大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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合宿二日目に大事件発生です。
それではよろしくお願いします!


強化合宿 その4

「車両ごとで部屋が割り振られるとは思いませんでしたね……」

 

「まー、あたしらはよく生徒会室に泊まり込みしてたから、新鮮味はないよねー。仙道ちゃんは西住ちゃんと離れて寂しいだろうけどー」

 

「あはは、私は自分のことより、愛里寿が心配ですよ……」

 

 車両のみんなと絆を深めるという目的で、合宿期間中は車両に一部屋ずつ割振られるという形をとった。

 

 そんなことしなくても、大洗は割と趣味が合う人同士が組んでたりするから大丈夫だと、思っていたのだが、ふと、人見知りの愛里寿が気になったのである。

 

「大丈夫だよ。磯辺さんたちね、ちゃんと愛里寿に合わせようとしてるよ。最近はボコのアニメ見たりして、話題を作ろうとしてたから」

 

 そっか、いろいろと気を遣ってくれてるんだな。無理やりバレーとかやらされてなくて良かった。

 

「お前は他人の心配よりも、この合宿でレベルアップすることを考えろ!」

 

「河嶋先輩も装填遅くなってましたよ。もっと早くならないと、今後の戦いで通用しなくなりますから気をつけてください」

 

「むぅ、わかった……」

 

 いつもみたいに怒らずに粛々と受け止める河嶋先輩。なんか変なもの食べたのかな?

 

「痛っ――」

 

「何も変なものは食べとらんわっ!」

 

「なんで、わかるんですか?」

 

 私は頭を押さえながら河嶋先輩を見た。

 

 でも良かった……。

 愛里寿さんの話を聞いて、私は安心しきってた。

 しかし、アリクイさんチームのせいで深夜までゲームをさせられたメグミさんと、ずっと地獄のような歴史談義に付き合わされて、挙げ句に『アンドレ』とかいうよく分からないソウルネームを付けられたアズミさんに後日苦情を受けることになった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「みんなー、おはよーう! 昨日はよく眠れたかしらー!」

 

 早朝から蝶野さんは屋外のグラウンドにある壇上の元気の良い声で挨拶をして、優しそうな笑顔を私たちに向けた。

 

「今日は、昨日の殲滅戦の戦いを見て問題点を克服するために、特別コーチの人を呼びましたー」

 

 へー、蝶野さんが主に指導してくれると思ったけど、コーチまでいるんだ。

 

「それでは、お願いしまーす」

 

 蝶野さんの声に合わせてグラウンドの奥からティーガーⅠがこちらに向かって走ってきた。

 

 キューポラから半身を乗り出す姿は西住さんのスタイルに似てるけど、なんか虎顔のマスクを着けてるな……。

 ていうか、あの人……。

 

「特別コーチのマスク・ド・ニシズミ先生でーす」

 

「いや、あの方はどう見ても家も――」

 

「マスク・ド・ニシズミ先生でーす」

 

 蝶野さんは頑なに譲らなかった。 

 どー見てもミリタリールックのタイガーマスクのコスプレをした家元なんだけど……。

 

「あの人はお母さんじゃない、お母さんじゃない……」

「お母様なわけがあるか……」

 

 西住さんとまほさんは、昨日のショックも相まって現実逃避を始めていた。

 

 

「それでは、コーチ、よろしくお願いしまーす」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべながら蝶野さんは家元、いやマスク・ド・ニシズミコーチを壇上に呼んだ。

 

「みなさん、今日は私があなた方のコーチを務めます。はっきり言って、みなさんのレベルは低いです。このままでは惨敗は目に見えてるでしょう」

 

 マスクドコーチはいきなり辛辣なことを言う。

 

「何よ、あの女っ……、エラソーにして……」

 

 たまたま、私の隣にいた逸見さんが毒づく。あんまりそういう口のきき方はしないほうが良いんじゃないかなー。

 

「蝶野に代表集めを任せてましたが、これでは不安です。ですから、私がこういうときの為に秘密裏に用意した真の日本ユース代表をこの場に送ることにしました。ですから、あなた達はもういらないのです……」

 

 ちょっと、待て。私たちが要らないってどういうことだ?

 真の日本ユースって聞いてないぞ。

 

「蝶野、役立たずは捨てなさい。さぁ、来るのです! 真の日本ユース! ブラックマスク・ジャパン!」

 

 家元、いや、マスクドコーチは高らかに恥ずかしいチーム名を叫んだ。

 

 するとどうだろう。このグラウンドに履帯の音を響かせて真っ黒に塗装されたティーガーⅠが9両と黒いM3リーが入ってきた。

 

 そして、戦車を近くに止めて、中から様々な黒い動物のマスクを被った集団が出てきたのである。

 って、あの黒いウサギのマスクを被っているのってウサギさんチームじゃ……。

 確か、一週間前くらいに戦車道の特別訓練に参加してくれって日本戦車道連盟の理事長に頼まれたとかで、学校を休んでいたけど……。

 なんで、こんなところに……。

 

「彼女たちが、私が鍛えた真の日本ユース代表のメンバーです。世界ユース大会は彼女らが出ますので、皆さんの出番はありません」

 

「そんなっ!」

「横暴だ!」

「なんの為に私たちが集められたんだっ!」

 

「黙りなさいっ! もちろん、あなたたちが如何に使えないかは理解させて差し上げます! 5対5の殲滅戦でケリをつけましょう!」

 

 マスクドコーチは殲滅戦での決着を提案した。

 

「面白くなってきたねー、仙道ちゃん」

「いや、代表チームを集めた私とみほの顔が完全に潰されてるんですけど……」

 

 正直、私は不快感しかなかった。頭を下げて集まってもらった仲間をコケにされたのだから……。

 

「では、最初の5名のクビ候補、車長の名前を呼ぶから出てきなさい。まずは、西住まほ……」

 

「まほさんがっ!? バカなことを言わないでください!」

 

「よせ、玲香。実力が足りないと言うのなら、見せるしかなかろう」

 

 まほさんがいきなり呼ばれて、私はつい、大声を出した。しかし、まほさんは冷静な表情で私を諌めて前に出た。

 

「続けるわよ、カチューシャ、ダージリン、ケイ、そして、島田愛里寿……。以上の5両で最初の殲滅戦を戦ってもらいます」

 

 

 この五人って……、日本ユース代表の主力じゃないか……。

 

 

「いいだろう」

「カチューシャを馬鹿にすると許さないんだから」

「わたくし、挑まれた勝負は断りませんの」

「ファンタスティック! 面白いマスクねー」

「誰が相手でも私は負けない……」

 

 私が最初から代表チームに入れたかった5名の車両が、黒いティーガー軍団に挑むこととなった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「嘘だろ……、あり得ない……」

 

 私は目を疑った。まほさんが、カチューシャさんが始まって早々に姿を消した。

 

 

「そんな、ダージリンさんまでも……」

 

 そして、車両差に押されて、守りの要だったダージリンさんが崩れる。

 

「島田ちゃんはすごいねー。この車両数の差でも一両撃破したよー。でも……」

 

 そして、愛里寿さんは一矢報いたがそれが限界だった。

 その後、四両に囲まれて撃破されのだ。

 

 

 そして、さすがのケイさんもなす術もなくやられてしまった……。

 

 どうしてだ? この五人が揃って負けるなんて……。

 間違いなく最強チームだったのに……。

 

 

 

 

「では、あなたたち5名は即刻、この合宿場から立ち去りなさい!」

 

 マスクドコーチは5人に退去命令を出す。

 

「コーチ! 待ってください! この五人は日本ユース代表の主力メンバーです! 外すわけにはっ!」

 

「笑止っ! この子たちが主力ですか? 笑わせないでください。この子たちは欠陥だらけです」

 

 マスクドコーチは私の訴えを一蹴した。

 

「まずは、西住まほ。あなたは妹に負けてからというもの、一歩下がってしまう癖が付いてます。そのため、積極的に前に出られると簡単に止められてしまう」

 

「――っ」

 

 まほさんは自覚があったのか、表情を歪めた。

 

「カチューシャ、あなたは作戦を立てるのは得意みたいですが、それが破られたとき後手に回りがちです。そして、仲間に頼りすぎて個の力を磨くことを怠ってます」

 

「くっ、なんですって……」

 

 カチューシャさんは悔しさを顔に滲ませる。

 

「ダージリン、紅茶を飲んで余裕ぶるのは結構ですが、そのスキを突かれては意味がありませんね。そして、キレイに動きすぎです。その結果、動きが読めてしまいます」

 

「おやりになりますわね……」

 

 ダージリンさんはそう言われた直後に紅茶を飲み干した。

 

「ケイ、あなたのスキルもどれも高いです。しかし、怖さがない。フェアプレーを意識するあまり、勝ちに徹していないことが相手に見抜かれているのです。狡くなれとは言いません。しかし、闘争心は必要です」

 

「ノー、耳が痛いわね……」

 

 

「島田愛里寿、あなたの個人の強さは素晴らしいです。作戦の立案能力もあり、人を動かす才能もあります。大学選抜チームではそれだけで通用してたみたいですね。しかし、あなたは自分より弱い者と合わせる力が欠けている。たった五両の殲滅戦ではそれが命取りです」

 

「むっ……」

 

 

 マスクドコーチは次々と五人の短所を挙げていった。

 

「あなたたちは此処に相応しくありません。もう一度言います。即刻、立ち去りなさい!」

 

 マスクドコーチの非情な一言に、まほさんたちはこの場を去ろうとした。

 

「待ちなさい!」

 

 今度はセンチュリオンがこちらに走ってきた。

 

「この子たちは私が預かりましょう。このナイト・ザ・シマダがこの子たちを鍛え直します……」

 

 西洋の鎧兜を身に着けたロングヘアーの女性が戦車の中から出てきた。

 あの人はどこかで見たことあるような……。

 

「お母様……。カッコいい……」

 

 愛里寿の一言で彼女が島田流家元の島田千代さんだということ判明した。

 

 何やってるんだろう? この人たちはさっきから……。

 




ふざけてしまって申し訳ありません。
楽しくしようと思っていろいろと考えた結果、こんな展開になってしまいました。
せっかく出したブラックマスク軍団も活かせるように頑張ります!

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