん」
青いロングヘアの女性が私たちに声をかけてきた。
「「…………」」
あれ? えっと、誰だっけ? ええーっと、あの制服って確かマジノ女学院だったような……。
西住さんは……、黙っている。忘れてるのか、人見知りを発動してるのか……。
「えっと、まさか、私のことをお忘れで……」
ワナワナと震えながら青髪の子は胃のあたりを手で押さえ始める。
「そっそんなはずないじゃないですか……。ははっ」
そうだ、この胃が悪い人……、マジノ女学院の隊長だ。
一度練習試合したんだけど、私と西住さんでほとんどの車両を撃破しちゃってすぐに試合が終わっちゃったから印象が薄かったんだ。
待てよ、思い出したぞ。わかった。
「おっお久しぶりです。エクレアさん!」
「エクレール殿ですよ! 玲香殿ー」
私が頭をフル回転させて思い出した名前は速攻で秋山さんに訂正された。
「エクレア? えっ、エクレア? ううっ」
「胃薬飲みますか?」
メガネのポニーテールの副隊長が、薬を渡す。
「ええーっと、フォンデュさんでしたっけ」
「正解です。覚えていただけて嬉しいです」
「なぜ、あなただけ覚えられているのですか……。イタタ、胃薬をください」
エクレールさんは、フォンデュさんからもらった薬と水を飲んで去っていった。棄権しないよね?
「玲香さん、さすがに失礼だよー」
「ごめん、みほ。やっぱり、みほは覚えてたんだ……」
「……」
何故黙る?
「うぉぉっ、すごいですよ! 有名人たちがさらに続々と! あちらにはボンプル高校の騎士団長の名で知られるヤイカ殿。さらにそちらには、西呉王子グローナ学園のキリマンジァロ殿です!」
ボンプル高校って、全国大会だと最近いいところがないけど、タンカスロンでは王者と言われてる学校だと秋山さんが教えてくれた。確かにヤイカって人は強そうな雰囲気だな。
西呉王子グローナはなんで、聖グロリアーナみたいな服装なんだ。なんか、偽物のダージリンさんみたいだな、あの人。
ん? あれは、なんだ?
「なぁ、優花里。なんで、コアラがここにいるんだ?」
「あー、あの方はコアラの森学園の隊長さんですよー」
「いやいや、百歩譲ってペットでいるならわかるけど、隊長って、それは駄目なんじゃないか?」
「いえ、ルールブックにはコアラを隊長にしてはいけないというルールはありませんから……」
そりゃ、そうだろ。私は何とか飲み込むことにした。
コアラを見ていたら、その近くで大声で喧嘩をしてるような声が聞こえた。
「ちゃんと、弾薬を持ってくるようにって言っただろう!」
「ふん、そんな仕事はお前たちの仕事だろ」
「責任感がないのはエスカレーター組らしいな」
「なんだと!」
よくわからん理由で喧嘩してる黒髪の女と金髪の女。その後ろでケーキ食べている少女。
今から試験なのに大丈夫かな?
「よしっ、トライアウトに突撃だ!」
「西隊長! 参加出来る車両は一両のみでした」
「それでは残り19両は待機!」
知波単は相変わらずだな……。
とにかく、全国大会にも出てない高校の人も居たりして、トライアウトの会場はとてつもない熱気が沸いていたのである。
「ところで、みほ。試験って何をするんだ?」
「えっと、ね。私は人を振り落としたりするのが苦手だって、会長に相談したら、会長が任せてって言ってくれたから……」
「なるほど、会長任せってわけか」
確かに西住さんって人を審査したりするのは苦手そうだもんな。
でも、会長は何を……。
「ルールは簡単だよー。こっちの用意する車両と勝負をする。使うのは訓練用の砲弾だ。で、場所はどこでもいいから、先にこちらの車両に当てた方が合格ー。もちろん被弾したら即失格ねー。三両合格が出た瞬間にトライアウトは終了しまーす。つまり早い者勝ちだねー」
へっ? そんなに単純なの? ていうか、こっちの車両ってなんだ?
「ちなみにこちらサイドの車両はパーシング。車長は島田ちゃんでーす」
愛里寿と一対一って、ハードル高くない? 足の遅い車両は不利じゃない?
「これは世界戦のルールに適した選び方ですよ、玲香殿。5両対5両ってことはどうしても一対一の状況が生まれやすくなりますから」
秋山さんが冷静な分析をする。
「それでも、愛里寿ちゃんは……」
西住さんも渋い顔をする。確かに当てるだけとはいえ、センチュリオンではないとはいえ、島田愛里寿から被弾せずに一本取るのは並大抵ではない。
「しかも、早い者勝ちというのは厭らしいな。確かに後半の方が疲れがたまって難易度が低くなるから、その方が平等でいいんだろうけど……」
「でも、玲香殿ー。アヒルさんチームって疲れるんですかねー?」
「――あっ」
私は失念していた。バレー部の無限のスタミナを……。
「でも、手の内をたくさん見られる後半の方が有利なのはあるよ。むしろ、疲れよりも大きいかも」
そんな会話を聞いて、西住さんはさらりと答えた。
確かに愛里寿さんって結構初見殺しっぽいしな。
なるほど、機を読んだり、そういった資質も調べるのか……。さすが、会長は考えてる……。
「んじゃ開始ー。早い者順だよー。急いだ、急いだー」
悪魔のささやきのような口調で会長は煽った。
効果はあったようでこぞって受付に人が殺到する。そんな中、何組かは愛里寿さんの車両の動きを見ようとトライアウトの様子を見物する道を選んでいた。
「はーい、残念だったねー。次の人ー」
あっさりと20両ほどを倒してしまう新生アヒルさんチーム。もはや、無双の力を見せつけている。
えっ、もう20両終わったの? あと少ししか受験者は居ないよ?
愛里寿さんの指示もすごいが、無茶ぶりに答えるアヒルさんチームの練度もすごい。
こりゃ、合格者ゼロもあるんじゃないか……。
そんな中、高らかに勝利宣言をする者が現れた。
「天は我に勝てと言っておる! 当てれば勝ちなどという戦車の性能を無視したルールにするとは! 見るがいい、大洗女子学園! ボンプルの最強の力を!」
なんか、すごい凶悪そうな笑み浮かべてるんだけど。愛里寿さん、ちょっと引いてるよね……。
しかし、まさか軽戦車の7TPで挑むとは……。タンカスロンの王者的な人だって秋山さんも言ってたし、この人勝っちゃうんじゃ。
確かにヤイカさんの言ったとおり当てるだけのルールなら小回りとスピードのある軽戦車が有利って面もある。
しかし、試験内容も知らされてないから、集まったのはほとんど中戦車以上。
軽戦車は圧倒的に少なかったのである。
さて、試験が始まった。
うっ動かない? なんで?
ヤイカさんも愛里寿さんも動かなかった。
静かに、時が来るのを待っているようだ……。
嵐の前の静けさのような、ピリピリとした感じが、この場を支配する。
沈黙を破ったのは秋山さんだった。
「ちょっと、玲香殿! 見てください、あれ!」
秋山さんが大声を上げて指をさす。
何があったんだって言うんだ? 私は指がさされた方向を見てみた。
「突撃ー!」
なんと、西さんの九七式が突撃を開始してパーシングに向かっている。
えっ? どゆこと?
そして、それがきっかけで愛里寿さんとヤイカさんが動き出したのだ。
いや、なんで会長は西さんを止めないの?
「あっ、玲香さん。会長は早いもの勝ちとは言ったけど、一対一とは言ってないよ」
西住さんは気が付いたような声を出した。
えっ、そうだっけ? でも、一両を相手にするし、普通に考えれば……。
「それに気付くかどうかも試験なのですね。西住殿……」
「うん。それに気付いても、乱入側にはリスクが高くてなれないよ。失格にされてもおかしくないもん」
西住さんの言うとおりだ。常識的に考えれば止められた上で失格だからな。
そんなの出来るのって西さんしかいない。
じゃあ、ヤイカさんは来るかどうか分からない乱入を待っていたっていうのか?
とにかく、西さんの乱入で試合は動いた。
さらにそれを見て、残りの参加者も一斉に動き出したのである。まさか、全員それに気付いていて、西さんがしびれを切らすのを待っていたのか……。
動きが早すぎるっ……。
残りの参加者は、ルクリリさんのマチルダ、ニーナさんとアリーナさんのKV-2、赤星さんのパンター、そして、驚いたことにウサギさんチームである。
バトルロイヤルのような形になった、先にパーシングに一撃を当てれば合格というルール。
合格の三両を狙うのは全部で六両となった。
果たして合格するのはどのチームになるのだろうか?
会長だったら、ルールにこういう裏を持たせるだろうと思ってミスリードを誘ってみたのですが、いかがでしたでしょうか?
リトルアーミーだったり、マジノだったり、リボンの武者だったり、いろいろ出してみたのですが、このルールだと先に気付いていて動くのはヤイカだと思って彼女だけは残しました。
次回もよろしくお願いします。