大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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2話のラストちょっと前まで。やはり、2話を最後までは無理でした。
日間51位になっていました。お気に入りも100超えてたし、やはりガルパンの力は偉大。
応援ありがとうございます!


女子力と撃破率

「散らかってるけど、どうぞー」

 

 私たちは西住さんの部屋にお呼ばれした。途中でスーパーに寄って晩御飯の買い出しをして。

 

「うわぁ、可愛い」

「みほさんらしい部屋ですねー」

 

 武部さんと五十鈴さんがそれぞれ感想をもらした。

 

「おっ、これって、限定版のボコじゃん。【ボコVS会長】のボコでしょ。耳と目をどっちもギャンブルで賭けちゃう」

 

「あー、やっぱり玲香さん気づいてくれたねー。これ最近、1番気に入ってるんだー」

 

「普段とは違うギャンブルでもキッチリと負けてくれるところが堪らないよねー」

 

「うん。それがボコだから……」

 

 私と西住さんがボコ談義をしてると、武部さんが可哀相な人を見るような目で見てきた。

 

「玲香、みほ、そんな会話を外でやったらモテないよ……」

 

 いや、モテないのは自覚してるから……。う、うん、自重します……。

 

「おおっ、これは玲香殿のポスターですねー。西住殿、きれいに飾ってますねー」

 

 秋山さんの言葉にギョッとしてベッドの方の壁を見る。すると、薔薇を咥えて決めポーズ取ってる男装した私のポスターがデカデカと飾られていた。

 

 だぁーっ、なんで西住さん、私の恥ずかしいポスターこんなところに飾ってるのー!

 友達のポスターって普通飾るっけ? いや、友達がポスターになったこと無いから知らんけど。

 

「ええっ? これって玲香だったの? イケメン教官は、居なかったってことー?」

 

「あらあら、残念でしたねー」

 

 うん、武部さんだけ気付いてなかったパターンだね。五十鈴さんは知ってて黙ってくれてたんだ。

 というか、飾ってること自体はスルーなんだね。五十鈴さんの食べる量と同じで……。

 

「玲香、これはモテるよー! てか、私が付き合ったどんな男よりもイケメンじゃん」

 

「付き合った方、居ましたっけ?」

 

 あの、イケメンでモテても嬉しくないんだけど。あー、すっごく恥ずかしくて顔が熱くなってきた。

 

「玲香さん、大丈夫だよ。カッコいいもん」

 

「おっおう……」

 

 何のフォローかわからないが、これ以上は触れちゃいけないような気がしてポスターの話は終わりにした。

 

 

「よし、じゃあ作ろっか。華はジャガイモの皮むいて」

 

「では、私はご飯を炊きましょう。 ふふーん♪」

 

 武部さんの号令により、調理が開始される。私は飯ごうの準備をしている秋山さんに目が行ってしまった。

 

「えっ、秋山さん。わざわざ、飯ごうのセット持ち歩いてるの?」

 

「ええ、いつでも野営出来るようにー」

 

 ケロッとした顔で答える秋山さん。いつでも野営って、何? コンビニ帰りに、今日はちょっと野営したい気分――みたいになるってことかな。

 

「痛っ。すみません、花しか切ったことないものですから」

 

「えっと、絆創膏どこだったかなー」

 

 包丁で指を切った五十鈴さんの様子を見て絆創膏を探す家主の西住さん。

 うん、一度は言ってみたい日本語だね。「花しか切ったことない」って。お嬢様だなー。

 

「みんな、意外と使えない……。よしっ!」

 

 意を決してメガネをかける武部さん。おおーっ、普段はコンタクトだけど、メガネもかけるんだー。

 

「いや、武部さん。私だって料理くらい多少はできるから。何か手伝えないかな?」

 

 私は使えない人認定が嫌だったので指示を仰ぐことにした。

 

「玲香、男子厨房に入るべからずだよ……。ここはお姉さんに任せなさい」

 

「えっと、どこからツッコミを入れれば良いのかなー」

 

 私は苦笑いした。さっきのポスターのことまだ弄ってくるのか。武部さん、恐るべし。

 

 

 まぁ、色々とトラブルもあったが、私や秋山さんの作業などほとんど意味の成さないくらいの手際の良さで武部さんは素晴らしいご馳走を作ってくれた。

 

「じゃあ、食べようか!」

 

「「いただきまーす」」

 

 私たちは手を合わせて、食事を始める。

 やばっ、美味いわこれ。絶対に武部さんの旦那さんになる人幸せだよ。

 

「やっぱ男の人の胃袋掴むには肉じゃがだよねー」

 

「掴んだことあるんですか」

 

「いいじゃん。何事も練習だしー」

 

 五十鈴さんの切れ味抜群のツッコミも笑えたけど。うん、これは練習の成果出てるよ。

 

「いや、武部さん。いいお嫁さんになると思うよー。こんなの作って待っててくれたら、旦那様は毎日ハッピーだよ」

 

「えっ、本当? でしょ、でしょ、ほらー」

 

 渾身のドヤ顔をする武部さん。あっ、その顔はちょっと腹立つな。

 

「玲香さん、あまり沙織さんを煽てないでください。すぐにこうなるのですから」

 

「はっはぁ、すみません」

 

「てか、本当に男子って肉じゃが好きなんですかねー」

 

 それはどうだろう。カレーとか唐揚げとか好きそうだよなー。いや、知らんけど……。

 

「だって、雑誌に書いてあったもん」

 

「「ふーん」」

 

 これは誰も興味ないやつですわ。それはそれで日本の少子化が心配される事態だけど。

 

「お花も凄くきれい」

 

「こんなことしか、出来なくてすみません」

 

 五十鈴さんが一輪挿しをして飾ってくれたのだが、なかなかどうして、流石に侘び寂びがあって見事なものである。うん、これで飯食ってけるな。

 

「ううん、とても部屋が明るくなったよ」

 

「あっありがとうございます!」

 

 西住さんが素直な感想を言ってくれたおかげで料理で戦力外認定されて落ち込んでいた五十鈴さんが笑顔になった。

 

 あー、美味しかったー。そして、楽しかったなー。

 

「それじゃあ気をつけて帰ってねー」

 

 ご機嫌な西住さんに別れを告げて、我々は帰路についた。

 

 また、こんな集まりをしたいものだ。河嶋先輩の仕事を手伝うのを控えよう……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 今日は戦車道の指導教官が来る日。私はドキドキしていた。

 久しぶりに戦車に乗れるからというのはもちろんだが、先ほど会長から聞いた教官の名前が原因である。

 

 教官は蝶野亜美さん。私がもっとも尊敬する戦車乗りだ。

 彼女の監修した戦車道の教本【目指せ撃破率120%(民明書房)】は私のバイブル。ちょっとニュアンスで説明しがちだけど、実践主義で頭より体で覚えるというやり方は戦車道において実に的を射ていた。

 手っ取り早く成長するには彼女の教えが最適だろう。

 

 

「遅刻なんて、珍しいねー」

「えへへ、ちょっとね」

 

 本当だ、西住さんが遅刻なんて珍しいな。何があったんだろう?

 

 そんなことを気にしていると、爆音が鳴り響き輸送機が飛んでくる。

 

「えっ? 何あれ?」

 

 そこで私は凄惨な光景を目にすることになる。

 輸送機から戦車が落ちてきて、学園長の車に直撃。そして、さらにそれをペチャンコに踏み潰して、戦車は我々の目の前に到着する。

 

 あれ? ここはギャグ漫画の世界にでもなったのかね? なんで誰もツッコミを入れないの? スルースキル高いの?

 

 あっ、良かった。小山先輩だけ青ざめた顔をしてくださっている。やっぱり、先輩だけは常識人だ。

 

 

 

「特別講師の戦車教導隊。蝶野亜美教官だ」

 

「みんなー、こんにちはー」

 

 河嶋先輩の紹介で戦車から出てきて挨拶をしたのは、軍服の似合う凛々しい顔つきのお姉さん。私の尊敬する蝶野亜美さんである。

 まぁ、さっきの衝撃で尊敬の念が吹き飛びそうになったけど……。

 

「戦車道は初めての方が多いと聞いてますが、一緒に頑張っていきましょーねー!」

 

 ケロッとした顔で、挨拶をする教官。ふむ、この心臓の強さこそ戦車道において必要な物なのか……。いや、違うか。

 

「あら、西住師範の娘さんじゃないですか。師範にはお世話になっているんです。お姉様はお元気?」

 

 さらにノータイムで西住さんの地雷を踏みに行く蝶野教官。やはり恐ろしい――。

 

 西住さんも困ってらっしゃる。

 

「西住師範?」

「それって、有名なの?」

 

 そして、主に1年生たちがざわつきだした。

 

 西住流って、知らないもんなんだ。割と常識だと思ってた。よく考えたら武部さんも五十鈴さんも知らなかったらしいし、戦車道の家元って知名度そんなものなんだなー。

 

「西住流はね、戦車道でもっとも由緒ある流派なの」

 

 そうそう、戦車道最強は西住流か島田流っていうくらいの2大流派。

 だから、西住みほという人間が西住流という重圧に苦しんでいるのだ。

 

「教官、教官はやっぱりモテるんですかー」

 

 挙手をして、武部さんは、いつもの武部さんを全面に出す。きっと、西住さんの不穏な空気を感じ取ったのだろう。もちろん、モテるかどうかは気になってるんだろうケド……。

 

「うーん、モテるっていうより、狙った獲物は逃さない。撃破率は120パーセントよ!」

 

 出た名言。まさか、こんな質問で聞くとは思わなかったよ。

 

「教官、本日はどのような練習を行うのでしょうか?」

 

 続いて秋山さんが質問をする。これで完全に西住さんへの注意は反れた。

 

「そうね、本格戦闘の練習試合、早速行いましょう」

 

 おおー、やっぱりか。こりゃあ、楽しみだな。周りの子たちは大変だろうけど……。

 

「えっ、あの、いきなりですか?」

 

「大丈夫よ、何事も実戦、実戦! 戦車なんてガーッと動かして、バーっと操作して、ドーンと撃てば良いのよ!」

 

 小山先輩の常識人らしいツッコミを蝶野流の名言で返す。まぁ、割とコレなんだよなー。

 習うより慣れろとはよく言ったもので、一回実戦するのと、しないのじゃ経験値の入り方がマジで違う。

 

 いい加減そうだけど、実はすごく合理的な考え方なんだ。

 

「それじゃ、それぞれのスタート地点に向かってね。うふっ」

 

 凛々しい顔で微笑む蝶野教官。やっぱり、この人カッコいいや。

 まぁ、車を踏み潰すというマイナスがまだ私の頭の中をグルグルしてるけど。

 

 

 

 私たちは自分たちの車両に向かう。

 会長が戦車に上れず、河嶋先輩を踏み台にしてるけど気にしない。私だったら簡単に持ち上げることが出来るけど面白いから気にしない。

 

 本格戦闘の練習かー。つまり、西住さんと戦えるってことだよなー。

 

「ふっ、ふふっ……」

 

 私はついつい、口角が釣り上がってしまっていた。

 

「なんだ? 玲香、何が面白い?」

 

 河嶋先輩が私の様子を見て声をかけた。

 

「えっ、ふふっ。面白くないわけありませんよ。私がどれだけ、どれほどの間、この日を待ちわびたことか……。それに、西住みほ! 私の最後の対戦相手と練習とはいえ戦えるのです! あの日から私はブランクがある。みほは、高校で経験を積んでいる。今の私がどこまで戦えるのか! 差はどれくらいなのか! それが測れるだけでも楽しくって仕方がないですよっ!」

 

 私は愉快で仕方がなかった。大笑いしたいのを必死で堪えた。体の震えが止まらない! 胸の高鳴りが止まらない! ああ、西住みほと、もう一度戦えるなんて!

 

「へぇ、熱いねー。仙道ちゃーん。でも、その目は差を測ろうって目じゃないよねー」

 

 会長が見透かしたように私を見た。ははっ、やっぱり誤魔化せないか。この人の目は……。

 

「ええ、私とて、戦車乗りの端くれ。西住みほに勝つつもりで挑みますよ! ブランクなんて言い訳にするつもりありませんから!」

 

「さぁすが、仙道ちゃん。やっぱ正解だったよー。2人ともに戦車道を履修させてさー」

 

 私の長い間我慢に我慢を重ねた闘争心が今、解放された――。

 




次回、模擬戦開始!
当たり前ですが、戦車の試合を書くのは初めてなので上手く書けるかどうか心配です。
銀英伝の艦隊戦とかよりはきっと楽なはず!

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