それではよろしくお願いします。
六両が愛里寿さんのパーシングにより早く被弾せずに当てて勝ち抜けという変則的なルールに発展したトライアウト。
会長は狙いどおりの展開になって嬉しいのか、ニヤニヤしながら干しいもをパクついてる。
「みほ、この戦い、誰が勝ち残ると思う?」
私は西住さんにこの戦いをどう見るのか質問してみた。
「私も気になります。やっぱりヤイカ殿が本命でしょうか?」
秋山さんも西住さんの意見が気になるようだ。
「ヤイカさんは愛里寿ちゃんのスキを見極めるために、西さんの突撃を利用するのはとても凄いと思った。とても決断力の強い人だと思うし、
西住さんのヤイカさんへの評価は高かった。
しかし、その口ぶりだと本命ではないようだ。
「みほは、ヤイカさんは勝てないと思っているのか?」
「ううん、そうじゃないよ。でも、多分だけど、ヤイカさんはこんなに早くみんなが乱入するとは思わなかったんじゃないかな? 四両が一斉に入ったとき、少しだけ動きが鈍ったの。だから、最初のパーシングへの攻撃を失敗したみたい。愛里寿ちゃんがスキを見せるチャンスなんて、このあとそんなに無いと思うから――」
西住さんはヤイカさんの僅かな動揺などを見逃さなかったようだ。
私は全然気付かなかった……。
「では、西住殿はまだどのチームもイーブンだと……」
秋山さんが西住さんの結論を先読みする。
「うーん。不利な車両ならあるけど。みんなにチャンスはあると思うよ」
西住さんはこういうときに角が立たないような言い回しをする。だけど、不利な車両は私にもわかる。
「明らかにKV-2はこの勝負だと不利だよな。訓練用の砲弾だと、火力を活かせないし……」
私はニーナとアリーナの不運に同情した。
動きも遅いから、一撃当てられたらアウトのルールにも適さないし……。
「甘いわね! レイーチカの考えは《鳥のミルク》よりも甘ったるいわよ。あの子たちがこのくらいの条件に参っちゃう程度だったら、カチューシャが試験に出ることなんて許すはずないでしょ」
急に後ろから話しかけられてびっくりして振り向くとカチューシャさんがノンナさんに肩車されていた。
「カチューシャさん、ノンナさん、来てくれたんですね。先日はどうもありがとうございました。ニーナさんとアリーナさんの応援ですか?」
私は二人に挨拶した。結構、後輩想いなんだな。
「応援? 違うわ、これは確認なの。プラウダの名前で出場したのなら、合格するのは当然よ。もし不合格なんてしたら、ねぇ、ノンナ」
「はい、彼女たちは入学したことを後悔することになるでしょう」
えっ? ナニされるの、あの二人……。
でも、それだけカチューシャさんは信頼してるってことか。
「カチューシャ殿がこれほど自信満々なのですから、アリーナ殿とニーナ殿は勝ち残りそうですね」
秋山さんは素直にカチューシャさんの言うことを受け止めていた。
「それはどうかしら? 《勝負は時の運》と言うでしょう」
さらにこちらに聞き慣れた声が近づいてきた。
この人もなんだかんだ後輩のことを見に来たんだな。
「――ダージ、リンさん。ですよね?」
「玲香さん、その間はなんですの?」
いえ、さっき似た人を見ましたので一応確認を……。あー、オレンジペコさんとアッサムさんもいるし本物のダージリンさんだ。
「ちょっと、それはどういうこと? プラウダの代表で出ているかーべーたんが負けるとでも?」
カチューシャさんは不機嫌そうな声を上げる。
「いえ、そうではありませんわ。玲香さんたちが本命を知りたいと仰っていましたので、教えて差し上げようと思っただけです」
ダージリンさんは相変わらず紅茶を飲むことを忘れずに言葉を発する。
「へぇー、面白いことを言うわね。まさか、あのマチルダの子が合格するとでも言うの? あの子、前に見たけど、素直すぎるから無理じゃないかしら」
カチューシャさんは煽るようなことを言う。
「以前までのルクリリですと、そうかもしれませんわね。しかし、今の彼女は――かなり性格がよろしくなくてよ」
ドヤ顔でそんなことを言うダージリンさん。それって褒めてるというより悪口じゃ……。
「みほ、ここに居たのか。なかなか面白い趣向のトライアウトだな」
「まったく、こんな試験考えるなんていい趣味してるわね」
更にさらに、聞き覚えのある声がこちらに近づく。
まほさんと逸見さんである。
「あっ、お姉ちゃん、それにエリカさん。二人は小梅さんの応援?」
西住さんはまほさんに気がつき彼女に近づく。やっぱりみんな気になるんだな。後輩とか同級生が……。
「そうだな。エリカがどうしてもというから、応援に来た。彼女には次期副隊長を担ってもらうつもりだから、このくらいの試験はぜひ突破してもらいたいところだ」
「どっどうしてもとは言ってません。ただ、珍しく小梅がやる気でしたので。大学選抜チームとの戦いですぐに撃破されたことをずっと気にしていて、それから彼女は誰よりも努力していましたから……」
逸見さん曰く、赤星さんは大学選抜戦の後、かなり練習を積んでいるらしい。
真面目な人だから責任感じたんだろうなー。
「なるほどです。やっぱり強豪校の方々の信頼している人たちだけあって、赤星殿やルクリリ殿、そして、ニーナ殿とアリーナ殿。この三両は合格有力候補といったところでしょうか?」
秋山さんは応援に来たみんなが自信をもって自分のチームの仲間の強さを主張するので、そんなことを言う。
「でも、ヤイカさんや西さんも強いから……」
西住さんは冷静に戦力の分析をして、慎重な意見を言った。
「みほ、自分の後輩たちはどうなんだ? 大洗を代表して出てるのだろ? 強さを信頼できないのか?」
まほさんはウサギさんチームの名前が出ないことを不審に思ったようだ。
「そういうわけじゃないけど、梓さんたちは、この中だと……」
「そうだな。贔屓目ありでも、少しだけ見劣りはしてしまう。もちろん、以前よりは比べものにならないくらい強くなったが……」
決してウサギさんチームを信じていないわけじゃないが、練度で言えば彼女らはまだまだ足りないという印象が拭えなかった。
「M3リーってウチのエレファントやヤークトティーガーを撃破したチームでしょ。敵の私たちからするとかなり怖い存在よ」
逸見さんが珍しくフォローをする。
確かにあれはすごかった。発想力というか、意外性はあるんだよなー。
だけど、この中で簡単に勝ち抜けるほど……。
「九七式、失格ねー。西ちゃん残念だったねー」
「面目ない!」
あれ? 西さん失格? だって、愛里寿さんから砲撃受けてなかったよね?
何があったんだ……。
「ウサギさんチームですよ。玲香殿……。ウサギさんチームが西さんの九七式を砲撃したんです」
秋山さんは一部始終を見ていたらしく、そう言った。
なんで、そんなことを……。いや待てよ……。
「そうか、言ってなかった。会長は『被弾したら失格』とは言ったけど、『誰の砲弾に』とは一言も言ってない。だから、ウサギさんチームの砲撃を受けた西さんは失格になったんだ……」
まったく、会長はどれだけ裏ルールを詰め込んでいるんですか……。私はため息が出そうになる。
「それをいち早く察知して行動に移してライバルを潰すって、なかなか可愛らしくないことするじゃない。あなたたちの後輩……」
それは逸見さんからの最大の賛辞のように聞こえた。
「うむ、これは予想外のどんでん返しがあるやもしれんな」
「へぇ、面白い子じゃない。ミホーシャの後輩……」
「前にも言ったでしょう。四本足の馬でさえ躓く。勝負は強いものが勝つわけではないのよ」
強豪校の隊長たちはウサギさんチームの柔軟性に一目置いたようだ。
なんてことだ。私たちは校内の模擬戦をよくやっているから彼女らの異常なまでに柔軟な考える力を過小評価していたみたいだ。
「これはもしかするかもしれませんよ、西住殿ー」
「うん、合格できるかもしれないね」
秋山さんと西住さんは嬉しそうな顔をしてお互いを見つめあった。
そんなに甘い道のりじゃないが、私もウサギさんチームの勝利を願わずいられなくなってしまった。
そして、この試合はようやく大きく動き出した。
ウサギさんチームの活躍なるか!?
それとも他のチームが……。
次回もよろしくお願いします。