初日から、蝶野教官らしい練習がスタートします。
それでは、よろしくお願いします!
「代表チームのメンバー集め、あなたたちに任せて良かったわ! 予想通り、ベリベリーナイスなメンバーが集まったわね!」
日本ユースチームの強化合宿初日、ようやく顔を見せた蝶野亜美監督の第一声がこれだった。
思った以上に大変だったから、やっぱりこの人面倒くさがっただけなんじゃないかと思っている。
ちなみに合宿の場所なのだが、西住流家元の協力により、西住流門下生の合宿場を一週間借り受けることができた。
「蝶野監督、これからどのような練習をするのでしょうか?」
私は練習メニューについてまったく聞かされてなかったので、蝶野さんに質問をした。
「そうねー。せっかくだし、4つのチームに分けてドーンと実践練習をしちゃいましょう!」
「なるほど、2チームずつで戦うんですねー」
「そーんなのまどろっこしいわ! 4チームまとめての殲滅戦よ! 勝ち残ったチームにはご褒美あげちゃうから!」
ということで、最初の練習メニューは蝶野さんらしくざっくりとした感じの、4チームが一斉に戦う殲滅戦となった。
勝ったチームにはご褒美があるらしいけどなんだろう?
チーム分けはくじで行われた。理由は面白そうだからだそうだ。
会長はおそらくレクリエーション的な交流も兼ねてるんだろうと言っていた。なるほど……。
ちなみにチームはこのようになった。
――Aチーム――
あんこうチーム、ティーガーⅠ(西住まほ)、チャーチル(ダージリン)、クルセイダー(ローズヒップ)、KV-2(ニーナ、アリーナ)
――Bチーム――
カメさんチーム、ティーガーⅡ(逸見エリカ)、パーシング(メグミ)、T-34(カチューシャ)、P40(アンチョビ)
――Cチーム――
レオポンさんチーム、シャーマン(ケイ)、パーシング(アズミ)、IS-2(ノンナ)、マチルダ(ルクリリ)
――Dチーム――
アヒルさんチーム(島田愛里寿)、ファイアフライ(ナオミ)、パーシング(ルミ)、BT-42(ミカ)、パンター(赤星小梅)
うーん、西住姉妹が同じチームになるとは……。
しかし、適当なチーム分けだけど、どのチームも強い気がするぞ。
それでもAチームはひとつ抜けてる気がするけど……。
各チームは一時間ほどのミーティングの時間をもらって、リーダーを決めて作戦を練ることとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
時間が限られてるから、手早くリーダーを決めて作戦を考える時間を多く取ったほうが有利だ。
まぁ、そのくらいは私じゃなくても誰でも考える。
――と、思っていたわけだが……。
「リーダーはこのカチューシャ以外には考えられないわ。文句はないでしょ」
「何言ってるの? 私が一番年上なんだからリーダーは私でいいでしょう」
「この
「なんで、よく知りもしない連中の下に付かなきゃならないのよ。私が仕切らせてもらうわ」
「愚か者共がっ! リーダーは会長以外に考えられん!」
さっそくリーダー決めで躓いた。誰もが自分のところがリーダーに相応しいと譲らない。
よく考えたら、このチームは他のチームよりも我が強い人が多かったかも。
普段なら諌めるタイプのまほさんやノンナさんも居ないから、言い争いはエンドレスに続こうとしていた。
「いや、皆さん。蝶野監督に聞いたら他のチームはとっくにリーダーを決めて、作戦会議を行っているみたいですよ。私たちもくだらない言い争いはやめて――」
私は何とか不毛なことを止めさせようとした。
「じゃあ、レイーチカはカチューシャをリーダーに推しなさい。そして、カチューシャがいかにリーダーに相応しいか説き伏せるのよ」
「えっと、それは……」
私はカチューシャさんの圧力にたじろぐ……。
「ちょっと、玲香! まさか私を裏切らないわよね。親友って言ってたじゃない!」
逸見さんは、逸見さんでこんな時だけ親友とか言ってくる……。
「ちょっと、あなた。隊長だけじゃなくて、こんなに女の子を誑かしているの?」
メグミさんは何か論点が違う。
「おーい、玲香。さんざんご馳走したよなー」
アンチョビさんは今頃になってご飯をご馳走してくれたことを引き合いに出す。
「玲香、貴様! まさか会長を裏切る気か!」
「まぁまぁ、河嶋ー。仙道ちゃんの言うとおり、ここで時間をとられるのは勿体無いよー。そこで、平等にリーダーを決める方法があるんだけどー」
「「――!?」」
会長の発言で、みんなは一斉に彼女の方を見る。
「会長、何なのですか? 平等な方法とは……?」
私は会長に方法を尋ねた。
「じゃんけん……、じゃんけんで勝った人がリーダーを決めるっていうのはどうかなー?」
会長はいつもの余裕綽々な小悪魔的な笑みを浮かべる。
あっ、この人……。
「いいわ! カチューシャはじゃんけんだって強いんだから!」
「仕方ないわ。付き合いましょう」
「何それ? つまらない方法ね。まぁいいわ」
「よしっ、じゃんけんだなっ!」
じゃんけんで決めるという方法に、4人は納得した。
はぁ、これは結果は見るまでもない。
「「じゃんけん――」」
勝つのは――。
「ポンッ」
「およっ、あたしが勝っちゃったねー。いやー、悪いねぇ」
そう、勝つのは会長に決まっている。
なんせ、会長がじゃんけんで負けたところを私は一度も見たことがないからだ。
先日もあんこうチームを相手にじゃんけんで50連戦したが、あいこが3回あっただけで、あとは全勝した。
これは天文学的な確率だ。
昔はそんなことを知らなかったから色々と無茶な賭けをして負けたものだった。
本当にこうやって場を支配して美味しいところを持ってくのは上手いよなー。
「んじゃっ、仙道ちゃん。リーダーよろしくー」
「ええっ! リーダーはじゃんけんに勝った人じゃないんですかー?」
いきなり会長に無茶振りをされて、私は大声を出した。
「ううん、じゃんけんに勝った人がリーダーを【決める】って確かに言ったよー。思い出してみ?」
ああ、確かにそんなような言い回しだった気がする……。
じゃあ、会長は最初から私を――。
「じゃっ、リーダー仕切りお願いねー」
会長はそう言い終わると、干しいもを取り出して実に美味そうに食べ始めた。
いつも、翻弄されまくってるなー、私は……。
まっいいか。別に練習なんだし……。
「それでは、私がリーダーと言うことで最初に指示を出させてもらいます。まず、作戦立案ですが、カチューシャさんにお願いします」
「ちょっと、リーダーはあなたでしょ!? 作戦はあなたが……」
逸見さんがいきなり他力本願なことを言った私にツッコミを入れる。
「そうだけど、さ。作戦を作るのはカチューシャさんが一番上手いから。頼れる人には頼らなきゃ」
「ふふん、レイーチカはやっぱりわかってるわね。いいわよ、この頼りになるカチューシャ様が最高の作戦を考えてあげるわ!」
カチューシャさんは機嫌よく作戦の立案を引き受けてくれた。
「で、戦車を運用する際の全体の指揮は経験豊富なメグミさんにお願いします。アンチョビさんには、メグミさんが撃破された際にその引き継ぎを……。で、エリカはみんなの言うことをきちんと聞くこと」
「任されると悪い気はしないわね。わかったわ。隊長の指揮には劣るかもしれないけど、勝てるように全力を尽くすわ」
「この
三人とも私の振った役割分担に納得してくれたようだ。
「ちょっと、待ちなさい! なんで、私には何もないのよ! あなた、私の力をないがしろにしてない?」
逸見さんはキッと睨みつけるような表情で私を見た。
「いや、ちゃんと指示を出したろ。みんなの言うことを聞けって」
「だから! その我儘な子供に言うような指示が気に食わないって言っているのよっ!」
逸見さんの剣幕は恐ろしかった。どうやらプライドを傷つけたらしい。
「そうは言うけどさ。みんなの指示を100パーセント実行するのは大変だよ。私はエリカがハイレベルな戦車乗りだからこそ、信頼して指示を出したんだよ」
私は逸見さんをまっすぐに見つめてそう言った。
「そっそうなの? えっと、その、悪かったわね……。私、頑張るわ……」
逸見さんは急に目を背けて、顔を真っ赤にしてしおらしい態度に変わった。
まぁ、分かってくれたなら良かった。
「お見事だねー、仙道ちゃん。昔よりかなり上手く人を使えるようになれたみたいだ。これで、安心して生徒会を任せられそうだよ……。あんがとね……」
そんな私を見て会長はひと言、そう声をかけてくれてた。
まだまだですよ、あなたの背中はずっと遠くにありますから――。
でも、会長の存在は私の戦車道に大きく影響を与えてくれました。ユース大会でもそれを活かせるように頑張ります……。
こうして、強化合宿の初日の4チーム、全20両で戦う殲滅戦が始まった。
本当に適当にチーム分けをしたので、Aチームが強くなりすぎました。
いろんな個性のキャラクターがいるので、まとめるのが大変ですが、頑張ります!
次回もよろしくお願いします!