それではよろしくお願いします。
「アンチョビさん、どうします? 挟撃されると不利は確実ですっ!」
私はアンチョビさんに意見を求めた。この状況の打破はなかなか厳しそうに見える。
『どうもこうもあるまいっ! 我々は一丸となって西住まほの撃破を目指すんだ。島田愛里寿の発言は西住みほにこだわっているように聞こえた。ならば、そっちは譲ってやろうじゃないか!』
なるほど、確かに愛里寿さんは西住さんをライバル視してる。それなら、厄介なあんこうチームと交戦してくれるかもしれない。
「わかりました。エリカ、ティーガーⅠを徹底的に狙うぞ!」
『隊長と戦う……、気が重いわね……』
「気持ちは分かるが、今日は敵なんだ、割り切ってくれ」
『わかってるわよ。私だって隊長には勝ってみたいわ』
逸見さんは力強くそう宣言して、ティーガーⅠに向かって戦車を進めた。
こうして、4つのチームは1つの戦場で相対することになった。
アヒルさんチームは案の定、あんこうチームに一直線に走り出し、一騎打ちのような撃ち合いになった。
ここまでは目論見どおりだ。しかし、BT-42とファイアフライは別だった。
引き続き、私たちを狙って砲撃を続けてきたのである。
よく考えれば愛里寿さんは正々堂々と西住さんと勝負したいのだから当たり前の展開だった。
『怯むな、まずはティーガーⅠの撃破を優先しろっ! 後ろの車両はその後だっ! 三両で一気に決めろっ! って、ペパロニ、何をしているっ!』
ええーっ、アンチョビさんの、P40がミカさんのBT-42に向かっちゃったよ。もしかして、先日の泥棒事件をまだ根に持っているの?
『ちょっと! P40がどっか行っちゃったじゃない。どうすんのよっ!』
「いや、そんなこと言われても……。とにかく、二人でまほさんを倒そうとしか……」
『そうね、それしか無いわよね……』
そんなわけで、私と逸見さんでまほさんのティーガーⅠに近づいて行った。
しかし、ファイアフライもしつこくこちらに砲撃を続ける。
困ったな……。これじゃ後ろが気になって、まほさんに集中出来ない。
と、思っていたら、ファイアフライはターゲットを変えた。
なぜなら、ノンナさんのIS-2がここに来て、ファイアフライを明らかに挑発しだしたからだ。
多分、カチューシャさんがファイアフライに撃破されたのを見て怒ったのだろう。
恐ろしい精度でファイアフライを砲撃していたのでナオミさんも本気で戦おうと、ターゲットをIS-2に絞ったのだろう。
この二人の決着はすぐだった。
『Cチーム、IS-2、走行不能』
『Dチーム、ファイアフライ、走行不能』
ほとんど、同時に正確に放たれた砲弾は互いの急所を貫き相討ちとなってしまったのだ。
これで、Cチームはアズミさんのパーシングのみか……、
Dチームも愛里寿さんとミカさんだけになったな。
チーム内の大勢もかなり決してきた。ここで、まほさんに勝てるかどうかはかなり大きいぞ。
「よし、エリカ! コンビネーションだ」
「あなたが掻き回して、私がトドメを刺すわ」
私はまほさんを翻弄するために動きまくった。しかし、さすがに彼女は一筋縄にはいかない。
私がどんなに小山先輩に指示を出して、いろんな角度から砲撃を加えても、正確に躱す上に、逸見さんへの警戒も怠らない。
その上、こっちの動きはかなり先読みされていて全国大会で相対したときみたいに止まれば確実に撃破されそうなくらいの動きを見させられた。
「とんでもないな、やっぱり……」
『そりゃそうよ、どこの高校の隊長だと思っているの?』
「まぁ、そうなんだけどさ。行進間だと当たる気しない上に、止まれば即死ってやっぱりキツイよ」
『そうね……、何とか止めるしかないわよね……』
何を思ったのか逸見さんは、砲撃を連発して、フェイントを織りまぜてティーガーⅠの側面に強引に回り込んだ――。
「会長、エリカが一瞬だけスキを作ってくれます。小山先輩、私が合図したら停止を……。河嶋先輩……、念の為に会長が砲撃したら出来るだけ早めに装填をお願いします」
私は口早に指示を出してタイミングをはかった。
ティーガーⅡがティーガーⅠの至近距離に詰め寄り、側面を砲撃しようとする。しかし、まほさんは、当然それを読んでいる……。
「今です!」
三つの砲撃音が同時に木霊する……。そして……。
『Bチーム、ティーガーⅡ、走行不能』
『Aチーム、ティーガーⅠ、走行不能』
逸見さんの決死の足止めでティーガーⅠの撃破に成功した。
でも、これで私たちも二両のみだ。アンチョビさんはどうなんだ?
P40もBT-42もすごいドライビングテクニックでお互い一歩も引かない戦いを繰り広げていた。
ミカさんは風のように掴み所のない動きで翻弄しようとしてるけど、アンチョビさんが冷静に対処してそれを避けている感じだ。
若干、劣勢そうだな。よし、助太刀をしよう。
「会長!」
「あいよっ!」
BT-42 のスキを狙って放たれた砲弾は見事に履帯を破壊した。
これで動きを止めることが出来たと思いきやそうではなかった。
なんとBT-42 は履帯無しでも動いたのである。んな、バカな……。
運が良かったのはアンチョビさんがそれを知っていたのか、そうでないのかは分からなかったが、その動きにも合わせて、相手の攻撃を避けつつ砲弾を放ったことだ。
つまり、BT-42 の悪あがきもここまでとなり――。
『Dチーム、BT-42、走行不能!』
これでDチームは愛里寿さんのみとなった。
そして、いつの間にかもう一両数が減っていた。
『Cチーム、パーシング、走行不能』
アズミさんのパーシングがダージリンさんのチャーチルに撃破されていたのだ。
さすがはダージリンさん。目立たずに、きっちりと仕事をする。
恐ろしい人だ……。
これで、Cチームは全滅だ。
残りは、西住さんのⅣ号、ダージリンさんのチャーチル、愛里寿さんのパーシングに、私たちのヘッツァーとアンチョビさんのP40の5両だけになってしまった。
『よし、次のターゲットはダージリンだ……』
アンチョビさんはそう声を出す。
しかし、先ほどの戦いから私たちのデータは取られていたらしく、チャーチルの動きを上手く捉えられない。
『Aチーム、Ⅳ号、走行不能』
なっ、西住さんは愛里寿さんに負けたのか……。しかし、これはチャンスだぞ。
愛里寿さんの車両もすでにボロボロになっているように見える。履帯も少しだけ傷ついてる。これなら……。
『ターゲット変更! 島田愛里寿のパーシングを狙えっ』
P40はアヒルさんチームに近付こうとした。
『Bチーム、P40、走行不能』
ああ、動きが多少鈍くても、愛里寿さんは強かった。
これで、こちらも一両だが、黙って見てたわけじゃない。
「会長!」
「とりゃー」
P40が奮闘している間にパーシングはガラ空きになった側面に私たちの接近を許してしまっていたのだ。
あんこうチームと戦う前の完全な状態ならいつものスピードで避けられただろう。
しかし、動きが鈍くなった愛里寿さんのパーシングは我々でも捉えられることが出来た……。
そして――。
『Dチーム、パーシング、走行不能』
よし、あとはダージリンさんのチャーチルのみだ。なんか、最初の練習試合を思い出すな……。
と、思っていたけど……。
「あははっ、さすが島田ちゃん。こっちの履帯を最後の維持で持っていったねー」
そう、私たちは履帯を壊されて動けなくなっていたのである……。
その結果……。
『Bチーム、ヘッツァー、走行不能!』
『残存車両、Aチーム、チャーチル。――よって、Aチームの勝利!』
結局、番狂わせは起こらずに、順当に強かったAチームが勝ち残った。あー、最後に残ったのは頑丈なダージリンさんのチャーチルか……。
悔しいな……、もう少しだったんだけど……。
「アメイジーング! みんな素晴らしい戦いだったわ……。勝ったAチームももちろんだったけど、みんなの個性がドカーンと爆発しててとっても良かったわっ! ――あっ、そうそう、勝ったチームにご褒美をあげるわね!」
「なんだろう。ボコだと嬉しいな」
私の隣でそんなことを言う西住さん……。
私もボコは好きだけど、それはないと思うな……。
「賞品はこれよっ! 西住流家元が昔ドーンとだした、超レアものの写真集よ!」
「「……」」
ニコニコして賞品を配る蝶野さん。
西住さんはというと、会長から戦車道に勧誘されたときと同じ表情をしていた……。まほさんも言うに及ばず……。
てか、なんで蝶野さんは何冊もあれを持っているんだろう? ダンボールに大量に入っていたような……。布教用?
怖いもの見たさというのはあるけど、西住さんのメンタルを考えると、私は見ることを諦めた。
こうして初日のハードな練習は幕を閉じたのだった。
もっと色々と戦わせようと思いましたが、尺の都合でカットしました。
強化合宿よりも、メインは世界戦なので、サクサク進めたいと思います。
次回もよろしくお願いいたします。